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GWの過ごし方

「…………」

「おーい」


GW前日、私はなんとかネームを入稿させてげっそりしている。

結果、徹夜という形になり、すず兄ぃと空色くしなを心配させる形となってしまった。

今日の晩ご飯は泣きながら食べると誓っていた。

で、さすがに二徹の翌日の学校は体にこたえて机でダウンしている。前の席の蘭花らんかが声をかけたり突っ突いてくるが、今からの授業などを考えたら無駄な体力を使いたくなかった。


「うーっす………って、どうしたこいつ」


隣のクラスの筈のゆうがさも当然のようにクラスにきて声をかけて来る。で、こいつというのが私の事だ。


「二徹」

「あーあ」


納得してくれたようだ。では、そのままご退席いただこう。そっとしといて。


「んじゃあ、挿絵のネームここ置いとくな」

「あぁ合同の?」

「おう。お前は元気そうだな」

「二徹は回避した」


くっそ蘭花らんかめ……羨ましい限りだ……


「あれ、ゆうじゃん。なーにしてんの?」


と、今なんだか一番聞きたくないハイテンションの声が聞こえて、うつ伏せのまま視線だけを上げると、そこにはゆうの肩に腕を回す一人の男子生徒。


「あぁちょっと用事。練斗れんとは今登校か?」

「寝坊してダッシュできた。で……虹丿にじのどうしたんだ?」


さすがに触れずにはいられなかったらしく、私に視線を向けながら彼は問いかけた。


「部活の作品で二徹」

「えっ、漫研の?じゃあ寝てねーの?」

「そうなるな」

「大丈夫なのか?精神的にも肉体的にも」

「「大丈夫じゃないな」」


はもらせて言うな。まさにその通りだから聞きたくもないけど……


「お、おう……俺はそこらへんよくわかんねーけど、無理すんなよ」


私が視線を向けているのに気づいて、彼は笑みを浮かべる。一声かけて、彼は自分の席へと戻り、ゆうも自分のクラスに戻っていった。


「相変わらず仲いいよね、地上峰ちじょうみね空上くうじょうって」


空上練斗くうじょうれんと。クラス、というか学校の人気者で、誰とも仲良くなる天性のコミュ力を持つ。

バスケ部に所属し、運動神経は抜群によく、頭はまぁ……そこそこ?

あんまりクラスの人と仲良くしてない私にも声をかけている。たぶん、放っとけないタイプなんだろう。毎朝挨拶してくる。

一年の時から同じクラスで、その時はゆうも同じクラスで、蘭花らんかは他クラスだった。


「ジュース……」

「お代は後でいただきます」


HRが終わったら、申し訳ないけどジュース買って来て。を、すっごく略したのに、蘭花らんかはそれを組とってそう言ってくれた。

短い分で会話できるほどには、蘭花らんかとは仲良くなった。ゆうにも似たような感じで言えば、たぶん同じように返ってくるだろう。


               *


「部長、いっそ殺してください」

「駄目だ。あんたを殺して犯罪者になりたくない」


部室に来ても、私は机に突っ伏す。琴美ことみ先輩が、インスタントではあるが、アップルティーを出してくれたので、顔を上げて一息つく。

蘭花らんかと後輩二人は、現在委員会のため欠席中で、部室には私とクミン先輩、琴美ことみ先輩だけがいる。


「なぜコミュ障の私が大勢の前に立たないといけないんですか……」

「仕方ないでしょ。琴美ことみは生徒会の仕事。蘭花らんかも委員会の仕事で出れないし、副部長の代役、桜花おうかしかいないんだから」


事の原因は、文化祭前辺りに、それぞれ全校生徒の前でどんな事をするか発表しないといけない、文化祭説明会。という公開処刑まがいな事をしないといけないのだ。

副部長である琴美ことみ先輩は生徒会に属しており、司会進行をしないといけないので出れず、部長候補である蘭花らんかは、撮影委員会の仕事で出れない。結果、消去法で私が出なければならないのだ。


「死にたい……」

「まぁ、まぁ。あんた見た目はいいんだから大丈夫だって」

「先輩の目は腐ってるんですか?あぁ……腐ってましたね。私も含めて」


私の見た目がいい?んなわけないだろ。よく蘭花らんかとかゆうに残念だのなんだの言われているが、今だにその理由がよくわからない。

私自身、自分の事を可愛いとか美人とか思った事はない。

空色くしなの方が可愛いし、クミン先輩や琴美ことみ先輩の方が美人だ。


「絶対でないといけないですか………」

「まぁ必然的にね」


ここは腹を括るしかないか……ホントは嫌だけど……ホントは嫌だけど!!

私は首を縦に振った。

クミン先輩は、再び私に謝罪の言葉を述べて頭を撫でてくれた。


虹丿にじの先輩いますか!?」


ドタドタと後輩二人が部室に入って来た。まぁいつもの事だけど。

私の姿を捉えた瞬間、二人は勢いよく私に駆け寄って来た。


「先輩!二徹したって聞いて心配しました!!」

「大丈夫ですか!?」

「あぁ……少し落ち着いて……二徹の体に響く……」


再びゆっくりと体を起こして、琴美ことみ先輩が入れてくれたアップルティーを口に入れた。


「二人も飲む?」

「あっ、いただきます」

「俺も」


自分の席に着き、クミン先輩が出してくれた紅茶を飲む。いっその事このまま帰りたいな……ネームも終わったし、ゆうのネームも……


「あっ!!!」

「ん、どうした桜花おうか

ゆうにもらった挿絵のネーム、教室に忘れた!!」


ドタドタと荷物をまとめて、勢いよく教室に取りに向かった。頭の中はその事でいっぱいで、疲れの事など忘れていた。


                 *

             

ガラガラビシャッ!という感じで勢いよく教室の扉を開けた。誰もないない、と思ったのに、案の定人がいた。


「あれ、空上くじょう君?」

「ビビった………なんだ虹丿にじのか……」


ほっと胸を撫で下ろす彼、自分の席で何かしていた。課題?


「数学の授業寝てたから………」


そういえばそうだったな……なんか怒られてる声が聞こえたような気がした。私は二徹でそれどころじゃなかったけど。


「罰?」

「先生が作った特別問題。よりにもよって数学とか………」

「数学苦手だっけ」

「勉強は苦手だけど、特に数学が………」

「そうなんだ」


私は自分の席に足を運び、そのまま引き出しの中をあさった。おっ、あったあった。無くしたらゆうに満面の笑みを向けられて怒られる所だった。


「それじゃあ私は行くね。課題、頑張って」

虹丿にじの!」


ひらひらと手を振りながら教室を出ようとしたら、大きな声で呼ばれた。びっくりして勢いよく振り返る。


「ま、またな!」

「へ?あ……うん、またね」


そう返せば満足そうに彼は笑った。なんだったんだ………

首を傾げながら教室を出て行き、私は部室に向かった。結局疲れなどすっかり忘れて、いつものように歩く。

部室までの道のり、ゆうから渡された挿絵の確認をした。ちゃんと前を見ていなかったせいで、曲がり角で人とぶつかってしまった。


「わぁっ!」

「っ!」


声を上げたのは私ではなく、ぶつかった相手だった。私はなんとか踏ん張って立っていたけど、相手はぶつかった拍子に倒れてしまった。

私は慌てて相手を見た。そして固まった………


「す、すみません!!」


目の前に女装男子がいたからだ。

見た目は明らかに女の子だ。女子の制服に、貧乳よりもさらに貧乳の胸。少しだけ長めの髪。どこからどうみても女の子だ。なのにどうして私が彼を男だと認識する事が出来たのか…………


「す、すみません虹丿にじの先輩!!」


あわあわとする女装男子生徒。あーもう可愛いな!ホントに男か!絶許!


「あー、うん。大丈夫だから。ねっ、瑞希みずき君は怪我ない?」

「あっ、はい。だ、大丈夫です」


彼に手を差し伸べ、立たせて上げる。私よりも10㎝ほど低い身長。もう女の子でいいんじゃないかな……この子。


「打ち合わせ?」

「あっ、い、いえ。部室に戻る所です」

「そっか。ごめんね、前見てなくて」

「そんな……僕こそすみません」


シュンとする姿もホント可愛いよね……天然さんだから……色々守ってあげないとね。特に男子から。

彼に軽くあいさつをして、そのまま部室に戻る。すでに蘭花らんかも来ていた。


「見つかった?」

「おかげさまで」

「よーし。みんなそろったね」


ホワイトボードの前、クミン先輩が胸を張る。なんかすっごくデジャブ。


「今年も、琴美の別荘で合宿するよ。異議のある物挙手」

「はいっ!」

「却下」

「まだ何も言ってません!」


元気よく手を上げた物の、あっけなく否定された。


「仕方ない。とりあえず聞いて上げよう」

「家から出たくないです!」

「はい、異議のある子ぉー」

「スルー!!」


私の意見は無かった事にされ、私は突っ伏す。蘭花らんかは「おやつはいくらまでですか!」とか、後輩二人は「漫研の合宿ってなにするんですか?」という質問をしていた。

私と蘭花らんかの異議………先輩が何ふざけてんだよってね………


「まぁ漫画の参考のための絵の勉強みたいな感じ?結構山の中にあるから、風景画とか描いたり。合宿の間に、最低一枚クオリティーの高い物を描き上げるのが目標」


たぶん今年の合宿も去年と同じ場所だから、緑豊かな風景画になると思う。私は去年、花をかいた。一輪だけのシンプルな奴だけど、いいタイミングで光が差し込んだから、前の部長さんに褒められた。


「あっ、先輩!合宿って曜日いつですか?」

「ん?とりあえず2日〜4日の2泊3日」

「………それって、空色くしなも連れて行っていいですか?」


当然、その理由を問われる。まぁ私も今思い出したんだけど、確か兄ぃがゼミのメンバーで小旅行に行くと。私も合宿行くし、空色くしなを一人にする事は出来ない。


「私は構わないけど、未来の弟君にあずけないの?」

「迷惑かけられないし、どうせあっちに行ってもゲームするでしょうし」


最近部屋にこもりがちだし、休みの間に外に出してあげたいし。なるべく私の側にいさせればいいし。


「わかった。じゃあ空色くしなちゃんもくるんだね。了解」


その後、初めての1年生の為にいろいろと合宿の話しをする。

私はゆうにもらった挿絵と、常に鞄の中にしまっているキャラデザを見ながらイラストをイメージする。結構私が苦手とするポーズだ。


「じゃあ、GW初日は学校の正門前に集合ね。忘れ物ないように」


クミン先輩はパンッ!と強く叩くと、「解散!」と言った。

私はそのまま蘭花らんかと共に部室を出て、昇降口へと向かって正門へと行く。すると、ぶるんっ!エンジン音が聴こえて振り返る。


「よぉお前ら」


そこには顔全体を覆うヘルメットを被ったガタイのいい男性。バイクを押していた。


「たかちゃん」

「なんだ、帰りかお前ら」

「たかちゃん、なんか久しぶりに見た感じがする」

「おい、今日お前のクラスで授業したぞ」


このガタイのいい男性、ヘルメットを外して顔を現せば、蘭花らんかが好きそうなしぶい男性だ。まぁ蘭花らんかいわく「3次元はない」といっていた。

たかちゃんこと、鷹瀬良源たかせりょうげん先生は、うちの学校の古典の先生で、我らが漫研の顧問である。

漫画の事はよくわからにけど、シナリオに関していろいろとアドバイスをもらっている。

やればできる先生だ。私たちは、ずっとたかちゃんと呼んでいる。


「たかちゃん、合宿来るの?」

「ん?まぁ今年はな。心配すんな、飯位なら作ってやる」

「マジで!ラッキー!」


たかちゃんは一人暮らしで、見た感じコンビニ弁当ですませそうだけど、これでもちゃんと家事をこなしてる。前に締め切り前で部室にこもってた時、差し入れに持ってきてくれたペペロンチーノがすっごくおいしかった。

あの後ヘシピも教わって家でも作る様になった。


「んじゃあ俺は帰るわ。お前らも気をつけて帰れよ」

「うん、たかちゃんも事故らないようにね」

「赤はとまれですよ!」


軽く手を振るたかちゃんにそう言って、私たちは彼とは逆側の道を歩いていった。


                 *


「ぁ……あぁ………」


蘭花らんかと別れた私は、何事もなくまっすぐ帰っていた。今日の食事当番は、確か兄ぃだった気がするな……ということは、肉料理か。

私たち兄妹は、一通り料理ができるが、得意料理がある。兄ぃは肉で、空色くしなは魚。私は野菜だ。まぁ、美味しいからなんでもいいんだが。

今日は何かなーって思いながら家に帰ってきたのに……


「ん?おうちゃんおかえりー」

「やっほー桜花おうかちゃんおかえりー」

空色くしな!早くその人から離れて!ばい菌がつくよ!風邪ひくよ!」

「俺ばい菌扱い!」


なんでここにあまねさんがいるんだ?というか空色くしなはホント、知り合いだと懐くなー。可愛いからいいけど。


あまね。飯食うのはいいが、働かないなら帰れ」

「へいへい。加勢しますよ」


そう言ってあまねさんが立ち上がったのを確認して、すぐに空色くしなを剥ぎ取った。消毒液はなかったので、とりあえずファブリーズをかけてやった。これであまねさんの匂いは消えた。

と、ふいに空色くしなが抱きついてきた。そして、胸のあたりをスリスリしてきた。えっ、何この可愛い生き物。


おうちゃん。ご飯食べたらゲームしよう」

「あぁうん。びっくりしたー空色くしなが甘えてくるなんて」

「今は誰かに甘えたい気分なの」


だからあまねさんにくっついていたのかと納得した。全く可愛い奴め。


「うりうり」

「むにゅ………」

「何あの可愛いやりとり」

「いいから運べ。後、カメラしまえ」


テーブルに並べられる料理。今日はハンバーグである。しかも、なんかいつもより肉汁がすごいような気がする。


「「「「いただきます」」」」


んっま!やばいよ兄ぃ、今日のハンバーグ肉汁がすごいよ。ジュンジュワーって感じ!!これ、後で教えて貰おう。なんかコツがいるのかな?


鈴音りんねはいい嫁になるな」

「男の俺がか」

あまねさん、すず兄ぃをもらう気はありませんか?」

「やめて!俺と鈴音りんねでカップリングしないで!!」

「冗談ですよ。何真に受けてるんですか」


どちらかというと、あまねさんが兄ぃの嫁になるんですから。りんあま万歳。


「そうだ空色くしな

「ん?」


あーもう。お口いっぱいに入れて。おいしかったんだね。うん。おいしかったんだね。可愛いよ空色くしな


「GWはお暇?」

「んー……ゲーム」

「そっか。空色くしなが良かったらでいいんだけど、漫研の合宿来ない?2泊3日。すず兄ぃも、旅行で空色くしな一人になっちゃうし」

「……いいの?」

「部長の許可はもらってる。来る?」

「ゲーム持っていっていい?」

「いいよ。でも、なるべく私の近くにいるんだよ?何かあったらいけないし」

「うん」


再び食事に向かうが、表情はなんだか嬉しそうだった。ギャンかわっ!


「いいなー合宿。青春って感じがする」

「兄ぃ、合宿の様子はずいじLINEで送るね。妹二人が心配でしょ?」

「あぁ。俺も、そっちに送ろう」

「うん。できればあまねさんが写ってないやつで」

「ひどい!」

空色くしな、合宿は山の中だから、虫刺されと長袖は持って行くんだよ」

「ラジャっ」


無事に妹も参加が決まり、合宿はますます楽しみになった。

だがしかし、この時の私はすっかり忘れていた。あの、最悪のイベントのことを……


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