形作る物語(ストーリー)
「さて、でわでわ打ち合わせをしましょうか」
お昼を食べ終えて、そのまま部屋で夕と文化祭の合同部詩の打ち合わせ。
空色と凛ちゃん。そんで、なぜかまだ帰らない蘭花はリビングで家庭用ゲーム機でプレイ中。
協力プレイが出来るゲームをやるとか言ってたな……こっちが終わったら混ぜてもらおう。
「で、考えてるお話とはどんなの?」
「簡単なあらすじと、キャライメージがこれな」
と、渡された数枚ほどの紙の束。目を通して話しの内容とイメージキャラを理解し、キャラは机の上にあるスケッチブックにさらさらっと描いてみる。
夕の考えてるお話は、「鍵」をテーマにした恋愛系のお話である。
夕が書くお話は、大体推理物とかミステリーっぽいものをよく書く。
「珍しいね、恋愛もの」
「まぁ……な。………どっかの誰かさんが鈍いから……」
「ん?なんか言った?」
なんか言った気がしたが、夕は「なんでもない」と言った。
「で、描けた?」
「何で上から目線!まぁ描けたけど……」
スケッチブックを夕に渡し、感想を述べるまで黙ってた。
お互い、物作りには自分の誇りを持って取り組んでいる。よりいいものを。その為なら何だってすると言った感じ。
何度か私の漫画の原案を夕に頼んだりもしたことがあるから、こういった打ち合わせも珍しくもない。
「もうちょい髪、長く出来ない?」
「どんくらい?」
「鎖骨くらい」
何度も何度も調節をして、約1時間かけてメイン二人のキャラデザを完成させた。
「挿絵と表紙は、俺がネーム書くから。カラーじゃなかったらどんくらいで出来る?」
「徹夜すれば2日」
「じゃあギリギリまで粘る」
「おい」
私の事考えろバカヤロー!自分の漫画だって大変なんだよ!
「俺の小説できるまで、お前は部活の漫画描いてろ」
「そういう夕はさ、部活の方は出来てるの?」
「話しは書き上げてる。後は訂正とかすればいいからそっちは問題ない」
紙に鉛筆を走らせながら淡々と言った。私はただそれを眺めていた。
「そういえば、次の部長って夕なの?」
「まぁ……一様。そっちは?」
「たぶん蘭花。私は副辺りだと思うよ」
蘭花ほどリーダーシップを持っている者はいない。一年の頃から私の世代の部長は蘭花だと思った。
「そういえば、お前部活の方の作品どんなの描くんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!西洋を舞台にした恋愛ものなんだけど、時計技師の幼馴染みと機械技師の学校の先輩に取り合えいされる主人公のお話!」
「超大作になるのは目に見えてるからやめとけ」
ですよね。まぁ蘭花にも止められたし、今回は別のやつを描く予定だ。しかも、私も恋愛もの。
「夏を舞台にした恋愛もの。内気な女の子とクラスの人気者の男の子のお話。あっ、別にパクリとかじゃないからね!」
結構前にそんな感じのアニメが放送されていたが、別にそれに影響を受けて考えた訳じゃない!!
必死に否定をする私。そんな私の様子がおかしかったのか、夕は笑った。
「別になんも言ってないだろ。必死過ぎ」
「ぅー……と、とにかく!期待しといて」
人差し指を立て、胸を張ってそういった。夕も笑って「期待しとく」と言ってくれた。
「んじゃあ、打ち合わせも終わったし、下のゲームに混ざりにいくか」
荷物を片付けて、夕は笑いながらそう言った。
私がゲームに参加したいということは、夕にはお見通しのようだった。
なんだかんだいて幼馴染みである。
*
「あっ、桜ちゃんと夕ちゃん、お帰り」
リビングに入れば、ちょうど蘭花と凛ちゃんが対戦していた。協力プレイはやめたようだ。
「打ち合わせ終わったの?」
「うん。あっ、そうだ空色」
ソファーに腰掛ける空色の隣に腰掛けて問いかける。小さく首を傾げながら私の口からこぼれる言葉を待った。
「私の描く漫画のキャラのモデルになってほしいの」
「私?いいの?」
「うん。空色がいい」
元々内気な女の子のイメージが空色しかいなかった。私の周りには明るい子ばかりで、さすがに自分をモデルにするわけにはいかなくて、結果、空色が一番あっていた。
「私はいいよ。桜ちゃんの作品に出れるのはうれしい」
「空色ぁああー。さすが私の可愛い妹ぉー」
ぎゅっと抱きしめれば、空色もぎゅっと抱きしめ返していた。
「あっ、ちなみに夕が男の子イメージだから」
「おい、初耳だぞ」
「今初めて言ったもん」
夕は拒否権がない事が解っているのか、ため息をついて何も言わなかった。
「あー負けたぁー」
丁度ゲームが終わったようだ。
まぁ言うまでもなく、凛ちゃんが勝った。当然当然。
「そういえば、蘭花は何描くんだ?」
「私?部活の方はホラーかな。合同の方は桜花と一緒で挿絵と表紙」
「へぇーそうなんだ。相方さんって男?」
「女の子!とびっきり可愛い1年生!」
「あー、お前のファンって言ってなかったか?」
「おう!おどおどしながら声かけて来て、超絶可愛かった!!」
蘭花は姉さんキャラだから、後輩に尊敬される。まぁ運動もずば抜けてすごいからなおさらか……
「そいつ、ファンタジーとか恋愛もの好きだから、協力してやれよ」
「詳しいね、夕」
「自己紹介の時、どういうジャンルが好きとか言わないといけないからな。人数も少ないし、何となく覚えた」
「ほほぉ、なるほど。私はホラーとかミステリー、死ネタとか多いからな……大丈夫かな」
ちょっと不安そうな表情をする。結構珍しい表情にレア感がある。
「そこは、しっかり打ち合わせして考えるしかないよ。絵も、話しの内容も」
「桜花がいうと説得力あるよねぇー。実際したからだろうか」
「作るのはいいけど、ちゃんと読み手の事も考えるんだよ」
口をつぐんで話しを聞いていた空色が口を開いた。
ソファーから降りて、蘭花の握っていたコントローラーを手にする。
「ゲームでもそうだけど、制作者の自己満足じゃ駄目なの。プレイする人が楽しいと思える。飽きないゲームを作らないといけないから。そう言うところ、漫画も小説も一緒でしょ?」
なんと重い言葉だ。さすがゲーム廃人。ゲームが発売して一日徹夜でプレイするだけのことはある。
空色の言葉は二人にも響いたらしく、同じ顔をしていた。
「じゃあネーム提出もあるし、私は帰るよ」
「俺も、そろそろ帰る。蘭花、途中まで送る」
「任せた!」
「蘭ちゃん、夕ちゃん、気をつけてね」
「楽しかったよ。じゃあまた明日」
「邪魔したな」
私は二人を玄関で見送り、リビングへと戻る。今だに二人でゲームをする姿を扉を少し開けて眺めて、私は自分の部屋に戻った。
「ふふぁーぁ……」
GW前の土曜日。ネームの締め切りまで後3日という日、私は部屋にこもって作業をしていたのだが、ストックのお菓子とジュース。後、消しゴムとHBの鉛筆が切れたため、家から徒歩で20分のところにあるコンビニに足を運んだ。
ちなみに私がなぜ自転車ではなく徒歩を選んだかというと、自転車をこぎながら音楽は聴けないからである。気分転換もかねての買い物なので、壁際を歩きながら、手持ちのバックではなく、リュックサックを背をってコンビに向かった。
「こんにちは」
コンビニに入って私は一声かけた。このコンビニは、よく虹丿家が利用するため、店員さんとは顔見知りである。
私や蘭花なんかは、このコンビニにあるくじを毎回10回引いている。
結構このコンビニにはつぎ込んでいる。
「2.360円になります」
リュックから長財布を取り出して丁度のお金を渡した。
商品を鞄に押し込み、レシートを受け取って店を出た。
「おっ!ほらやっぱり桜花ちゃんじゃんか!」
店を出た瞬間に聴こえたハイテンションの声に顔を上げた。そして、私の顔が一気に歪む。
「周さん……」
「やっほー桜花ちゃん♪」
満面の笑みを浮かべて私に抱きつこうとしたが、ギリギリで一緒にいた鈴兄ぃに襟首を掴まれた。
「よぉ、買い物か?」
何もなかったように、兄ぃは話しかけて来た。うん、同情はしないぞ。
「鈴音ひでぇー!俺の桜花ちゃんとのスキンシップを!」
「お前の場合、スキンシップの度を超えてる。後、人の妹に手を出すな」
周さん。本名、古坂周。鈴兄ぃの友達で、大学一年生。ちゃらちゃらしていて、女の子にモテるのだが、つき合ったりはしない。なぜかは知らないけど。
「わざわざ徒歩で来たのか?」
「音楽聴きたかったから。ネームの締め切りが近いから気分転換」
「無理するなよ。空色が、あんまりお前がご飯食べてないって心配してたぞ」
「桜花ちゃん、それ以上やせたら死ぬよ?女の子は、少しプニプニしてた方が可愛いよ」
「セクハラで訴えてもいいですか?というか、貴方いつまで着いて来るんですか」
「えっ、虹丿家にお邪魔するんだけど」
ケロッとした表情を浮かべる周さんだが、私は絶望的な表情を浮かべて鈴兄ぃを見ると、小さな声で「悪いな」といった。私の顔がさらに歪んだ。
「ゼミの課題一緒にするんだ。大丈夫、部屋に入って来たりしないから」
「当たり前です。入った瞬間に護身用のスタンガンを使います!」
「えっ、何でそんなもん持ってんだよ!」
鈴兄ぃが何かあったらいけないからって、私と空色に持たせている。
「家に空色はいるのか?」
「いや、凛ちゃんの家に行ってる。新作ゲームやるからって」
「あいつも、なんだかんだ言ってゲームに金使うから飯食わないんだよな……」
妹二人の偏食……ではないが、食事よりも好きな事へ情熱に頭を悩ませている兄ぃ。マジすいません。
「あっ、そうだ。桜花ちゃんGWは暇?」
「はい。周さんに使う時間はないですけど」
「ひどっ!ま、まぁ暇なんだな。GW、ゼミの皆と小旅行行くんだけど、よかったらどう?」
「ゼミって……」
確か鈴兄ぃのとってるゼミの人数は少数で、しかも男しかいないと聞いた。ふ、腐女子としてはこれに参加するべきだろうが………身の危険と兄ぃの心配を考えたら……
「丁重にお断わりします」
「えっ!」
「だから言っただろ」
兄ぃも私が断わる事は解っていたようだ。なぜかかなり焦る周さんに、私はさすがに疑問を抱いた。
「来てほしかったんですか?」
「まぁ、ほら。桜花ちゃんさ、俺の事あんまりよく思ってないじゃん。でもさ、鈴音がいれば大丈夫かなーって思って……俺も桜花ちゃんと遊びたいし」
これまた意外な答えに私は目を丸くした。気持ちはすごく嬉しい。だけど答えは変わらない。
「それに言いましたよね、周さんに使う時間はない。周さんが行く時点で行きません」
にっこりと返答すれば、再び周さんが傷ついた。兄ぃからはあまりいじめないようにと言われてしまった。
*
「ネームが……」
机にうなだれながら、蘭花に電話する私。蘭花もネームに追われてるらしく、鉛筆を走らせる音が聴こえる。
『いつになく声がげっそりしてるけど、もしかして周さんがいたり?なーんんちゃって♪』
てへぺろ♪的な感じで言っているが、当たっているから改めてげっそりする。
『えっ、マジ……ご、ごめん……』
「あの人のテンションに生気を吸い取られた気分……」
『この時期に会うとマジないよね……』
「明後日までにネームが出来るかどうか……」
『徹夜だね☆』
うっわー、ですよねー。
『じゃあ切るね。私もギリギリなんだよぉー』
ピッと通話が切れる。真っ暗になった画面をしばらく見つめ、小さく裏切り者と呟いた。
「んっ……」
そのとき、わずかに甘い匂いがした。何だろうと思って入り口に目をやった時に、軽いノックオン。
「はーい」
軽い足取りで扉を開けた。だけど、一瞬にして閉めた。
「酷いっ!」
扉の向こうから聴こえる周さんの声。強く扉を叩くが、鈴兄ぃが蹴り破らない限り壊れないようになっている。
「何しに来たんですか」
「ケーキ届けに来ただけだって。鈴音が作ったガトーショコラ」
この匂いはチョコレートの匂いか……鈴兄ぃのケーキはすっごく食べたい。ただ持って来たのが周さんだ。それだけが……
「そこに置いててください。で、大人しく勉強してください」
「まぁいいけどさ。あんまり無理するなよ」
かたりと床に物が置かれる音と、遠くなっていく足音。
恐る恐る扉を開けて、部屋の外を見ると、そこに周さんの姿はなかった。
おぼんに置かれたガトーショコラ。甘いチョコの匂いが鼻をくすぐる。
おぼんを持って、部屋の中に戻ってガトーショコラを一口食べた。チョコの甘さが、少しだけ疲れを癒してくれた。
「ありがとう、鈴兄ぃ………」
大きく背伸びをして、強く頬を叩いて、再び机に向かった。