楠木君の相談
「それで?」
「はい?」
「何か悩み事があるんですよね?」
「ああ、そうだったね。」
私が訊くと彼は話始めた。
「あの、俺の思い過ごしの可能性もあるんだけ「全然大丈夫!」
が、すぐ姫に遮られた。
「そういう、確証がなくて大人に相談できないことも相談できるのがうちの部の特色だよ。」
姫の目が爛々と輝いている。これを期に風紀部の宣伝をしようというのがみえみえだ。獲物を狙う鷹のような目をして彼を見つめながら言った。
「へぇ、いい部だね。それにしても風紀部ってホントにあったんだね。」
姫の視線に苦笑しながら彼は言った。
「え?ホントにってどういうこと?」
「いや、噂でしか聞いたことなかったからまさか本当にあるとは思わなくて。」
「ああ。まあ、まだ出来て1ヶ月くらいだけどね。」
「長山さん達が創ったんでしょ?」
「そうだよ。て言うか君、私の名前知ってるの?」
「え、ああうん。もちろん知ってるよ。数学のクラス一緒じゃん。…もしかして俺のこと知らない?」
「…そんなことより、依頼の話に戻ろうか。」
彼の口調も敬語からタメ語になった。どうやらリラックスしてくれたようだ。
さて、どんな依頼が飛び出すやら。
男子生徒は名前を楠木涼太と名乗った。隣の1年1組でサッカー部で、今度の依頼はそのサッカー部のチームメイトに関するものらしい。
「中学の時からずっと一緒にサッカーやってた宝生翼ってやつがいるんだけど、最近あいつの様子がおかしいんだ。」
「おかしいって?」
姫が訊く。
「この間の中間試験が終わってからあいつ部活にこなくなったんだよ」
「来なくなったって、それは単に気が乗らないだけじゃないのか?」
騎士が口を開く。
「2学期の中間が終わったこの時期は一番気が抜ける。」
「それはない。」
楠木君は強く否定した。
「もう3年以上の付き合いだけど、あいつはそんな理由で部活を休んだりしない。あいつは本当にサッカーが好きなんだ。それに試験最終日と試験返却日の部活は楽しそうにやってたし。」
「中間終わってからって言ってたよね?具体的にいつから来てないの?」
「試験返却日が最後だから、2週間前からだね。それ以降は部活では見てないな。」
なるほど、試験返却日が最後か。ということは単純に
「成績不振じゃない?」
「違う。」
違った。
「あいつは成績いいんだよ。中間の平均点88点で末広がりだって言って喜んでたし。」
88点!?
それはすごい。うちの学校はテスト順位公表されないから確かなことは言えないけれど、88点なら上位15名の中に入っているはずだ。ちなみにうちの学年の人数はぴったり200人、そして中間試験の学年平均は68点である。
「なるほど。それなら成績不振って訳でもないね。体調は?どっか身体壊したとかでもないの?」
「それもないと思う。見たとこ健康だし。それにもしただ単に身体壊したならそう言えばいいだけのことだろ?」
「確かに。」
他に考えられる理由があるだろうか。
部活大好き、成績優秀、健康。
「俺達何でも話せる親友だったんだよ。少なくとも俺にとってのあいつはそうなんだ。でも今回は訊いても何にも答えてくれなくて、だから本当に心配で。」
楠木君の必死さをみる限り交友関係も問題無さそうだ。
これは意外と難しいかもしれない。
「なるほど、つまり楠木君は宝生君が部活に来なくなった理由が分からないから悩んでるんだよね?」
姫が言う。
「え?まぁそうです。」
どれだけ宝生君がいい奴で、自分がどれだけ宝生君を心配しているかを語り続けていた楠木君は話を遮られて戸惑いながらもうなずいた。
「じゃあ理由がわかれば解決?」
「まぁそうだけど。…まさか調べる気?」
「当たり前だろ。ここは生徒の悩みを解決するための部活だ。」
騎士が応える。
「ち、ちょっと待てよ。俺はただ単に話をしに来ただけで別に調べて欲しいわけじゃ…」
「え。なんで?知りたくないの?」
首をかしげながら姫が訊いた。
「そりゃ知りたいよ!知りたいけども!」
「じゃあ何をためらってんのさ?」
「…あいつが俺に何も言わなかったってことは俺に知られなくないってことだろ?それを勝手に調べたりしていいのかなって。」
確かにそれはそうだ。
「う~ん、そっかぁ。そこをどうするかだね。」
「う~ん」
私と姫が悩んでいると、騎士が動いた。
「おい。ちょっと耳貸せ。」
騎士が楠木君の耳に何かを囁く。
「調べて下さい。お願いします。俺もできることは協力します。」
楠木君が敬語で頼んできた。
「承りました。全力で調査します。」
…私も何故か敬語で応えてしまった。
依頼:宝生翼が部活に来なくなった理由を調べて欲しい
〈承ってる間の会話〉
姫(ねぇねぇ騎士。楠木君に何て言ったの?)
騎士(秘密)
姫