47話 涙と怒り
一旦坊ちゃんと別れて、僕とお嬢様は学園へ向かった。学園に着くと、いろんな人に声をかけられた。ほとんどの人は、とばっちりドンマイといった感じで労いの言葉をかけてきた。正直、イジメられていたくらいだから嫌われていると思っていたが、そうでも無かったらしい。そんな事を思いながら僕は魔法訓練の様子を遠目で眺めていた。お嬢様は今日も変わらず完璧なフォームで魔法を放った。それには、教師も感心した様で拍手を送っていた。僕が1人、お嬢様が成長していると感激して涙していると、後ろからツンツンと突かれた。何のデジャブかと思いながら振り向くと、アリスが立っていた。何故かアリスは、手を強く握りプルプルと震えていた。どうしたのかと声をかけようとすると、ポタッと手に水滴が落ちて来た。何かと思って慌ててアリスの顔を見ると、大きな瞳に涙を溜めて、唇を強く噛んでいた。
「ア、アリス、大丈夫?そんなに強く噛んだら血が出てしまいますよ」
胸ポケットからハンカチを出してアリスに差し出しながらそう言った。
「だって、だって、グスッ。ヴェルくんがっ、倒れるからっ!死んだかと思ったじゃない!グスッ」
アリスは僕が差し出したハンカチを受け取り、乱雑に涙を拭って、僕に向かってそう叫んだ。
まさか、泣くまで心配させているとは思わなかった。アリスはお嬢様達の様に感情を自制する教育を受けたわけじゃない。それに、彼女は僕と同じく転生者。些細な怪我などで人が死んでしまうようなこの世界の人より、誰かが目の前で倒れたりする事は慣れていないはず。考えれば分かったはずだ。きっと、よく分からずこの世界に転生して心細かっただろう。そんな中やったの思いで見つけ出した唯一の同じ存在の僕がいなくなったら、彼女は誰にその心細さを分かってもらえるのだろうか?そう思うと胸が張り裂けそうだった。だから、僕は出来る限りの元気な声で言うのだ。安心しろと。
「アリス、ほらこの通り僕は元気だ!いなくなったらしない。安心しろ」
そう言うと、アリスはハニカみながら頷き、ささくさと訓練に戻っていった。アリスの背中を見ながら思ったが、フィンに殺されたりしないだろうか?好きな女の子を泣かせたと知ったらあいつは怒るだろうか?そんな事を心配していたが、その後フィンに会っても何も言われなかった。
僕は今、壁ドンをされている。そう、あの壁ドンだ。何故こうなったのかは、僕が知りたい。
そう現実逃避をしていると、壁ドンをしてきた相手が耳元で、『約束だからね?』そう言った。
何故こうなったかは、約15分程前に遡る。僕はお昼休憩の為、お嬢様の昼食を待ち、いつものテーブルへ向かっていた。久しぶりにお嬢様のお世話が出来ると喜んでいると、向かい側からアーサー様が何人か令嬢を連れてやってきたんだ。
「あ、ヴェル。復帰したんだねっ!おめでとう!今からランチ?」
僕が頷くと、アーサー様は令嬢達に別れを告げ、僕に一緒にテーブルへ向かおうと提案してきた。
「ねぇ、ヴェル、君が休学している間にメーリンがそっちに行かなかったか?」
2人無言で歩いていたのだが、無言が辛くなったのか、アーサー様が僕に話を振ってきた。
「ああ、はい。いらっしゃいましたね。殿下やアシェル様、エイダン様、アーサー様では話しかけるのが困難と判断した令息達に追われたとかで、僕の部屋に逃げてこられました」
そう事実を述べると、アーサー様は少し考えた様な仕草をした。
「ふぅん、メーリンと2人っきり?」
「はい」
何故そんな事を聞かれたのか分からないが、特にやましいことは何もないので素直に答えた。
この時、余計な事を口走ってしまったのがいけなかったんだ。そう余計な事を。
「メーリン様、とても疲れておいででした。お茶をお出ししたのですが、気づいたら椅子に座りながら寝ておられましてびっくりしましたよ。ふふ」
まさか貴族のそれも侯爵令息であるメーリン様が椅子なんかで寝てしまうなんて思話無かったと笑うと、何故かこの場の空気なら温度が少し低くなった様な気がした。アーサー様からの不穏な空気に戸惑っていると、アーサー様が方を開いた。
「そのメーリンどうしたの?」
アーサー様は、いつも違う令嬢を連れて歩いていて、少し口調も貴族とは思えない程砕けているいつもの姿からは想像できない様な低い声でそう言った。
「え、流石に使用人階級の僕の部屋で寝られてしまわれるのは外聞的にも悪いと思いまして、お部屋までお届けしました」
事実を伝えると、アーサー様は人を殺せそうな顔で僕を睨んできた。恐怖のあまり、後ずさってしまう。アーサー様が一歩こっちに来る度、僕も一歩壁の方に進む。それを3回ほど繰り返すと、もうスペースは無くなり、後ろは壁だけとなった。
さて、来週ヴェルトリノはどうなるのか!?乞うご期待笑笑




