表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもの席で珈琲を  作者: よろず
第二章
31/63

甘い感謝の日2

 閉店後は、調理師免許の筆記試験対策の勉強をするようになった。

 実技は朝の仕込みやまかない、夕飯作りで教えてもらってる。前々から実技は習ってたから、問題は筆記試験だ。勉強なんて久しぶりすぎて心配だったけど、昔勉強漬けだったお陰かなんとか進められてる。

 勉強してると煙草が吸いたくなる。けど、禁煙に挑戦しようと思うんだ。キスが煙草臭いとか思われるのはちょっと辛い。だけど禁煙も辛い。吸えないと思うと吸いたくなる。

 自然、舌打ちが増える。

 ペン尻が噛み跡だらけだ。


「春樹さん?」


 ノックに答えたら顔を出したのは唯さんだった。いつの間に来たのか、びっくりだ。


「春樹さんが禁煙で苦しんでいるとマスターから連絡が来たので、良い物を買って来ました」


 陣さんと彼女はメル友らしい。

 笑顔の唯さんが俺に渡したのは、煙草の形のお菓子。ガリガリ食える甘いやつ。


「少しだけスゥッとするじゃないですか。咥えてたら気が紛れるのではないでしょうか」


 笑顔が無邪気だ。


「ありがとうございます。でも唯さん、一番気が紛れるのが何か知ってますか?」


 にっこり笑って手招き。

 無防備に近付いて来た彼女の手を引いて、膝の上に横向きで座らせた。赤い顔で動揺してる唯さんの頬に、優しくキスをする。


「は、春樹さん?」

「キスしていい?唯さん」

「え?!いえ、あの…お邪魔になるのですぐに帰ろうかと」

「こんな時間に?帰しませんよ」

「な、何を仰いますか!お勉強どうぞ!」

「しますよ。煙草吸いたい気分が紛れたら捗ります。だから協力して下さい」

「いえ、あの…」

「焦らすんですか?その分長くなるんで覚悟して下さい」

「横暴です」


 真っ赤で狼狽えまくりの唯さん。あまりにも動揺するから可笑しくて、俺は彼女の肩に額を付けてくくくっと笑う。そしたらまた拗ねたから、顎を捕まえて唇を寄せた。


「していいですか?」


 寸止めで許可を求めるとうるうるの瞳で彼女は頷いた。

 音立てて軽いキスを数回。油断させておいて、するりと滑り込む。しばらく彼女の味を堪能して離れたら、唯さんが腰砕けになってた。


「この方法ならいけるかもしれないです」

「こ、効率が悪いのではないでしょうか…」


 俺は上機嫌で机に向き直る。

 唯さんは膝に乗せたまま。

 俺がそのまま勉強を始めると、唯さんは動けず声も出せずに困ってる。でもそのまま無視して勉強してたら諦めたのか、彼女は俺の肩に顔を埋めて大人しくなった。

 唯さんはやっぱり悪い男に騙されるタイプだなって、自分を棚に上げて心配になる。


「煙草吸いたい…」


 呟くと、唯さんがそろりと顔を上げる。

 俺は彼女の唇に吸い付いて、舌を絡める。満足したら彼女の頭を片手でそっと肩に戻して勉強再開。

 楽しい。楽しすぎる。心無しか勉強も捗る気がする。

 口笛吹きたい気分で勉強して、気付いたら唯さんが船漕いでた。そりゃ眠くなるよなって苦笑して、片手で彼女の身体を支えて勉強続行。

 時々唯さんの額にキスして息抜き。だけどこの作戦の難点は、足が痺れる事だ。


「唯さん…起きて下さい。足、痺れて立てないです」


 完全に眠ってしまった唯さんを揺すって起こす。でも起きないから口を塞ぐ事にした。

 深く深く彼女の口腔を堪能してたら目を覚ました唯さんに背中をバンバン叩かれた。唯さんから顔を離して、ぺろりと自分の唇を舐める。

 真っ赤で瞳が潤んだ唯さん、マジで可愛い。


「い、色気だだ漏れです…寝起きに破壊力抜群…」

「お陰で勉強が捗りました。またお願いします」

「無理です。…寝てしまいました。お邪魔してごめんなさい」


 一人反省会が始まりそうなのを、俺はにっこり笑って止める。


「いえいえ、ご馳走様でした。泊まりますよね?」

「帰ります」

「ダメです。足が痺れて立てないので送れません」


 きょとんとした彼女が、すっくと立ち上がった。

 表情から彼女の考えてる事が手に取るようにわかる。悪戯する気満々だ。


「触っても良いですけど、触ったら泊まり決定です」

「着替えがないから無理です」

「明日早起きしてっ、〜っ!」


 突つかれた。


「癖になりそうです。ほれほれ〜」

「ゆ、いさんっ、やめっ…くっぅ…」


 楽しそうに唯さんは俺に拷問を仕掛ける。これは対策を考えないと、次回に使えない作戦だ。


「帰ります。また明日」


 満足したのか、唯さんは微笑んで手を振りながら部屋を出て行ってしまう。

 俺は動けない。

 漏れ聞こえる陣さんとの会話で陣さんが送って行くらしい事がわかったから、俺はじっとして痺れがおさまるのを待つ。

 どうやら調子に乗った罰みたいだ。でも俺は諦めない。またやってもらおう。

 だってすっげぇ楽しく勉強出来た。

 効率も悪く無い。ただ問題は、足が痺れる事と唯さんが暇になる事だな。

 バカみたいな事を考えながら、俺は唯さんにメッセージを送る。


【来てくれてありがとうございました。調子に乗ってすみません。

 でも出来ればまたやって欲しいです】


【逆に邪魔になったのではないかと心配です。私、寝てしまいましたし…。

 次回はありません。

 お菓子、試した感想を聞かせて下さい。それ次第でまた持って行きます】


【とても捗りましたよ。

 咥えて頑張ります。

 また来て下さい】


【また明日。

 無理しないで下さいね?

 おやすみなさい】


 一人で笑う変な奴になってるけど、笑いが溢れる。"また明日"が嬉しい。彼女の事を考えるだけでやる気が溢れてくる。こんなに幸せなの、俺の人生で初めての体験だ。

 おやすみの返信をしてから唯さんがくれたお菓子の箱を開けて、一本取り出して咥える。

 やる気が出たからもう少し、頑張る事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ