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1話5分で読めるショートショート集 ~隙間時間に贈るなろうの物語~  作者: とあるワナビ


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2/20

2-転生者に厳しい世界で

 ベッドには明らかに顔色の悪い女性が寝ている。隙間風が入りこむようなボロボロの小屋で、ところどころ汚れた布団に包まれている。彼女は時折、苦しそうに血の混じった咳をし、高熱にうなされていた。


 俺はベッドの横で彼女を見つめながらため息をついた。見ているだけでもこっちが苦しくなってくる。


 彼女は流行り病に侵されていた。この流行り病には特効薬はなく、かかった人間はほとんどが死んでしまう。しかも感染力が強いので、罹ったものは村の隅にあるこのボロ小屋に隔離される。ここはいわば死への待合室のようなものだ。


 そんな場所で俺は彼女を助けるか、見殺しにするか迷っている。


 先ほど特効薬はないといったが、病を治す方法はある。それは魔法だ。


 この世界には魔法というものがあって、それは一部の人が使える奇跡のことである。とあるものは人の身体能力をはるかに超える力を発揮し、またあるものは何もないところから火を出し、水を出す。そして、あるものはどんな病でも治すことができる。この流行り病もその魔法で治すことができる。


 魔法が使える一部の人というのは王族と貴族である。魔法は遺伝し、親から子供に受け継がれていく。例外を除き、平民は魔法を使うことはできない。そのため王族と貴族は権力を持ち、平民を支配している。彼らは平民に対して厳しく、平民の利益になるような魔法は使わない。大金を支払うことでようやく魔法を使ってくれる。


 しかし残念なことに俺たちは平民であり、彼らを動かせるような大金は持っていない。


 なのに、俺には彼女を助ける方法がある。


 魔法を使えるのは王族と貴族のほかに例外がある。それは転生者だ。転生者とは、別の世界から神によってこの世界に生まれ変わらされた者のこと。その者は神の恩恵により魔法が使えるようになっている。もともとの魔法が使える王族や貴族の先祖は転生者でその血が代々受け継がれている。転生者は平民でも魔法が使える。


 そして、俺は転生者だ。回復魔法という怪我でも病気でもなんでも治す奇跡が使える。

 

 ならば、なぜ彼女を治すのに迷う必要があるのか。実はこの世界は転生者に厳しいのである。平民でも魔法が使えるものが子をなし、それが広まるとどうなるであろうか。それは王族、貴族が権力を失うことを意味する。彼らの権力の源は魔法であり、それを平民に使われることは非常にまずい。


 そのため、彼らは平民に生まれた転生者を親の仇のように見ており、転生者だとわかったら確実に殺している。転生者を匿った場合はその親族は皆殺し。逆に報告すれば報酬がもらえる仕組みで。平民に生まれた転生者のほとんどが殺されている。逃げようにも魔法を持った彼ら相手ではとても分が悪い。


 流行り病を治したとあれば、確実に転生者とばれる。そうなってしまえば、俺に残された道は地獄しかない。

 

「ゲホ、ゲホッ!」


 彼女が咳をし、血があたりに飛び散る。もう残された時間はあまりないようだ。彼女を治せば私は転生者とばれ殺されるだろう。治さなければ彼女が死ぬことになる。


 俺は彼女を手を握った。ろくに食べてないせいか若干骨ばった手は、とても熱かった。手を握ったからか、彼女の閉じられた瞼が開く。焦点の定まっていない目がこちらを向く。

 

 「……このまま……放って……おいて。……お願い」


 とぎれとぎれ言葉を発する彼女は懇願するように言った。その言葉を聞いて俺はようやく決意した。


 彼女の手をさっきよりも強く握り、意識を集中させる。


「ダメ!!! ゴホッ! それを使ったら!! あなたが……」


 彼女は俺のすることに気づいたようで、声を荒げる。しかし、俺はその言葉を無視して、魔法を発動させる呪文を唱え始める。呪文を唱えるにつれ、彼女の体が淡く光り、肌色が良くなっていく。


 彼女は俺が転生者だということを知っている。それでいて、俺と変わらず接してくれる。貴族たちに報告しなかった場合、殺されると知っていて。


 そんな彼女を見殺しにできるわけがない。この後、貴族に追われようが、彼女を守っていく。


 そう俺はこの瞬間決断した。


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