11-父の日
私はお父さんが嫌いです。だから父の日に何かする気はありません。
なんでお父さんを嫌いかというと、お母さんを殺したからです。殺す、といってもよくドラマであるような包丁で刺したり、首を絞めたりするのではありません。お母さんは働き過ぎで死んでしまいました。それはお父さんのせいです。
昔、お父さんは優しかったです。休みの日には色々なところに連れて行ってくれました。それに一番楽しかったのは≪家族らーめん≫を作る時でした。
家族ラーメンはお母さんと私とお父さん、家族全員で作るラーメンの事です。自分たちでスープや具材、トッピングを決めて作るので、毎回違ったものが出来上がります。普段は料理しない私やお父さんも手伝うので上手にできない時もあります。でも家族で作るラーメンはすごく美味しいのです。
でもお父さんが会社をクビになってから、全てが変わってしまいました。お父さんは働かなくなりました。家でお酒を飲んでごろごろするか、パチンコに行くようになりました。家族らーめんを作ることもなくなりました。
そんなお父さんに代わって、お母さんが働くようになりました。お母さんは朝も夜も働きました。私も家事をするようにしました。少しでもお母さんの助けになろうと思ったからです。でもお父さんは何もしませんでした。
日に日にお母さんは疲れていくのが分かりました。私は何度か「お母さん、大丈夫?」と聞きましたが、お母さんは決まって「大丈夫だよ、ミホは優しいね」って答えます。顔色を見るととても大丈夫じゃないのですが、笑顔のお母さんをみると、それ以上私は何も言えませんでした。
そんな日々がしばらく続きました。そしてある日、お母さんが倒れました。
その日、私は自分の部屋で宿題をしていました。台所から、ゴト、っと大きな音がしたので見に行くとお母さんが倒れていました。頭からは血がどくどく流れていていました。私はパニックになり頭の中が真っ白になりました。何をしていいのか分からず、お父さんを呼びに行きました。その頃にはお父さんとは顔を合わせなくなっていましたが私一人ではどうにもできないと思って助けを呼びに行きました。お父さんはお母さんの様子を見てびっくりして、急いで救急車を呼びました。
そこから先はあまり覚えていません。そして結局お母さんは戻ってきませんでした。倒れたときに頭を強く打っていて、その打ち所が悪かったそうです。
お母さんのお葬式が終わって、しばらく私は抜け殻のようになっていました。お父さんはそんな私に声をかけてくれました。でも私は「人殺し」とか「お母さんを返してよ」とかお父さんに対して、すごくつらく当りました。だって、お父さんのせいでお母さんが死んでしまったのですから、私はお父さんの事を許せなかったのです。
それからしばらくして、お父さんは毎日どこかへ出かけるようになりました。朝早くから夜遅くまで家に帰ってこなくなりました。私はまたパチンコにでも通い始めたのかと思いました。もしそうであれば、私はお父さんと暮らすのをやめようと決めました。
それを確かめるために、お父さんに見つからないようにこっそりと後をつけました。するとお父さんはラーメン屋に入って行きました。私はお金を持ってなかったので急いで取りに帰り、そのお店の中に入りました。そしたらお父さんがお店の服を着て注文を取りに来ました。私はびっくりして店を飛び出し家に帰りました。
その夜にお父さんが話してくれました。ラーメン屋は友達に紹介してもらって働いてるそうです。お母さんがいなくなってから、お父さんはすごく後悔したそうです。お父さんは何度もごめんと泣きながら私に謝りました。だけど私は何も答えませんでした。
突然私のおなかがぐーと鳴りました。そう言えば今日のお昼と晩御飯を食べてなかったのに気付きました。お父さんはそれを聞いて、私にラーメンを作ってくれました。それはあんまり美味しくなかったけれど、なんだか昔の家族らーめんを思い出す味で、少し懐かしかったです。
お父さんはそれからも朝早くから夜遅くまでラーメンを作っています。将来は独立してお店をもちたいと言ってます。
私はまだお父さんを許すことはできませんし、まだお父さんが嫌いです。それは私がまだ子供だからかもしれません。
でも、いつかお父さんを許してもいいと思う日が来るのであれば、また家族らーめんをお父さんと一緒に作れたらいいなと思います。
作文風。




