私の世界
いつから。と聞かれてもちゃんと答える事は出来なかった。
生まれた時からそれにふれ、気づいたときにはその世界に入っていた。
いつからその世界の住人になったのかも分からない。
小学校高学年ではすでにもう住人だった。
どんなにそれについて質問されても、私も、兄も、妹も答える事は出来ないだろ。
私たちにとってはそれが当たり前で、他人とは違うのは分かっている。
世界に何十億という人間がいるんだ。人によって感じ方も考え方も違う。
そう、だから。私が二次元を好きすぎて、二次元にしか恋愛出来なくなったのも、どうして?と聞かれても答える事は出来ないのだ。
「空色ぁー。遅刻するぞー」
空は快晴。気温最高の今日この頃。
季節は春となり、睡魔よようこそ!という暖かな季節。かすかに覚醒し始める意識の中、わずかに聞こえる兄の声。
「ふわぁ〜……桜ちゃんは?」
「まだ夢の中だ。起こしてくるからお前は先に下におりてろ」
「ラジャー……」
まだ眠そうな妹の声。完全に眠気のとれてる兄の声。そして鳴り響く部屋の扉をたたく音。
「桜花、起きろ」
と言われて起きるのは空色ぐらいだろう……。私はあえて抗う。
何度も響くノック音。だが、しばらくすればその音もやんだ。だけど、ホッとするのとは逆に、嫌な予感がした。まさか………。
バンッという破裂音が聞こえて飛び起きた。視線の先には無惨な姿の扉の姿が。
「おはよう」
何事もなかったかのように兄がそういってきた。唖然とする私は、カタカタと震えながら挨拶を交わした。
「お、おはよぉ………」
「早くおりてこいよ。飯できてるんだから」
そのまま兄は階段を下りていくが、いやいやまてまて!扉直していけよ!
扉全開でどうしろって言うんだよ!
「鈴兄ぃ、扉直してよ!」
どたどたと階段を下りて兄にそういうが「んー」と生返事された。
「桜ちゃん遅い。というかうるさい」
「鈴兄ぃのせいだよ。扉壊された」
「桜ちゃんが悪い。といいたいけど、鈴ちゃん女の子の部屋の扉壊したらだめだよ」
「帰ったら直す」
「それまで公開処刑ですか!?」
あんまりだ。思春期の女の子の部屋が全開オープンだよ!!
兄は特に悪気もないし、妹も妹でそれ以上何も言わなかった。
食卓にいるのは私たち3人。
父は単身赴任で、母も仕事の都合上あまり家には帰らない。
一軒家を兄妹3人で使っているような感じだ。
「お前ら飯食ったら着替えてこい。もうそろそろ行くぞ」
「空色ぁー……どっかの誰かさんが扉壊したせいで着替えられないから部屋行ってもいいですか……」
「うん、おいで」
あぁ……いい妹だよ君は。朝ご飯を食べ終わると、一度自分の部屋に戻って制服を手にして妹の部屋に行って着替えをする。
「空ちゃーん♪」
三人で家を出て、途中まで兄も一緒だったが、兄は電車のため途中で分かれた。
妹の中学も途中まで一緒なのでいつも登校は一緒。
んで、いつも決まった場所で妹に迎えがくる。
「おはよう凛ちゃん」
妹に声をかけた凛ちゃんこと凛太郎君。男の娘的子だ。
妹ほどではないが、彼もまたゲームが好きな妹の数少ない友達だ。
「お姉さんおはようございます」
「おはよう凛ちゃん」
ちなみに、彼が私の事をお姉さんと呼ぶには理由がある。
「空ちゃん、この前はごめんね。しっかりフォローできなくて」
「ううん。私こそごめんね」
「次はしっかり僕が守るね」
短いやり取りだけでは分からないと思うが、彼は妹に恋心を抱いている。妹は気づいていないが。
なので、私の事をお姉さんと呼ぶ。ちなみに兄はお兄さんだ。
「じゃあお迎えも来たし、私は行くね。空色、よるご飯頼んだ」
「ラジャッ」
びしっと敬礼をする妹を確認すると、私は高校まで駆け足で走り出した。
「あっ、蘭香ぁー」
前方に見知った人物を見つけた。ダッシュで彼女のもとへ駆け寄った。
短髪が特徴な少しだけボーイッシュな彼女は、同じ部活に所属する蘭香。同種です!
「おはよぉー、妹は無事に送り届けたか?」
「さっき、いつか弟になるであろう子に渡してきた!」
「おっ、桜花は認めてるのか」
「認めてるも何も、空色が気づいてないし。逆に申し訳なくて応援してる感じ」
「本音は?」
「将来男の娘の弟が出来たらうれしいです!」
「だよねー」
あははと笑う蘭香。笑うと可愛いよな……
「で、現実突きつけるようですが、今日の1限目小テストですよ」
ぐっ……忘れていたのに……あえて消去してたのにこいつめ……
「おーい、漫研二人ぃー」
背後から聞こえた聞き覚えのある男の声。
振り返れば予想通りの人物がいた。
「おーっす、地上峰」
「おはぁー、夕」
彼は私のリアル幼なじみの地上峰夕。名字がなんだかすごいが、そこはあえていつも突っ込まないでいる。
「おっす。これ、借りてた漫画返す」
「おーどうだった?」
「面白かった。途中、お前の好きそうなキャラだなーって思いながら読んでた」
彼は基本読書家だが、漫画やラノベなんかも読んでいる。
最近は私のオススメの本なんかも貸したりしてる。
「文化祭はなんかだすのか?」
「毎回ながらの漫画集だと思うよ。『年刊ドリーム』」
ちなみにこの名前の由来は部員たちの夢、すなわち願望がつまってるという意味だ。命名した当時の部長さんはすごいな……
「じゃあ今年も買いにいくわ」
「お買い上げありがとうございまーす」
「あざーっす」
夕はうちの部の常連さんだったりする。ちなみに私たちも夕の所属する文芸部の常連さんだったりする。
「またイケメンだしてねー」
「はいはい」
クラス、というのはあまり好きではない。というか他人が好きではない。
同じ志を持つ同士なら話は別だが、それ以外はほんとに好きではない。
何考えてるか分かんないし、話し合わないし。
なので極力、蘭香以外とは話さない。
なので、クラスではあまりいい印象は抱いてないと思う。
「で、今週はもうホントかっこよくてさ」
「大好きだね。私はやっぱり敵役かなー。おじさまキャラは強し」
「しぶいのはあんまりなー」
話の内容はいつもアニメだ。あれはどうとか、あそこはかっこよかったのだの評価してる。昔のアニメに比べたら動きもいいし綺麗だし。あっ、別に昔のアニメを悪く言ってる訳ではないよ、昔には昔の良さがあるし。
「んっ、空色からLINEだ」
「授業中なんて珍しいね」
「おぉー興奮気味だなー」
「なんだって?」
「なんかね、今度の日曜日近くのゲーセンでシューティングゲーのランキング戦があるらしくて、一緒に参加しないかって」
我が妹、空色は一言で言えば「ゲーム廃人」である。
全ての時間をゲームに費やすほどで、学校でも何度かゲーム機を没収されている。
家でも、兄妹で対戦すると圧倒的に妹が強い。兄は一番弱いけど。
趣味が私と少し似てるのでそれなりに話なんかもしてる。こういったイベントがある時も、基本的に誘われる。
「日曜……何もないしいいかな」
「応援行くー」
恐らく男比が高いだろう。その中で、妹が一位になる事を願う。
というかたぶん妹が一番だと思うけど。
「また引きこもるなー……」
少しだけ心配だ。
いつもこういった大会の前になるととことんゲームをやり込み始める。
妹にとって、世界というのはゲーム。ゲームの中で自分は自分でいられると言っていた。
*
放課後になり、私は蘭香と一緒に部室へと向かう。
私たちの所属する漫画研究部は、創立6年ぐらいたつという。それなりの歴史ある部活だ。
部員数は現在6人。一学年2ずつ入っている。
しかも、1年は二人とも男子です。しかもかなりのイケメンです。
「北斗君と疾風君は、まだ入学して日は浅いけどだいぶ環境に慣れてきたよね」
「最初はすごかったよね。腐女子の巣窟だし」
先輩部員全員が腐女子という事もあり、最初はたじたじだった新入部員二人も。今ではそれなりに仲良しさんだ。
「桜花は懐かれてるよね」
「えっ、そう?」
「うん。いっつも、虹丿先輩!虹丿先輩!って、犬のような感じ」
確かにほかの部員に比べて懐かれてる感じはするなー。なんでだろう?
「ちわーっす」
部室の扉を蘭香が開いて挨拶する。すると、蘭香を押しのけて新入部員二人がやってきた。
「こんにちは虹丿先輩!」
「こんにちは!」
目をきらきらと輝かせる後輩二人。
黒田北斗君と緑音疾風君はオタクとは無縁な感じのイケメン二人だ。
だが、好きなアニメを聞いたとき、私は仲良くなれると思った。私の大好きな作品だったからだ。
最初はたじたじに先輩たちの話を聞いていたが、今ではすっかり打ち解けてお話ししている。
「先輩、昨日のアニメ見ましたか?北斗と話してたんですけど、戦闘シーンがすっごくかっこ良くて」
「わかる!あの描写はアニメではどんな風に描かれると思ったけどかなりかっこよかったよね」
「はいはい、話すなら中で話そうね」
そう声をかけたのは、我が部活の部長である赤原クミン先輩だ。後ろには副部長の青根琴美先輩がいる。
「こんちわーっす先輩」
「こんにちは」
「こんにちは。さて、部員全員そろったことだし、文化祭の話しをしましょうか」
部室の自分の席に腰掛けて、部長席の背後にあるホワイトボードに大きく文化祭と書かれていた。
「実は、皆に相談があるの」
「先輩が相談だなんて珍しい」
「今回の文化祭は、文芸部と合同にしようと考えている」
部員全員で「おぉー」と声を上げた。
詳しい事を聞けば、文芸部の部員一人と二人ワンペアで合同作品を作るという。文芸部が書いた小説の挿絵と表紙でもいいし、文芸部が原案を書いて私たちが漫画にするもよしという感じらしい。
勿論、文芸部と漫研のそれぞれの作品集も出すが、主なメインはこの合同作品集らしい。
「その名も『年刊ドリームワールド』」
「年刊なの!?」
「ネーミングセンスださ……」
「ただ二つの作品集の名前合わせただけじゃん」
「そんな否定しなくてもいいじゃん!」
各々が感想を述べた結果、先輩を泣かせるはめになった。だが、私自身もネーミングセンスの方にはツッコミたかった!!
と、文化祭の合同の事も決まり、明日の放課後の部活はその打ち合わせという事で、文芸部と我らが漫研の合同ミーティングをするらしい。
「桜花はもう相手決まってるんでしょ?」
「「!!」」
「まぁ無難に夕かな。打ち合わせしやすいし。私の世界観をなんとなくでも理解してくれている!」
「超大作にならないようにね」
あぁーさすが蘭花。それを言われなかったら、私は超大作を作ってしまうところだった。ちなみに、実は今こつこつ書き始めている作品があったりして………
「まぁペア決めは明日に。とりあえず、私たちの本来の年刊誌である、年刊ドリームなんだけど、今回一年二人に表紙と裏表紙を書いてもらおうと思う」
「それ、毎年恒例じゃないですか」
「いやいや桜花。今までと違って、今回は男の子メンバーが描くんだよ?」
「はっ!なるほど……去年のような、ギリギリ薔薇イラストではなく、健全な表紙を期待できると!」
ちなみにその表紙を描いたの私だったり……てへぺろ♪
「というわけだから、北斗と疾風は文化祭まで大忙しで申し訳ないけど、頼むね」
「「はい!」」
「んじゃあ今日は解散。あっ、ドリームの方のネームはGWまでには提出してね!」
今年は何を描こうかと考えながら、私は大きく背伸びをして部室を出て行った。
で、蘭花と途中まで一緒に帰りながら全力でアニメの話しをした。
「桜花」
と、ちょうどいいタイミングで鈴兄ぃのご帰還だった。
「こんばんは鈴音さん」
「おう蘭花。ご機嫌だな。またアニメの話しでもしてたか?」
「まぁこればっかりは」
少し照れる蘭花。何気に蘭花は鈴兄ぃを慕っている。まぁ、兄ぃの強さと人柄に触れれば当然の事だけど。
「じゃあ、桜花のことお願いします」
「おう。いつも悪いな」
「いえいえ。じゃあ!」
軽い敬礼をして、蘭花は去っていった。
何気に鈴兄ぃの中では、私の保護者欄に蘭花の名前が記入されてる。あっ、夕もなんだけどね。
「鈴兄ぃ、帰ったら扉ソッコーで治してよ!」
「あっ、忘れてた」
「忘れんなよ!!」