ビスクドール・シンドローム
どうしてあなた、泣いているの?
「ソフィ……ソフィ」
はいはい、私はここにいるわ。
あら?どうしてかしら。
手が動かないの。
視線を動かして見えた手元は、継ぎ接ぎだらけのお人形の手。陶器で出来た綺麗な手。
私の手なのに、私の手じゃない。
「どうか返事をしておくれよ」
涙ながらに懇願される。
えぇ、えぇ、私はここよ。
声は出ない。
あぁ、と思い出す。
最近流行り始めた奇病。
お人形症候群
数年前に私も発病して、そう、とうとう今日なのね。
徐々に見た目が、そして中身が人形のように作り変えられていく奇病。
愛しいあなた。ごめんなさい。
見た目が人形になっても、変わらない愛を注いでくれたあなた。
でもまるで、愛を注がれれば注がれるほど、といった具合に私はどんどん人形化していく。
「ソフィ!」
強く抱きしめられても、もう抱きしめ返すことはできない。私は人形、命のない無機物。
今はある、人の心ももうすぐ忘れてしまうわ。だからお願い、もう捨て置いて。
そうしなければ、
「ソフィ、泣いているのかい?」
ガラスの目から流れる涙さえも、出てこなくなってしまうから。あなたを愛することができるのは今だけなのよ。
あぁほら、徐々に。
私の考え方が変わってく。
人じゃない、心のない考え方に作り変わっていく。
私を愛さないで。
早く何処かへ行ってしまって。
今ならまだ間に合うわ。
私の涙が、止まらないうちに早く。
あぁ、もう、だめだわ。
私を愛して
愛おしい人。
頭を撫でて、服を着せて、アクセサリーで飾って。
陶器で出来た身体が飾られる。
あなたやっぱりおかしくなってしまったのね。私がおかしくなったからかしら。
私を狂わせるのねお人形症候群。
もっと愛して。
私はお人形。
着飾るのが大好きなのよ。
あなた、どうして泣いているの?
人形に心はないの。だって無機物だもの。