9話 第四王子
あれからあっという間に時は流れ、ついに第四王子殿下がお嬢様に会いにくる日がやってきた。
お嬢様は殿下に会うために朝から湯浴みをし、この日のためにデザインし、仕立てた新しいドレスを身に纏っている。
新しいドレスの淡い色がお嬢様の銀白の髪を引き立たせている。
しかし、お嬢様は浮かない様子でため息を吐いている。
「お嬢様、どうなさいましたか?ドレスも、髪も完璧に仕上げられてありますが何か不備でもございましたか?」
お嬢様の態度に何か至らぬところがあったのでは無いかと思ったのだろうか、メイドのマリーさんがお嬢様に質問した。
すると、お嬢様は自分がため息を吐いている事に気が付いていなかったのか驚いた表情をした後、首を横に振った。
「何でもないわ」
「そうですか。きっと、お嬢様は無意識のうちに王子殿下に緊張なさっていたのですよ。気持ちを落ち着かせる効果のあるハーブティーをお入れしますね」
「そうかも知れないわね。ありがとう」
僕は、マリーさんがお茶を入れに行くのを見届け、お嬢様に話しかけた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ、王子殿下の前でヘマをしないか気が気ではないわ」
お嬢様はそう言って軽く微笑んだ。
僕はお嬢様の元気が出るようにテンション高めで励ました。
「お嬢様のマナーや振る舞いは完璧に近いですよ!自信持ってください!僕の方が緊張してガチガチですよ。僕みたいな孤児は普通見かける事すら無いはずなんですからね!」
「ふふ、そうね。ヴェルがそう言ってくれて嬉しいわ。一緒に頑張りましょう!」
「はい!」
そう言ってお嬢様は身嗜みの点検を始めた。
お嬢様は、第四王子殿下の婚約者候補の中でも有力候補だ。
お嬢様の作法は洗礼されており、多分他の候補者より完璧。それに現宰相の娘。
それが理由で婚約を申し込まれても、真面目なお嬢様は、王子殿下の婚約を断らない。と言うより、断る理由がない。
だからきっと、お嬢様は第四王子殿下の婚約者になる。
それでも僕は、お嬢様が第四王子殿下の婚約者になっても、しっかりお嬢様を支えられる様、お仕えできる様頑張ろうと意気込んだ。
僕は第四王子殿下がお見えになったとの知らせを聞き、お嬢様と一緒に玄関先へ向かった。
玄関に着いて間も無くすると、王家の紋章が描かれた豪華な馬車が屋敷に入ってきた。
馬車は屋敷の玄関先に止まり、そこから聞いていた年齢に相応する、見た目麗しい少年、というかショタが出てきた。
僕よりほんの少し濃い金髪で、空を思わせる青い瞳。
まるでお伽話から出てきたような the 王子様だ。
まぁ、本当に王子様なんだけども。
「こんにちは。招き頂き感謝する。君がクラリス嬢かな?僕は第四王子フィンレー・シア・パスディアだ。よろしく」
そう言ってフィンレー殿下はお嬢様に挨拶をされた。
「私がクインシー公爵令嬢のクラリスでございます」
お嬢様はドレスをちょこんとつまみ完璧なお辞儀をした。
すると、フィンレー殿下は驚いたように目を少し見開いた。
「噂には聞いていたが、噂以上だ。まだ6歳というのに母上も顔負けしそうな立ち振る舞いだね」
「お褒めに頂き光栄ですわ」
今のお嬢様は、緊張でため息を吐いていた時とは大違いで、完璧な淑女になっていた。
いやいや、この会話6歳児の会話じゃ無いんだけど…
そう思いながらも、僕はこの6歳児とは思えない会話を大人しくお嬢様の斜め後ろで控えて聞いていた。
僕の前世の記憶だと6歳の頃は、まだ躓いて大号泣したり、お菓子を買ってもらえず駄々をこねたりしていた。貴族の子供は、小さい頃からマナーだの立ち振る舞いだの色々教え込まれて自由な時間なんて有りやしない。そう考えると、前世は恵まれていたと改めて思う事ができる。
僕は1人思考の海に沈んでいると、急にお嬢様が僕の名前を出したのでびっくりして肩を飛び上がらせてしまった。
「こちらがクインシー公爵家の使用人のヴェルでございます。彼は歳が近いので私の話相手としての仕事もしていますのよ」
「へぇ。クラリス嬢とはこれから長く付き合う事になるだろうから君とも長くなるね。これからよろしくね」
フィンレー殿下はそう言うと僕に笑いかけてきた。
僕は、恐れ多いと思いペコペコと頭を下げた。
その日は、初めて会ったという事もあり1時間ほど軽く会話をしてから殿下は帰られた。
後日、お嬢様とフィンレー殿下の婚約が決まった事が伝えられたのは言うまでもない。
ヴェルトリノはまだ誕生日が来てないので4歳ですが、みんな同級生です。
sideクラリスの話のヴェルトリノの外見の表現を少し変えました。
ちなみにヴェルトリはサラサラの金髪で翡翠の様な瞳です。