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いつもの席で珈琲を  作者: よろず
第一章
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思い出の上書き5

 歩いたのと運転疲れで、帰って風呂入ったらすぐにベッドに潜り込む。

 陣さんはいない。義雄さん含む友達連中と酒を飲みに出掛けた。土曜の夜はよくその人達に会いに行く。いつもは俺も一緒に行くけど、今回は唯さんを優先した。

 電車で行ってるから終電には帰って来る。始発までっていうのは、もう辛いらしい。

 ベッドの中でごろごろ、眠るか眠らないか微妙な感じ。煙草でも吸おうかなって起き上がったらスマホが鳴った。お知らせ画面を見て、唯さんからのメッセージだってわかった。


【今日はありがとうございました。とても楽しかったです。たくさん歩いて、運転もお疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい。

 明日、ご迷惑でなければ少しでも会いたいです。暇だったら、です。無理しなくて良いです】


 最後まで読んで、笑みが零れた。メッセージだけでも胸がドキドキしてる。さっき別れたのに、もう会いたい。


【明日は豆の買い付けに行くのでその後なら平気です。午後には空くと思うので、終わったら連絡します。飴、明日は何味ですか?】


 なんて返って来るかな。

 読んだらどんな反応するんだろ。

 真っ赤になる?平然としてる?

 想像するだけで胸が高鳴る。

 電子音が聞こえたらまたスマホを手に取ってすぐに開いた。唯さんからのメッセージを読んで、噴き出す。


【知らないです。持って行きません。連絡待ってます。おやすみなさい】


【残念です。唯さんもゆっくり休んで下さい。また明日。おやすみなさい】


 返信してからベッドに倒れ込む。

 明日、彼女は飴を持ってくるかな。こっそり隠し持っていそう。

 赤い顔の唯さんを思い出して、目を閉じる。そのまま、ふわふわ穏やかな眠りに引き込まれた。


 *


 スマホのアラームで目が覚めて、リビングに行ったら義雄さんが来てた。


「はよっす。陣さん泊まったの?」


 ソファに座って珈琲を飲んでる二人。義雄さんの所に陣さんが泊まって送ってもらったのかなと思って聞いたら、ニヤニヤ顔を向けられた。

 なんだか嫌な予感。


「いやねぇ、春樹が帰って来ないんじゃねぇかって。なぁ陣?」

「おうおう。車がないとヨシんとこ行けねぇし?泊まってそのまま豆と一緒に送ってもらったんだよなぁ?」

「で、春樹はなんで普通に帰って来てんだよ」


 ニヤニヤオヤジ共…。


「ちゃんと帰って来るって言っただろうが。仕事を蔑ろにはしねぇよ」


 俺も珈琲飲もうと思って台所に向かって、背後ではオヤジ共がうるさい。


「仕事より女取れよ、まだまだガキんちょかぁ?」

「ヨシよぉ、まだきっと告白もしてねぇんだよ。純情ボーイらしいぜぇ春樹のやつ」


 勝手な事ほざきやがって。

 珈琲の用意をしながら、言うか迷う。言ったら多分もっとニヤニヤして、もっといじり倒される予感がして嫌だ。

 珈琲の入ったカップを持ってソファの側の床に座って、俺は珈琲を啜る。聞こえなくても良いやって気分でぼそりと呟いた。


「付き合う事になった」


 静かだ。

 なんだよって思ってソファにいる二人に顔を向けると究極のニヤニヤ顏をしてた。締まりのない顔で、唇がニヤニヤ歪んでる。


「なんだろこの、息子のそういう話ってこそばゆい!かーっ、酒飲みてぇなぁ!ヨシ、飲んじまうか!」

「朝から祝い酒も良いねぇ!で、お前から言ったのか?まさか相手に言わせたんじゃねぇだろうな?」


 言いたくねぇ。

 視線逸らして珈琲飲んだら、義雄さんは俺の表情で察したっぽい。


「言わせたのか向こうに!おっ前、相手が言ってくれたから良いものの、そんな事してる内に掠め取られるんだぞ?肉食獣的に行け!」


 義雄さんにバンバン背中叩かれた。朝からテンションの高いオヤジ共だ。


「今日は?会いに行くのか?」


 陣さんの静かな声。

 視線上げたら、優しい顏で笑ってた。そんな顔で見られたら益々恥ずい。


「行く。義雄さんの所行ったら連絡するって昨日伝えた」

「俺も会いてぇなぁ。年上で可愛い良い子なんだろ?唯ちゃんだっけ」


 陣さんから聞いたらしい義雄さんも、ニヤニヤ笑いが優しい笑顔に変わってる。温かい眼差しに耐えられなくなって、朝飯の支度をしようと思って俺は台所に逃げた。


「今日はどこ行くんだ?車使うか?」


 ソファから陣さんに聞かれて、声張って答える。


「まだ決めてねぇからわからん。二人、朝飯は?」


 食ってないって答えが返って来て、三人分の朝飯を用意する。簡単なスープを作って、スクランブルエッグとウィンナー、トーストを焼いた。

 作りながら、唯さんは起きてるかなって考える。昨夜は午後って伝えたし、あんまり早まっても迷惑かな。

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