16-夏休み
ジリリリリリリイリリリイリリrrrrrrr……
けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止め、枕もとのスマホの画面を見る。いつもと変わらない表示画面を見て、元の場所に戻す。
時刻は七時。今日も夏休みなので学校はなく、別にこの時間に起きる必要はないのだが最近の習慣として早寝早起きを心掛けている。学校が始まったときに直すのが大変だからね。
今日もなにも変わっていないことを確認してベッドから起きる。部屋から出て、顔を洗い台所に向かう。両親はとある事情から今はいない。なので朝食は自分で作る必要がある。
冷蔵庫から卵と牛乳、ハムを取り出す。何回も繰り返したように慣れた手つきでハムエッグを作る。それをいつもの味だと感じながら食べて、牛乳で流し込む。
食べ終わると水を張ったボウルに食器を放り込む。今日は何をしようかと、考えながら服を着替える。いつもと同じ服に着替え終わり外に出る。今日は本屋に行って、昨日の読んだ漫画の続きを読みに行こう。
外は快晴で雲一つない。まだまだ衰えを知らない太陽の光が容赦なく照り付ける。本屋までは歩いて大体二十分くらい。この炎天下の中を歩くのはちょっと辛いが、家で何も面白くないテレビを見るよりかはましだと思い、歩き始める。
途中、のどが渇いたので近くのコンビニに入る。コンビニの中はとても涼しくて、汗がすっと引いていった。お客さんは自分しかいないし、ここで漫画を読んでもいいかなってちょっと思ったけど品ぞろえが良くないのでやっぱり本屋に行くことにした。良く冷やされた飲み物を取って、また本屋に向かって歩き出した。
静かな道路を歩きながら、飲み物を飲んで歩いているとお目当ての本屋に着いた。
ここは、この地域の中で一番大きい本屋だ。大きいと言っても、地方の中ではって枕詞が付く。出版業界の不況で本屋が減り、小さいところが潰れて残ったのがここだったというわけ。まあ最近だと本を買う人も少なくなってるようで、電子書籍もあるからここも潰れるかもしれないね。
そんなことを考えながら自動扉を抜ける。ひんやりとした空気を体で感じながら昨日読んだ本がある棚へ向かっていく。
「えーっと、確かここまで読んだんだったかな」
そんな独り言をつぶやいて、漫画を棚から抜き取っていく。それを持って店内に併設されてあるカフェのところまで運んでいく。テーブルに漫画を置いて一息つく。
一息ついたところで、漫画にかかっているビニールをはがし始める。もちろんお金は払っていない。それを注意する人もいない。その空間には自分以外の人間はいない。
そして、もくもくと漫画を読み続ける。途中おなかが空いたのでカフェの冷蔵庫にあった具材でサンドイッチを作って食べた。
そのあとも、漫画を読み進める。現実を忘れるくらい没頭して。
――ピリリリリリリリリrrrrrrr
静寂な空間に、突如鳴り響くスマホのアラーム音。時刻は十八時。もうこんな時間かと、そろそろ帰るかと思い読んでいた漫画をそのままにして書店から出ていく。
朝よりは涼しくなった外を、誰もいない静かな道路を歩いてゆく。途中、誰もいないコンビニでお弁当を持って出て、家に帰る。
自宅の玄関を開けて、ただいま、と言うが何も反応はない。
誰もいないリビングで、何も映らないテレビを見ながらお弁当を食べる。
シャワーを浴びて、パジャマに着替えて歯を磨き、ベッド入る。
ベッドの中で、明日は明日が来ますように、と願いながら意識は深い闇の中へと落ちていく。
今日は八月三十二日。何度繰り返したかわからない、自分しかいない夏休み。
ポストアポカリプスの世界でこんな生活してみたい。




