表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもの席で珈琲を  作者: よろず
第一章
20/63

思い出の上書き2

 手を繋いで歩きながら、タコの煎餅食ったって言うから並んで買う。クラゲとかいうのもあったから一枚ずつ買って、分け合って食べる。食べ終わって手袋嵌めたら、唯さんの手が俺の服の肘の部分を掴んだ。


「手、どうぞ」


 差し出したけど、首を横に振られる。


「腕を、組みたいです」


 なんて事を言うんだ。

 頬を染めた恥ずかしげな彼女の表情に、俺は腰から崩れ落ちそうになる。平静なんて装えないで、顔に熱が上って身体まで熱い。


「それ、は、危険です」


 腕を組んだら密着する。それはなんて甘美で危険な事だろうかって想像が、頭を巡る。

 よくわからないって顔で彼女が首を傾げてるけど、顔なんて見れない。俺の視線がうろうろ彷徨った。


「俺の心臓、持ちません」


 これ以上の問答は御免だって思って、唯さんの手を取って指を絡めて繋いで歩き出す。


「これだけでも心臓、破裂しそうなんですから」


 絶対顔真っ赤だ。

 熱い、暑い、熱い。


「いつもと逆です。春樹さん、可愛いです」

「やめて下さい。嬉しくないです」

「私に、翻弄されてますか?」

「そんなんずっとされてます」

「嬉しいです。腕、組みたいです」

「ダメです」

「えー」

「えーじゃありません。襲いますよ」

「こんな場所では、困ります」


 場所の問題か!

 ぐっと喉が詰まって、全身の血が沸騰しそうだ。


「あーもう、暑い!寒いはずなのに暑い!なんすかこれ!」

「ドキドキしてます?」

「してますよ!マジヤバイって。心臓飛び出ますよ、口から!」

「それは面白いです」

「グロいって言ってたじゃないっすか!」


 くすくす笑ってる唯さんをじと目で睨む。


「新しい一面です。新鮮です。可愛い」

「可愛いは嬉しくないです」

「春樹さんは格好良いです。素敵です。良い男です」

「なんですか、何プレイっすか!やめて下さい」


 くすくす楽しそうな彼女に、翻弄されまくりだ。


「決めました。エスカレーターなんて楽はさせません。全部徒歩でのぼらせます」

「えー、大変そうです」


 エスカレーターに向かってた足を階段へと方向転換。文句言う唯さんは無視して、手を引いた。軽く引くだけでついてくるから、文句言いつつも徒歩でのぼる気になってるのかも。


「春樹さん?」

「なんですか?」


 手を繋いで歩きながら首だけで振り向く。穏やかに微笑んでる唯さんが、頬を赤く染めてた。あぁもう!キスしたい!


「…私、飴、持って来ました」


 もうダメだ。心臓痛ぇ。死ぬかも。


「今、ですか?」

「明るいです。さすがに外は、恥ずかしいです」

「車なら、良いですか?」

「どうでしょう。その前に、言葉が欲しいです」

「…言葉、ですか」

「はい。あなたが、好きです」


 全身の血、沸騰した。

 顔が熱くて、目まで潤んできやがった。にやけそうなのかなんなのかわからなくなって、繋いでない方の手で口元覆う。


「俺、悪い男です」

「あなたなら構いません」

「言えない秘密、あります」

「まさかの妻子持ちですか?!」

「違います」


 バカな事言い出した唯さんに、苦笑を向ける。妻子持ちの男、トラウマなんだろうな。

 真正面から向き合う勇気は出なくて、歩きながら話す。


「それを知ったらあなたは俺を、幻滅します」

「そんなに重大な秘密ですか?」

「重大、です。俺にとっては。まだそれを、あなたに告げる勇気がありません」

「…良いですよ。あなたになら騙されても」


 この人、俺を殺す気かも。

 歩いてなんていられなくなって、足止めて向き合った彼女は、俺を真っ直ぐ見てる。あまりにも穏やかな表情で俺を見てるから、手を伸ばした。


「あなたが、唯さんが、好きです」


 右手で触れた唯さんの頬、手袋越しでもふわふわ柔らかい。


「勇気を出して、いつか言います。幻滅されても仕方ない、けどどうか…嫌わないで」


 目を伏せた俺の顔を、彼女は下から覗き込む。その顔に浮かぶのは、にっこり優しい笑顔。


「大丈夫です。どんな秘密かはわからないですけど、春樹さんは良い人です。信用出来る人です。それを知っているので、幻滅なんてしません」


 泣きそうになって、堪える為に奥歯を食い縛る。

 場所なんてわからなくなって、繋いでた手を引いて彼女の身体、抱き締めた。


「好きです」

「私も、春樹さんが好き」


 幸せで死にそうだ。

 身体離して、お互いの顔を間近で見つめて笑い合う。


「益々思い出の上書きが必要です。クソ野郎の思い出なんて、全部塗り替えてやります」

「はい!よろしくお願いします」


 笑顔の唯さんが俺の腕に擦り寄って来た。でももう嬉しいし、そのまま歩く。

 俺の左腕に唯さんの両腕が絡んで、柔らかい身体を押し付けられてる。

 脳みそ蕩けそうな程幸せで、寒さなんてもう、わからなくなってた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ