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藤原さん

藤原さん 5

藤原さん 5


 僕だって、いつも藤原といるわけではない。違う教室の授業だってあるし、バイトだってしているのだから。

 しかし、習慣なのか、昼になるとつい、藤原の横にいく癖がついているようだ。

「あれ?」

 珍しく、誰かが藤原の横にいる。と思っていたら、ささっと去って行った。僕はなぜかそれについ、笑ってしまった。なぜだろう。

「なんだって?」

「はい?」

 藤原が顔を上げた。僕は座っていいか、なんて聞きもせずに座る。パンを食べ始める。

「誰か、あーあれ、基礎コースの菊田じゃなかった?」

「そうよ。知り合い?」

「いや、挨拶位?あいつ、なんだって?」

「ああ。先日のノートを貸してくれって。だから、そこにいた高田君に貸しているからコピーでもとれば?って言ってみたの。」

「いいのか?」

「いいのよ。あの人にとって学校の勉強なんて価値のないものなんでしょう?だから、ノートもとらない、授業に出席もしない、単位だけあればいいのよ。基礎であんな感じなら、そのうち学校からいなくなるでしょ。」

「藤原には価値があるのか?」

藤原は、コンビニのおにぎりののりを巻きつけながら言う。

「あるものと、ないものがあるけれど、学校は自分だけだったら選ばないような世界もあるよってことを教えてくれるところなんだから、受けるべきだわ。」

「たとえば?」

「地理の授業でこの辺の地盤が固いから地震に強いってことを知ったわ。私は、地球上のどこにでも遺体はあるものだと思っているけど、この下を掘るのは大変かもしれないと考えるようになったわ。」

そう言って、藤原はぱりぱりとおにぎりを食べる。そんなことを普段考えていたのかと、僕はちょっと目を丸くして、藤原のセリフに笑う。

「海苔がパリパリすぎて、口の中の水分、持って行くのね。」

「そうだね。」

「次回からは、ノートを貸したお礼におにぎりを持ってこられたら、お茶を買ってから食べるわ。」

そう言って、藤原は自動販売機の方へ歩いて行った。

「あれ?藤原さんは?」

菊田が立っている。

「ああ、いま、お茶を買いにいってるよ。そのうち、戻ってくるさ。」

「そっか。なぁ、矢口。藤原さんって美人だけど、なんか、こう、ちょっと変わってるよな……。」

「そうか?お前、だけどノートコピーさせてって言ったんだろう?」

「ああ、うん、勿論文句があるわけじゃないんだけど……。」

「彼女、なんだって?」

「高田君が持っているから勝手にコピーして。貸したお礼は当然私にしてね、カップ焼きそばが食べたいわって。」

「はっきりしていて、いいじゃないか。」

「いいんだけど、普通、カップ焼きそばなんか頼むか?」

「戻ってきたぞ。」

向こうから、お茶を持った藤原が戻ってきた。眉ひとつ上げずに、藤原は聞いた。

「あら、なにか変更点?」

「変更?あ、いや、そうじゃなくて、カップ焼きそばなんだけど、サイズはどれくらい?希望メーカーとかは?」

「なんでもいいわ。お任せします。」

「わかった。じゃあ。」

そう言って僕にも挨拶をして菊田は去っていく。その後姿を見ながら聞いた。

「明日は焼きそばなのか?なんでカップ焼きそばにしたんだ?」

「明日は美智佳さんの次の運命の相手の話を聞きながら、ハンバーグ。外に食べに行くのよ。たぶん、放課後にでも誘われるわよ。」

「あいつ、もう運命の人が変わったのか。」

僕はため息をつく。

「あいつこそ、学校に来る意味があるんだか。」

「あるのよ。彼女はここでしか会えない人を探しているんだもの。」

「それでいいのか?」

「いいのよ。彼女にとっては勉強の内容よりもそっちのほうが優先なの。彼女にとってはそっちのほうが価値があるのよ。」

藤原はきっぱりという。そして、僕はちょっと考えてみた。僕がここにいる意味はなんなのだろうかと。

「明後日が焼きそば。菊田くんが自分では選ばないものを選ぶかもしれないでしょ。同じものでもいいの。ちょっと楽しみだわ。やきそばとお茶って合うかしら?」

 藤原の頭はいまのところ、焼きそばが占めているらしい。僕はつい笑ってしまった。とりあえず、藤原には会えてよかったと思う。


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