6話 反抗期
あの後、僕はこの家の使用人として雇って貰えることになった。
話によると、この屋敷はクインシー公爵家のもので、クラリスお嬢様は現宰相の娘で僕が思っていたよりずっと上の位お嬢様だった。
あのダンディなおじ様は、お嬢様のお祖父様で元クインシー公爵だった。 数年前に隠居したらしい。
いや、あのダンディなおじ様高貴な感じはしてたけどそんなに偉い人だったの!?僕そんな偉い人の前で勝手号泣して寝ちゃったのわけ!?
こんな風に怒られるかもとあわあわしていたけど、全く怒られず、なんならまだ寝ていろと言われてしまった。
そして、あの燕尾服の人はグレイソン・デフォレストさんといって、元クインシー公爵のブライアン・クインシーの執事で秘書も兼任しているらしい。
彼は現在大旦那様の命令により僕のお世話掛をしてくれている。
彼が言うに、僕が見つかった時の状況は酷いもので、あと1日同じことをしていたら死んでたかもしれなかったとのこと。直ぐに医療魔法士を呼んで見てもらったんだとか。
僕ってそんなに衰弱してたんだ。確かに、レジーよりも小さかったけどまだ子供だから体格差はあって普通だと思っていた。
そして、驚くべきは医療魔法士の治療により一命を取り留めた僕はその後一ヶ月も寝ていたらしい。
その話を聞いて、お嬢様が驚愕していたのがやっと理解できた。
お嬢様は僕を助けてくださったその日から毎日僕が寝ている部屋に顔を出してくれていたらしい。
現在僕は使用人になったとはいえ、まだまだ元気とはいえない状況で、体調が万全の状態になるまでお仕事はしなくて良いらしい。
「ヴェル!今日もきたよ」
元気よく僕が与えてもらった部屋に入って来たのはお嬢様だった。
お嬢様は僕がこの家に来てから目が覚めるまで毎日部屋を尋ねてくれたが、今でもそれは変わらずベッドに横になっていることしか出来ない僕の話し相手をしてくれている。
「今日も来てくれてありがとうございます」
僕がそう言うと何故かお嬢様がムッとしてしまった。
失礼にならないように言ったのに何か気に触ったかな?
そう、うーんと唸りながら考えていると、お嬢様がベッドの側まで来て僕のことをジッと見つめていることに気がついた。
「…?お嬢様どうしましたか?」
そう言うとお嬢様の顔が先程より険しくなった。
「ヴェルは私より賢いのね。私、これでも先生に賢いって言われてるのにヴェルには敵わないわ」
思っていたような理由じゃなくて良かったが、僕はお嬢様より賢くない自信がある。
前世の僕は4歳のとき、こんなにちゃんとした会話なんて出来なかっただろうし、正直何も考えてなくてお母さんに甘えていたと思う。
「そんなこと有りませんよ。お嬢様は僕より賢いです。僕なんて毎日マナーがなってません!ってグレイソンさんに怒られてばっかりですよ。でも、お嬢様はマナーも作法も完璧です。まさに、ご令嬢の鏡ですよ!」
「でも、私は前からやってたから出来るだけよ!ヴェルは直ぐに敬語を使えるようになったじゃない」
そう自暴自棄になってるお嬢様を見ながら、僕はお嬢様もマナーも作法も完璧でも子供なんだなと思ってしまった。
「お嬢様。お嬢様は気付いて無いかもしれませんが、ご令嬢はいえ4歳でマナーも作法も完璧な子なんて殆どいませんよ。正直僕も見習わなくちゃって思ってます!」
そう僕が本心を言うとお嬢様は固待ってしまい、3秒ほど経つと自分が褒められていたことに気がついてくれたのか、みるみる真っ赤になってしまった。
その姿が余りにも可愛らしいものだからくすくすってしまった。
「ちょっと!何笑っているのよ!ヴェルのせいなのに!」
「僕はただお嬢様を褒めただけですよ」
「っんもう!」
僕は再び顔を真っ赤にしたお嬢様を見て笑うのだった。
この出来事が未来を変えてしまうなんて、この時の僕は知る由もない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ヴェルトリノがクインシー公爵家に保護されたのと同時期、とある村の平民の少女が魔法を発動させた。
「っ!?お、思い出したわ!私は学校の帰りに車に轢かれて死んだんだ。ってか、この顔にアリスって完全に乙女ゲームの主人公じゃない!」
魔法を発動させた少女はそう嘆くのだった。
やっと乙女ゲームに触れられたました笑
この世界では基本平民は魔法が使えません。