初夜
「そっかそっか。周さんは無事に息絶えましたか」
夕食を食べ終えて、お風呂にも入って、後は寝るだけ!ということで部屋のベットに寝転がってます。暇なので、鈴兄ぃに電話をかけると、コール1回で出た。ある意味びびった。
「鈴ちゃん、ご飯何食べた?」
『バイキングだった』
「うっわ、ずる!」
まだはしゃいでいるらしく、後ろから同行者の声が聞こえる。あ、周さんの声聞こえた。
「鈴ちゃん、ちゃんと歯磨きした? 私たちがいないからって、夜泣きはダメだよ?」
『俺をなんだと思ってるんだ』
『え、なになに鈴音。桜花ちゃんと話してるの?やっほー桜花ちゃん。元気ー』
「元気ですよ。犯罪者さん」
『違うからね! 俺はロリコンじゃない!』
「きゃー、鈴ちゃん。周さんがいやらしい目で見てくるよー(棒読み)」
空の見事な棒読み演技。通話の向こうからは、周さんの悲鳴が聞こえてくる。御愁傷様。
「じゃあ鈴兄ぃ。おやすみ」
「鈴ちゃんおやすみ」
『あぁおやすみ』
プツリと通話が切れ、なんだかすごく寂しく感じてしまった。ショボン……
「あー。空ぁー!」
「よしよし桜ちゃん。帰ったらいっぱい甘えようね」
「おーい、禁断の姉妹愛はいいから、そろそろ寝るよ」
「「え、夜はこれからでしょ?」」
「声をそろえて言うな……」
私も空も基本的に夜行性。朝昼は死んでるが、夜はヒャッハー!!テンションである。さぁさぁここからが本番ですぞ蘭花殿。
「顔がゲスい」
「ひどい」
「確かに……」
「空まで!?」
「桜ちゃん」
「ん? ってうわぁ!!」
急に空に押し倒され、視界に広がるのは高い天井と空の顔だった。妹とはいえ、綺麗な顔をした空がまじかで、しかも真剣な顔で見つめてくれば、顔が赤くならないわけがない。実際、私の顔は赤くなって胸がドキドキしてる。
「今夜は寝かせない」
「ぐはっ!」
「はい、桜花KOぉー。ティッシュもってくる」
録音したかった。というかもう鼻血が止まらん……やばい、貧血しそう。
「はい、桜ちゃん。お鼻に詰め詰め」
「うぅー……空ぁ、今のは最高の破壊力だったよ。今度鈴兄ぃにしてあげよう」
「こらこら鈴音さん殺す気か……」
「大丈夫、鈴兄ぃなら一リットルの涙ならぬ、一リットルの血液を出しても大丈夫だから」
「立ち上がる姿はまさに、戦士……」
「お前らは、鈴音さんが好きなのか嫌いなのかどっちなんだ」
「「え、大好きだよ?」」
空色と声をハモらせ、真顔で言った。それに、なぜか蘭花は呆れていた。
「いいから寝るよ。明日も早いんだから」
「なんかHだね、そのセリフ」
「うん。蘭花のえっちぃー」
「いいから寝ろ、残念姉妹」
「桜ちゃん」
「ん?」
「初夜だね」
「だねぇー」
「やめれい!」
はんば強制的に寝かされる私たち虹ノ姉妹。だが!だかしかし!私たちがそう簡単に寝るとお思いですか?そんなわけないでしょ?
「あ……空待って、まだ……ダメだって」
「けど、桜ちゃん……我慢、できない……から」
「け、けどまだ……」
「大丈夫、すぐに終わる、から……」
「なにやってるんだぁあああああ!!」
隣で必死に寝ようとしていた蘭花が布団をめくり、私たちの姿が現れる。そして、きょとんとする私たちであった。
「どした蘭花顔真っ赤にして」
「蘭ちゃん熱?」
「何してんの?」
「ソシャゲのマルチプレイ。ゲージマックスになってないのに空が早く倒したいからって使おうとするの。使うなら溜まって一気にでしょ」
「だって、早く使ってこまめに削る方が効率いいから」
「はぁ……もういい。私は寝る。それと、私起こさないからね」
そう言って、蘭花は寝てしまった。
まぁ確かに、初日だし寝不足はいけないな。そろそろ寝るとしますか。
「空、寝よ?」
「えっ……」
「今は家じゃないし、夜更かしすると他の人の迷惑になるし」
「……うん」
あぁもうなんなんの!そのシュンとした姿!かわいいなこんちきしょう!
「桜ちゃん……」
「ん?」
「ギュってして……」
(あ、死んだ……)
空を抱きしめながら、私は自分でそう思った。だって、少しだけ寂しそうに、不安な声で私の服を握りながらそう言ってきたんだよ。姉としてかわいい妹にそんなかわいいこと言われて生きていられると思いますか!
はい、無理です!無理無理ですよ!
結局私は、約1時間ほど内心で叫びをあげて、気がついたら寝ていた。
合宿最初の夜はそんなこんなで終了し、合宿二日目の朝が近づいてきた