5-異世界転生での忘れ物
俺は本当ならば、今頃ビーチで女の子に囲まれて青春の一ページを謳歌しているはずだった。それなのになぜ、荒れ果てた大地にぽつんと立って、はげたおっさん達とにらみ合いをしなければいけないのか。それは、ほんの二時間前にさかのぼる。
今日から夏休みだー、と浮かれ気分で昨日に友人と海に行く約束したことを思い出し、海に行く準備してさぁ出発だと意気込んで家を出てみれば、目の前の道路には今にも車にひかれそうになっている猫がいた。とっさに猫を助けようと、道路に飛び出してしまいまるで運転手が居眠りでもしているかのように、こちらに気づかずスピードをまったく緩めないトラックにはねられてしまった。
そして、気づいたら白い部屋で、そこには白髪、長い髭のいかにも胡散臭そうな修道服っぽいモノを着てえらそうにしているじいさんがいた。そのじいさん曰く、俺が死んだこと、猫を助けようとしたとても勇敢な青年をこのまま地獄に送るのは忍びない、異世界に転生させてあげようと言い放った。なんで地獄行きは決定なんですか。
そんなこんなで、異世界に転生したはいいけれども、どこに行けばいいかわからず。転送されたその場でボートしていたら、なんだかはげた身なりの悪いおっさんたちに囲まれていた。そのおっさんたちは盗賊らしくてここらへんでお仕事がんばっているようなのだ。金目の物を置いていけと言うけれども、俺は無一文で、あなたたちのほしそうなモノはないですよと言ったけれども、そんなことには耳を傾けないおっさんたち。
時間は刻々と過ぎて、向こうはそろそろおそってきそうな雰囲気で。むしろなんで会話する気になったのか不思議でならないのだが。普通におそってきてくれるならそれはそれでよかったのだが。
まぁさすがに盗賊たちもしびれを切らして、そろそろおそおうぜと下っ端たちが騒ぎ出す。
「さて、死んでしまえ」
と下っ端が走り出したので、仕方がなくなった俺は異世界のお約束であるチートでも使って華麗にぶちのめしますかと思い、下っ端に立ち向かうようにして、気付く。
「あれ、俺、チート能力もらってなくね」
こうして、俺の二度目の人生は終わったのである。




