エッチスケッチハイタッチ
「空色さんや。何かいい感じはありますか?」
「目標、確認できず」
現在、スケッチ対象を探し中であります。
背中に空色を、前に道具の入ったリュックを背負っている。背負っているのか?
「あっ、桜ちゃんあれ」
空色の指差す方には、木苺がなっていた。すっかり五月ですなーと思ってしまうほどだ。
「よーし決定だ。空色いい感じに演出を」
「ガッテン!」
今回はどうしても被写体に空色を入れたかったため、写真で撮影したものをスケッチする。まぁ、邪道というかゴミクズというか
「おぉー、さすが我が妹。絵になるなぁー」
「どや」
「んじゃあ、私はスケッチしてるから、空色は私の背中を背もたれにしていいから、おとなしくゲームしてない際」
「ラジャ」
撮影したものを見ながら、私は鉛筆を走らせた。
夢中になれば、数時間で書き終える。今回は、空色が被写体でいるため、テンション高めで書き進めている。
「ねぇ桜ちゃん」
「んー?」
「この前ね、鈴ちゃんのお部屋を掃除してたの」
「汚かったでしょ?」
鈴兄ぃは、お部屋の片付けが苦手である。料理の片付けとかはちゃんとするのに、なぜか部屋の掃除だけはできない、なぞの人物なのだ。
「そしたらね、エッチな本が出てきた……」
「…………………周さんのだ。うん、間違えない」
あっぶなーい。一瞬、えっ、あの鈴兄ぃが?って思ったけど、よくよく考えれば、絶対に周さんの私物だ。そうに違いない
「ちゃんと捨てた?」
「灰も残らないように燃やした」
「さすが」
残念なことに、うちはR指定のものの持ち込みは禁止である。目についた瞬間に、即刻燃やすのが決まりである。なので、私も部屋には同人誌が一冊もない。
その代わり、ネットでバンバン見てるけどね!
「周さん。妹萌えだって……本がそうだった」
「やばい………身の危険を感じる………空色、もうあの人に近づいちゃダメだよ?襲われるよ」
「周さん怖い。ガクブル」
「とりあえず、後で鈴兄ぃにLINEで送ろっか。さっきの抱きつき写真と、エッチな本のこと」
「らじゃ!あ、凛ちゃんからメールだ」
ゲームをやめて、メールに目をやる空色。この子、凛ちゃんからメール来ると、唯一ゲームを中断するんだよね。私とか鈴兄ぃからのメールは後回しにするのに。
「合宿はどうですかって。た、の、し、い、よ」
「アナログゲームいっぱいやったもんね。そりゃあ楽しいよ」
「凛ちゃん家で、おっきいゲームしてるって。いいなー」
「帰ったら、鈴兄ぃも混ぜてやろっか」
「………うん」
ふわりと浮かべた笑みは天使だった。もう泣きそうだった。妹が可愛すぎてつらい……
「桜ちゃん、どこまでできた?」
「ん?こんな感じ」
スケッチを見せると、おぉーと空色が関心の声を上げてくれた。
嬉しいなぁー♪
「桜ちゃん、昔から絵、上手だもんね。羨ましい」
「そうやって褒められると嬉しいな」
なでなでと頭を撫でると、まるで猫のようにすり寄ってくる。もうほんとお前はかわいいな!
「ありがと、桜ちゃん」
「ん?」
「誘ってくれて。来てよかった」
「空色がどう思えるならよかったかな」
再び私の背中を背もたれにしてゲームを再開する空色。私も再びスケッチを再開した。
*
「桜花」
こちらへとやってきた蘭香だったが、話しかけてきた声は小声だった。その理由は、後ろにいる空色がぐっすりだったからである。
気温もちょうどいいし、吹いてる風も心地いいから、すっかりお昼寝している状況である。
「気持ちよさそうに寝てるね」
「真後ろだから見えぬ……」
「はっはっはー、生殺しだね、シスコン」
「ぐぬぬ」
パシャリと音が聞こえて、蘭香の方を見ると、ニヤニヤしている
「いくらで買う」
「くっ…………」
悔しがりながら、スリーピースを作る。満足そうな顔をする蘭香は「まいどあり♪」と楽しそうに笑った。憎たらしいな……
隣に座った蘭香は、私のスケッチブックを覗き込んできた。
お前も見せろと言わんばかりに、私も蘭花のスケッチブックを覗き込んだ。
「さすがだね、桜花」
「蘭香だって」
「そうだ。部長が言ってたよ、今年もやるんだって。人気投票」
文化祭の部誌作品を読んで、どれが面白かったか投票してもらう。
漫研伝統の行事で、一位になった人には、顧問の先生より図書券五千円分が支給される。
去年の優勝は、その時の部長さんだったが、二位が蘭香で、一票差で私だった。あの時は本当に悔しかった。
「今年は負けないから」
「ふっふっふー。そうはいかないよ」
互いにライバルと思い、高め合う。
互いに認め合っているからこそ、負けたくないと思う。
私たちはハイタッチをした。
「んっ…………」
「あっ、空色起きた」
「おはよう空色」
「あれ………いつの間にか、蘭ちゃんがいる……幻影?」
「本物だよ。ほれほれ」
蘭香は起きたばかりの空色の頬をブニブニと揉みしだく。
小さく唸る空色は、それはそれは可愛かった。萌えた!
「ほんろらー」
「そろそろ時間だし、もどろっか」
「だね。よし、空色、背中のりな。寝てもいいから」
「ふぁーい」
おおきくあくびを書きながら、のろのろと私の背中によじ登った。
私のリョックは、最初と同じように前にかるってる。
「シュールね」
「最終形態だよ」
「はいはい」
私は、背中にいる空色よ、隣にいる蘭花とともに、別荘に戻った。
*
「ホント、桜花は神秘的な作品描くよね。あと、シスコンだと一目でわかる」
「部長! 褒めても何も出ませんよ!」
「大丈夫。褒めてない」
私が別荘に戻れば、既に他の部員たちは集まっていた。
リビングでお互いに描いた絵を見せ合って、感想を述べ合う。
空はゲーム、たけちゃんは晩御飯の準備をしている。美味しそうな匂いがするな………
「虹ノ(にじの)先輩、僕らのも見てください」
「俺も」
「おぉ、いいよ」
北斗君は風景のスケッチ。疾風君は雀のスケッチを描いていた。
どっちもうまく描けている。
「ここね、もう少し陰影をはっきりさせたほうがいいかも。北斗君は、鳥の羽の関節はこうだから、翼の位置はもう少し下かな」
「勉強になります」
「ありがとうございます」
「桜ちゃんが真面目にアドバイスしてる………」
「空!? お姉ちゃん泣くよ! 泣かさないでよ!」
「桜ちゃん暑い……」
妹が冷たい。ドライアイス並みに冷たくて痛い。本当に泣きそうだよ。
「それと桜ちゃん」
「ん……?」
「エッチな本のこと、鈴ちゃんに送った」
我が妹は仕事が早いな………んで、どんな反応が返ってきたのだろう。どれどれ?
【わかった。殺る】
殺意が伝わる一文だ。鈴兄ぃに送ったメール文を読めば、妹萌えのことも書かれていた。なおさら殺意に満ちているようだ。
「なむー……」
「むー……」
「なに姉妹で可愛いことしてんの」
「周さんに合掌してるんだよ。今頃鈴兄ぃに色々と……」
そう、いろいろと……それはもう色々ですよ。
あぁ、周さんにお仕置きする鈴兄ぃ………やばい、萌えるな………
「桜ちゃん、よだれ垂れてるよ」
「おっと、ごめんごめん」
身内でも、私の腐の餌である。やっぱり鈴周はいいですなぁ。あれ、そういえばよくよく考えれば……
「ねぇ蘭花」
「ん? 何」
「鈴兄ぃの受けって想像できる?」
「えっ?……そういえば、考えもしなかったな………」
ちょっと考えるみるかと、想像してみた。隣にいる空も一緒になって考えた。
表情筋死んでるんじゃないかと思うほどに無表情の鈴兄ぃ。力も強く、最強の剣豪の称号を与えられた兄だ、組み敷かれて喘いでいる姿……
「ダメだ、無理だ」
「同じく」
「鈴ちゃんは、攻め一択」
「こらこらそこ。実の兄で妄想するな」
「仲良しさんね」
琴美先輩。そこは和むところではありませんよ。部長のツッコミが正しいんです。もっと言えば引くところなんですよぉ〜。
「ほれほれ空さんや。鈴兄ぃに写メ送るからくっついてくっついて」
「あ、私も混ざるぅ」
私と蘭花、空は身を寄せ合ってスマフォで撮影。そして、そのまま鈴兄ぃに送信。そしてすぐに既読がつく。
【保存した】
「仕事が早い」
「おーい、飯できたぞぉー」
たけちゃんの低音ボイスがリビングに響き渡る。声フェチにはたまんないだろうなー。
そんなこと思いながら、私も夕飯の準備のお手伝いをせっせと行う。
夕飯も素敵ですよたけちゃん。
「あの、虹ノ(にじの)先輩」
「ん?なんだい北斗君」
「先輩のお兄さんって、確か鈴音さんでしたよね」
「うん。そだよー」
「どうして二人揃って鈴って呼んでるんですか?」
「あぁー、まぁ癖みたいなもの。りんって読めなくて、すずって呼んだら定着しちゃったんだよね」
幼き日、兄の友達のお母さんがすずねと呼んだのがきっかけで、私はお兄ちゃんから鈴兄ぃに呼び方を昇格させた。
そして私の呼び方を真似て、空も兄ぃから鈴ちゃんに呼び方を昇格させた。
鈴兄ぃは、怒るどころか悶絶して喜んでいた。あの日のことは、今でもよく覚えている。
「というか、後輩二人も気兼ねなく名前で呼んでいいんだよ?」
「「えっ!」」
「あぁそういえば、二人とも未だに私たちのこと苗字だもんね」
「そうね。今回の合宿を気に、二人も私たちのこと名前で呼んでもらいましょう」
うわぁー、私めんどくさいこと口走っちゃったかな……
遠目で見たら後輩いじめだよ。まぁ、女の人たちにからかわれる後輩というのも萌えるけども………
「え、えっと……が、頑張ります」
「お、俺も……」
「じゃあ苗字で言うたびにデコピンね」
「「えっ!」」
「うっわ、一人一回って考えるといたそぅ」
「えっと二人とも…………なんかごめん」