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41話-side フィンレー



 「殿下、命に別状はありません。ですが、彼は珍しい魔力不保持者。一度にあれほどの魔力を浴びれば一溜まりもありません。ですからいつ目を覚ますかは…」

 「そうか。そういえばヴィルは魔力不保持者だったな。ありがとう。もう下がってくれていいぞ」

 「では、失礼いたします」


 そう言って校医は頭を下げて、このヴィルの寮室から立ち去った。

 ヴィルは先程僕が至らないばかりにダーシー嬢が放った魔法をクラリス嬢を庇って受けてしまい、気を失っている。

 ついさっきまでクラリス嬢もヴィルについていたが、男子寮の自分の部屋に寝かせてあげるため離れてもらった。

 ひたすらヴィルの名前を呼ぶクラリス嬢。彼女の想いは今も昔も変わらない。僕はふとクラリス嬢に初めて会ったときのことを思い出していた。


 その日はいつもより入念にお洒落をさせられたのを覚えている。朝から僕の側近が慌ただしく走り回っていた。

 その後、馬車に乗って婚約者候補となっているクラリス嬢の屋敷へ向かった。

 候補になる前から彼女は6歳とは思えない立ち振る舞いをしていると言われ、王族の婚約者にと名前が上がっていた。正直、僕は公爵の娘だからある程度の立ち振る舞いが出来るからとチヤホヤされているのだと思っていた。ただ年齢的に僕が1番近いからと第四王子の僕の婚約者候補となっただけだと。だから、僕は王族に見合う程度の礼儀がなっていれば婚約してしまおうと考えていたんだ。だけど、その考えは直ぐに消されることとなった。


 「こんにちは。招き頂き感謝する。君がクラリス嬢かな?僕は第四王子フィンレー・シア・パスディアだ。よろしく」


 僕は嫌われない様笑顔で言った。


 「私がクインシー公爵令嬢のクラリスでございます」


 彼女は6歳とは思えない程完璧なお辞儀をしたので僕は驚いて目を見張った。彼女のお辞儀はいつも父上や母上に挨拶にくる高位貴族のそれだったのだ。


 「噂には聞いていたが、噂以上だ。まだ6歳というのに母上も顔負けしそうな立ち振る舞いだね」

 「お褒めに頂き光栄ですわ」


 少し世間話をしていると急に彼女は後ろに立っていた使用人を紹介し出した。それがヴェルだ。その時の彼は異様に小さくて細いく直ぐに壊れてしまう様な印象だった。


 「こちらがクインシー公爵家の使用人のヴェルでございます。彼は歳が近いので私の話相手としての仕事もしていますのよ」

 「へぇ。クラリス嬢とはこれから長く付き合う事になるだろうから君とも長くなるね。これからよろしくね」


 その日は1時間ほど世間話をして帰り、城へ帰って直ぐ彼女との婚約が決定した。


 その後何度も彼女とは面会をした。その何回か面会をした時のことだった。

 その日は珍しくヴェルが居らず完全に二人になるのは初めてだった。


 「今日はヴェルはいないんだね」


 そう聞くと彼女は意を決したかの様に口を開いた。


 「私は、ヴェルが好きです。恋愛感情としてです。殿下は私のこと好きではありませんよね?」


 僕は少し躊躇ったが本当のことを口にした。


 「うん。そうだね。君とはいい関係でいたいが、恋愛感情はないよ」

 「そうですか。殿下、私から提案があるのですか宜しいですか?」

 「内容によるけど、言ってみてくれ」


 彼女はまた真剣な表情で一言一言言葉を紡いだ。


 「はい。先程言いましたが私はヴェルが好きです。将来、ヴェルを婿養子にしようと思っています。でも、私は殿下の婚約者です。ですから提案なのですが、殿下に好きな人が現れるまで私が殿下の婚約者代行を致します。殿下の好きな人が出来たら婚約破棄して下さい」


 思っていた以上に突端考えに僕は驚いてしばらくの間声を発せなかった。

 

 「…僕に、好きな人が出来なかったら?」


 僕がそう言うと彼女は優しい表情になり首を横に振った。


 「そんな事絶対にあり得ませんわ。きっと殿下の前に素晴らしい女性が現れます。でも、もしそうなったとしたら、仕方なく殿下と結婚致しますわ。私が婚約を引き受けたのですから義務は果たします」

 

 よく考えれば僕には利しかない。そして、僕は断る理由もなく了解してしまった。

 それから僕らは婚約者としてやってきた。

 だけど、転機がやってきた。

 僕に好きな人が出来たのだ。それは、平民出の僕と同じ光の魔力を保持する女の子のアリスだ。

 僕とクラリス嬢はもしかしたら似たもの同士なのかもしれない。今ではそう思っている。だって、僕ら二人とも身分関係なしに人を好きになっている。

 彼女は『Glitter Street』で会った時、目配せで早く婚約破棄しろと言ってきた。

 僕はそのことを思い出し、早く婚約破棄しないとと思いながらヴェルを見つめた。

 

 彼は悪夢でも見ているのか額に汗をかき、涙が頬を伝っていた。

 よく考えれば初めて会った時はから彼は異様な雰囲気を纏っていた。スラムから連れてきたとは思えない振る舞い、時折見せる大人っぽく影のある表情。


 「ヴィル、君は一体何を抱えているんだい」


 静かな室内に僕の声だけが響いた。

 

 

来週から本編戻ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかするとそうかもとは思ってたけど、マジかぁ。
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