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7Daysメモリー 台本  作者: A5
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山吹咲楽(ヤマブキ サクラ) 女 35歳

山吹咲楽(ヤマブキ サクラ) 女 35歳

ヤマブキコーポレーションの女社長

取引先の営業マンと出会う

①月曜日

ヤマブキコーポレーションの山吹です。どうぞかけて。

それで、どういう要件だったかしら。うちの社員からは素晴らしい商品だって聞いてるけど、私は自分の目で確かめないと気が済まないの。

……あら、随分とお調べになっているのね。うちのことをある程度は理解してもらえているようで安心したわ。そう……今の一番の課題は新規獲得。でもね、ただ人が増えればいいってわけじゃないのは分かるでしょ?

こっちもそちらの会社について調べさせてもらったけれど、どうしてもその商品でうちの課題が解決できるイメージが出来ないわ。ああ別に、あなたの会社が嫌いってわけじゃないのよ、どこも同じなの。あなたも聞いているとは思うけれど、私は基本的に内製化で考えているの。だから自分の会社はもちろんだけど、他社に対しても厳しくしているし、ましてや知らない会社が作ったものをそう易易と導入できない。まあ、結局は私と合わなくて逃げていくところがほとんどなんだけど。……そうよ、根も葉もない噂も耳にするけれど、火のないところに煙は立たないとも言うわよね。私自身も自覚しているのよ。……でも仕方ないじゃない?女社長なんて皆そうよ、舐められないように必死なの。……さ、十分懲りたでしょう?良いお返事ができなくて申し訳ないけれど今日のところは帰ってもらえるかしら。勘違いしないでもらいたいのだけど、私が良いと思ったものは素直にそう言うわ。導入も検討してあげる。もしまだあなたに、うちに対しての提案があるのなら頑張って会いに来て頂戴。快く、迎えてあげる。


②火曜日

なるほど。……正直想像していたものよりは良い提案だったわ。理にかなっているし、納得も出来る。でもさっきもいったとおり、もう少し具体例をあげて頂戴。それに関する数字があるとよりイメージしやすいわ。あとコストはできるだけ抑えたいところなの。もう少し頑張ってもらえないかしら。……そうね、それでもう一度来てもらえると助かるわ。

……それにしても、意外だった。……何がって、あなたがまたここに来たことがよ。初回の商談で私にああいう言い方をされた人は、大抵連絡がなくなるの。まあ当然、それを狙って言ってるんだけど。本当に別の案をもってまたアポイントを取りにきたのはあなたが初めて。

もしかしてあなたってちょっとマゾヒストなのかしら。……ふっ、冗談よ。……なに?私が冗談を言うのはおかしい?それくらい言うわよ、鬼かなにかだと思ってるの?

(軽いため息)……分かってるのよ、怖がられてるって。社長の役割は運営、方針や戦略の策定……そこに私に対する社員の気持ちなんて関係ない。……なのに、笑っちゃうでしょう?気にしてないって言いながら孤独を感じてるのに、その割に自分のやりたいことは変えられない堅物女……。私と社員にあまり関わりがないのはある意味良かったのかもしれないわ。こんな人間が直属の上司だったら仕事なんて楽しくないもの。……あなたも災難ね。優秀なようだけど、度胸試しみたいなものでお偉い方から指示されたんでしょう。お互いのためにも、早く終わらせましょう。


③水曜日

(雨の日)まったく……なんでこんなときに……。え?……あら、あなた……こんな時間にどうしたの?今日はうちのアポイントじゃないわよね?……そう、近くにも何社かクライアントがいるのね。この辺りの社長は割と付き合いがあるけれど、みんな頭の固い人ばかりでしょう?やっぱり、あなた仕事が出来るのね。あとは人柄かしら。謙遜なんて要らないわよ、私がこれだけ人と話すことも珍しいの。自分で言うのもおかしいけれど、強みとして自信をもっていいと思うわ。この時間じゃ直帰でしょう?それじゃ気をつけて帰って。

……え?ああ、私のことは良いのよ、傘を忘れてしまっただけでコンビニでビニール傘でも買うわ。……っ、営業マンはそういうことにも詳しいから嫌ね。会社の近くにコンビニが無いって不便でしか無いわよ。…え?い、良いわよそんなの!わざわざ送るだなんて…大丈夫だから、気にしないで。……そんなことをしてもまだ契約はあげないわよ…?……(ため息&少し笑う)あなたのそういうところ、私きっと弱いんだわ。ありがとう、じゃあお言葉に甘えることにする。東改札口のところにコンビニがあるのは知ってる?そこまでお願いしていいかしら。

だめよ、ちゃんとあなたも傘に入って。ほら、肩が濡れてる…!あなたの仕事はスーツが命なのよ?……じょ、女性って……べ、別にそこまでか弱くないわよ……私なんて女扱いしなくていいから……(少し照れている)


④木曜日

お世話になっております、ヤマブキコーポレーションの山吹ですが、彼、いらっしゃるかしら。

……ああ、良かったわ。外回りが多そうだったし、外出しているかと思ったのだけど。

ばっ、馬鹿言わないで、あなたのためだけに社長の私が出ると思ってるの?他の用事のついでよ。

あの日、……雨の日に送ってくれたでしょう。正直困っていたから、あのときあなたが声をかけてくれて助かったわ。それで、少しあなたの肩が濡れてしまったから、謝罪とお礼をかねてこれを渡しにきたの。大したものじゃないの、期待しないで。

私もスーツは命よりも大事にしているから手入れによくこれを使っているの。速乾性があって水に濡れてしまったときに使えるわ。あと、少し時間が経ってしまったあとでもこのスプレーを使えば修復できるし、長持ちもするから。それじゃ……なに?……え?食事?……ああ接待ね。良いわよ。あなたとなら付き合ってあげる。他の上司とかは連れてこないでよね?私そういうの嫌いなの。接待じゃない……?それじゃなんのつもりなの。……(焦る)そ、そんな私情なら私は行かないわよ!いい?接待として設定して頂戴。メールに場所と日時を記入して表題は「接待の食事について」で送ること…!あまり変なことを言わないで……心臓が止まりそう……


⑤金曜日

今日はありがとう。人に誘われて食事をするなんて初めて。当然でしょ、前にも言ったけど、一回会ってそれっきりって人がほとんどなのよ?接待なんて機会あるわけないじゃない。

だから…その、なにを話せばいいのか、わからないの。……プライベートでも一人で食事をするからそういうことを考えたことがなくて…ごめんなさい。

ああ、そうね……会社のこと。……もともとは私も雇われの立場だったの。小さかったけれど、父親が立ち上げた誇りのある会社だった。そう、私二代目なのよ。

20代の頃は早々に結婚して、寿退職して…。なんて思ってたけど、父親が急に倒れて代役として社長になったわ。でもそんなの、本当に代役で終わるわけないのよね。潰すなんて私のプライドが許さないし、やるならとことんやってやるわって。そう思ってたらもう35よ?

……結婚願望?(少し笑って)踏み込んだこと聞くのね?……いいのよ、お酒も飲んでるし無礼講ってことで。…それで、結婚願望ね。あるわよ、まだ、情けないことに。でも出会いなんてどこですれば良いのか、それすらももうわからなくなった。

え?……まあ、そうね。あなたとの出会いも、一つのあり方よね。取引先との出会いなんてなかなかないケースだと思うけど。……あまり、歳上をからかわないで。あなたは慣れてるのかもしれないけれど、私は違うの。


⑥土曜日

ここに押せばいいのよね?……はい、それじゃあこれで契約成立ね。……こちらこそ。今後はどのように進めていくの?

……そう、運用サポートの担当が別にいるのね、その方がうちに足を運んでくださるってことでいいのかしら。……分かったわ。後でいいからその方のアドレスも入れて改めてメールをくれる?名前を覚えるのが得意ではないの。社長として致命的でしょう?……ふふ、確かにそうね。あなたの名前は、どうしてかすぐに覚えられたわ。珍しい名前ってわけでもないのに。ああでも……その名前を呼ぶことも、もうないのね(寂しそうに)。

え?なに?……名刺はもう貰って………これ…あなたの番号?仕事用じゃ…なくて……?

こんな……なんで……だって私なにも……。寂しいって顔に、でてた……?う、嘘よ、そんなこと私が…?……ま、まって…!(自分の名刺に番号を書く)……これ、私の、番号だから……。

その…きっと私、自分から連絡するの……出来ないと思うから……。ま……待っててもいい……?わ、笑わないでよ……本当に、これだけでも精一杯なの…。すごく嬉しいから……お願いだから、あなたからの連絡、待たせて…。


⑦日曜日

(自社の社員にむけて)ねえ、待って。……そのスーツ濡れてるけど、どうしたの?通り雨?…そう、気づかなかったわ。これを使いなさい。…スーツの手入れに便利なの。私もよく使ってるから……。……なに、そんなに驚いた顔をしなくてもいいじゃない。あ、あと、今期の売上、凄く良かったし、経費として出してあげるから飲み会でも設定すればいいと思うわよ。……え?私も……もちろん構わないけど…そう、ありがとう。じゃあ、よろしく……。(こっそり喜ぶ声をあげたところに電話がかかってくる)……もしもし!丁度よかった。ねえ、聞いて欲しいの、さっきうちの社員から飲み会に誘って貰ったのよ!……そう、あなたの言う通り、ちょっとずつだけど社員に話しかけるようにしてみてるの。たまに驚いた顔をされるんだけど……そうよね、変わってきてるって証拠よね。……あの、それで……実はあなたに言いたいことが……あっ…(社員がくる)、も、もう遅いから、早く帰りなさい。通り雨があったみたいだから気をつけて……ええ、お疲れ様……。……(電話に戻る)……ちょっと、何笑ってるのよ。……仕方ないじゃない、まだ練習中なの!…え?あ、そう、言いたいこと……、やっぱり直接言いたいから…今から会えないかしら。


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