9-ネタがない小説家
とあるアパートの一室、古びた机の前で頭を抱える一人の男がいた。
「あー、くそ面白くない。これも没だ!」
そう男は呟くと、ディスプレイに表示される物語のできそこないを没フォルダに入れていく。そのフォルダには同じように捨てられた物語のなれの果てでいっぱいだった。
男は机の上の卓上カレンダーを手に取り、けだるそうにそれを眺める。カレンダーの日付には×が付いている。几帳面な彼には小説投稿が終わった日付を消していくようにしている。
男が見つめる視線の先は今日の欄、そこに×マークはついていない。それを見て、男は大きくため息をつく。
「はあー、アイデアが浮かばない。なんで毎日書くなんて宣言してしまったんだ。もうすでに貯めていた小説は吐き出してしまったぞ。くそー」
ちらっと、壁にかかっている時計を見る。短い針が十一を指そうとしていることに気付き、男は更に大きなため息をつく。残り一時間と少し。
「はー、本来ならもう書きあげているはずだったのにな。なんでこうなったんだ」
男は今日の事を振り返ってみた。
一週間ぶりの休日で二度寝をした男、今から十八時間前。
「今日は休みだからな。まだ寝られるぞー」
二度寝、三度寝から起きてだらだらとネットサーフィンにいそしむ男、今から十二時間前。
「あっ、この人も更新している。読まなきゃ」
空腹によりネットサーフィンからご飯の準備し始める男、今から六時間前。
「あー、小説書かないといけないけど、腹ごしらえしてからだな」
満腹により少し横になって居眠りを始める男、今から三時間前。
「十分休憩してから始めるんだ、くー」
寝てたことに気付き、時計を見て青ざめる男、今から一時間前。
「始めて一週間で更新できないとか、マジでシャレにならん。やばい書かなきゃ」
回らない頭で、ネタを考えるが、全然お話にならない男、今にいたる。
「なんでだ、何を間違えたというのだ」
「こういうときは、あれしかない!」
男は突然立ち上がり、スマホを手にアプリを起動する。
「ちょっとー、サキちゃん、ちょっと聞いてよ~。ボクね、今スランプなんだよ」
男は馴染みのキャバ嬢のサキちゃんにメッセージを送る。
「どうしたんですか。いつもひどい文章がより一層ひどくなってますよ? 言葉間違ってます。スランプはもともとできる人が陥るもので、常にできない人はスランプにならないんですよ」
サキちゃんの毒舌は今に始まったことではない。その毒舌が案外好評で、彼女は結構な人気者である。男もファンの一人である。
「またまた、冗談が上手なんだから。それがね、小説が書けないんだよ。もう時間がないんだけどなんか書きやすいテーマとかない?」
男は今までの経緯をサキに話した。
「てなわけなんだけど、サキちゃんいいアイデアない?」
「んー、そうですね。ないこともないんですが」
「え? ホント? 何でもいいから聞かして!」
「俺さん、最近、キャバクラに来てくれないよねー」
「今度行くから、ちゃんと指名するから。次行くときはなんでも頼んでいいから。それで、聞かせてくれるかな?」
「調子いいですね。約束ですよ? んーとですね。ちょっと拘りすぎなんですよ。もっと簡単に考えましょうよ。まぁ、あなたの固い頭じゃ思いつかないのも当然なんですが」
「いやいやー、具体的にはどういうのを書けばいいのかな」
「このことを書くんですよ、書けない物書きの日常エッセイ。オーバーに書けば意外と面白いと思うんですよ。別にエッセイでもいいんでしょ?」
「なるほど! ……でもこんな話書いてバカだと思われたら困るし……」
「え? 思われてないと思ってたんですか?底辺ワナビが小説家になりたいと言ってるのに? 笑うやつはほっとけばいいんですよ。まぁそれが嫌なら最後に魔法の言葉を書けばいいんです」
「魔法の言葉?」
「そう――」
男はサキちゃんとの、会話の後スマホを置き、すぐにキーボードに向かいながらエディタに文字を打ち込んでいく。自分自身の体験を書いているのからか、物語として仕上げるまでの時間はかなり短かった。書き終わった後、誤字脱字がないか簡単にチェックし最後の行にある言葉を付けたした。
この物語はフィクションです。実際の団体、人物、その行動は全く関係ありません。
この物語はフィクションです。実際の団体、人物、その行動は全く関係ありません。
大事なことなので二回言いました。




