12話-side ノア
8話、9話にヴェルの年齢が4歳、クラリスの年齢が5歳(誕生日が来てないだけなので同い年)と書いたのですが、どちらも6歳に変更しました!
母が死んでから、僕の生活は一変した。
母と2人、質素で慎ましい生活だったが幸せに暮らしていた。それなのにあの男のせいで全てが狂ってしまった。
母は貴族の愛人だったらしく、母が死ぬとあの男は僕を不要だと屋敷の物置の様な場所に押し込んだ。
そこは、薄暗くて怖かった。
毎日部屋の隅に丸くなって震えた。
時々人がやってきて、ほとんど味のしないスープを置いていった。
硬くて噛まない様なパンを持ってきた女の人は毎回僕を蹴ったり、叩いたりした。
「あぁ汚らわしいこと」
毎回僕が蹴られたり、叩かれたところを痛がかっているとそう言って笑ってくるんだ。
味のしないスープも体が受け付けなくなってきた、ある日のこと。
部屋の外で大きな音がした。
______バンッ
何やら騒ぎが起きている様で、いつも僕を蹴ってくる女の叫び声も聞こえてきた。
微かに父親の声が聞こえてきた。
「お…しを!お許しを!」
あの男は誰に何を謝ってるのだろうか?
子供の僕でも分かるくらい、どれだけ謝っても許されない事をしたという事に気がついていないのか?
母を殺し、僕を殺しかけている。
そうあの男に怒りながらも自分の意識が遠のいていくのを感じた。
意識が沈む直前、ゴンッという音が耳に届いた。
起きると、そこはいつもいた場所より遥かに明るく、眩しくて目を細めた。
白い清潔感のあるベッドに寝かされており、体には包帯がぐるぐる巻きに巻きつけてあった。
何が起きたのかあわあわしていると、お医者さんがやってきて、ゆっくり休みなさいと言って出ていった。
そのすぐ後、すごく綺麗な顔の男の人がやって、僕を引き取りたいと言った。
どうせすぐに僕を捨てるのだからどこへ行っても変わらないと思ったから受け入れる事にした。
僕を引き取った男の人の家は、今まで住んでいた家より何倍も大きく、この人が高い位の身分だという事を告げていた。
屋敷に入り、応接間の様なところに通され、そこには男の家族だと思われる人たが並んでいた。
「新しい家族を紹介する。ノアだ。クラリス、君の義弟だよ」
そう言うと、目の前の女の子に僕を紹介した。
「宜しく、ノア。私が貴方の姉になるクラリスよ」
女の子はそう言って手を差し出してきた。
どうせ仲良くなんかならないんだ。そう思い僕は顔をプイと逸らしてしまった。
すると、クラリスの横にいる小柄な少年が慌ていた。
「早速この家を案内するわ。しっかり付いてきてくださいね」
「ふん!」
「ノア行くわよ!」
「うわっ!」
少年を華麗にスルーし、クラリスは僕の手を強引に引っ張った。
女の子に引っ張られながら廊下を歩き、外へ出てる。そして、門とは逆向きに向かった。
入ったのは温室だった。
「ノア、ここが私の1番のお気に入りの場所なのよ。いつも、ここで綺麗な花を見ながらお茶をするのよ!ヴェルの入れるお茶は絶品なの。今度一緒にお茶しましょうね!」
「……」
「ノア?」
彼女は僕の思った様な人では無かったみたいだ。
まるで僕がずっとここにいて良いみたいじゃないか。言わなきゃ、さっきひどい態度を取っちゃった事を謝らないと。
____ガバッ
遠くで誰かの声が聞こえると同時に、僕はクラリスに抱きしめられていた。驚いてクラリスの顔をまじまじと見てしまった。
あぁ言わないと。今までの事を言わないと嫌われちゃう。焦って話そうとするが、口から出る言葉はしどろもどろで何を言っているか分からない。
「ぼ、僕は、っんぐ」
「ノア、何も言わなくて良いわ。話したいと思えるようになったら話をしてちょうだい」
クラリスはそう言うと僕の頭を優しく撫でた。
何故か心が暖かくなって、気づくとワンワン泣いてしまっていた。
何処からともなく現れた少年がハンカチを渡してくれた。そのハンカチで涙を拭いている最中クラリスと少年が話をしていた。
「お嬢様、坊ちゃんの目を冷やす為に一旦屋敷に戻りましょう」
「そうね。ノアいきましょう?」
僕は彼女らに従い屋敷の中へ入った。
再び応接間へやって来た僕とクラリスは大人しく座り、少年はテキパキと働いていた。
少しして我に帰り、あんなに大声でワンワン泣いた事を恥じていると、何故かクラリスに生暖かい眼差しで見られた。
少年が用意した温めたタオルは、目に染みて気持ちよかった。
ふと、タオルを持ち上げ2人を見ると、何やら飲み物を用意している様だった。
ホットミルクの様な見た目で少しハーブの香りが漂っている。クラリスはスプーンで黄色い液体をすくいホットミルクの中へ入れた。
それを首を傾げて見ていた様で、蜂蜜を入れると更に美味しくなるんですよ!と耳打ちされた。
あれが、蜂蜜なのか。蜂蜜は高価なものだから見たことがなかったが、思ったより透き通っていて綺麗だと思った。
少年からホットミルクもどきを受け取り、初めて飲むものだからどんな味がするのかと恐る恐る口をつけた。
ほぉっ。ポカポカして甘くて美味しかった。
ふと、ここにずっといて良いのだろうかと疑問に思い、
「僕、ずっとここにいてもいいの?」
と尋ねると、2人は驚いた様に顔を見合わせた後に笑い出してしまった。
「な、なんで笑うの!?」
笑われる意味がわからず怒ると、
「ノア、貴方はもうクインシー家の家族の一員よ。ねぇ、ヴェル?」
「はい。坊ちゃんは紛れもなくクインシー家の一員でございます」
そう言われた。
まさかそんな事を言われるなんて思っていなかったから少し驚いたけど、嬉しくて自然と笑顔になった。
僕はヴェルの淹れるハーブミルクティーを飲むたびにこの時の事を思い出すのだろう。
次回また新キャラ出します!




