須田和樹(スダ カズキ) 源氏名:カズミ 30歳
須田和樹 源氏名:カズミ 30歳
二丁目のバー「shepherd」のママ 別の仕事はメイクアップアーティスト
恋愛がうまくいかない彼女の話をきくところから始まる
①月曜日
ちょっと、あなた、こっちに座りなさいな。ほら、そんな端っこに座ってないで。
こんばんは、……ふふ、はじめましてよね?アタシはカズミよ。カズミちゃんとでも呼んで頂戴。
それで、どうして泣いてるの?可愛いお顔が台無しよ?……なるほどねえ、……誰にも言えない悩み事ほど辛いものはないわよね。……そう、それじゃここに来た理由はアタシに相談するため、かしら。やだわ、当然じゃない。アタシが経営するこのバー「shepherd」はね、迷える子羊を導く羊飼いっていう意味なのよ。
その名前の通り、ここには恋に仕事に人生に、迷って疲れて、誰かに優しくしてもらいたくなった人が集まるの。あなたのちっちゃなお顔が真っ赤に腫れているのを見て、このアタシがわからないとでも思ったの?
こういう時はね、アタシの言うとおりにしなさい?今から良いこと教えてあげる。……さ、コレを持って?熱いから気をつけるのよ?……そう、温かいタオルよ。バーには山程あるんだから気にしないで頂戴ね?で、これを……こうよ!(顔に当てる)はぁ~~~いいわあ~~~。ちょっと、何してるの、言う通りにしなさいって言ったでしょ?お化粧なんてもうとっくに涙で落ちちゃってるのよ、ここには外側ばかり見るようなオンナは居ないから安心なさい?
ほら、冷めちゃうでしょ?もう~~~こうよ!!!……ふふ、いいでしょう。これはね、リラックスできる香りをつけたものなの。ゆっくりと温かい空気を吸って、吐いて。そう、そうしたら落ち着くでしょう?そのまま少しじっとしていなさい?あなたを傷つけるものはここにはひとつもないわ。
②火曜日
いらっしゃい。今日もいつものでいいかしら?……いつも思うけど、これ結構きつめのお酒なのに、顔色ひとつ変わらないのね?幼い顔してるのにちょっとしたギャップってやつだわ。
え?……なにを言ってるのよ、悪い意味なわけないでしょう?アタシはお酒がだあいすきなの。だからお酒が大好きなあなたもだあいすきよ?
あなたって真面目ねえ、気を張りすぎなのよ。もっと力を抜いてみたら?そしたら違うところも見えてくるんじゃない?
少なくとも、アタシはあなたが初めてうちに来た日に泣いていたのを見て安心したのよ。涙がでるのは力が抜けている証拠だもの。ふふ、よく言われるわ。初めて来た気がしない、だとか初めて会った気がしないだとかね。でもそうじゃないと駄目なのよ。だって初めてあった人間、しかもオネエに心の内をさらけ出すなんて無理な話じゃなあい?アタシならいやよ~知らないオネエにアタシの悩みを打ち明けるだなんて~そんな恐ろしい事できないわよ~?
え?悩み?……アタシに悩みがあると思う?あえて言うなら美しすぎることね。そのへんの小娘どもには負けないんだから。……あら、アタシはあなたの顔好きよ?なんだか柔らかそうだし!ね、ちょっと触ってみてもいいかしら?…じゃ失礼して……やあだちょっとふわふわ~!わたあめみたいだわ~?
③水曜日
あら、わたあめちゃんじゃなあい?やだあこんなところで奇遇ね~?…ちょっと、もしかしてわからないの?アタシよアーターシ。カズミちゃんよお?
そんなに驚いて……本当に分かってなかったのねえ。まあ、いつもは暗めのバーだし、日中で会えるなんて思わないものね。
……ああ、この格好。似合うでしょう?元々男前だからメンズ服もいけちゃうのよね~。カッコいいですって?あらやだ嬉しいことを言ってくれるのねえ。
今日はね、バーとは別のお仕事だったの。これアタシの名刺、どーぞ?
ふふ、メイクアップアーティストって文字列が無駄に長いのよね。ああ、そうそう、その名前ね、アタシの本名。「須田和樹」って爽やかそうでしょう?別に嫌いじゃないのよね、だからこっちの仕事はそれでやってるわけ。
……そう、バーで食べて行けないわけでもないんだけど、太陽の光も浴びたいなあって思ったのがきっかけだったかしら。人間も生き物だからやっぱり太陽の光を浴びないと元気がなくなっちゃうのよ?…そうだわ!!ねえ今度アタシに時間くれないかしら?あなたをメイクさせてほしいの!そのふわふわベースなら凄く素敵に色がのると思うのよね!
④木曜日
そんなに緊張しなくていいのよ~、そのまま座ってじっとしてくれればいいんだから。すこおし顔をあげていてね?本当にお肌綺麗ね…、まつげも長いし、唇も……、えっ、あ、そうね、ごめんなさい?今から始めるわ。
……知り合いにメイクするなんて初めてだからちょっとおかしな感じ。そう、何ていうのかしらね、やっぱりオネエって、最近は認知度もあがったし、理解される機会も多くなってきたとはいえ、やりにくさを感じることもまだ少なくはないのよ。メイクアップアーティストとして仕事をする時はああいう格好をして、口調も変えたりしてね……。
だからこうやって会話をしながらメイクするってこともあまりないのよ?…口調に集中しちゃうと、今度はこっちに集中できないから。やっぱり偽らなくていいっていうのは楽なのよね……。
え?そうねえ、まあアタシってご存知のとおりモテるから、周りに人は集まってくるけど。ふふ、なあに?その顔。ほらちゃんとこっちをみて?……でも、こんなふうに自分のことを話すのは初めてなの。嘘じゃないわよ、皆悩んでる子達がくるから、私はいつも聞いてあげる側でしょう?
もちろんそれが生きがいのひとつだけど、だからその分自分のことはめっきり駄目でね。
あなたが初めてよ。不思議ね……どうしてなのかしら。
⑤金曜日
ちょっとごめんね?……急に話の邪魔をして悪いけど、見つけちゃったからには見過ごすわけにはいかなくてね。それで、その子に手を挙げようとしてたのはどうしてかな。
君みたいな綺麗な女性が同じ職場の女の子を殴るなんて…まさかそんなことはないよね?
関係ない?そんなわけないだろ?その子は僕の大切な友達なんだよ。ああ、そう?僕が君たちと遊べば、この子から手を引いてくれるんだ?
……ふふ、ふふふっ、ほんと馬鹿みたい。え?馬鹿みたいって言ったのよ。誰があんたたちみたいなお子ちゃまと遊ぶと思う?ええ、そうよアタシはオネエだけどそれが何か?コソコソと陰に隠れて悪さをしているあなたたちよりよっぽど真っ当だと思うけど。
あと、この子のことブスって言ってたけど、この子はとっても可愛いし、あんたたちみたいな姑息な女の方がよっぽどのブスよ。さっさと散りなさい!
……人には言えない悩みってこれだったのね。…ほんと、あなたってやっぱり真面目でちょっとおバカよね。……ふふ、違うわ。そういう所が目が離せなくて可愛いって言ってるのよ。
⑥土曜日
え?……あら、あらあらそうなの?凄いじゃない男の人にデートに誘われただなんて!相手はどこの人なの?……職場の人なのね、素敵。最近はあのオブス共からもなにもされなくなったんでしょう?ついにあなたにもハルがきたのね~~~!
やっぱりアタシの目に狂いはなかったわ!言ったでしょ?あなたは可愛いって。それにアタシが教えてあげたメイクをしてるんだから間違いないわよ。
それで、いつなのよそのデート!……今週の土曜日ね?次の日もお休みでしょう?まったりできるしいいじゃない。それじゃ……、……、ここにはあまり来ないほうがいいわね。
あったりまえじゃないの~、ここ二丁目のバーよ?あなたの職場とは離れてるとはいえ、見られちゃ困るじゃなあい?とにかくそのデートが終わるまで……いいえ、あなたがその人とお付き合いをするまではここに来ちゃ駄目!うまくいった暁にはお祝いをさせて頂戴?
やだなんでそんな顔するのよお!ここにいたらいつまでたっても恋なんて出来ないのよ?折角のチャンスを無駄にする気?そんなこと、このカズミちゃんが許さないわよ!
……あなたは幸せになるべきだわ。そうなるべきなの。さっ、そうと決まれば今日は決起会よ~!わたあめちゃんの門出を祈って飲んで飲んで飲みまくるわよ~~!
⑦日曜日
(酔ってる)う……ん……?……え…?あなた……?あ…れ、なんでここに……、今何時?……そ、そうよねまだ土曜日よね?……酔いつぶれてもう日を跨いだのかと……なんであなたここにいるのよ……?デート今日でしょう?……まさか、ランチデートとかそんな生ぬるいオチじゃないわよね……?
アタシ……?アタシのことは別にいいでしょう……飲んでたのよ。……そうよ、オネエが一人で飲んでちゃ悪い?……あ、ごめんね、そういう意味じゃなくて……怒ってるんじゃないのよ、その……ああ、駄目ね、頭がうまく回ってない……。
それで、上手くいったんでしょう?……てっきり一晩過ごしてくるんだと思ってたけど、帰ってきたのね……最近の男の子はそういうものなのかしら…。
告白された?……そう、そこまでちゃんといったのね……よかったじゃない、で、どうしてここにいるのって聞いてるんだけど。……は?断った?なんでなのよ、どうしてそんなことしたの?!……アタシを……?………ふっ……ほんと……ほんとにあなたって……ああ、違うわね…馬鹿なのはアタシ。…あんなに張り切って送り出してもね、結局フリはフリでしかないのよ。……あんなに可愛い子をどうして手放しちまったんだろうって……。後悔した、忘れてやろうと思って、飲んで……。でも駄目だった。ついに夢まで見たのかと思ったよ……。……戻って来てくれて、ありがとう……。悪いけどアタシは、もう簡単には手放さないわよ…?




