8話 婚約者候補
クインシー公爵家に来てから2年経った。
僕の体は小柄ながら健康そのものになり、最近では読み書きやマナーなどの教養を教えてもらいながら簡単な仕事をこなしている状態だ。
そんな今日、久しぶりの旦那様のお帰りに屋敷中が慌ただしく、屋敷の使用人はキビキビと働いしている。
僕はまだ任せてもらえる仕事が無いので、お嬢様のお話相手という項目の厄介払いでお嬢様と中庭でお茶をしていた。
まだ6歳なので主人と一緒の席に着いても怒られやしないが、前世の記憶のある僕は目上の人と一緒の席に着くなんて恐れ多くて立ってお嬢様を見守っていると、お嬢様が頬を膨らませて僕をジッと見ていた。
「如何なさいましたか?お嬢様」
「ヴェルも一緒にお茶を飲みましょう。私1人では寂しいわ」
お嬢様は口を尖らせながら少しぶっきらぼうにそう言った。
主人と一緒にお茶なんて恐れ多いというのが本音だが、それで主人の気を損ねたら本末転倒だと思った僕はお嬢様の向かい側の席に座った。
僕らの目の前には子供が食べやすい様小さくカットされた可愛らしいケーキがずらりと並んでいた。
お嬢様は白やピンクの可愛らしいケーキを自分の皿に盛り付けてもらってい、1つづつ順番に食べ始めた。
食べだすとお嬢様は頬を緩ませとても幸せそうな表情で、おいしいと呟いた。
「お嬢様は甘いものが本当にお好きなのですね」
「ええ。甘いものは可愛いし美味しいから大好きよ!」
「お嬢様もこのケーキみたいに可愛らしいですよ」
そう思った事を正直に伝えると、お嬢様は餌を食べる金魚の様に口をパクパクさせ顔を赤らめていた。
かれこれ中庭に1時間近くあるものだから熱中症になってしまったかと思い急いで部屋の中に入るよう勧めたが、大丈夫だと断られてしまった。
病気じゃ無いと良いんだけど。
そんな風に中庭でお茶をしていると、もう直ぐ旦那様が屋敷にお着きになると知らせが来たので切り上げて出迎えるために玄関はと向かった。
「そろそろお父様が帰って来ますわ!」
「そうですね!お久しぶりなので緊張してきました」
「ふふふ、ヴェル。お父様は怖く無いからそんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「はい、そうですね」
そう会話をしていると扉が開き旦那様が屋敷へ入ってきた。
「「「「お帰りなさいませ旦那様」」」」
「お帰りなさい。貴方」
「お帰りなさいませお父様!」
旦那様は嬉しそうに微笑み、ただいまと一言言うとお嬢様を抱き上げ奥様の腰に手を回した。
それは正に絵画の様で使用人一同ため息を吐いた。
そして、旦那様はお嬢様に微笑みながら
「クラリス。クラリスが第四王子殿下の婚約者候補になる事が決まったよ。後日第四王子殿下がお見えになる」
そう言った。
奥様は少し驚いたようにまぁと言い、お嬢様は何を言われたのか一瞬理解出来なかったのか、ポカンと旦那様を見上げている。
正直僕も最初何を言ってるのか分からなかった。
でも、よく考えてみたらお嬢様は公爵令嬢だ。王子様の婚約者になるのは道理なのかも知れない。
そんな事を考えているうちにお嬢様も理解が追いついた様だっで、急に言われた第四王子殿下の婚約者候補というのに困惑している様だった。
「クラリス、君が嫌なら断って良いんだよ?お父様はいつでもクラリスの幸せを願ってるからね。それにまだ候補だから大丈夫だよ」
旦那様は女性が一瞬で堕ちてしまうような笑顔でお嬢様に語りかけた。
お嬢様は何かを決意したようで、拳をギュッと握った。
「はい。公爵令嬢としてしっかり役目を果たしますため一度殿下にお会いしてみますわ」
お嬢様がそう言うと旦那様は女の子の成長は思ったより早いなと苦笑いを浮かべていた。
「無理はしないで、何かあったら直ぐに言いなさい。お父様もお母様もいつでもクラリスの味方だからね」
そう言い、旦那様はお嬢様の頭を優しく撫でたのだった。
そこで僕は気づいてしまった。
お嬢様が王子様と結婚してしまったら会えなくなってしまう可能性が出てくる。
命の恩人のお嬢様に生涯仕えようと思ってたのに、夢が叶わなくなってしまうかも知れないのかと。
でも、少し考えて考えが変わった。お嬢様か幸せで有ればいいと。
そう思い僕は未来のお嬢様が幸せになれる事を祈った。