14-メリーさん
深夜二時、自宅でだらだらとスマホゲームをやっていると突然電話がかかってきた。それも非通知。普段なら非通知の電話は取らないのだがこのときは違った。なぜだか知らないけど、電話に出なければいけないと思ったのだ。
「もしもし」
『私、メリーさん。いまゴミ箱の中にいるの……』
声の主はそう言って、電話を切った。俺の知らない声だったが、その名前は知っていた。メリーさんの電話だ。
メリーさんの電話。それは都市伝説の一つ。
あるところに少女がいて、少女は引っ越しする際にゴミ捨て場に人形のメリーさんを捨てる。その夜に少女に電話がかかってくる。
「あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの……」
電話を切っても、またかかってくる。そしてメリーさんのいる場所は少女に近づいていく。そして、最後に。
「あたしメリーさん。今 あなたの後ろにいるの」
で終わる。自分が子供のころに流行ったホラーの一つだ。昔はとても流行ったが最近ではあまりこの手の話は聞かない。
「しかし、なんで俺に? あっ、もしかしてあれかな」
俺には少し心当たりがあった。数日前に、スマホのアプリをインストールした。それは『メリーさんの電話』というものでかかってきた電話へのメッセージをメリーさんのセリフにしてしまう迷惑電話対策アプリの一つだった。面白そうだと思ってインストールしたのだが、たまたま電話をかけてきた親に怒られたので、なくなく消したのだ。
「あー、そういうことか。ゴミ箱って言ってたけど、消されたアプリが入るゴミ箱とかがあるのかな」
すこしびくびくしながら、次の電話がかかってくるのを待ってたがその日はもう電話は来なかった。
次の日の深夜二時。同じようにスマホゲームをしていると電話が鳴った。非通知だった。十中八九メリーさんだろうと思いながらも電話を取る。
『私、メリーさん。いまアメリカにいるの……』
それだけ言って、電話はプツリと切れてしまった。
「やっぱりメリーさんだったか、しかしアメリカってかなり遠いな。俺がいるのは東京だから来るのにどれだけ時間がかかるのだろう。メリーさんも飛行機とか乗るのかな」
ちょっとハラハラしながら、次の電話がかかってくるのを待っていたがその日はもう電話は来なかった。
次の日も、次の日も毎日、同じ深夜二時。同じようにスマホゲームをしているときに電話は鳴った。そのたびにメリーさんは自分の居場所を告げるのだが、
『私、メリーさん。いま中国にいるの……』
『私、メリーさん。いまイギリスにいるの……』
『私、メリーさん。いまメキシコにいるの……』
『私、メリーさん。いまオーストラリアにいるの……』
と、世界各地を回っているようで日本になかなかたどり着かない。すこしずつメリーさんのことをうらやましく思えてきた頃に、ちょっと変化があった。
『私、メリーさん。いまあなたどこにいるの? 全然たどり着けないんだけど』
俺の居場所を直接尋ねてきたのだ。それはメリーさんとしていかがなものかと思いつつもどう答えようかと迷い。メリーさんに、かねてからの疑問を投げかけた。
「日本にいるよ。ねぇ、メリーさん。どうやって場所を判断しているの?」
『GPSに決まってるじゃない。メリーさんは最先端を生きてるのよ。でもおかしいわね、あなたの現在地はカナダになってるんだけど……。なんでちゃんと位置が表示されないのかしら。これじゃたどり着けないじゃないの……』
意外に時代に適応していたメリーさんは長々とため息をついた。
どうやらとあるスマホゲームのために、GPSの位置情報を操作していたのが助かったようだった。そしてその後もメリーさんは世界各地を回るのであった。
メリーさんの電話アプリは位置情報の取得に許可を求めています。
ポケモンGoまだやってる人多いのかな。最近だとGPSの対策もされているらしいけどね。




