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東方作家萃 ~Phantasm Novel Union~  作者: PNU
第一回企画<紅魔館の部>
9/20

KNU ―紅魔館小説同盟―<作者:カデツェ>


「小説を書くわよ!!」

 夕闇が迫る黄昏時、紅魔館一同――何故か門番の美鈴もいる――を食堂に集めて、レミィはそう宣言した。なにを言ってるんだこいつは。某女子高生の憤慨じゃあるまいし。私、紅魔館の頭脳ことパチュリー・ノーレッジは大きくため息をついた。

「またお嬢様の気紛れってやつ?」

「それは聞き捨てならないわ、パチェ」

 びしっ、と私を指さした。でも全然迫力はない。だって、よく王族とかが使ってる長机に私たちは座っているから遠いし、そもそもレミィが小さい。特に胸、胸、胸が。

「しつこいわね!! 気にしてるのにぃ!!」

「なに地の文読んでんのよ」

 レミィはちょっと泣きそうになった。というか気にしてたのね。必死に手で隠しても無駄よ。

「大丈夫ですお嬢様、そちらの方が絶対的に素敵です!!

 彼女の斜め後ろに立っていた咲夜が、身を乗り出して力説した。『完全で瀟洒な従者』の二つ名が泣くぞロリコン。鼻血出てるし。

「ぐすっ……、ふ、ふふ。そうよね。パチェみたいに、ただ大きければいいってわけじゃないもの。私の様にコンパクトで美しい方が――」

「で、何がしたいの?」

「おっとそうだった」

 どうやら忘れていたらしい。彼女には胸の方がよっぽど重大な事のようだ。あほらし。

「そんなことないから!!」

「だから読むな」


―閑話休題―


「えーっと、何故、小説を書こうと言ったのかわかるかしら?」

 こほん、と一息いれてから、レミィは切り出した。……なんでこっちに訊くのよ。わかんないから説明を求めてるんじゃないのこの貧乳。下着にPADでも入れておいてあげましょうか?

「はーい」

「はい、美鈴さん」

 心の中で悪態をついているうちに、私の左前に座っている美鈴が挙手し、レミィがまるで生徒を指す教師の様に、彼女を指名した。

「紅魔館が財政なグハッ!?」

「それは私に対する冒涜かしら?」

 最期まで言い終わる前に、美鈴の頭にナイフが深々と刺さった。咲夜が時を止めて殺ったのだろう。微笑みを絶やさないのが逆に恐怖感を煽っており、彼女の背後から黒いオーラが出ているように見えた。

 お金の管理をしている彼女が怒るのも無理はない発言だったし、美鈴の自業自得といえる。口より先に手が出る咲夜も問題な気がするが。

 だが、家計が赤字になり気味なのは事実だ。某魔理沙が私の本を盗んだり、妹サマがいろいろ壊したり、お嬢サマが無駄遣いしたりとか。なので彼女はその事にあまり触れてほしくないようだ。

 ふと、前を見たら、私の反対側、美鈴から見て左隣に座っているフランが、声を押し殺して笑っていた。呑気ね。

「じょ、冗談ですよ咲夜さん。あはは……」

「ほぼあってるわよ美鈴」

「正解なの!?」

 美鈴が謝罪したが、レミィが爆弾発言をしたせいで思わずつっこんでしまった。まさかそんな理由とは。咲夜の顔が青い。美鈴の表情は引きつり、こぁはさっきから私の隣で苦笑いをしている。

「勘違いしてるようだから言うけど、少しでも咲夜の悩みを解決する為に、皆で小説を書いて大儲けしようと思いついたのよ!!」

 ふーん、レミィも気にはしていたのね。ちょっと関心した。いささか手段が不適切な気がするけど。

「どうせ馬鹿みたいな理由で私たちを振り回そうとしてたのかと思っていたわ」

「さっきから失礼ね」

 レミィは顔をしかめた。そう思われても仕方ないような事をいつもやっているじゃないか。

「お嬢様……、ありがとうございます……!!」

 さっきとは打って変わり、咲夜は嬉し涙を流している。それにしても感情豊かなメイドね。私なら、レミィの言動に毎度一喜一憂していたら身がもたない。主にストレスで。

「お姉様お姉様」

「ん? どうしたのフラン?」

「本当は?」

「面白そうだから!! ……あ」

 空気が凍りついた。私たち全員は唖然とし、レミィはしまった、と言わんばかりに大量の汗を浮かべ。……やっぱり気紛れじゃないの。さっきまでの私の気持ちはどうすればいいのよ。

「と、とにかく、みんな、やってくれるわよね?」

「…………」

 沈黙こそが答えである。フランが笑い転げている声のみが部屋に響く。レミィがあまりに上手く引っかかったのが嬉しいのだろう。……ある意味悲しいような。

「はいは~い、しつもーん」

 この場の雰囲気とは対照的な明るい声で、フランが発言した。

「な、何かしら?」

 一方、レミィは落ち着きがない話し方。これ以上ボロを出さないように警戒しているのだろうか。正直、もう遅い。

「一番いいお話を書いた人には、優勝商品とかあるの?」

 今更景品とか教えられてもねぇ。

「え? うー……、し、しばらく主人交代の権利とか?」

「やりましょう!!」

「え、ちょっ」

 数秒経ってから出た答えに、ほぼ全員の声が重なった。そういうことなら俄然やる気が出てくる。主人交代とは、レミィにしては豪華ではないか。何故か彼女は動揺してるけど気にしない。

 しかし気掛かりなところもある。もしフランが優勝だったら……。考えるだけでも恐ろしい。これは、なんとしても勝たなくては!! 私は一人、決心をした。


 ちなみに、咲夜は「私が主人なんて……」と言って辞退しようしたが、「レミィを好きにできるかもよ」と耳打ちしたら、「絶対優勝します!!」と意気込んだ。鼻血を垂らしながら。ダメだこのメイド、もうどうしようもない。


「それじゃ、1週間後に提出よ。楽しみにしてるわ」











「というわけで1週間が経ったわ! 随分あっという間だったわね、パチェ」

「そうね、空白10行分しかなかったわ」

「仕方ないじゃない、短編なんだから」

「というかこんなにメタフィクションな会話して大丈夫なのかしら?」

「何を今更」


 そんなこんなで1週間後。

「さぁみんな、もちろん完成したわよね?」

「当り前じゃない」

「はい! お嬢様!」

「できてますよ~」

「うふふ」

「はーい」

 私たちは必死に書きあげた原稿を持って、再び食堂に集まった。ちなみに今の気味が悪い笑いはフランである。誰よ、変な事教えた奴。それにしても、一週間で小説一本はなかなかきつかった。昨日なんかは徹夜だったせいで、今もの凄く眠い……。

「それじゃあ、誰のからにする?」

「それでは私、紅美鈴から」

 早速美鈴が立候補した。よっぽど自信があるのだろうか。

 うう、そろそろ眠気が限界になってきた……。どうせ私の番は後の方だろうし、ちょっと寝よう。なので主観をレミィにパスする。おやすみ。


「これが私の小説です!!」

 私の前にやって来た美鈴が原稿を差し出した。かなりの枚数書かれており、ずっしりとした重さが私の腕にのしかかった。重い。多分百枚以上ある。何故このやる気を仕事に生かせないのか。

「で、では、読ませてもらうわ」

 一枚目には大きな文字で『自伝』とあった。多分タイトルだろう。

 ……えー。美鈴の自伝なんて読みたい人いるのかしら? 少なくとも私は興味がない。しかもこの厚さ。正直目眩がする。が、一応、審査員的な立場であるのだから読まなくては……。覚悟を決め、一枚目をめくった。さぁ、読もう。えーっとなになに……。


『从前,一人的妖怪在』


「漢文んんんんんっ!!」

 私が急に叫んだので、みんなはビクリと肩をふるわせてからこちらを見た。

「五月蝿いわね。せっかく気持ち良く寝ていたのに」

 パチェも気怠そうに身体を起こした。いつの間に寝ていたのよ。やる気ないのかしら?

「っと、そんなことより、美鈴!! なんなのよこれは!?」

「なにって、私の一生を虚構も交えて書いた小説ですが……」

「ノンフィクションですらないのか!? ええい、私が言いたいのは書き方よ!!」

 あまりに腹が立ったので、原稿をテーブルに叩きつけてやった。

「見なさいよこれを!! 漢文よ!! チャイニーズ・ライティングよ!!」

「私にはこれが当たり前なんですが……」

「その常識は激しくマイナーだよッ!!」

 というかこれ、普通に中国語なんじゃないの? こんなの読める人いな……。

「えっと、『昔、一人の妖怪がいた』って書いてありますね」

「こぁ読めるの!?」

 さらっと和訳された。い、以外だわ……。こぁが中国語できるなんて。地味キャラにしては凄いわね。(その言い方は気にくわないわ、レミィ)パチェ!? 地の文に入り込むとは何事!?(別にいいじゃない。さて、私はもう一度寝るわ)な、なにがしたいの……。

 うー……、そんなことより。

「と、とにかく、これはボツよ。出版して売る予定なんだから、誰でも読めなくちゃ駄目。書き直しなさい。それと、せっかくなんだから完全ノンフィクションでよろしく」

「そんな~、せめて最期まで読んでくださいよ~」

「やだ」

 美鈴は半涙目。最初から普通に書けばよかったものを。これ全部があの調子だと思うと恐ろしい。読まずに済んでよかったー。

「はい、次、誰?」

 席を離れ、部屋の隅っこでいじけ始めた彼女はほうっておく。

「では、恐れ多いながらも私が」

「オッケー、咲夜。頂戴」

 今度は咲夜か。一体どんなお話なのかしら。タイトルには『Scarlet Princess』とある。

「これは吸血鬼と人間の、種族の壁を越えた愛の物語なのです!!」

 私の気持ちを察したのか、簡単に解説してくれた。やはりよく気が利くメイドね。

 さっきの意味不明なのとは違って、なかなか期待できそうだ。……吸血鬼と人間、ってところが少し気になるけど。

「んじゃ、早速」


「失礼します。お呼びでしょうか、お嬢様」

 夜も深くなった頃、主人であるお嬢様に招かれ、私は寝室へとやって来た。どんな御用だろうか。この胸のざわつきは、緊張のせいではないだろう。

 私はお嬢様をお慕いしている。それが、使用人と許されざることだと知った上で。しかしお嬢様は人間ではない。夜の支配者たる吸血鬼だ。そして私は人間のメイド。壁は果てしなく高い。

「待っていたわ、さあ、こちらに来なさい」

 声で我に返った。こんな事を考えている場合じゃない。

 手招きされ、ベットに座っているお嬢様のすぐ近くまで行った。

「あの、御用は……」

「ふふ、夜の相手でもしてもらおうと思ってね」

「へ……? むぐっ!?」

 おっしゃった意味がわからず、茫然としている私にお嬢様のくちびるが重なった。――キス、されてる。お嬢様に。

 抵抗しないのをいいことに、お嬢様はそのまま私をベットに押し倒』


「はいアウトォォォォォォォォ!!」

 つい、手に持っているページを破ってしまった。でも、しょうがないよね。だってこれ、どう考えても私と咲夜だよね。話し方と立場的に。こんな事した覚えは無いけど。

 彼女が何時もこんな妄想をしているのだと思うと、怖い。これからはちょっと警戒しておこう。

「あぁ、お嬢様に音読してもらおうと、頑張って書いたのに……」

「絶対に断る!!」

 もうヤダこのメイド。

「はぁ……、アイデアは良かったから全年齢向けに直してきて……」

「……はい」

 咲夜はひどく落ち込んでしまった。でもこれじゃあ、ただの官能小説だよ……。

「他、まともなやつないの!?」

「そろそろ私の出番かしら?」

 つい荒げてしまった私の声に返答したのはパチェだった。いつの間に起きたのだろう。さっきの寝惚けまなこはどこへやら、図書館の主らしい凛とした表情を見せている。

「はいこれ、タイトルは思いつかなかったわ」

 原稿が入っていると思われる封筒をこちらへ投げた。無精者め。

 とはいえ、いつも本を読みふけっているのだけが取り柄のパチェだ。きっとかなりの良作が完成したのだろう。期待に胸をふくらませ、封筒を開けると――――。


 上手く言葉で表せないが、簡単に説明すると、裸の男二人が戯れていた。くんずほぐれつの大運動会だった。そっちの意味で。これを見た瞬間に、空間がひび割れ、崩れ落ちたような錯覚に陥った。私には、なにがなんだか理解できない。

 状況を整理しよう。パチェから受け取った封筒に小説が入っていると思ったら、腐った絵が出てきた。うん、意味不明。

「パチェ、ナニコレ……」

「挿絵よ、見ての通りだけど? 本編はその次のページからよ」

 見ればわかるでしょ、とでも言いたげだ。確かに、二枚目を見たら文字の羅列がある。嫌々ながら、念のために中身をさっと眺めてみたが、内容は予想通り、イラストから受けた第一印象と一致していた。

「珍しくアイディアがどんどんと湧いてきてね。かなり長く書いたし、挿絵まで付けちゃったわ。あ、レミィが持っているのは第一部ね。ほら、第四部まであるわ」

 どさっ、どさっ、どさっ、と同じような封筒が大量に。目の前が一瞬ぐにゃりと歪み、吐き気がする。もう……、無理……。

「これ以上……、警告タグを増やすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」――紅符「不夜城レッド」――

 我慢の限界が来た私は、スペルカードでパチェの醜悪な妄想の塊を消し炭にしてやった。

「わ、私の超大作がぁ……」

 彼女はそのゴミの前に跪き、涙ながらに嘆いていた。ざまぁみろ。


 次にこぁの小説を読んだが、咲夜のをパチェとこぁに変換した様な話だったので割愛。ネタ被りの上にアウト、馬鹿みたい。

 ちなみに、こぁの出番はこれで終わりである。残念でした。


「もう!! 1つぐらい、まともなの書いてないの!?」

 結局、ろくな小説が無かった。読めない、百合、BL……。この館には常識人はいないのだろうか。私は頭を抱えた。

「まず主人が常識的じゃないもの」

 すでに立ち直り、新たに執筆しなおしているパチェが言った。ずいぶんな事言ってくれるわね。

 彼女には誰もが安心して読めるような小説を書くように命令した。そしたら「最初からそう言ってよね。はぁ、面倒くさい」と返されたが、渋々了解してくれた。彼女はどこに向けて才筆をふるおうとしていたのか、甚だ疑問だ。自分のが大衆向けではない事は承知していたみたいだけど。

 ほかのみんなも書きなおし作業に勤しんでいた。ちょっと覗いてみたが咲夜なんかはかなり良さげだった。こぁも悪くない。

 一方、美鈴は未だに部屋の隅でいじけていた。もう放っておこう。

「んじゃ、とりあえず今日は一旦解散……」

「レミィ、忘れてる」

「え?」

 これで集まりは終わりにして自室に戻ろうと立ち上がったら、パチェに呼び止められた。何かあったっけ?

「これ」

 と、パチェは安らかな寝息をたてているフランを指差した。……あ。

「いけない、フランがいた」

「実の妹を忘れるとは最低ね」

 私だって好きで忘れたわけじゃない。暇すぎて寝てしまったのだろうと思うが、本文に全くと言っていいほど出てこなかったこの子が悪い。あんな汚らわしいものを見せずに済んだのは幸いだけど。

「で、起こす? フランも書いてきたみたいだけど」

「んー……」

 別にいいような気がする。はなから彼女には期待してないし、それに、このままいけば苦渋の提案であった「1日主人交代の権」を無かった事にできるし。

「ほら、起きなさい」

「痛たたたたた!?」

 あ、やっちゃったよ。私は諦めの溜め息をついた。それにしても頬をつねるのはどうかと思う。それも本気で。

「うあー、なんなのパチェ……」

 顔を上げたフランの瞳は涙で濡れていた。痛みのせいか、欠伸のせいかはわからない。

「ほら、次は貴女の番よ」

「えぇーっ、みんなのはー? 私も読みたい―」

「だだだだだ駄目よ!!」

 机をバン!! と思い切り叩いて無理矢理話を遮った。それだけは絶対に阻止せねば。

「なんでよー、お姉さまの意地悪」

「そ、そんなことより、私はフランのが早く読みたいわ」

「あ、うん。いいよー」

 彼女は頬を膨らませ、不愉快な気分を隠そうともせずに不満を述べたが、話題を逸らすのは簡単だった。単純な奴でよかった。

「はい、お姉様」

 手渡された原稿用紙はほんの数枚だった。それにはがっかりしたが、字は予想外にも綺麗に書けていた。一体どこで習ったのだろう。私は教えた覚えがないから、パチェか咲夜あたりだろう。意外とこぁだったりして。少なくとも美鈴ではないことは確かだ。

「あのね、お姉様の為にがんばって書いたからね、ちゃんと読んでね。パチェに本を借りて文字を書くお勉強もしたんだよ!」

「そ、そう」

 少し顔を赤らめながらも、満面の笑みで自分の頑張りを報告する様子は、我が妹ながらとても愛くるしく、抱きしめそうになった。顔もにやける。く、姉としての威厳が。とはいえ、自分の為に努力してくれることに不快な気分になる者などいないだろう。

 それにしても、ほぼ独学でこの達筆とは。素晴らしいというか末恐ろしいというか誇らしいというか妬ましいというか。

「ふふっ、お利口な妹さんですこと。お姉サマは幸せね」

「ちょっ、ちょっとパチェ、からかわないでよ」

「んもー、早く読んでよー!!」

 嫌な微笑みを浮かべるパチェの茶化しに対応していたら、フランに急かされた。うぎぎ、また不機嫌になられたら大変だ。まわりの連中がニヤニヤしているのが少し頭に来たが、無視するのが得策だろう。突っ込んだら負けな気がする。

「……読むわね」

「うん!!」

 そう言うと嬉しそうに大きく頷いた。畜生、顔が熱い。またパチェたちに何か言われそうだ。勘づかれないように、視線を机の上の文章に落とした。




「ぐすっ、えぐっ……」

 いつの間にか私は泣いていた。フランに泣かされるなんて、思ってみたこともない。原稿を濡らすわけにはいかないので、少し離れたところにキッチリ揃えて置いた。

「久しぶりに、ひっく、感動したわ。何年も幽閉された少女の悲劇、そこから生まれる狂気、そして儚い希望……。それらが素晴らしく重なり合っていたわ……」

 簡単に感想を述べた。本当に良い。まさかここまでの技術を持っているとは。

「グスッ、咲夜、ティッシュ」

「こちらに」

「ありがと。ずびーっ」

「お嬢様、はしたないです」

 声をかけた次の瞬間には、すぐ横にティッシュが差し出されていた。執筆の最中でも私の命令を最優先にしてくれる彼女に感謝しつつ、鼻をかんだ。

「ふぅ、落ち着いた。これはフランが優勝でいいわね。他は全員失格だし。いや、たとえ全員大丈夫でも勝てないでしょうね」

 それほどまでに優れていた。遠くから「そんなに良かったかしら、これ」という声が聞こえたような気がしたが、きっと空耳だろう。私は偏見など持っていないはずだ。

「というわけでフランが優勝よ。おめでとう」

「本当!? やったー!!」

「「おめでとうございます、妹様!!」」

「えへへー、ありがとー」

 自分の作品への評価どうなるか不安になったのか、読んでいる間オドオドと狭い範囲を歩き回っていたフランであったが、私の言葉を聞いた瞬間ぱあっと表情が明るくなり、万歳をして喜んだ。それに咲夜や美鈴、こぁ、そして知らぬ間に集まっていた妖精メイドたちが祝福の声と拍手が重なった。

「あ、あのさレミィ……」

「何? 今いいところなんだから水を差さないでよ」

 この場の雰囲気とはひどく対照的な、まるで絶望を味わった死人のように顔を青ざめさせたパチェが何か言いたげだったが、今は耳に入れたくない。彼女のことだから、どうせ良くない事なんだろう。そんなのに高揚している気分を壊されたくない。

「さて、改めておめでとうフラン。何か一言もらえるかしら?」

「んっとね、とりあえずお姉様、そこどけ」

「……へ?」

 自然な言葉の流れに乗せて、フランはそう言い放ったが、私は何でそうなるのか理解できず、茫然としてしまった。先程まで歓声を上げていたメイドたちも、電源が切れてしまったかのように静まってしまった。

「聞こえなかったの? そ、こ、ど、け」

 いや、意味はわかったのだが、何故その言葉を言われなければいけないのか、頭の処理が追いつけなかった。

「ど、どうしてそうなるのかしら……?」

 可能な限り平静を装って返事をしたが、自分でも声が震えているのが感じられる。

「自分で言ってたよね? 優勝した人はしばらく主人交代の権利って」

「あ」

 すっかり忘れていた。ついさっきまでこの事を危惧していたのに。なんて私は愚かなんだ。パチェもこれが警告したかったんだろう。

「だから私がしばらくゴシュジンサマになるわけだし、その席には私が座るべきだと思うの。だからどけ」

 少しずつフランが近付いてくる。ちなみに、彼女はここまでずっと笑顔を絶やしていない。なのに恐怖を味あわせるようなその迫力は、正に悪魔だった。いや吸血鬼だけど。

「そこまでよ!!」

 突如部屋に響いた声。まるで救いのヒーローの様だった。全員がその方向に顔を向けると――パチェだ。

「まだ優勝は決まってないわ!! 暴虐の限りをつくす君主なんて認めるもんですか!!」

 右手を前に出し、決めポーズをとりながら叫んだ。日常でそんなことされても寒いだけだが、今の状況では彼女に後光が差して見えるほどだ。この一件が終わったら、ちゃんと感謝しよう。

 しかし、まだ優勝は決まってないとはどういうことだろうか? 妖精メイドたちが書いて来るわけないし……。ま、まさか、この短い時間で彼女は書き直したというのか。さすがパチェ、頼もしい!!

「というわけでレミィ、よろしく」

「へ?」

 さぁどうぞ、と手でジェスチャーされた。いや、何すりゃいいのよ。さっきから説明不足な奴が多くて困るわ。

 愕然としている私を見かねたのか、パチェが再び口を開いた。

「あんたはまだ発表してないでしょう?」

 ……私? え、え?

「ちょっと言ってる意味が……」

「まさか書いてないの!?」

 彼女は飛び出してしまうんじゃないかと思うほど大きく眼を見開いた。一方私は彼女の様子と怒号にも近い叫びに驚き、たじろいだ。

「ふざけないで!! なんで言いだしっぺがやらないのよ!?」

 そ、そんなこと言われても……。最初からそんな予定無かったし……。うー、みんなの視線が痛い……。

「結局、私の優勝はゆるぎないってことでいいんだよね? うふふ」

「ああ、貧血が……」

 後ろから肩を掴み、フランは私に耳打ちした。きっと、とてつもなく残酷な笑みを浮かべているのだろう。倒れてしまったパチェはこぁに介抱されている。

「とりあえず、お姉様にはメイドになって欲しいな~」

 うぐぐ、いきなり命令か……。

「ええい、ままよ!! 全部私が原因なんだから、なんだってやってやろうじゃないのォ!!」

 真の君主は、たとえ負けたとしても潔く振舞うのよ!! ふ、ふふ……。あ、あれ、おかしいな涙が。

「チクショー私のバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 満月の光だけが輝く静寂の中に、私の叫びが木霊こだました。――長い夜になりそうだ。


 この後1週間、フランの我儘わがままで全員が苦労したり死にかけたりしたのは言うまでもない。



 余談ではあるが、あの後みんなの小説は無事出版され、幻想郷中に広まるほどの大ヒットを記録したのだが、一番人気なのは、こぁの作品だった。


 ……納得いかねぇ。



約9割の方々ははじめまして。カデツェと申します。

普段『MAD LOVE』というヤンデレ小説と『東方変人娘』という頭の悪い小説を書いてます。


さて、私のお話はいかがでしたでしょうか。「紅魔館の人たちに小説書かせたら面白いんじゃね?」という短絡思考から生まれ、気がついたら変態要素が大部分を占めていました。こんなのですが楽しめて頂けたら幸いです。


……へ? どうしてフランとこぁの小説がないんだ、ですって? 私にあんな小説書けるわけ(ry


それでは、ここらへんで失礼します。またお会いしましょう、ノシ。

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