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いつもの席で珈琲を  作者: よろず
第二章
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大人で子供の俺たち8

 風呂から出て、冷蔵庫から出した缶ビールを直飲みしながらどうしようか悩む。完全に酔った状態の唯さんに智則の事言っても頭に入らなそうだし、楽しそうな所に水を差すのもどうかなって思う。


「歩ちゃん、泊まるらしいぞ」


 立ったまま一缶一気飲みした俺に、陣さんが寄って来た。良いタイミング。


「走ってて智則見た」


 もう一缶ビールを開けて、今度はゆっくり飲む。


「唯さんの部屋の前で突っ立ってた」

「朝、見に行くか」

「だな。悪戯されてたら証拠撮る必要あるだろ?」

「だなぁ。こんな時間に家庭放置。女の勘って怖ぇのに、懲りない男だ」

「何か経験あり?」

「あー…まぁな。ちょこっと昔の話」


 ガシガシ頭掻いて、陣さんは苦く笑う。いい大人だ。色々あったんだろうな。


「俺も気を付けようっと」


 言いながら酔っ払い達の様子を見に向かう。

 歩も酒はそんなに強くない。

 二人で何飲んでそんなにへべれけなんだろって思ったら白ワインだ。

 缶ビール片手にリビング行って、白ワインの瓶を手に取る。残り四分の一ってとこか。安いワインじゃねぇし、多分これなら変な酔い方もしないかな。


「はーるきしゃん?」


 赤ら顔の酔っ払い唯さんに抱き付かれた。


「なんですか?」

「飲みましゅ?」

「今ビール飲んでます。気持ち悪かったりしないですか?」

「気持ち良いれすー」


 ふふふふふって、ふにゃふにゃ笑ってる。本当に気持ち良さそうだ。


「歩は?お前も酒強くねぇだろ」

「優しくすんな、バカ男!」


 理不尽に怒られた。


「悪い。俺猿語は理解出来ねぇんだ」

「さるさる言って…あたしのが、先に会ったのにぃっ」

「泣くな酔っ払い」


 溜息が零れる。

 陣さんに助けを求めようとしたら逃げた後だった。あんたが出したんだろこの酒!責任持てよ!


「はるきしゃん、女の子に猿は良くないのではないれしょぉか?サルはいけましぇん」

「サルじゃないもん、(あゆむ)だもん。はるきぃ、好きだーっ」


 地獄だ。なんだこれ。


「一回、一回らけ、ちゅうしよ?」

「しねぇよ。バカが」

「はるきしゃん、ちゅ」

「唯さん、わざと歩を煽ってるんですか?」


 右に唯さん。左に歩。女二人の酔っ払いに襲われかけてる。こえぇっ!


「はるきぃ、ずっと好き。どしたら諦められる?」

「歩もそれ、唯さんの前で言う事か?きっぱり断ったろ」

「だってぇ、春樹がかっこいいのが悪いんだもん」

「ざけんな。変な理屈捏ねるな」

「はるきしゃんはあげません!」

「…とりあえず二人、寝ろ。めんどくせぇ」

「カッコイイ!キュンとしたよぅ、春樹ぃっ」

「はるきしゃんカッコイイ!キュンキュンれしゅー」


 誰か助けて…。

 二人で一本も空けてない状態で、なんでここまで酔えるのか理解出来ない。

 唯さんがキスしてくるのは良い。歩は全力で阻止。


「なんれらよぉ。一回くらい減らないだろぉ」

「俺、そんな適当なやつじゃない。お前は好きだけど恋愛感情じゃねぇって何度も言わせんなよ。俺だって傷付くんだ」

「らってぇ…らって、好きが、なくなんないんらよぉ…」


 しくしく泣かれても俺は何もしてやれねぇよ。どうしろっていうんだ。


「歩ちゃぁん!」

「ゆ、ゆいしゃーん!」


 何故か女二人で抱き合って泣き出した。もう無理。放置でも良いかな。

 歩には、去年の秋に告られて断った。友達とか妹って感じで、歩が欲しい"好き"を俺は返せないからはっきり伝えた。それで友達関係終わっても仕方ねぇって思ったけど、歩はその後も普通だった。無理してるのはわかってたけど、答えてやれないのに半端な優しさを見せるのも酷いだろって思ったから、俺も普通にしてた。

 最近はあんまり会わなかったし、合コン行きまくってるって話を義雄さんから聞いてたからもう平気かなとか思ってたけど…違ったのかな。でも歩を気にして俺が彼女作らないでいるのも変な話だ。


「あちし、合コン行きまくったんらよぉ…でもぜぇんぶ、春樹と比べちゃってぇ」

「うんうん。辛いねぇ?」

「サルって言われるしぃ…」

「サルはひどいよねぇ?」

「いつの間にか大人の彼女作ってんしぃ…」

「…ごめんにょ」

「ご、ごめんにょってなんらぁっ!にょー!」


 泣いてたと思ったら大笑いし始めた。

 缶ビールや白ワインじゃ酔えないから、俺は日本酒を持って来てコップで飲んでる。黙って飲んで、泥酔女二人が倒れたりなんだしないように見守る事にした。


「…歩、明日大学は?」

「休むかにゃ?」

「にゃ?にゃにゃにゃーん!」

「にゃー?ゆいしゃーん?」

「にゃー?歩にゃーん?」


 疲れる。酒に強い自分が嫌になる。テキーラが欲しい。


「はるきしゃん、どこ行くにょ?」

「にょ?」


 立ち上がったら両脚に二人が巻き付いて来た。逃げねぇよ。


「布団用意すんだよ。唯さんの部屋で良いだろ?」

「お手伝いするにょーん」

「良い。唯さんは立つな。危ない」

「えー?お手伝い…」

「しなくて良い」

「冷たいにょーん」

「ゆいしゃん、泣かにゃいで?」


 なんだか二人とも楽しそうだな。

 解放された俺は苦笑いで布団を用意しに行く。多分そろそろ潰れるだろ。

 布団敷いて戻ると案の定、二人とも眠そうにしてた。二人一気には運べないから自分らで立つように叱り付けて布団に誘導する。歯を磨くって言い張るから、歯を磨かせてから唯さんの部屋に連れて行った。


「ごめんな、春樹。諦めっから…今日だけ…ごめん」


 唯さんは、倒れるように布団に入ってすぐに寝息を立てた。

 歩はその横で、俺の服の袖を掴んで泣く。


「ごめんな、歩」

「優しい声、出したらダメだってぇっ」


 頭撫でたら余計に泣かれて、でも袖は放してもらえなくて、俺は途方に暮れて座ったまま歩が泣き疲れて寝るのを待った。

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