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宝生君の家

「ごめんなさいね。こんなものしか出せなくって。」

「いえ、そんな。」

こんなものと言って出てきたのは高そうな陶器のティーカップに注がれた香りのよい紅茶と様々な種類のかわいらしいマカロンだった。

おおぅ。

紅茶とマカロン。なんておしゃれな。

私の家だったら100均のコップに入った麦茶と煎餅だ。

「すみません。いただきます。」

格差社会だなぁ、と思いながらも私は紅茶を一口いただいた。…自販機で売ってる物と全然違う味がした。

「あなた、翼の学校の子よね?翼とはどういう関係?彼女さん?」

首を可愛らしくかしげながらその人は聞いてきた。

「い、いえ、違います。というか本当に翼君とは話したこともないです。」

「あら、そうなの?」

上品に笑ってその人、宝生綾子さんは自分も紅茶を口にふくんだ。

さて、お察しの通りここは宝生君の家である

なぜ私が宝生家でお茶を頂いているかというと、こういうことがあったからだ。



ピロリン


届いたメールは騎士からだった


from 騎士

件名 〇〇町7-2-1

(本文なし)


「これは…」

宝生翼の家の住所…か?

説明が全くないので確証はないが、こんなときに送ってくるということはそういうことだろう。

時計を見ると針は4時20分を過ぎたところを指していた。住所によると宝生家はここから歩いて10分のところにあるようだ。せっかくなので行ってみることにした。


門扉に「宝生」と書かれた表札があるのを確認し、間違いなくここが宝生家だということを確認した。宝生君の家は予想より大きく、綺麗で彼の家の裕福さを感じさせる。まず門扉からしてすごい。高さは私の身長より高く、格子状の装飾ですごくかわいかった。一見普通のリーフ柄の装飾のように見えるが、よく見るとその葉っぱと葉っぱの間に動物が隠れているのだ。鹿、鳥、リス、ウサギ…。探してみるともっとありそうだ。思わず夢中で探してしまった。


「あら、どちらさま?」


私のすぐ横から声がした。

思わずひゃっと言いながら飛びすさんだ。が、

「ひゃあ」

足がもつれて転んでしまった。

「あらあら、大丈夫?ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのだけど。」

見上げるとそこには心配そうな顔をして私を見下ろす女性がいた。緩くウェーブのかかったロングヘアーで、年齢は30代前半くらいだろう。「かわいらしいご婦人」という感じがした。

「い、いえ。すみません。こっちも過剰に驚いてしまって…。いててて。」

転んだ拍子におしりを打ってしまったようだ。おおぅと言いながら腰をさすっていると

「あら、あなた家の息子と同じ学校の制服ね?転ばせてしまったお詫びもしたいし、よかったら家に少しよっていかない?」

そのご婦人は私の年より臭い動作にふふふと笑いながら言った。

「いえ、そんな。悪いですよ。」

私は普通に遠慮する。

「遠慮しないで下さいな。ほら、あがってあがって。」

そういって彼女は私の前の家の門を開けながら私に聞く。

「うちの子、今高一でね。あなたは?」

「わ、私も高一です。」

彼女が入ろうとしている家の表札をもう一度よく見る。何度見ても「宝生」と書いてある。入る家がここなら遠慮している場合ではない。格好の調査チャンスだ。対象に直接会う系の情報収集ならそれなりに得意だ。

「あら、そうなの?じゃああなた、宝生翼って知ってる?私の自慢の息子なの。」

さぁ入って入ってと私の背を押しながら言ったその言葉で彼女が宝生翼の母親であることがわかった。ん?母親?

「あ、じゃあお邪魔します。宝生君ですか?話したことはないけど噂は聞いてますよ。」

彼女に促されるように宝生君の家に入っていく。表面上は遠慮しながらも穏やかに会話をして宝生家に上がり込んだが、私の頭は混乱していた。

え?宝生翼の母親?私の親とそんなに年齢変わらないってこと?え?どう見ても30前半じゃん!嘘でしょ?

…若くね?


彼女は宝生綾子ほうしょうあやこさんというそうだ。

綾子さんは買い物帰りだったようで、私を家のリビングに通したあと、ちょっと待ってねと言いながらキッチンに消えていった。その背を見送る時、彼女の持っているエコバッグから長ネギが覗いているのを見て、

(お金持ちでも長ネギ食べるんだ)

と、思いなぜか少し落ち着いた。そうなると彼女が他に何を買ったのかが気になってくる。だから私は気を利かせたふりをしてキッチンに向かった。

「あの、何か手伝えることありますか?」

彼女に聞きながら私はキッチンの上に並べられた食材を見ていた。

「っ!大丈夫!大丈夫だからお客様はリビングでくつろいでて下さいな。」

綾子さんは口調は丁寧に、顔は笑顔で、でも慌てた様子で私に言った。背中でキッチンを隠すように立っている。

「そうですか。すみません。リビングに戻ってますね。」

私は少し驚きながら、申し訳無さそうな態度を作ってキッチンを去る。しかし私の頭の中は今見た光景で満たされていた。キッチンの上に並んでいたのは菓子パン、もやし、長ネギ、そして肉など一般的なものばかりだった。しかし菓子パンや肉は半額のシールがついていたし、肉の横にはスーパーで無料で配られている牛脂がゴロゴロおいてあった。お金持ちは牛脂などもらわないし割り引きのものなど買わないというイメージは私の偏見かもしれないが、綾子さんの態度は不審だった。あの慌てようは見られたくないものを見られた人の反応だ。私にとってはおかしくもなんともないものだが、彼女にとってあの買った品々は見られたくないようなものだったのか。私は何かモヤモヤした違和感を感じた。


これは何かありそうだな。


私が考えていた所に綾子さんが戻ってきた。

「ごめんなさいね。こんなものしかだせなくって。」

「いえ、そんな。」


さて、ここからどう情報を集めよう。


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