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プロローグ その③

「あの……カイト? あんた……顔がもうもの凄い事になっているわよ? ものすっごい冷や汗掻いて涙流しながら笑顔浮かべていて最早この世のものとは思えない顔しているわよ?」

「これが俺なりのスライムへの友好を示した表情だ。ラブ&ピースを感じるだろう?」

「地獄の痛みに苦しんでいるようにしか見えないんだけど」

 我慢……我慢だ……。この痛みさえ乗り切れば……俺は裸の園まであと一歩のところまで来ているんだから……。


 俺が地獄の責め苦に耐えている中、ミアが表情を変える。



「ちょっとカイト!? あのスライム、なんだか輝き始めているわよ!?」


 俺が振り返ると、確かにトランススライムは白く輝き、その形状を変化させていった。



 まさか……ここであのトランススライムが変身しようとしているのか!? 一体何に――――




 トランススライムはその特性を生かし、見事変身を遂げていた。




 なぜか服を一切着ていない、裸になったミアに。





「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!」

 それを見たミアは錯乱したのか、悲鳴を上げながら俺に殴り掛かって来た。



「お、おお落ち着け! 俺は味方だぞ!」

 俺はミアの放った目潰しをすんでのところで回避する。



「あ、ああああんな姿っををを……、あんなあたしの……、あんな恥ずかしい姿を……よりにもよってあ、ぁああんたに見られるなんて……何よあのスライム!? こうなったら殺すしかないわ! あんたを!」

「何故、俺を殺すんだ!?」

「あんたの記憶からあたしの裸を消すためよ!」

「思考が暴力的過ぎる!」

 何その巣ごと焼却みたいな発想!!


 やはりミアは錯乱しているようだ。つうかなぜあのトランススライムはよりにもよってミアの裸なんかに変身しているんだ!?



「おい、コルド!? これは一体どういう事なんだ!? なぜあのスライムはミアの裸に!?」

「それはだね」

 コルドはミアに殺され掛かっている俺を横目で眺めつつ、現在の状況を落ち着いた様子で説明し始めた。



「僕が調べた文献ではこう書かれていた。『トランススライムは一度変身した姿を覚え、再びその姿に変身するという特性をも併せ持つ』と」

「ん? つまり?」

「つまりだね、カイト。そのトランススライムはほかの持ち主のもとで一度女体に変身した事があり、それを顔だけミアさんのまま再現したという事さ!」

「な……なんだってェ――――ッ!!」

 つまりこのトランススライムは既に誰かに使用された事のある『使用済み』トランススライムだったのだ。


 まあ考えても見れば希少な存在だというトランススライムがこんな何度となく踏破された安全ダンジョンに存在している方がおかしい。


 きっと誰かのトランススライムだったものが逃げ出して、ここまでやって来たのだろう。


 それを聞いて俺はもう一つの疑問についても解決した。



「成程。道理でミアの胸が大きすぎると思ったんだ」

 目の前の顔だけミアに変身したトランススライムの胸はとてつもなく大きく、貧乳であるはずのミアが持ち得ないナイスバディだったのだ。


 しかし、それを聞いたミアの目潰しの威力がさらに強まる。



「誰が……誰が貧乳でペチャパイの胸なし女ですってェエエエエエエエ!!」

「待て、ミア!! 確かにお前は極薄の貧乳だが、誰もそこまで言ってない!!」

 貧乳という単語を聞いたミアは烈火のごとき怒りを浮かべる。



「と言うか……あんた、あの女体に変身するスライム目的でさっきまでおかしな事言ってたのね!? どこまであんたはスケベなのよ!?」

「馬鹿か! 男がスケベであって何が悪い!」

「限度があるのよ!? 誰が女体目的で背中に強酸吐かれても我慢すんのよ!」

 そんなんいっぱいいるだろ! ……多分。



「コハク、ミアを止めてくれ! 明らかに錯乱してやがるんだ!」

 仕方なく俺は何やら黙って趨勢を見守っているコハクに助けを求める。


 すると、コハクはポンと手を打って成程と一人呟いた。



「そうか。分かったよ、カイト君」

「何が分かったんだ!? いいから早く助けてくれ」

「あのスライムはどうやら身体だけ女体に変身できるんだろう? だったら顔をボクのままで女体に変身させてみたいんだけど! ボクも一度くらい完全に女になったボクというものを見てみたいんだけど!!」

「駄目だ! こいつも錯乱してやがる!」

 コハクは見た目こそ女に見えるが実は正真正銘の男だ。


 つうかずっと黙っていると思ったらそんな事考えてやがったのか!?



 それ以降もコハクは「ボクのアイ〇ラ姿を見てみたいんだ!」などと言いながらトランススライムに変身してもらおうと、その周囲を飛び回っている。



 最早あいつには期待できそうにない。



「こうなったら……コルド! 俺は死んでも構わない! お前があのトランススライムを捕縛するんだ!」

 死をも受け入れながら俺はコルドにあの宝物を捕まえるようにお願いする。



 しかし、いつからかコルドは地面に蹲ってしまっていた。



「どうした、コルドォ!? 何があった!?」

「……すまん。や、やられた」

「なッ!? まさか……モンスターか!?」

 こんな事をしているあいだにどこかに強力なモンスターでも沸いたのだろうか。もしそうならこの状況、かなりマズい……。



「いや、その……ちょっとボクの下半身の血が騒いで……しばらく動けない」

 どうやらコルドはミアの裸(アイ〇ラ風)を見て下半身が元気になってしまったらしく、そのせいで動けないでいただけだった。


 しかし、今はそんな場合ではない。俺はコルドにこう言ってみせる。



「大丈夫だ、コルドォ!? お前のは小さいから少々元気になったところで誰にもバレやしないから!!」 

「ちっちゃくないよォ!?」

 コルドは血でも吐くかのような勢いで叫んだ。



 コルドはオークのハーフである癖に短小であった。オークと言えば性欲抜群、身体も立派であるのが相場なのに……なんとも残念な奴だ。


 そして、コルド、コハクの二人は役に立たず、結局俺はと言えばミアの奴に目を潰された挙句、リンチを受けてしまった。


 さらに残念過ぎる事にトランススライムはこの騒ぎに乗じてどこかへと逃げ去ってしまったようだった。



 後日、どこかのオークションで目を見張るような金額で売られたトランスライムがいたとかいないとか……。


 また当然のように俺達第八班は今日の課題を終える事ができず、落第の評価を学院からもらってしまうのだった。



 ただ、それは今日だけでない。俺達はこうしていつも落ちこぼれの評価を受けていた。



 ダンジョン攻略科の二年になったと言うのに、ただの少しでさえ成果を出す事すらままならない。それが俺達八班の現在における状況。




 そんな春の出来事だったのだ。俺が『あいつ』に憑りつかれたのは――――

おそらくこんな感じの馬鹿系ダンジョンモノになると思います。

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