3話-side サミュエル
今回は主人公ではなく、その父親である王様目線のお話です。
「おい!ヴェルトリノを勝手に埋葬したと言う奴はまだ見つからないのか!?」
「申し訳ありません陛下。登城している者一人一人聞くのに時間がかかります故」
この国の王であるサミュエル・シア・パスディアは側近であるクインシー公爵から報告を受けながらも苛立ちを覚えていた。
理由は、昨晩生まれたばかりの息子の第五王子が何者かに殺され、それを見た者が勝手に埋葬してしまったと報告を受けたからである。
サミュエルは今朝方ヴェルトリノが殺された上勝手に埋葬されたと報告をされる前、顔面蒼白で自分の元にやって来た己の妃の事を思い浮かべていた。
「陛下、申し訳ございません!昨晩兄上が影を使いヴェルトリノ殿下を連れ去り処分する様命令しました。止められなかった私も同罪。どうか処罰を」
彼女は、パスディア王国第一側室のジアーナ。
長年に渡り実の兄であるディランに服従を強いられていた。それこそ、サミュエルの下へ側室として嫁がせたのも兄あるディランの命令があっての事とサミュエルは知っていた。
ジアーナには愛し合っていた婚約者がいた。しかし、ディランとジアーナの両親が亡くなった途端ディランはジアーナの婚約を取り消し、王太子であったサミュエルの下に側室として迎える様に仕向けた。
ディランは元から王権が欲しかったのだ。実際は、ディランとジアーナの家であるゴールトン家は元を辿れば王家の出なので、ディランは己こそが王になるべきだと思い王権の奪還を試みたと言った方が合っているだろう。
そんな風にサミュエルは思いながら、ジアーナに話しかけた。
「ジアーナ、話をしてくれてありがとう。君はまたディランに脅されていたんだろう?」
「陛下。確かに私は兄上に脅されておりました。ですが、脅しに屈しヴェルトリノ殿下を御守りすることが出来なかった。アテネ様にも同じ母親として顔向けできません!それに陛下、きっとヴェルトリノ様はもう見つからないかと。兄上は部下に第五王子は城の侵入者に殺され、見るに耐えない姿になっていた為、陛下やアテネ様には見せられ無いと判断した者が勝手に埋葬したんだと報告するよう仰っていました」
「っな!そ、それは誠か?」
「残念ながら、本当でございます」
「ですからヴェルトリノ殿下もう…」
「…そうか。今からアテネと話をしてくる。ジアーナ、君への処罰は無い。君の証言だけではディランも君も罰する事はできないんだ。証拠がなさすぎる。今日城は大騒ぎになるだろうから部屋に居なさい」
「御意に」
サミュエルは、ジアーナにそう告げるとヴェルトリノの生みの親である第二側室アテネの下へ向かうのだった。
ジアーナは関心した。己がもし、息子の死を宣告されたとしたらあの様に気丈に振る舞えないと。
しかし、それよりも違和感を覚えた。サミュエルの目は全くもって光を消していなかったのだ。
サミュエルがアテネの部屋へ入ると、アテネはベッド横にある椅子に座りぼうっと床を見つめていた。
サミュエルはアテネに近づき、ベッドに座り彼女の顔を見る様にして話しかけた。
「…アテネ。ヴェルトリノが死んだと聞いてしまったのだね?」
アテネはサミュエルの声を聞きやっとサミュエルが目の前にいる事に気がついた。
そして、サミュエルの言葉でこれはやはり現実だと認識し涙を流し始めた。
ボタッボタッ
アテネの流す涙の音が部屋中に響いている。
窓から入ってくる朝日が、俯いたアテネの流す涙を照らし反射する。
その姿はまさに聖母の様だった。
サミュエルは意を決したようにアテネの手を握った。
「これは、決して口外してはいけないよ。ヴェルトリノは生きている」
「えっ!」
アテネはサミュエルの口から出た衝撃的な事実に驚きを隠せなかった。
「ヴェルトリノは生きている」
「で、でも、大臣たちもみんなヴェルくんは無残な姿で殺されていたので既に埋葬してしまったって!」
サミュエルはアテネを落ち着かせるように抱きしめ背中を撫でながら言葉を続けた。
「私は子供たちの身に何かあった時の為に子供たち一人一人に私の魔力を込めたピアスを付けさせているんだ。付けてる者が死ぬと魔力の持ち主である私の元へ返ってくる様になっている。しかし、ヴェルトリノに付けたピアスはまだ私の元へ返って来ていない」
「そ、それじゃあヴェルくんは生きてるのね!」
「ああ。だけど、大臣達が君にヴェルトリノが殺され既に埋葬したと言ったのなら彼等も敵と見たほうがいい。ヴェルトリノが生きているという事は信用出来る者だけに伝え、捜査させる。だから、君はヴェルトリノが死んだと思っている様に振る舞って欲しい。これは、ヴェルトリノのためだ」
「…ええ。分かったわ」
「ヴェルトリノが生きてるとバレたら奴等はまた殺しに掛かるだろう。どれくらい掛かるか分からないが絶対に見つけてみせる」
サミュエルはアテネにそう宣言すると、信用できる者に話さなければとその部屋を立ち去ったのだった。
サミュエルは幼馴染で信頼のできるクインシー公爵の言葉で思考の海から現実に戻された。
「陛下、陛下!サミュエル!」
「っ!ああ、なんだ?」
「はぁ、ちゃんと話を聞いていたのか?現在ヴェルトリノ殿下が生きていても、人のいない場所に置いていかれていたら死までの道のりなんてあっという間だ。アテネ妃にヴェルトリノ殿下が死んだと伝えた者を見つけ出し、話を聞いたが、何処へ置いて来たか分からないと言い張っているらしい。動揺してるのは分かるが、生きていると分かっているからと言って安心してられる状況じゃないんだからちゃんと話を聞いていてくれ!」
「ああ、分かってるよ。こんな事になるんだったらあのピアスに居場所が分かるよう細工をすれば良かった」
「…後悔しても、もう遅い。今は、どれだけ早く見つけられるかが鍵だ」
「そうだな。ディランの影を見つける様指示はしているんだが、向こうもなかなか手馴れみたいでな」
「まぁ、あのゴールトン公爵だからな。お前もあの人の魔法にかからない様気を付けろよ」
「ああ」
そう言うと、サミュエルは意を決したかのように立ち上がり、大臣達が会議をしている部屋へ向かい、勢いよく扉を開けた。
大臣達は一斉にサミュエルを見た。
サミュエルは、全員を見渡しながらはっきりとした口調で、
「我が息子、第五王子は今朝亡くなった」
そう宣言した。
その後、第五王子は亡くなったと国中に伝わったのだった。
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