56話-sideロザンナ
大遅刻しました!
申し訳ありません( ̄▽ ̄;)
今回いつもより大分長めで書きました!
ロザンナサイドです。
私の名前はロザンナ・アラバスター。パスディア王国の侯爵令嬢。そして、ブライトホーク魔法魔術学園へ通う二年生だ。
そんな私には、誰にも言えない秘密がある。
それは、私が“転生者”だ、という事だ。
自分の前世を思い出したのは学園の入学式の1週間だった。いつも通り、お茶をしていると突然凄い頭痛に襲われたのだ。頭痛と共に入ってくる知らない人の記憶、そう前世の記憶が脳内を駆け巡ったのだ。誰かの記憶がが脳内で暴れているかのように流れ込み、ひどい目眩に襲われた。
その後、私はひどい頭痛と前世の記憶を思い出したことによるショックにより意識を失い、さらには高熱を出して3日ほど熱に魘される事になった。
そして、目覚めロザンナと私の記憶が混ざり合い、悟った。この世界は私が前世でプレイしていた乙女ゲーム『魔法の国のアリス』だという事を。
ただし、私の転生はラノベとかでよくある転生モノとは違い、転生先の相場である主人公にも悪役令嬢にも転生していなかった。私が転生したのは名前も姿も、それどころか存在もしないモブ以下の人間だった。
でも、それがかえって私の心を楽にさせた。だって、死亡フラグとか立っていないから普通に暮らしていれば死ぬこともないだろうし、事件に巻き込まれたりもしない。なんなら、遠目からイベントを見ることが出来ると喜んだりもした。推しであるクラリスの悪い噂などは耳に入らなかったので、おかしいなとは思ったりしたし、シナリオが変わっていて腰を抜かしたりもした。しかし、シナリオは私的に嬉しい方向に進んでいたので目を瞑ることにした。
だけど、それ以前に前世の記憶がロザンナの記憶と合わさったことにより、前世の家族や友人が気掛かりになっていた。勿論、ロザンナにもちゃんと家族もいるし、私も家族として、前世の家族と同じくらい愛している。
だから、いつの間にか前世の記憶は私がこの世界で生きていく枷になっていた。私はロザンナであって、私では無くなってしまったと毎日の様に自分に言い聞かせた。それでも、ふとした時に思い出してしまい、前世の家族や友人の事を思うと涙が止まらなくなった。もう会えないと分かっていても無意識のうちに想い馳せてしまうのだ。
そうやって、想いを馳せて、悲しみに浸る日々を過ごし、ようやく悲しみにも慣れてきたと思っていたあの日、私はヴェルさんと出会った。
あの日は、授業終わりに渡廊下を歩いていた時、同じクラスのご令嬢たちが中庭を見ながら会話をしていて、その中の1人が『何故あんな縁起の悪い木を学園に植えてるのかしら。庭師は何を考えてるのかしらね』と言った。きっと、彼女にとっては何気ない一言。そんな大層な理由なんて無いはずの彼女の一言だけが、何故か私の耳にハッキリと聞こえてきた。そして、私はその言葉に引かれるように中庭を見た。
すると、そこには私がよく知っている、日本人なら誰でも知っていて、馴染み深い木が植っていて、桃色の花を沢山身に纏っていた。
勿論、ロザンナとしての知識的に存在していたのは知っていた。だけど、前世の記憶を思い出してから見た後、初めて見た桜は全く別物のように見えた。
ロザンナとして見ていた時は、ただただ縁起の悪い木があるな程度にしか思っていなかった。だから、長らく桜を見ていなかった。久しく見ていなかったそれは、前世の記憶があるだけで全く違う物に見えた。
それは、家族で行ったお花見、友達と出会った入学式、友達と別れた卒業式、私の出会いや別れの全てを思い出させた。気がつくと、視界は歪み、頬に涙が伝っていた。
侯爵令嬢が泣いてたなんてバレたら不味いと思い、その場を去ろうと駆け出すと、直ぐに何かにぶつかり強い衝撃によって床に尻餅をついた。さして痛くなかったが、ぶつかった相手に泣いてるのを見られたら誤解されてしまうと思い黙って動けなくなっていると、相手は凄い勢いで謝罪してきた。
「も、申し訳ございません!お怪我はされてませんか?立てますか?本当に申し訳ございません!僕の前方不注意のせいです」
あまりの勢いに驚愕し、少しの間唖然としてしまった。何度が目を瞬いていると、相手が私を心配そうに覗いているのに気がつき、やっと正気に戻った。
「大丈夫です」
自分のバカさに恥ずかしくなって声が小さくなってしまった。
相手は、そんな私を心配したのか、わざわざしゃがみ込み再び謝罪をした。
「僕の不注意で本当に申し訳ございません」
さらに、気を遣って立ち上がりやすいような手を差し伸べてくれた。とても律儀でいい人だと思った。顔が見えていない限り、私が侯爵令嬢だと気づくことは出来ない。この学園の大抵の人は貴族であるため、大抵の生徒はぶつかっても舌打ちをして立ち去る人ばかり。だから、そんないい人には誠意を持ちたかったので、ちゃんと名乗ることにした。
「ありがとうございます。私はアラバスター侯爵家が娘、ロザンナ・アラバスターと申します」
相手の少年はまさか名乗るとは思っていなかったのか、はたまた私が侯爵令嬢だった事に驚いているのかはわからなかったが驚いているのは分かった。
「どうなさいましたか?」
声をかけると、少年は我に帰ったようで、自己紹介をし始めた。
「あ、僕はクインシー公爵家の使用人で、クラリスお嬢様付きの従者をしておりますヴェル・デフォレストと申します。この度はこちら側の不注意によりぶつかってしまい申し訳ございません」
そう再び謝ると彼は深々と頭を下げた。ロザンナはまだしも、私自身は偉い立場の人間じゃなかったからただがぶつかっただけで何度も何度も謝罪されると気が引けてしまう。だから、彼に頭を上げるように促し、謝罪をやめさせる。
「大丈夫ですわ。私怪我していないですし、前を見てなかったのは私もですから貴方は悪くないわ」
実際、前を見ていなかった私が100%悪いのでそう言った。
なんだか、彼の低姿勢な行動は日本人を彷彿とさせ、先程引っ込んだはずの涙がまた溢れ出してきた。彼は、私が泣き出した事にギョッとするも、直ぐ様自分のポケットからアイロンされ、綺麗に折り畳まれたハンカチを差し出して来た。
「貴女のような高貴な方にお渡しするようなものでは無いのですが、必要なかったら捨てていただいて結構ですよ」
涙を流したままなのは不味いので、彼の好意を有り難く受け取った。
「お恥ずかしい処をお見せしましたわ。会ったばかりの貴方に言うのは可笑しいかもしれませんが、中庭の花を見ていたのですが、その花がとても懐かしくて居ても立っても居られなくなってしまったんです」
そう言って、私は中庭の桜に目を向けた。きっと、この世界の住民である彼には理解できないと分かっていても、何故か口が勝手に喋ってしまった。彼はきっとこの世界で嫌われている桜を私が懐かしいと言っている事に気づいても非難はしないだろう。そう思って彼らの方を見ると、目を細めながら桜を懐かしそうに見つめていた。
「分かります。あの花を見てると泣きたくなります。桜を思い出して居ても立っても居られなくなります」
一瞬耳を疑った。あの木を、あの花を見た人はみんなあれを“ドリームグラス”と呼ぶ。なのに、この少年は“桜”と言った。
「な、なんで」
口から漏れ出た声は震えていた。
「元日本人として“ドリームグラス“は“桜“に見えて仕方ありませんからね。ロザンナ嬢も転生者なんですよね?」
優しい声で聞かれる正体はきっと、彼も私も同じ。
その奇跡的な出会いに私の視界は再び歪んだ。
「ええ、転生者よ。私以外にも転生者がいたなんて…」
いつの間にか、ポロポロと流れ落ちる涙。
「実は、僕以外にもいるんですよ。今から会う約束をしているのですが、どうですか?」
彼は、眩しい笑みを浮かべながら私をさらに驚かせた。
そして、私は止まない涙を流しながら深く頷いた。
それから、アリスに出会い、3人でいろんな話をした。2人もこの世界が『魔法の国のアリス』の世界だということを知っていたようで、悪役令嬢クラリスの破滅フラグをへし折るという野望があるようだった。勿論、私もその作戦に参加する。アリスは私と同じくコアなクラリス推しだったようで意気投合した。
この2人の出会いが私の2回目の人生を大きく変える事になるのを知るのはまだ先の話。
本当は花見の時のシーンも書こうと思ったのですが、力尽きました笑
この話はハーレム系じゃ無いので、ロザンナはヴェルを好きにはなりません。いい友人止まりです笑




