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いつもの席で珈琲を  作者: よろず
第三章
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春に芽吹く6

二話連続投稿、二話目

 爺さん婆さんと交流して、唯さんの釣り初体験をした小旅行から戻って来てからも俺の日常は変わらない。

 毎日仕事して、修行して、勉強して。子猿や弟の相手をしたり唯さんとイチャイチャしたりする。

 唯さんの生涯の伴侶ポジションを予約する為の指輪は二人で買いに行った。毎日身に付けてもらいたいから、"俺が付けて欲しい物"じゃなくて"唯さんが毎日付けたい物"を選んでもらったんだ。本当は男がこっそり用意してサプライズしたりするものなのかなとも思ったけど、予約じゃなくて本番でそれをしようと思ってる。

 唯さんは、夏が来る前に新しい職場に就職した。喫茶坂の上の近くにある小さな会社で経理の仕事。彼女も前に進む事にしたらしい。

 "坂の上"では、昼のピークと休憩回しの時に来てくれるパートさんを雇った。

 いつもの時間は少し変わって短くなったけど、唯さんは会社の昼休憩で"坂の上"に来る。

 いつもの時間。いつもの席で、いつも同じ注文。

 静かなジャズが流れる店内で二人きりになれる時間はなくなったけど、同じ家に住んでるからいつでも二人きりになれる。


「いつもの、ですか?」

「はい。いつものをお願いします」


 店に来た唯さんに水とおしぼりを運んで口にするのはお決まりの台詞。

 彼女のお気に入りのミックスサンドを作って、ブレンドを淹れて持って行く。


「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」


 にこにこ美味しそうにミックスサンドを頬張って珈琲を飲む彼女を俺は見守る。見守って、食べ終わった彼女にまた近付いた。


「フォンダンショコラは今日はないですけどこれ、受け取ってくれますか」


 ことりと机の上に置いたのは掌サイズの箱。

 きょとんとした顔で首を傾げた彼女は箱を開けて、みるみる顔が赤くなっていく。


「調理師免許取った後も予約のまま待たせてしまいましたけど、俺とお揃いで、付けてくれませんか?」


 唯さんが選んで今も付けてくれてる予約の指輪。手を伸ばして指先で撫でながら俺の心臓は、緊張の所為で早鐘を打ってる。


「…結婚しよう。唯」


 彼女が固まったまま答えをくれないから俺は、身を屈めて耳元で囁いた。

 家でまったりしてる時が良いか。レストランでも予約すべきか色々考えて悩んだ。でもこれが、俺達らしいかなって思ったんだ。


「もう!不意打ちです!いつまで私を翻弄するつもりですか!」

「一生。俺に翻弄されて、俺を翻弄して下さい」

「…仕方ないですね」


 赤い顔で唇尖らせて、わざとらしく渋々感を唯さんは出す。でもそれはすぐに崩れて、嬉しそうな笑みに変わった。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 店内でキスは出来ないから軽く手を握り合う。

 珈琲の香りに包まれるここで俺は、寄り添って微笑み合える生涯の伴侶に出会った。

 "いつか"はまだまだ来そうにないけど、大事な弟も協力してくれてるし俺も諦めないから、きっといつか手に入れる。その時が来たら陣さんも唯さんも一緒に、家族で話が出来たらいいなって思うんだ。

 静かな店内。

 控えめに流れるジャズ。

 いつもの席で珈琲を飲む彼女と俺の時間は、ゆったり穏やかに流れていく。

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