35話 やっぱり黒?
「わ、わぁ。僕初めてフローレンス 殿下みたよ」
目を見開き、唖然といった表情でメーリン様が呟いた。それの呟きにアーサー様がドアを見つめながら反応した。
「うわぁお、殿下勢い凄かったねぇ〜」
そして、ヒューと口笛を吹きながら僕の方を見た。
「ヴェルくんは知ってたんだね〜、殿下のこと」
アーサー様がそういった途端皆んなが一斉に僕の方を見た。そしてお嬢様が鬼の血相で僕に迫って来た。
「ヴェ〜ル〜!どう言うことなの!?殿下に何をやらせているの!まさか、貴方も共犯だったなんて」
「僕の仕事はお嬢様を補佐する事です。お嬢様の問題を解決するためなら誰の協力も惜しみません。たとえ殿下でもです。しかし、まぁ殿下の場合は友達になって欲しいと言われていましたので友達として頼んだまでです」
そういうとアシェル様が苦笑いしながら、ヴェルって案外腹黒いところあったんだな。なんていうから、笑顔でそんな事ないですよと返してしまった。勿論、殿下は目上の方であって本来なら喋ることも出来ないことは分かっている。だけど、どうしてアリスにゲームの中の世界だと教えられたことと、前世が日本人だったことが関係している。だから、正直ずっと敬語で話してるのもだるい。ずっと敬語で話してるのも、お嬢様の元で仕えさせていただき始めたときに養父に言われたからなのだ。
やはり、20世紀生まれの日本人として王族とか貴族とか馴染みがないのだから大目に見て欲しい所なのだこの世界に生まれて来たからにはこちらのルールに従うしかないのだ。そんな事を1人考えながらため息を吐いた。
視界の端で、エイダン様は何も言わず深いため息を吐いたのを見て見ぬ振りをした。
「ヴェルくん!ヴェルくん!どうだった?」
そう興奮したように誰もいない食堂で話しかけて来たのはアリスだ。
「何がどうなんです?」
「いや、クラリスたん守れそう?って事だよ。フィンは上手くやってたか聞いてるのよ」
「そう言う事でしたら、とっても上手くいってます。もうとっても夜会が楽しみでなりませんね」
「はは、ヴェルくん黒〜い」
アリスはこう言って笑っているが、僕は一応前世も合わせれば三十路なんてとっくに過ぎてるおじさんだ。上手く生きていくために黒くだってなる。心の中で反抗するとアリスは心を読んでいたかのような言葉を口にした。
「っま、そうでもしないと生きてらんないよね」
「ええ、そうですよ」
「上手くいくといいね」
「きっと上手くいきますよ。だってメイン攻略対象のフィンがやるんですから」
そう言うとアリスは吹き出し、腹を抱えて笑った。
「ふはは、そ、そうだねっ、攻略対象がやるんだからどうにかなるわね」
夜会まであともう少し。
来週は夜会がやっと始まりますよ!




