依頼内容
正式に依頼を受けたからには、もう少し情報が欲しい。私は楠木君に訊いた。
「その、宝生君?だけど、部活に来なくなった以外でおかしいところってある?」
「あるにはあるけど…」
「教えてくれない?」
「うーん、なんというか、最近ずっとイラついてるっつうか?怖くなった気がする。」
「怖くなった?」
「話かけても無視するし、なんか俺のこと避けてくるし。」
「それ、単に避けられてんじゃない?」
「え。」
「いや、だって無視されて避けられるって典型的な嫌われ方じゃん?」
「…いや、違うし。嫌われてない…のはずだし。それに俺を避けるためだけに部活休むかよ、普通。」
「ふ~ん。はず、かぁ。」
「そ、それより翼のおかしいところだよな?」
楠木君は少し慌てた様子で話を続けた。
「あとはあれだ。なんか翼の周りの空気最近いっつも張り詰めてる感じがする。笑わなくなったし。なにか焦ってるのかも。」
「…なるほど。」
焦っている。きっとここに彼が部活に行かなくなった理由があるのだろう。
…それにしても楠木君は宝生君のことを本当によく見ているようだ。これはもう恋する乙女レベルだろう。
「他には何かある?具体的なやつ。」
「具体的か。そういえば翼のやつ最近いやに真面目になった気がする。前まで休み時間は遊んでたのに最近は自分の席でずっと勉強してるし。」
「え、だってテストの平均88点でしょ?そんなに頭いいなら普段から真面目に勉強してんじゃないの?」
姫が不思議そうに訊く。
「いや、あいつは天才タイプだから試験前にちゃちゃっとやればあのくらいの点数はとれるらしいぞ。普段はむしろふざけた奴だったよ。」
「え、なにそれずるい。」
姫が頬をふくらましながら言った。ちなみに姫の平均点は62点である。
「そんな天才タイプの宝生君が真面目に勉強しているのはおかしいってこと?」
後ろで姫がおのれ天才め~と叫んでいるのを聞きながら私は質問を続けた。
「そういうこと。」
「じゃあやっぱり理由は勉強関連かな。」
いきなり真面目に勉強しだした奴らは大抵勉強に対して危機感を持っていて、焦っている。宝生君はこの条件にぴったりあてはまる。ただ分からないのが
「でも志菜乃、おかしいよ。宝生君は天才型で、頭よかったんでしょ?一体何を悩んでいるのさ?」
そう、そこなのだ。今姫が指摘したように、宝生翼には勉強で悩む理由がない。
「そうだよ。それに勉強関連だとしたら普通に相談してくれればいいだろう。」
楠木君も反論してきたが、
「お前成績上位者の勉強の相談乗れるほど頭いいのか?」
「うっ。」
騎士にザックリやられていた。
「よし、とりあえず今ある情報じゃ不十分だからもっと情報を集めよう。宝生君がおかしいって思ってるのは楠木君だけじゃないかも知れないしね。姫、お願いできる?」
「りょーかい。」
姫は風紀部をバスケ部と兼部している。バスケ部はいうなればスクールカースト上位。同じく上位に属しているサッカー部の情報も集めやすいはずだ。
「騎士は宝生君の家族構成とか調べてくれる?」
「わかった。」
騎士はインターネットを使うのが上手く、ネット上にある情報を簡単に集めてくる。
「楠木君はほかのサッカー部員に何か心当たりないか訊いてみてくれる?」
「お、おう。」
私はふと不思議に思い訪ねてみた。
「ねぇ楠木君。」
「ん?」
「どうして風紀部を頼ったの?」
「頼ってない。連れてこられただけだよ。…でも今は来てよかったと思ってる。翼のこと心配はしてたけど、何もしてなかった。でも今日やっと本気で調べる決心がついたしな。風紀部のおかげだよ。」
楠木君は照れ臭そうに笑いながら答えた。
「そっか。ならよかった。」
楠木君の答えは嬉しいものだったので私は俄然やる気が出てきた。口には出さないが姫と騎士も同じ気持ちであることが顔を見ればわかる。自分の行動が誰かの役に立てたとき人は嬉しいと感じる。「風紀部のおかげ」その言葉を聞くと自分が誰かの役に立ったと思えてすごく嬉しくなる。
そして、もっともっと頑張らなくてはと思うのだ。
「よし、それじゃあ早速今から調査開始!」
とりあえず明日の放課後またここに集まることを決めて私達は解散した。姫たちは各々情報収集に向かった。私は一人教室に残って今度の依頼について考えていた。私はこの手の情報収集が苦手なので今はやることがそのくらいしかなかった。
やる気はあってもやれることがないというのはつらい。
宝生翼が部活を休んでいる理由はいくら考えてもさっぱり分からなかった。
ピロリン
考えるのを一度放棄して帰ろうかどうか迷っていたら、私の携帯にメールが届いた。