第5話 指摘
「言いたかないけれど、カイト。パーティーで前衛を務めるあんたがすぐ死ぬから課題もクリアできないし、あたし達みんなも落ちこぼれ呼ばわりされてんじゃないかしら」
「…………いや、しかし」
「分かっているわよ。あんたは決して弱くない」
そして、ミアは止めの一言を放つ。
「でもあんたは――――運が悪過ぎるのよ」
「ぐふっ」
俺はその一言によって崩れ落ちた。
「運が悪過ぎる」。それは俺にとっての大きなコンプレックスだった。
俺は攻撃、防御、速さ、魔力などどれを取ってもそのステータスは低くなかった。しかし、突出して「幸運」のステータスだけが低過ぎた。
このリリーディア学院に入学した当初、俺は学院で「ステータス判定」を受け、その「幸運」の低さに愕然とした。
攻撃、防御、速さ、魔力などは鍛える事ができる。しかし、運だけはそう簡単には鍛える事ができない。それはその者の持つ「冒険者」としての才能と言ってもいいのだ。
なにせ「運」は冒険者がダンジョンに潜る際のその行動のすべてに影響を与える。
例えば運が低ければ毒などを始めとした状態異常に掛かりやすいし、モンスターからの攻撃を急所にもらいやすくなる。さらにモンスターからの奇襲をもらう事も多くなれば、罠にも掛かりやすくなる。
さらにはダンジョン内における想定外のできごとに巻き込まれやすくなるのだ。これは冒険者として生きる場合にはかなり致命的である。
しかし、運だけは持って生まれた素質なのだ。改善のしようがない。
それでも俺はそれに抗おうとした。「運」なんて不確かなステータスに振り回されて堪るかとばかりに「冒険者」に縋りつこうとしたのだ。
しかし、結果がこのざまだ。自分自身どころかパーティーみんなを巻き込んで「落ちこぼれ」扱いされてしまっている。
俺達「第八班」の前衛は俺だけしかいない。その俺が死ねば当然、パーティーは瓦解する。
そのようにして俺達は先月の課題すら終える事ができないでいたのだ。
「もう一度言うわ。あんたは弱くない。それどころか剣の腕前だけで言えば学年全体でもかなり上の方。少なくともあたしはそう思っている。だからあんたは決して悪くない」
「そりゃ、どうも」
「けれど、それでも、課題がクリアできない原因は……その、あんたの責任も大きいのよ」
「…………ッ」
「その……あたし達もあんたに前衛任せ過ぎて悪いと思っているけれど……」
「分かっているさ。お前らは前衛の適正がない。それは仕方ない事だ」
ミアもコルドもコハクもパーティーで前衛を務める事のできる「職業」の適正がなかった。
「職業」はダンジョン攻略科に入学した際にその素質に合わせて自分で選ぶ事ができる。畢竟、その素質がなければ好きな職業は選ぶ事ができないのだ。
だからこそこの『第八班』では俺が前衛を務めるしかない。コハクが前衛を手伝ってくれる事はあるが、それでもコハクは『盗賊』だ。例え前衛を手伝ってくれたとしてもサポート役までしかこなす事ができない。
「でも……それでも俺はプロの冒険者にならないといけない! もっと上を目指して――――『落ちこぼれ』から脱却しないといけないんだ!!」
「…………カイト」
怨嗟にも似た言葉を発す俺に対して、誰もそのフォローをする事ができない。
みんなは俺がプロの冒険者を目指す理由を知っているからだろう。だからこそへたなフォローは逆効果だと分かっているのだ。
だが、このままでは俺はこのパーティーのお荷物でしかない。
――――強くならなくては。
そう、思った。
このままでは俺は遠からずこのパーティーから追い出される事になるだろう。
いや、こいつらはなんだかんだ言って優しい。そんなは事しない、いや――――できない。
だからこそ、俺はこいつらの迷惑にならないためにも、自らの判断でパーティーから去らなければならない。
そして、ここを追い出されたら落第の俺に行く場所などない。学校も辞めなくてはならないだろう。
そうならないためにも――――戦うための力が必要なのだ。
もっとがむしゃらに、成功するために貪欲にならなければ。
なんにでも縋りつくだけの――――そういう向上心が必要なのかも知れない。