18-勇者と魔王
ごつごつした岩肌が目立つ薄暗い洞窟で、白いテーブルクロスのかかった丸テーブルを囲む二人がいた。一見するとお茶会のようだが華やかな雰囲気ではなく、どこか悲しげで葬儀場のような空気を漂わせていた。
「さて、勇者さん。そろそろ結論はでましたか?」
顔立ちの整った女性が、抑揚のない声でとても事務的な感じで、少年の香りを残す青年に尋ねてきた。その女性は世間では魔王と呼ばれる存在で、そしてその青年は勇者と呼ばれる存在だ。彼女が訪ねる結論というのは、勇者の彼が魔王の彼女を殺すかどうか、とういうことである。
この世界の人類は滅亡の危機に瀕している。いつの頃からか、障気と呼ばれるモノが世界を覆い始めた。障気は空気と同じように空間に広がる、濃度が低いと透明だが濃度が高くなれば黒い霧のようになる。障気は人間の生命を脅かす。大量に吸ってしまうと死は免れない。
障気は始め一部の地域だけの現象だったが、徐々に世界中に広がっていった。この障気の影響で、人の居住可能範囲が減り、多くの国が滅んだ。残った人類は障気の濃度の薄い地域にすんでいる。その地域は多くなく、今も広がる障気によっていずれ滅んでしまうだろう。
人間もただで死んでいった訳ではなく、障気について研究していた。その結果はあまり芳しくはなかったが、発生源だけは特定していた。それが、彼女である。彼女に近づくほど障気は強くなる。多くの研究者の犠牲の元それが突き止められた。そうして世界を滅ぼすものの呼称として魔王と呼ばれた。
しかし、発生源は特定されたが、その対策までには至らなかった。おそらく彼女を殺せば、障気は止まるのだろうが、彼女に近づくと人は死ぬ。遠距離での攻撃手段も試したのだが、機器の誤作動でそれは叶わなかった。一回ではなく何回も、まるで世界が彼女を守るように。
打つ手がなくなった人類はそのまま滅びるのかと思われたが、最後の手段にでた。それは勇者の召還である。
この世界には召還というシステムがあった。人々の願いを元に、異なる世界からそれを叶えるに適した人材を呼び出すというもの。呼び出された人物は世界を救うものの呼称として勇者と呼ばれる。
勇者は願いという契約により、望みを叶えるために行動する。元の世界に帰る為には契約を遂行しなければならない。召還は望みと引き替えに、願った人々の生命が失われる。願いを捧げる人が多くなるほど強力な存在が呼び出されるが、失われる命も多くなる諸刃の剣。
人類が少なくなっていることもあって、召還する人々も少なく、呼び出される勇者はどこか頼りない青年だった。世話役の話を聞き、世界の状況を知った勇者ははじめは戸惑いながらも、世界を救う旅にでたのだ。
死ぬと分かっていながら案内役を勤めたおじさんも、呼び出した側の責任だといって途中までついてきた世話役もみんな死んでしまった。それでも呼び出されたちっぽけな勇者は、魔王の元へ向かう。自分の世界に帰るため。
長い旅路の末に魔王がいるとされる洞窟までやってきた勇者はそこで魔王と出会う。
その魔王は、世界を滅ぼす勇者に対して何故かお茶会に誘った。勇者は流されるまま、誘われ、魔王の話を聞いた。話し終えた魔王は、勇者に再び問う。
そして長い沈黙の後に、勇者は重い腰を上げ一つの決断を下すのだった。
最後に勇者が見た魔王の顔は笑みを浮かべていた。
説明文みたいな感じになってしまった。
ちなみに魔王も召喚された人、契約内容は人類の滅亡。




