12-普通
いつから僕が普通という、とてもつまらないものに固執し始めたかというと、つい最近のこと。でも非凡な人生をあきらめたのは、自分が凡人だと自覚した時、つまり最初から、と答えるだろう。
普通な人生。代替可能。何の変哲もない、オチもヤマもない物語。どこにでもあるような、代わり映えのしないもの。自分とは、そういうものだと思ってた。いや、思ってる。
確かに、バラ色の人生、非凡な才能、非日常の訪れ、そんなものを渇望したことはない、とは言えない。そりゃ、誰だって自分だけが特別で、人と違ったことをやりたいと思うのは当り前だと思うんだ。ちがう?
例えば、小説家になろうというサイト上に大量に存在する物語のように、一回死んで神様からチートと呼ばれるくらい素晴らしい能力を授かって、主人公が美男美女な仲間たちと魔王を倒して世界を救ったり、突然可憐な女の子が現れて一緒に悪の組織と闘ったりと、そういった物語には誰しも一度は憧れると思う。思わない? 私は思うけど。
だからこそ、いないはずの幼馴染達と冒険ごっこをしたという妄想をしたことも有ったし、もう調べつくされてるこの世界に未知はないかと思いを馳せたことも何度かある。ムーだって定期購読していた。ただの痛い子扱いだったけど。その他にも、猫耳を生やした女の子が空から落ちてこないか、夜空を見上げたことだって、無いとは言えないさ。そのおかげで星座には詳しくなったけどね。
でもさ、そんなお話みたいなことは全然なかった。残念だけど。暴走トラックにはねられ、神様から特別な能力をもらって転生することもなかったし、綺麗な女の子も出てこない。悪の組織なんてないし、美男美女な異世界人が来て、一緒に世界を救いませんかとスカウトされることなんてない。来るのはテレビ局か新聞屋の集金の人たちだけ、選ばれし者とか言って連れ去られることもない。長い長い夏休みの冒険なんてなかった。もちろん、夜空を見上げても満天の星空しか見えない。
つまり、何が言いたいかというと。世界はそんなに甘くないってこと。世界に比べて人なんて、ちっぽけな存在だ。そこら辺の山にだって劣る、そんなちっぽけな存在に、なんの力があるというのだ。
そんなわけで、幼少のころに平凡な人生が一番だと悟ってしまったわけで。まぁ、自分でもひねくれているとは思う。冒険なんかして、リスキーな人生を生きるより、普通に生きて、普通に結婚して、普通に死にたい。
なので僕は普通に固執する。普通の人生を生きるため。それが一番だと考えていた。下手なことするよりも堅実に生きたい。
でも、そんな薄っぺらい考えは、簡単に破られてしまうんだ。あの時、彼女に出会ってしまったことによって。
――って、ずっとずっとプロローグを続けてるんですけど。そろそろ僕の物語の第一話は始まらないのでしょうか。ねぇねぇ、聞いてます? あっ、できるならヒロインはエルフがいいです。あとやっぱりチートは必要でしょう、かっこいいのが…………
そろそろ始まらないと、終わってしまいます(僕の人生が)




