15-原点回帰
わたしは小説家になりたい。自分が想像したキャラクターを心おきなく動かして、彼らと一緒に物語を楽しみたい。しかし、それは難しい。
なぜなら、文章力が圧倒的に足りてないからだ。
小説家になるためには新人賞に応募したり、小説サイトに投稿したりと、色々な道はあるのだが、なにより文章を書かなくては始まらない。小説は文章の集まりでできており、文章は文の集まりでできている。そして文は文字の集まりでできている。
文字は書ける。文もある程度は書ける。しかし、そこから文章にできない。もちろん基本的な単語や表現は理解しているつもりである。ただ、組み合わせて文章を作ることが難しい。そのためいざ小説を書こうとするとなかなか筆が進まない。
物語のアイデアはでるのだが、それを描写する力がない。面白い会話文が作れないのである。書いててつまんないのである。理想と現実のギャップの大きさに絶望し、ストレスがたまる。そしてはじめた物語を終わらせることもできないのでいる。
小説家になりたいと思い始めてからどれくらい経ったのだろうか。大学生の頃からだからもう十年か。大学時代に本を読むことにはまり、小説にはまり、自分でも書けたらいいなという単純な理由だ。
まだそのときは本気ではなく単なる夢物語でしかなかった。なぜかというと、小説家とは住む世界が違うと考えていたからだ。今思うとそんなことはないのだがこのころは本気でそう思っていた。
小説家や漫画家、ミュージシャン、芸能人とかは特別なんだと感じた原因は、身近じゃなかったからだろう。自分の周りにそういう人はいない=世界が違う。そう解釈していた。ある程度、社会人として生活しているとそうではないことに気づくのだが、当時は世間知らずで視野が狭い一学生でしかなかった私は、彼らのことをまるで住む世界が違う宇宙人のように思っていたのだ。
社会人になり、それが幻想であることに気付いた。彼らは同じ人間で、私と同じように息をして、食事をし、睡眠を必要とする。違うのは、職業だけなのだ。そうすると私にもなれるのではないかという希望が出てくる。そうして、小説を書いてみようとしたわけだ。
プロットを作って、物語を箇条書きで書くことはできる。しかし、肉付けがうまく行かない。遅々として進まない。ちまちまと進めているうちにほかの雑事に追われていく。
書き始めてから時間は刻々とすぎていくが、物語はなにも進まない。主人公の勇者は冒険に旅立ってない、ヒロインは出番すらきていない。魔王は冒頭にちょっと出てきただけで今も魔王城で勇者を待っている。
そうしているうちに、いつのまにか頭の中で自分会議という名の妄想がはじまり、自分の頭の中の天使と悪魔が議論する。
「あきらめないで、昔から物語はいっぱい読んできたじゃないか。あきらめずに文章を書き続ければきっといつか報われるよ」
頭に金色の輪っかを浮かせた天使が優しく語りかけてきた。
しかし、それに反論するように、黒衣をまとった悪魔が吐き捨てるように言う。
「無理だね、おまえには才能がない。人を引きつけるような文章なんか書けっこない。それは一番おまえがわかっているんだろう?」
そのあとも、天使と悪魔は永遠に交わらない議論をしながら、とうざかっていく。
わかっている。自分はなにをやっても中途半端に生きてきている。いろいろと趣味を見つけるためにやったこともすべて途中までで放り出した。小説だって数年前にやってあきらめて、でもあきらめきれずにまた戻ってきただけなんだ。
そろそろ、あきらめて、物語を消費する人生を送る方が、いいのではないのだろうか。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そろそろ決断を下すときがやってきた。
そして、わたしは決めたのだ。続けることに。書き続けることに。
もう、あきらめるのをあきらめる。往生際が悪いわたしの最初で最後の挑戦である。毎日毎日、面白くなくてもいい。短くてもいい。物語をひとつだけ生み出す。なるべくきりがいいように書いていく。はじめは数百字程度の物語でもいい。そのうち千文字、五千字と増えていくだろう。
そうなることを目指して、今日もわたしはポメラのキーボードをたたくのだった。
ポメラいいよね。変な誘惑とかなくて。




