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52話 驚愕エンカウント

本日からまた土日に戻ります!


 放課後、僕は呼び出しておいたアリスがいる筈の食堂へ足早に向かっていた。廊下は放課後と言うこともあり誰もおらず、僕の足音だけが響いていた。校舎を出て食堂のある校舎へ中庭を横目に向かう。中庭には季節の花々が綺麗に並んでいて、花を一望出来る位置に設置されたテーブルで数名の令嬢がお茶をしていた。

 次のお茶会ではお嬢様にどの様なドレスをお召しいただこうか少し考えたが、今はそれどころではないと思い、中庭から目を逸らし目の前の校舎へ足を進めようとしたその瞬間、視界はブルネット色で埋め尽くされた。そして、次に軽い衝撃が生じ、僕は誰かとぶつかった事を悟った。慌てて、体勢を立て直し、ぶつかった相手に駆け寄る。

 ぶつかった相手はご令嬢で、彼女は床にへたり込んで動かない。足を捻ったりして痛くて立てないのかもしれないと思いサーっと自分の血の気が引いていくのが分かった。


 「も、申し訳ございません!お怪我はされてませんか?立てますか?本当に申し訳ございません!僕の前方不注意のせいです」


 勢いよく頭を下げ精一杯謝罪すると、彼女は僕の勢いに驚いた様で僕を見上げてポカンとしていた。大きな瞳をパチパチと数回瞬きすると我に返った様で、小声で「大丈夫です」と仰った。僕は彼女がずっと座ったままでは失礼に当たると思い立っていただく為にしゃがみ込んだ。


 「僕の不注意で本当に申し訳ございません」


 そう言って手を差し出すと、彼女は僕の手を取り立ち上がった。


 「ありがとうございます。私はアラバスター侯爵家が娘、ロザンナ・アラバスターと申します」


 彼女は僕に向かって、淑女として完璧なお辞儀をした。いつもお嬢様のレッスンを見てきた僕には分かった。彼女のお辞儀は完璧で文句の付けようが無いほど美しいと。そうなると彼女は結構上位貴族のご令嬢なのではないかと思ったが、彼女に名前を聞く前に名乗られてしまい、侯爵令嬢だと知った。それも、現在の僕の悩みの種であり、今からアリスに相談しようと思っていた人。僕はまさかのエンカウントに一瞬息をするのを忘れてしまったが、ロザンナ嬢が「どうなさいましたか?」と声を掛けてきた事によって意識を現実に戻した。


 「あ、僕はクインシー公爵家の使用人で、クラリスお嬢様付きの従者をしておりますヴェル・デフォレストと申します。この度はこちら側の不注意によりぶつかってしまい申し訳ございません」


 僕は使用人の身分で、相手は侯爵令嬢。クインシー家の方が爵位は高いが、僕自体は公爵家の使用人でしかないので、侯爵家に何か言われてしまえば比はこちらにあることになる。そうなれば公爵である旦那様や僕の主人であるお嬢様の監督不行き届きとされてしまうと思い僕は深々と頭を下げて謝った。

 すると、ロザンナ嬢は困った様に僕に顔をあげる様に促した。


 「大丈夫ですわ。私怪我していないですし、前を見てなかったのは私もですから貴方は悪くないわ」


 そう言った彼女の瞳には涙が溜まっていて、ギョッとしてしまった。僕は、前世での出来事によって女性の涙に弱い。弱ったなと心の中でぼやきながら、僕は自分の制服に入っている綺麗にアイロンされたハンカチを取り出してロザンナ嬢に手渡した。


 「貴女のような高貴な方にお渡しするようなものでは無いのですが、必要なかったら捨てていただいて結構ですよ」


 高位貴族は使用人から物を受け取ったりする事を嫌がったりする場合があるので保険を掛けて言ったのだが、ロザンナ嬢は嫌がる素振りもなく僕が渡したハンカチで涙を拭った。


 「お恥ずかしい処をお見せしましたわ。会ったばかりの貴方に言うのは可笑しいかもしれませんが、中庭の花を見ていたのですが、その花がとても懐かしくて居ても立っても居られなくなってしまったんです」


 そう言ってロザンナ嬢は中庭の方に目を向けた。彼女の目線の方向には日本人に馴染み深い“桜”によく似た花を咲かせる木があった。植物についてそこまで詳しくないが、この世界に転生してから元日本人として思い入れが強い桜に似ている植物だったからあの木について調べた事がある。“ドリームグラス”と言って日本と同じ春に数週間桃色の花を咲かせる。この世界では、すぐ散ってしまう姿から儚い印象を受ける為かあまり好まれていない。

 ロザンナ嬢は知り合ったばっかりだが、僕が思っていた様な人ではなかった。その証拠に、僕のような使用人にぶつかられたのにも関わらず何も咎めたりしなかった。『魔法の国のアリス』の話したらきっと彼女は驚きながらも信じてくれるだろう。そんな予感と、先日アリスと約束した花見の件を思い出して誘ってはどうだろうかなんて考えが浮かんだ。

 

 「分かります。あの花を見てると泣きたくなります。桜を思い出して居ても立っても居られなくなります」


 そう言うと、ロザンナ嬢の顔は驚きに染まっていた。


 「な、なんで」


 そう呟く彼女の声は微かに震えていた。


 「元日本人として“ドリームグラス“は“桜“に見えて仕方ありませんからね。ロザンナ嬢も転生者なんですよね?」


 怯えさせ内容優しく聞くと彼女は再び瞳に涙を溜め、唇をワナワナと振るわせた。


 「ええ、転生者よ。私以外にも転生者がいたなんて…」


 彼女は涙をぽろぽろとながしながらもはっきりした口調で言った。


 「実は、僕以外にもいるんですよ。今から会う約束をしているのですが、どうですか?」


 そう聞くと、彼女は更に驚いて見せた。そして、強く頷いた。


ドリームグラスは桜の別名である夢見草を英語にしただけです笑

この世界は一応乙女ゲームの世界なので物の名称は割と安易な感じなんです。

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