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プロローグ その①

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 ――――冒険者。



 魔物犇めく危険なダンジョンに潜り、そこからお宝を掻っ攫って一攫千金を企む無謀にして勇気ある夢追い人は人々からそう呼ばれていた。


 それは昔も今も同じ事だ。ダンジョンでのみ採れる希少な「お宝」を持ち帰る冒険者は重宝される。トッププロともなれば一生遊んで暮らせるような額をほんの一時で稼ぐ事すら可能となる。



 そんな冒険者を目指す若者は多い。この国でも冒険者を育成する場所として「ダンジョン攻略科」と呼ばれる教育機関が数多く設置されており、そこに通う学生達は日夜冒険者となるためのノウハウを学ぶ。



 そして、俺もそんな夢見る若者の一人だ。



 今日も今日とてこうしてダンジョンに潜り続けている訳だが――――




「衛生兵ェ――――ッ!! 衛生兵はまだかァ――――ッ!! カイト、カイトがァ!!」

 親友が泣き叫ぶようにして俺の名前を呼んだ。俺は口から血の泡を吐きながら最後の力を振り絞ってぼやけた眼に映った茶髪眼鏡の友人の名を呼ぶ。



「コルドぉ……俺は、俺は……もう、駄目だ……ごふっ」

 少ししゃべっただけで胸の辺りが張り裂けそうなくらいに痛い。いや、実際に張り裂けてしまっているのだから、その比喩は今や適切ではないのかも知れない。


 俺の胸は魔物の鋭い牙によって貫かれてしまっていた。しゃべると熱い何かが喉奥から込み上げて来て、思わずそれを吐き出してしまう。それは真っ赤で粘っこい俺の血だった。



 その量から考えてもこの痛みが致命傷である事は間違いない。



「しゃべるな! 傷口が広がってしまう!」

 コルドは俺がしゃべろうとするのを止めるが、俺は力なく首を振る。



「いいんだ……俺はもう、駄目だ。俺の身体の事は俺が一番よく、分かっている……それより、聞いて、くれ……」

「……なんだい?」

「俺のよぉ、その、少し恥ずかしんだけどな……、うちにあるエ、ロ本を、家族に見つからない内にしょ、ぶんしてくれないか? あんなひでぇ性癖を家族に知られたら、俺は恥ずかしくて安心して、あの世に行けねぇ……」


「馬鹿野郎! 君……そんなの自分で処分すりゃいいじゃないか!」

「無理だからお前に頼んでんだろ? なんだったらもらってやっちゃくれないか? あのエロ本はなかなかの素晴らしいできば……ぐふッ!」

「カイト!」

 コルドがひと際激しく俺の名前を呼んだ。


 俺の吐いた血の量が尋常ではなかったからだ。




「もう……お迎えが来たようだ……おれは、もう……」

「カイト! 君との冒険……僕は凄く楽しかった……できればまた……」

「そう、だな……来世でまた、いっしょにやれたら――――」

 最後の言葉を言い終わる前に俺は呼吸すらも怪しくなってしまう。

 そして、いつしか俺は死んでしまっていた。



「カイト? かいと、カイトォオオオオオオオオ!!」

 暗闇の中でコルドが俺の名前を呼んだ気がした。






――――







「――――はい、蘇生魔法掛けてあげたわよ。て言うか二人で一体何してんのよ?」

「「……え? 死に際での親友とのハードボイルドごっこ」」

 俺は死の際から生還しつつ、あっけらかんとしてコルドといっしょにゲラゲラと笑う。


 いや、俺が死に掛けていたのは間違いない。と言うより確実に死んでいた。今も俺の鉄製の胸当てはその半分が抉れており、その周辺は真っ赤な血で染まっている。



 ただ、死んでしまう事にはもう慣れてしまっていた。


 毎日毎日、それなりに危険なダンジョンに潜る日々を送っているのだ。死なない方がどうかしている。


 最初こそ死にそうになる度に恐怖で小便を漏らしていたものだが、今では死に際にコントができるまでになっていた。



 さらに言えば今日だけでもう四回目も死んでいる。その度にパーティーメンバーのミアに蘇生魔法を掛けてもらって生き返っていたのだ。


 しかし、生き返った直後の俺の態度を見た赤髪ポニーテールの少女であるミアは重い溜息を吐く。



「……ちょっとさぁ、カイト。あんたはもう少ししっかりしてよね。蘇生魔法だってただじゃないんだからね? あたしの貴重な魔力削ってわざわざ生き返らせてあげてるんだから」

「分かっているよ。感謝もしてる。……けどさぁ、モンスターに不意打ち喰らってその一撃で胸抉られちゃ、もう笑うしかねーだろ、こんなの」


「不意打ち喰らわなきゃいいじゃないの。周囲警戒してればそう易々とは死なないわよ」

「いやさ、俺だって馬鹿じゃない。周囲くらい軽快してるさ。けれど、いきなりダンジョンの天井が崩れて来て、瓦礫といっしょに魔物も落ちて来て、さらに運悪くその魔物の爪が俺の胸に突き刺さるとか……こんなんどう警戒すりゃいいんだよ!?」


「いや、まあそれは……」

 俺の恨み節の早口を聞いたミアはそれきり黙ってしまう。


 代わりにもう一人のパーティメンバーである黒髪ショートカットの美少女(に見える)コハクが我慢しきれなかったとばかりに笑ってしまう。



「ふふっ、くくく……、しかし、まあ、本当にカイト君は運がないね」

「ぐふっ」


 運がない。


 その言葉を喰らった俺は膝から崩れ落ちる。



 なぜならその言葉は俺にとっては呪いとも思えるものだったからだ。



「……まぁ、あんたの言い分ももっともだし、いいわ。でも今度から気をつけなさいよね。じゃないといつまで経ってもこの課題をクリアできないわよ」

「分かっているさ」

 ミアの言葉に俺は頷くしかなかった。


 アメリア国立リリーディア中央学院ダンジョン攻略科二年Dクラス第八班。


 それが俺、コルド、ミア、コハクという四人に与えられたパーティー名だった。

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