59話 フラグofフラグ
またまた遅れてしまい申し訳ないです。今回は有言実行でパーティーです笑
「クラリス・クインシー公爵令嬢の入場です!」
号令と共に僕は一歩を踏み出した。
パスディア国、第4王子のフィンレー殿下及び第2王女フローレンス殿下の誕生祭の日がやってきた。今回もオーロラ王女殿下の時と同じで、社交界にならい男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順に令息令嬢が入場していく。いつもと同じところもあるが違うところもある。一つ目は、フィンが主役な為お嬢様とは別に入場するというところ。なので、お嬢様は公爵の時に入場する。二つ目は、エスコートする相手がフィンではなく僕だということだ。本当は僕の様な使用人が主人と入場なんてあり得ないのだが、ここがまだ学園だということとお嬢様の要望ということもありお相手役は僕が勤めさせてもらっている。
今日のお嬢様はいつもより増して美しい。美しい白銀の髪は緩く波を打ち、アメジストの瞳に合わせた淡い青紫のドレスはお嬢様のスタイルをはっきりと表し、会場中の目線を奪う。正直、不敬なのは重々承知だが、フローレンス殿下よりも目立っていると思ってしまった。
オーロラ王女殿下の時は、ダーシー嬢の魔法を喰らってしまったが為に、初の列席者側を楽しもうと思ったのに楽しむどころか、ただ見ていることさえ叶わなかったから、正直なところ、この誕生祭に何をやるのか僕は知らない。それに、今回イレギュラーらしく国王陛下ごこの学園で行われるパーティーに来るらしい。絵画でしか王様なんて見たことないから楽しみだが、前世で王政の国で生まれ育たなかった僕としては、王様というものは未知数な存在だから怖いと言えば怖いかも知れないなんて思いながら主役の登場を待っていると、大きなラッパの音が鳴り響き、主役の登場を知らせた。
濃い金色の輝く髪に、サファイヤの様な瞳は2人が正しく王族である事を思い知らせる。濃い金色の髪は正妃であり2人の母親でもたるソフィ様のもので、サファイヤの瞳は国王陛下のものだと聞いた事がある。そして、2人の後ろをゆっくり歩く、恐ろしく顔が整っている男性が国王陛下なのだと、言われずとも分かってしまった。ガン見していたら、陛下の一瞬目が合った。気がする。周りに分からないくらい目を少し見開いた様に見えたが、僕みたいな使用人を見て驚くなんてきっと気のせいだと気にも留めなかったが、この些細な変化が後に大きな出来事となる事をこの時の僕はまだ知る由もない。
3人はゆっくりと階段を降り、陛下は王座に、フィンとフローレンス殿下はその両隣の椅子に腰を下ろした。会場にいる者は老若男女問わず皆、頭を垂れた。
「面を上げよ。皆の者、我が息子、娘である王子と王女の誕生の祝いの席に着いてくれた事心より感謝する。今日は存分に楽しんでくれ」
陛下は穏やかに言った。
そして、陛下の言葉を待っていましたとばかりに貴族の令息令嬢達はフィンとフローレンス殿下へのお祝いの言葉を述べようと列を作り始めた。
僕もお嬢様と共にフィンとフローレンス殿下へのお祝いをしようと列に並ぼうとしたら、それに気づいた並んでいた人達がパッと僕らの位置からフィンとフローレンス殿下のところまでの道をつくり、お先にどうぞと促された。よく考えなくても、理由は分かった。みんなフィンの婚約者であるお嬢様を優先させたのだ。正直、お嬢様のエスコートをするのは初めてだったし、使用人なので優先される事がなかったからとても戸惑ってしまった。1人戸惑って唖然としていては周りに迷惑になると、パッと思考を切り替えお嬢様のエスコートに専念する。
お嬢様の手を取り人でつくられた道をゆっくり歩く。お嬢様は歩くだけで様になる。まるでモデルがランウェイをウォーキングしているかの様だ。そんな事を考えている間にフィンとフローレンス殿下の待つ王族の席の前まで来た。
「フィンレー王子殿下、フローレンス王女殿下、お誕生日おめでとうございます。今年もこうやってお祝いできた事大変喜ばしく思いますわ」
お嬢様が心得たとばかりに微笑みながら言った。
「ありがとう、クラリス嬢」
そのお嬢様の笑みに対して、フィンはお嬢様に分かっていると言う感じの視線を送ってから、明らかな、分かる人には分かるような作り笑いを浮かべて言った。
「ありがとう。私もクラリスにこうやって今年も祝ってもらって嬉しく思いますわ」
その後に、フローレンス殿下がフィンとは違って自然な笑顔でお嬢様にそう告げた。
「フィンレー王子殿下、フローレンス王女殿下本日はおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」
使用人としてこのパーティーに呼ばれたわけではないが、みんな僕がお嬢様の従者と知っているので、フローレンス殿下はまだしも、フィンにいつも通りの対応しては目の敵にされてしまう。実際、入学当初はいじめられていたので用心するに越した事はない。
「ヴェル、ありがとう。 これからもよろしくね」
フィンも分かっていたようであっさりした返をしてきた。
「ありがとうございますわ。フィンがお世話かけるかもしはないけど、よろしくね」
フローレンス殿下はオーロラ殿下の時のことを思い出しているのか、我兄ながら不甲斐ないと申し訳なさそうに仰った。
「此方こそ、お世話になっておりますので」
そう言って僕の挨拶は終わった。まだまだ、後ろに並んでいる人がいるのでと僕らは直ぐに退いた。
主役への挨拶が終わったので、次は挨拶回りだ。このパーティーは基本大人はいないが、将来の模擬練習のようなものなのでみんな爵位の高い令息令嬢、同じ派閥の令息令嬢に挨拶回りという名の情報収集をし始めた。勿論、お嬢様は公爵令嬢なので、大抵待っていれば人が寄ってくる。だが、お嬢様は真面目な方なので、自ら挨拶して回っていた。挨拶しなければいけない方々に挨拶が終わりひと段落したと思った時、アシェル様がやって来た。
「やあ、クラリス嬢とヴェル。クラリス嬢、少しヴェルを借りていいか?」
急な話にお嬢様は戸惑いながらも許可を出してくださった。
「アシェル様、どうかなさいましたか?」
アシェル様と2人になることなんてまずないので、困惑しながら聞いた。それに対して、アシェル様は清々しいほどの笑顔で急にお礼を述べ出した。
「ああ、まずはお礼をと思ってな。ありがとう。誕生日プレゼントすごく喜んでもらえたんだ。物に困ることがないからか。今までいろんなもの贈ってきたけど、あそこまで喜んでくれるのは初めてだよ。あの時、ヴェルにアドバイスもらってよかったよ。改めて、ありがとうな」
嬉しそうに、上手くいったとの報告。アシェル様はフローレンス殿下の事が本当に好きなのだと伝わってくる。そして、フローレンス殿下も。きっと気づいたのはアシェル様と僕くらいだと思うけど、フローレンス殿下はアシェル様が送った魔道具のネックレスを既に身につけていた。心が通っている2人を見ると、とても微笑ましい気分になる。
「いえ、フローレンス殿下を想ってプレゼントを贈ったのはアシェル様ですので、成果はアシェル様のものに他なりません。フローレンス殿下もきっと、僕がアドバイスしたからではなく、アシェル様にもらったプレゼントだから喜んでいらっしゃるのだと思いますよ」
これが青春かとちょっとおっさんチックに微笑ましくなりながら考えていると、視線を感じ、視線の方に目を向けた。向けた先には、談笑している令息令嬢しか居らず、僕のことを見ている人なんていなかった。気のせいかと思い気を取り直して、アシェル様に別れを告げた。
「では、僕はお嬢様の元へ戻りますね」
そう言って僕は頭を下げた。
「ああ、クラリス嬢にお礼を言っといてくれ」
再び辞儀をして、僕はお嬢様の元へ戻った。
いつもと違うことをするということ自体がフラグ中のフラグという事で、こんなタイトルにしました。フラグ回収は次回です!




