4-魔法商事
「それで、私でも魔法少女になれるんですか?」
とある喫茶店で私の向かいに座る少女はあどけない笑みを浮かべながら私に聞く。すごく期待に満ちたまなざしがこちらに向けられる。
「もちろん、誰でもってわけじゃないけど君にはその資格があるよ。どうやってみない?」
私は目の前のコーヒーに手を伸ばして、コーヒーカップに口をつけ、横目に少女を眺める。いつからだろう、ブラックコーヒーを飲めるようになったのは。罪悪感で頭が押しつぶされそうになると、ブラックコーヒーが私を慰めてくれる。昔は大っ嫌いだったのに。
本当ならば、目の前の少女に魔法少女になんてなってほしくない。しかし、それはできない。私は魔法商事の人間だからだ。
魔法商事とは、魔法使いや魔法少女の資格を持った少年少女を勧誘し、食い物にする会社である。文字通りの意味ではなく実際には可能性というものを奪う。私たちの会社と契約する人は魔法を使うための媒体を提供される。それは人の未来の可能性をエネルギーとして、不可能を可能にする力を秘めている。しかし、その媒体を介して使う魔法はとても効率が悪い。なぜならエネルギーのほとんどを魔法商事に奪われるからだ。
また人の可能性というのは有限で、使ってしまえばなくなってしまう。なくなってしまうとどうなるか、それは死の可能性だけが残る。
甘い言葉で、少年少女の可能性を摘み取る、それが魔法商事のやり方だ。
そして私は魔法商事の営業マン、その少年少女たちに勧誘を行わなくてはならない。どういう仕組みかわからないが、可能性を奪うためには承諾がいる。本人が進んで魔法を使わないといけない。だから、あの手この手で自発的に魔法を使うように仕向けてくる。
この年頃の女の子の興味は恋が大きなウェイトを占める。私の目の前の少女もその一人。先ほどまで、魔法を使うとどうなるか、きっとあの男の子も振り向いてくれるんじゃないかと説明していて、すごく食いついてきた。きっとこのまま契約に至ってしまうだろう。
少女はうーん、と悩んではいるがもうすぐ結論を出すだろう。魔法少女になります、と。そして、後先考えずに魔法を使うだろう。そして、可能性を奪われる。何者にも成れないで生涯を終えることになる。そんな人々を山のように見てきた。
魔法なんていらないんだ、奇跡に頼る代償はとても大きい。そんなろくでもない人間はろくでもない人生を生きることになる。生きながらえる可能性のためだけに、ほかの可能性を奪う、私みたいに。




