始まり
あくまでフィクションです。
まばゆいほどの光が、
亮太の身体を包み込んだ。
久々に感じるこの感覚、
まだ微かに懐かしく感じられるのが嬉しかった。
後ろを振り返ると、
約1年半過ごしてきた冷たいコンクリートの建物が、
まるでそこだけ時間が止まっているかのように、
ただ漠然と存在している。
ここで過ごした時間は、
亮太にとって、
とても長いものだった。
少年院。
まだ16歳の少年に、
二度と帰ってきたくはない故郷ができてしまった。
今からおよそ3年前、
中学生だった亮太はサッカー部に所属していた。
勉強の方はいまいちだったが、
サッカーの実力は誰もが認めるほどで、
1年生ながら県内どころか、
全国でもトップレベルの選手だった。
校内でも人気者で、
学校初のプロサッカー選手誕生の期待も大きかった。
そんな亮太を誰よりも誇りに思っていたのは、彼の両親だった。亮太のためならと、
近所の空き地をサッカーの練習場にしたり、
サッカー名門私立高校に進学させる準備をしたりと、
決して裕福ではなかった家庭ながら、
亮太にかける期待は相当なものだった。
ある日、
サッカー部の先輩が亮太を呼び出した。
その先輩は日頃から後輩に優しく、
とても慕われていた。
亮太はその先輩から、
一枚のビニール袋を手渡された。
そのビニール袋の口は輪ゴムできつく縛られていたが、中には何も入っていないようだった。
「先輩、なんですかこれ?」
「一回その中の空気吸ってみろ。」
亮太は訳も分からず、
ビニール袋の輪ゴムを外し、
言われたとおり、
中の空気を吸ってみた。
すると、
今まで感じたことのないような感覚が亮太を襲った。
体の疲れが抜けていくような、
なんともいえない不思議な感覚だった。
しかし、
その感覚がたまらなかった。