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オッサンまみれの生徒会ってどこの重役会議だよ!

 なんと奇妙なことか、俺は記憶を失ってから女性がオッサンにしか見えないようになってしまった。

いや、記憶があったころもそう見えていたのか・・・? 今の俺にはわからない。


「ひ、久しぶり・・・。」


「ん? ケンたん顔色悪いよ? 朝から犬のう○ちでも踏んだ? げへへへ。」


「いや、そんなことないさ!普通普通・・・。」


「・・・。やっぱ変。」


 やはり幼馴染だけあってすぐに異変に気づかれる。今まで俺はこの兄妹にどう接してたのだろうか。


 まぁなんとかなるさ・・・。きっと。


「そんなことよりお前ら。早くしねぇと入学そうそう遅刻しちまうぞ。」


 なるべくボロを出さないようにありふれた会話をしつつ新入生が集まる入学式会場へと足を運ぶ。

そこには少しというより結構な人数が集まっていた。


 ここはプチマンモス校で生徒数もなかなかに多い。が、その数に見合わないほどの敷地の広さと施設の数が特徴的である。ここの学長は国のえらいさんとコネがあるらしくそういったことにも顔が利くそうだ。


―――静寂の中にも服が擦れる音、古いパイプ椅子のガタつく音、木造の体育館がひしめく音。なぜかわからないが俺はこの緊張感あふれる空間が好きだ。そして式が進行し生徒会長の挨拶が始まる。


「次に、えー・・・。生徒会長よりー。新入生への、言葉ぁ・・・。」


「なんともだるそうな司会進行だな!」


 修二がうんこを見つけ棒で突く小学生のようなキラキラした目でこっちを向く。

修二よ、なにがそんなに嬉しいのだ・・・。


 可愛そうなことに彼の頭はまごうことなきバーコードであった。もう生きるのすらめんどくさいが、死ぬのもめんどくさい。そんなこと思っていそうなほどにだらしない顔をしている。

 おそらくあの年齢的に教頭ってところだろうか?何にせよ他人事ではないがあんな年のとり方は避けたい。


 舞台に上がったのは60代なかばくらいの白髪交じりのダンディなオッサンだった。

おそらく女子生徒であろうことにすぐ気づく。先程の司会とは打って変わって活力に満ち溢れたどこかの考古学者のような面構え。そうそう、俺はこんな大人になりたいのである。


「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。ご来賓の方々もお忙しい中ご足労頂き誠にありがとうございます。」


ん~、なんとも渋い声。体の芯に心地よく響いてくる低く少し枯れた声。ちょっとかっこいいと思ってしまうほどである。


「なーケン! あいつちょっとかっこよくね? なんというか凛々しいっていうの?男としてちょっと悔しいような・・・。」


「うん。そうだな。確かにちょっと憧れる」


 俺が見ているものと彼が見ているものは全く別のものだろうが、実物の彼女もかわいいというよりカッコイイ系女子なのだろう。


「ふ~ん。ケンたんはああいうのがいいんだー。やっぱ男はオッパイが大きい人がいいのね!」


 反抗期の娘に「パンツ一緒に洗わないで!」と言われてしまった父親もといオヤジのようなふてくされた顔の実花。俺にはダンディなオッサンにしか見えてないが、どうやら生徒会長は巨の乳をお持ちらしい。


「うぉっ・・・!!」


 そして、生徒会長の挨拶が終わろうとした頃。俺はとんでもないものを見つけてしまった――。


 静まり返っている会場に思わずこぼれた奇声が響く。「何だ・・・?」と不審がる一同があたりを見渡す。慌てて場を鎮めようと中腰で立ち上がり小さくささやく。


「す、すみません・・・。」


 少し場がざわめき始め、席が近い人達は「何だ? あいつは。」とこちらを可愛そうな目で冷たい視線を送ってくる。


「あ~あ。ケンたん入学早々やらかした~。こんなにかわいい子がいるのに他の女の子に見とれてるからバチが当たったんだよーだ!」


 可愛い子と言ったって俺にはオッサンにしか見えないのでなんか少しだけムカつく。視線を舞台の方へそらすと会長がこちらを見ている。そして不敵な笑みを浮かべ。


「皆さん。ご静粛にお願いします。それでは先生、お願いします。」


 会長がバーコードに進行を促す。うん、これからこの人のことはBOSSと呼ぶとしよう。

立ち振舞が完全にいくつもの修羅場をくぐり抜けてきたそれだ。


 なんとかその場は収まり入学式が進行する。


「おいケン。急にどうしたよ? 変な声だしてさ。」


「いや、ごめん。しゃっくりが・・・。」


「んなわけ無いだろ? まぁいいけどさ・・・。」


 修二には適当にごまかしたが、先程見つけてしまったあれはやばい。俺にはこの会場は男子高校生と女生徒用制服を着用したオッサンがまばらに座ってるように見えるわけだが、一人とんでもないものがいる。


 その男は・・・、いや女か。そいつはなぜか全裸で堂々と椅子に座ってる。頭の天辺は太陽光発電でもしてスマホを充電してるのかと言わんばかりのまごうことなきてっぺんハゲである。いくら俺のオッサンアイであれ服は本人が来ているものが見えるはずなのに・・・。


 周りがなにも反応しないということは実際は服を着ているはず。もしかしたらなにか俺の謎を解く鍵を持っているかもしれない。後で話しかけてみるか。


 そんなこんなで無事式が終わり、配属された教室へ向かう。そこでもやはり若い男と老けた男にまみれていた。


「はぁ・・・。三年間これか・・・。」


 どう仕様もない絶望を愚痴ってると横から今にもぶっ倒れそうなブラック企業努め系オヤジが話しかけてきた。


「あの・・・。どうしたんですか? なにか嫌なことでもありましたか? あなた、少し変わったオーラしてますんね。 よかったら占って差し上げましょうか?」


「え? オーラ? そんなの見えるの君? あ、俺は桐山 憲太郎。君は?」


「すみません・・・。申し遅れました。私は本堂ほんどう まいといいます・・・。」


「ふーん。まぁこれから同じクラスだしよろしくね。ところでさっきのオーラって?」


「あ、すみません・・・。雰囲気出すために思いつきで言っちゃいました・・・。ごめんなさい・・・。」


 そう言い更に今にも倒れそうな表情になる。誰か頼むから有給上げてくれ。


「別にそんなに謝らなくていいよ!」


「ありがとうございます・・・。では早速占いを・・・。」


 何やらタロットカードと言うやつを取り出しているがなんとも手際が悪くカバンの中にぶちまけている。あまりこの人にはかかわらないほうがいいか。修二たちは別のクラスだしな――。


 そんな時に勢いよくドアを開ける音が響く。そこにいたのはBOSSだった。あたりを見渡し、こちらと目が合う。また不敵な笑みを浮かべ足早にズシズシと向かってくる。


「お前――。」


 やばい、きっと式を途中で乱してしまったから注意しに来たに違いない。生徒会に目をつけられたらダルい。ここはなんとしても――

 

 と、すぐにジャパニーズドゲザの体制に入ろうとする俺。まじでみっともない。が仕方ない。


「お前、生徒会に入らないか?」


「先程は済みませんでし・・・た?」


「何をしているのだ? お前は。そんなことより、お前生徒会に来い。」


 お互いに拍子抜けた顔をしたまま周りも少しざわつき始めた。新入生の教室に上級生のましてや生徒会の長がやってきているのだから不思議に思うのは必然だろう。


「・・・。と、いいますと・・・?」


「だから、生徒会に来ないかと聞いている。何か不満でもあるのか?」


「いや、不満ってわけではないですが。生徒会って何をするのよくかわからないですし。そもそも選挙などで選ばれるものなのでは?」


「何を言っているこの学校では生徒会長がメンバーを選ぶ。そうか、まだホームルームも始まってないから知らないのも当然か。いいから付いて来い。」


 わけのわからないまま半端ない風格のBOSSに手を引かれ生徒会室に連れてこられた。

今は誰もいないみたいだ。


「お前、今自分の周りで不思議なことが起こっていないか?」


「・・・っ!! 」


「その顔、やはりそうだな。お前には私はどう見えている?中年オヤジか?それともやせ細ったホームレスにでもみえるか?」


 この女確実に俺の秘密を知っている。だがどうしてだ? 記憶がなくなって以降俺も気持ちばかりだがいろいろと調べ回ったが何もつかめなかった。

この人は直し方や原因などを知っていたりするのだろうか?


「先輩は、俺のこの病気が何なのか知っているのですか?」


「バカモノ。会長と呼べ、会長と。・・・そうだと言ったら?」


「お願いします!何でもしますから知ってることすべて教えてください!!」


「なんでも、といったな? よかろう、ではまず生徒会に入ることに異議はないな?」


 黙ってうなずく。生徒会に入るだけで謎が解けるならたやすいものだ。


「実はな、とある事情でお前の今の状態の元凶を知っている。残念だが、完全な直しかたはまだわからない。」


「なんだ・・・。そうですか。」


「まぁそうがっかりするな。完全ではないが部分的に直していく方法は知っている。」


 一度ぬか喜びしてしまったと肩を落とすが、今の話を聞いて再び心拍数が上がる。


「それはどうやったら・・・!? 何をすればいいのですか! 会長!!」


「まぁ落ち着け、これは君の覚悟が問われる方法だ。何があってもやってのける自信はあるか?」


 BOSSに凄まれると後ずさりしたくなるが、今の状況が少しでも良くなるなら。こんなオヤジまみれの世界におさらばして俺の青春が守られるならなんだってする。どんな痛みにも耐えようじゃないか。でもやっぱ痛いのはやだな。


「はい、覚悟はできてます。」


「よろしい。その方法とは・・・。」


「方法とは?」


「女の子もといオッサンと熱い口づけを交わすこと。」


「・・・。」


「はぁっーーー!!!」




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