ゲームの姫
「おーい、蘭花、桜花」
翌日の放課後、合同ミーティングの為に視聴覚室へと向かう途中で夕に遭遇。
ぼっちのようだ。
「お前、今失礼な事思っただろう」
「はっ!なぜバレた!」
「顔で解る」
「漫才っ!」
蘭花がお腹を抱えながら笑っているので、引きずって視聴覚室に向かった。
「あっ、虹丿s………」
扉を開いて満面の笑みを浮かべる後輩二人だったが、夕の姿を見るなり、すっごい敵対の目で見ている。
「嫌われてるし!」
「ざまぁ……!!」
「俺、なんかしたか?」
結果席は、私の左隣に蘭花。右隣に夕。真後ろに後輩二人が座る形に。今だに後輩二人は夕を睨んでるけど。
『よーし、全員いるかなー?』
マイクを手に取るクミン先輩。ぐるりと辺りを見渡しながら人数を確認した。
文芸部、漫研合わせても15人もいない。どっちも一桁部活だし。
『それぞれ部長に聞いてると思うが、今年の文化祭は、文芸部と漫研の合同作品集だ!』
クミン先輩は、昨日と同じ事を改めて述べ始めた。あー……やばい。寝そう……
『では部員諸君。合同作品でペアを組む相手を選んでくれ。ただ。文芸部はうちより人数が多いから文芸部は同じ部活の人間でも構わない』
「桜花」
隣、寝そうな私の肩を夕が突いてきて、顔を上げる。
「組むだろ?」
「うぃー………」
「桜花殆ど寝てんじゃん!」
蘭花はゲラゲラと隣で笑っており、目をこすってなんとか眠気を覚まさせた。
「よろー」
「おう。挿絵でもいいか?お前漫画二つとか大変だろ?」
「そんな事ないけど……前から挿絵もやってみたかったから別にいいよ」
「了解。とりあえず考えてる奴、今度お前んちで打ち合わせかねて言うわ」
「ウィッス!」
その後、続々とペアが決まり、部長達に決定の知らせをした。
締め切り日など、今後の予定諸々の説明が終わり、先輩の「解散!」という号令と共に、部員達は視聴覚室を後にした。
帰り際、夕に今度の日曜日に行くと言われ、承諾をした。しかし、その時はとくに気にしなかったが、家に帰った途端に何かを忘れているような気がした。
「ただいまー」
「あっ、桜ちゃんおかえり」
ふりふりエプロンにお玉を持って、妹の空色がお出迎えしてくれた。
うん。我が妹ながら可愛い♪萌えるし和むな……
「鈴ちゃん遅くなるって。先にご飯食べてていいってさ」
「ゼミかな?まぁそういうなら先に食べようか」
食卓には空色が作ってくれた夕食が置かれていた。手を合わせ、「いただきます」と言って口に運ぶ。相変わらずおいしい。いい嫁になるな、これは。
「そうだ、今度の日曜、夕が来るから」
「………来るのはいいけど、約束忘れてないよね?」
「約束?」
「ランキング戦」
「あっ………」
これか。何か忘れていると思ったら……そうだ……シューティングゲーのランキング戦。昨日、空色と約束したんだった。
「その様子だと忘れてたでしょ……」
ぶすっとした空色。そんな顔もまた可愛いな!!
「あぁ……夕に連絡しとく。それって朝?それとも昼?」
「朝の10時から。エントリーが9時半〜開始10分前まで。お昼には終わる」
「了解。夕にLINEしとく」
夕に、詳細も含めて日曜日の予定をお昼からに変えてもらった。すると、「俺も見に行く。おもしろそう」と返信が帰って来た。
「夕もランキング戦見学で来るってさ」
「なら、そのままお家にゴーだね」
もぐもぐとご飯を食べる空色がポツリと「ポトフ食べたいなー」とか言った。つまりそれは、その日のお昼に作ってくれとう事だ。まぁ約束忘れてたし仕方ないか。
そういえば蘭花も来る的な事言ってたけど、ホントに来るのかな?
「ごちそうさま」
食器を片付け、部屋に戻った時に蘭花に確認の連絡をした。
「まぁ桜花らしいかなー」
日曜日。結局、蘭花も来る事になって五人でゲーセンに向かった。
鈴兄ぃは今日も学校なので欠席。凛ちゃんとも途中で合流し、プレイアー3人、見学者2人という感じだ。
「よし、上位三つともとるぞ!」
「だね」
「ふ、二人に勝てる自信が……」
なぜか怯えた感じに震える凛ちゃん。いやいや、私に怯えないで。どっちかって言うと、ゲームしてる時の空色の方が怖いから。
「うっわ!人多っ!」
ゲーセンにつけば、一角が人で溢れていた。ほとんどが参加者だ。
「お、おいあれ………」
「姫だ!」
「マジか!本物!?」
と、周りの人たちがこちらを見て、というか空色を見て「姫」と言っていた。
一部では「ゲーセン荒らし」とも呼ばれている空色は、いろいろなゲーセンを邌り歩き、ゲーム機の上位に自分の名前を刻む。どんなに一位をとろうと、翌日には空色に塗り替えられる。
敬意と尊敬の意味で「姫」。悪意の意味では「ゲーセン荒らし」というわけだ。
「桜ちゃんが先だね。私とは……決勝か」
「私が決勝行く前提で進めないで!」
「大丈夫、桜ちゃんなら出来るよ」
感情のない表情でそんな事言わないでよ……
ゲーム機の前に立って深く肩を落とすと、隣にすごい大きな黒い影が映った。見なければよかったと後悔したのは、振り返ってからだ。
「よぉ、嬢ちゃんが相手か?」
分厚い筋肉につぶれたような顔面。萌えないか体と顔がそこにあった。
ガタガタと震えながら空色たちの方を見れば、親指を立てる妹と、「見てしまっか……」と頭を抱える蘭花と夕。心配そうにあわあわする未来の弟。
「悪いが勝たせてもらうぞ。決勝で姫さんをフルボッコしないといけにんだから」
「はぁ?」
一瞬にして私の中のシスコンスイッチが押されてしまった。
「てめぇごときが妹に勝てる分けないだろ。お前はここで私にフルボッコにされンだよ」
後ろでまた深々とため息の声が聞こえるが「いいぞー!」と空色と蘭花の声が聞こえた。
「こっの糞アマ!ぜってー跪かせて許しをこわせてやる!」
つぶれた顔がぐちゃりと歪む。
『それで、スタート!!』
合図と共に画面にゾンビがうじゃうじゃと出て来る。でも、そんなの関係ない。伊達に空色とゲーム対決して三割勝ちしてない。こんな奴ぐらい楽勝だ。
周りの歓声、隣から苦戦の声が聞こえる。
凛ちゃんもいないし、たぶん問題なく決勝に行ける。悪いなモブ達よ。決勝は私と妹の勝負と運命は決まっている。
【Perfect】
『勝者、虹丿桜花!』
歓声が沸き起こる。内心パーフェクトだった事にガッツポーズした。
初戦勝利。隣の人は唖然と画面を見ていた。
「桜ちゃ………」
「空色ぁああああ!目の洗浄!目の洗浄!」
見てはいけない物を見て、とりあえずこの場で一番綺麗な物である空色で目を洗った。あー我が妹ながら可愛いな。ふわふわのきゅるんきゅるん♪
「桜花、危ない目してるぞ………」
「桜花なら、妹でも手を出しそう」
その言葉に否定はしない。とりあえず、会場は盛り上がる。凛ちゃんも空色も初戦は勝利する。んで、どんどん勝ち上がり、準決勝第二試合で、凛ちゃんと空色が対戦した。
「負けないよ、空ちゃん!」
「うん。勝って桜ちゃんと勝負しないといけないから加減しない」
はい。私も無事に決勝進出して、勝った方と戦うのです。いやー、でもたぶん勝つの空色だしなー。
「なんていうか、他の奴らってお前らの引き立て役になってないか?」
「ま、まさかのマッカーサー………」
「いやいや、そうだって。哀れ……」
手を合わせる蘭花。私も夕も何となく手を合わせた。
と、なんだかんだやってると試合は終了。当然、勝者は空色だ。
「凛ちゃんお疲れ。残念だったね」
「いえ……お姉さんも頑張ってください」
「なるべく僅差で負けたいね……」
凛ちゃんとハイタッチをして、そのままゲーム機の前に立つ。
隣では空色が大きく欠伸をしている。なんか余裕そうで羨ましい。だが、姉として負けるわけにはいかない。
『では、スタート!』
合図と共に、ほぼ同時に引き金を引く。
後ろから歓声が上がる。五分五分の争いだと周りは思っていると思うが、実際私の方が若干ヤバい……このままだと僅差で負ける。
くっそ……さすがにゲーム廃人には敵わないか……
『勝者!虹丿空色!』
歓声が起きる。私はそっと銃を降ろして一息ついた。まぁ姉妹で1・2取れたんならいいとするか。
こういうイベントって、写真となんか景品もらえるんだよな……何もらえるんだろう。
「桜ちゃんお疲れ」
「あはは……さすがゲーム廃人である我が妹だ。勝てないわ……」
「でも、僅差は桜ちゃんだけだよ」
なでなでと頭を撫でてあげる。ゲームの姫にそう言ってもらえると中々うれしい物がある。
「それでは、お二方は今から写真撮影を行います。その後は景品のお渡しを」
ゲーム機の前で、姉妹そろっての記念撮影。その後は、カメラマンさんに頼んで、凛ちゃんと蘭花、夕も混ざって写真を撮った。
「あー、つっかれたー!」
ゲームセンタをー出て、全員が向かうは我が家である虹丿家だ。
商品は、さすがに現金という訳にもいかず、空色はゲームセンターにあるクレーンゲームの中から好きな景品をただもらえ、私は5枚セットクレーンゲーム無料券をもらった。
「空色さん、ポトフでよろしかったですか?」
「うみゅ……」
ギュッと、景品にもらった大きなぬいぐるみに顔を埋める妹は、それはそれは可愛い物だ。
「三人も食べてく?」
「ごち!」
「俺はどちらにせよお前と打ち合わせだから」
「ご迷惑でなければ!」
時刻は12時。買い物をして、お昼ご飯を作ると考えると、少し遅目のお昼となるだろう。