第4話 作戦会議
「第一回『どうしたら落ちこぼれ学生を卒業できるのか』会議ー、はっじまるよー」
コハクが笑顔を浮かべながら棒読みでそんな事を述べる。テンションが高いのか低いのか相変わらずよく分からない奴だ。
今は放課後。教室にはちらほらとクラスメイトが残っている。
そんな中俺、ミア、コルド、コハクの四人は集まって今日の反省会を行っていた。
いいんちょーにあそこまで言われては改善しないわけにもいかないからな。
反省会の趣旨は当然、『どうすれば落ちこぼれを卒業できるのか』についてだ。
「さて、では誰か案がある者は挙手をどうぞ」
とは言え、コハクのその言葉に誰も答える者はいない。
それは当然の事だった。
誰も好きで落ちこぼれをやっている訳じゃないからな。
「ふむ……では何故課題をクリアできないとみんなは思う?」
コハクがそう言葉を変えると、それにコルドが答える。
「そうだな……コハクさん、君にもその原因の一端はあるんじゃないかな?」
「そうかい、コルド君。例えば?」
「それはその…………戦闘中に急に、服をその……ぬ、脱いだりとか」
「あれはボクのスタイルだからね。それについては止めようがない」
コハクはそんな事をさらりと口にする。
「いや、コハク。コルドの言う通りだろ。なんで意味もなく戦闘中に服を脱ぐんだよ」
「意味はあるよ、カイト君。忍者はね、服を脱ぐと身軽になって強くなるのさ」
「いや、お前忍者じゃねーだろ」
「いや、ボクは忍者さ。ボクの中ではね」
コハクの職業は忍者ではなく『盗賊』だ。前衛などもこなせなくはないが、その主な役割はダンジョンでの罠の解除などだ。
しかし、コハクはなんの文献で見たのか忍者にあこがれを抱いている上に『忍者は脱ぐと強くなる』という妄想を抱いている。
最もこいつは普段から露出癖と言うか、何かと「脱ぎたがり」なところがあるから「脱ぐ」という目的作りのために「忍者」にあこがれているところがあるが。
「それにね、カイト君。ボクは実際、脱ぐと強くなるだろう?」
「いや、まぁ……」
そんなコハクの言葉に俺は押し黙ってしまう。
実際、コハクは脱ぐと強くなる。身のこなしが軽くなって、前衛を務める俺にも匹敵するほどの力を披露するのだ。
だからこそ俺達はこいつの悪癖を止める事ができない。
「ボクはね、カイト君。まだ見知らぬ強敵に会いたいのさ。強敵に会って、全力で立ち向かいたい。そして、ボクが全力を出す時は全裸だ。全裸でなくてはならないのさ。ボクはいつか全裸になれるほどの強敵に立ち向かって、そして美しく敗北したい。そう言う美学を持って冒険者になりたいと願い、この学院に入ったんだよ。だからこそ、このスタイルは譲れない」
「…………」
端的に言って頭おかしい。
ちなみに幸か不幸か俺達は未だこいつの全裸を拝んだ事がない。あっても下着くらいまでだ。当然女物の下着だった。やっぱり頭おかしい。
「成程、カイト君。つまりはこう言う事かい? TPOを弁えろ、と」
「脱ぐなと言っとるんだ」
「せめてここなら! この場所なら良いかい!?」
「どんだけ脱ぎたいんだ、お前は!?」
コハクはスカートの端をちらりと持ち上げながら言う。
「いやさ、お前が脱ぐ理屈は百万歩譲ってよしとしよう。俺も個人の趣味趣向をとやかく言うつもりはない。しかし、お前が露出する事によってコルドが屈んで動かなくなっちまうんだよ! こんな風にな!」
コハクのスカートの端が捲れた瞬間にコルドは瞬時に屈んでいた。
……どうやらまた元気になってしまったようだ。
それはそれとしてコルドは基本優秀な魔法使いだ。基本的に欠点はないし、目端も利くし頭もいい。
だが、コハクの件のみならず些細な事で屈んでしまい、そのあいだの戦闘はもちろんできない。
魔法使いがいなければダンジョンでモンスターの殲滅に時間が掛かる。殲滅に時間が掛かればその分だけパーティー瓦解の危険性が高くなるのだ。
するとコルドは屈みながらもその理由を否定し始める。
「違う! これはちょっと眼鏡を落としだだけだよ」
基本ムッツリのコルドは屈んでいるその原因を否定する。
「眼鏡なら今つけてんじゃねぇか!」
しかし……まぁ、その否定の仕方がおざなりだ。
「せめて屈むのを止めろよ! そうしたら元気になったところで問題ないわけだし」
「ちっちゃくないよォ!」
先んじてコルドがいつも台詞をのたまう。虚しい抵抗だ……。
「そうだな、あとミアが貧弱過ぎるのも原因の一つだろう」
「あたし?」
俺の言葉を聞いたミアは自分を指さしながら小首を傾げる。
「勿論だ。貧弱過ぎて常時バフ魔法使ってないといけないからな。それ、魔力の無駄遣いだろ」
「分かっているわよ! ……でも、使ってないと――――」
「使ってないと?」
「――――地下ダンジョンに降りただけで酸欠で倒れるかもだし……」
「お前それ貧弱の度を越えているだろ」
最早生きる事自体が下手と言っても差し支えのないレベルだ。
「でも、カイト。あんまり言いたくないけれど、あたしの魔力がすぐに底を尽きるのはあんたがほとんどの原因なのよ。……と言うよりもあんたがこのパーティーの足を引っ張っていると言っても過言じゃないわ」
「うっ……まあ」
とうとうその確信に触れざるを得ない時が来たようだ。
みんなもそれが分かっていたのだろう。だからこそ、その指摘をあと回しにしていたのだから。