東方野球録――終幕<作者:幻想郷の住人>
霊夢は立ち上がり、士気をあげるために叫んだ。
「さぁ! この回で決めるわよ!」
「「「「おぉー!」」」」
「んじゃ、かっ飛ばしてくるわね」
紫はバットではなく日頃使う傘を持ち出してきた。
やはり使いなれてるものの方がいいのだろうか。
「紫、頼んだわよ」
「は~いはい。わかってるわよ」
紫は霊夢の頼みに軽く手を振って答えた。
そしてバッターボックスに立ち、傘を構える。
チルノはここで驚愕の発言をした。
「ふん。おばさんは引っ込んでてよ!!」
この発言を聞いた直後、妖精達と映姫を除いて全員でヤバイ!!と思っただろう。
それはそうだろう。
紫にオバサンやババアといった言葉はアウトだからだ。
「だ、誰が………」
紫は傘を持ったまま固まり…………
「誰がオバサンだって!?」
怒りを込めて叫んだ。
霊夢達はチルノを見て、
「バカだ………」
と口を揃えて言った。
「あのバカのお陰でうちのチームに得点のチャンスだな」
「そうね。あとは紫に任せておきましょうか」
ベンチでは紫への期待が高まったようだ。
一方、紫は
「わ、私の事をオバサン扱いとは………死にたいようね…………」
振るえながらバットを構えていた。
「だって強そうに見えないんだもん」
「ならいいわよ。来なさい。全力で相手してあげるから」
「ふん!! ならいくわよ!! てりゃあ!!」
チルノは球速重視でストレートを投げた。
「甘いわね……そこぉ!!」
紫は傘を振り、ボールに当てて高く飛ばしたのを確認して走り出した。
「さすがにホームランにはならない……か」
「一塁、セーフです」
一塁にたどり着いてそこで止まる。
判定はヒットでセーフ。
「……次はわたしかな? まぁ出来る事はやるよ」
萃香は紫が打ったのを確認してベンチから出ていく。
「もう打たせないんだから!! ゼッタイに!!」
「いいねぇ。でも手加減はしないよ?」
「とりゃあぁぁぁぁぁあ!!」
チルノは投げる瞬間叫んだ。思いっ切り。
すると球速が上がった。
「お、速いねぇ……ならいくよ!!」
萃香はバットを振り、球に当てる。
だが、その球はチルノに向かって飛んでしまった。
「わっ!?」
チルノはグローブを前に突き出し、ガードする。
紫と映姫を除く者達は目をつぶり、この後に予想される事態を見ないようにした。
痛い光景を見たくないのだろう。
しかし、痛みのある鈍い打撃音ではなく綺麗な快音が全員の耳に響いた。
「アウトです」
みんなは目を開き、事態を確認した。
なんとチルノは球を取っていたのだ。
これには妖精側から安堵の声と歓喜の声が上がった。
「あはは。この試合、攻める事に関してはイイとこ無しかぁ。あははは」
萃香は笑いながら、ベンチへ戻っていく。
1アウトで次の打者は魔理沙だ。
「本気で飛ばすぜ」
魔理沙は箒を肩に担いでそう言った後、バッターボックスへ向かう。
霊夢は背後から見ていた。魔理沙がこっそり何かを隠し持っていることを。
(魔理沙………無茶しなきゃいいけど………)
外見冷静を保ちながら魔理沙を見送った。
「さて魔理沙選手がバッターボックスに立ちました。ここまでいい感じに進んでますね」
「えぇ。そうですね」
「チルノさんのシーンはどうでしたか?」
「怖かったですがファインプレーでなんとか取りました。これは奇跡でしょう」
「そうですね………おおっと!? ここで魔理沙選手がチルノ選手にホームラン宣言だぁ!!」
魔理沙は箒を持った腕をチルノに向け、言い放った。
「チルノ。ここで私はホームランを打たせてもらうぜ?」
「むっ!? アタイをナメてるわね!? いいわ!! アタイはアンタを抑えてやるわよ!!」
チルノは魔理沙の宣言を真正面から受け取り、真剣勝負をするようだ。
そしてチルノは思い切り振りかぶり、魔理沙に背中を見せるように体をひねって力を溜める。
今までのチルノの投法とは違った。
「これがついさっきアタイが考えた投げ方!! 喰らえ!! "ブリザード投法"!!」
チルノは体の捻りを戻しながら思い切りボールを投げた。
するとさっきよりも球速があがったのだ。
「っ!?」
魔理沙は驚き、振ることが出来なかった。
判定はストライク。しかもど真ん中。
「ふふふ………アタイったら最強ね!!」
「まさかここまでやるとはな………だが、宣言したことはちゃんとやるぜ!!」
魔理沙は箒を構えて目を閉じる。
「フン!! アタイの球は打たせない!!」
チルノはブリザード投法を使い、ボールを投げた。
それと同時に魔理沙は目を開いてカードを構えて叫ぶ。
「スペル発動! 『マスターブレード』!!」
叫ぶと同時に空から黄色く光を放つ雷の球が落ちてきた。
魔理沙はそれを箒にぶつけると光が弾け、箒が輝く。
その瞬間、箒の先端から巨大な極太ビームが出た。
「こ、これは箒が巨大なバットになりました!! 早苗さん!! これはアリですか!?」
「外の世界ではアウトですが、ここは幻想郷……野球であろうとなんであろうと常識にとらわれてはいけないのです!!」
「で、出たぁぁぁぁあ!! 早苗さんの常識にとらわれないという万能理由!!」
実況席は中々盛り上がっているようだ。
魔理沙は思い切り振りかぶり叫んだ。
「避けろよ全員、当たれよボール!! 目指すは場外、空の果てぇ!! マスタァァァァア!!」
魔理沙はバットを振り、飛んでくる球に当てて………
「ブレェェェェェドォォォォ!!」
空高く飛ばした。
高さはグングン上がり、ついには見えなくなってしまうぐらいにまで上がった。
そしてボールの高度は下がり、落ちてくる。凄い速さ…………隕石のような速さで。
ボールは場外に落ちた。大爆発でも起きたのではと勘違いするほどの轟音と震動を発生させて。
四季映姫はそんな状況でも揺らぐ事なく
「場外ホームランです」
判定をした。
その判定に魔理沙はガッツポーズをして走り出す。
「よっし……ってアレ?」
魔理沙はそこで異変に気がついた。
誰も自分がホームランを打った事をわかっていない。
霊夢と紫は目を閉じて耳を塞ぎ、橙と藍は抱きしめ合って丸くなり、萃香は……何故かベンチにいない。
妖精側ではチルノは状況が理解出来ずに固まり、大妖精は丸くなり、リリーは目を擦りながら周囲を見渡し、ルナは地面に俯せ、スターは空を見上げ、サニーは仰向けになっていた。
マスターブレードの音がデカすぎて場外で起きた音すら消されたようだ。
震動はきっとマスターブレードの影響と考えてるのがいるだろう。
誰か気付いてくれよ……内心そう思うが面倒になった。
「ちょいとやり過ぎたかな? …………まぁいっか」
紫と魔理沙は2塁、3塁を素早く駆け抜けてホームベースに帰ってくる。
そこには霊夢がいた。
「おかえりなさい。魔理沙。ホームランだったんでしょ?」
「あぁ。そうだな。場外だぜ」
「さすがね。そういや萃香は?」
「あぁ……なんか魔理沙の打った球を拾いにいったわよ。威力がハンパないからって。紫の判断」
「マジで?」
魔理沙は自分の打った方向を見た。
向こうの出来事はいつか話すことになるだろうが、今は試合中。
酒のつまみに話すとしよう。
1アウトで4ー2の博麗チーム優勢。
「さて、次は私ね。さらに点を繋ぐとしますか」
霊夢はバットではなく俗にお祓い棒と呼ばれる「御幣」をバットとして持ち出した。
「おや、霊夢さんはお祓い棒を持ち出してきましたね。これをどう見ますか? 早苗さん」
「あれはお祓い棒ではなく御幣といって神事の時などに使われるものです。……まぁそんな事はさておき、霊夢さんはきっと慣れないバットより日頃から使いなれてる御幣を選んだのでしょう」
「なるほど……確かに不慣れよりも慣れたものの方がいいですからね。……あ、そういえばチルノ選手、ブリザード投法を連発してますが、あれは能力ではないのでしょうか?」
「あれは体を捻って、捻りを戻す力で球速をあげる投法です。能力では無いですね。外の世界でもあの投球フォームがありましたから」
「そうなんですか」
霊夢はチルノを見る。
きっとまたブリザード投法を使うはず。
ここは焦らず次に繋ぐべきよね………。
「さぁ、かかってきなさい」
「ふん!! アタイの力を見るがいいわ!!」
チルノはまたブリザード投法を使う構えをした
(…………来る)
霊夢は静かに心でそう思う。
そしてチルノは叫んで球を投げた。
「………ブリザード投法!!」
(来た。予想通りね)
御幣をしっかりと握り、構える。
そして当てにいく。
「なっ!?」
霊夢は驚いた。チルノの放った球の重さに。
魔理沙の時は振らずに一回目を見逃し、二回目はマスターブレードで場外。
一回としてチルノの投げたマトモな感触や感想を彼女達は知らない。
(これがブリザード投法の力ね………舐められないわ)
霊夢はそう思い、さらに力をこめた。
すると球は左上に高く上がり、落ちてファールになった。
霊夢はそれを見届けた後、チルノを見て構えた。
(ここから……なんとか回すわ……)
「もう一回!! そりゃあ!!」
チルノはまた同じ投法を使用した。
(次こそ……飛ばす!!)
霊夢は御幣を振り、チルノの球に当てる。
だが球はやはり重く、辛い状況だ。
「ヤバいわね……でも負けるわけにはいかないのよ!!」
霊夢は前に体重をかけた。
すると霊夢が加える力が増して、チルノの球を打った。
今度は右に飛んでいく。
「ア、アタイのブリザード投法が!?」
霊夢は思った。ファールラインに近いがなんとかヒットだろうと。
だが、ここで予想外な事が起きた。
(……風!? これはマズい!?)
風が吹いたのだ。
しかも霊夢から見て左から右へ吹く風。
ヒットになるはずの球は風によって曲がり、
「ファールですね」
ファールになった。
霊夢はその一部始終を見てから御幣を持って構え直す。
「タイミング悪いわね……」
「危ないわね……でも次はアタイが取るんだから!!」
霊夢とチルノはお互いに睨み合い、長い沈黙が走る。
見守る仲間達も真剣な表情になりその様子を見つめる。
その長い沈黙を破ったのはチルノだ。
「アイシクルフォーク!! とりゃあ!!」
チルノは体を何回転もさせて、思い切り投げる。
その球は驚く事に氷漬けだった。
どうやらチルノは能力を使って球を凍らせたのだろう。
「打ってみせるわよ!!」
霊夢は御幣を振り、当てに行った。
しかし氷漬けの球は御幣に当たる直前、下に落ちる。
フォークだ。
氷漬けは当てられた時用のもので、本命はフォーク。
何故投げられたかは知らないがバットである御幣には当たらず、霊夢の横を抜けた。
「ストライク。バッターアウトです」
三振だ。
まさかここで能力を使ってくるとは思わなかった。
自分を少し責めた後、ベンチに戻る。
次のバッターは橙。
……頑張るがアウト。
「いやぁ、チルノ選手は投げる度に進化していきますね」
「本当ですね。試合が長かったらかなり強い投手になってたと思います」
「さて次は妖精組の攻撃、打者はスター選手です」
スターは長い髪を揺らしながらバットを振ってイメージトレーニングをする。
点数は4-2で負けているから気合が入るのもうなずける。
「次も打って点を稼がないとね」
「がんばってね~。スター」
仲間たちの声援を受けてスターは対決の場所へと向かった。
一方、博麗チームは………
「さぁ、守備ね………みんな頑張って~………」
「なぁ霊夢。今はお前しか頼れないんだ!」
「そうですよ。がんばってくださいよ」
「そうれしゅよ! ………噛んじゃいました」
「霊夢! ゆかりんの愛情あげるから頑張って!!」
「とりあえず紫は黙ろうな」
燃えつきかけてる霊夢の心を再び燃やそうと努力していた。
霊夢が燃え尽きてる理由は簡単。また打たれるのが怖いのだ。
そして巻けたら自分のせい………そう思っただけで投げる気力が無くなったのだろう。
だれしもは一度はある経験だろう。
「ちくしょう………だれか霊夢を元気に出来る奴は………」
「ここはやっぱりゆかりんの愛を注ぎ込むしかないわね!!」
「一回黙れ」
紫は悲しみに包まれた………。
誰もが諦めかけたそのとき、
「霊夢!!」
萃香がやってきた。ぼろぼろの姿で。
手には焼き焦げたボールを持ちながら。
「萃……香……?」
「霊夢はこんな弱かったのか!? いつも強くいなきゃ駄目だろう!?」
「でも………今の私には……みんなの期待に応えられる力は……無い……」
「一人で戦ってるわけじゃないんだよ。これはチーム戦。だから一人で背負うなよ」
霊夢はその言葉を聴いて少し身を震わせた。
そして萃香は言葉を続けた。
「私らは霊夢の後ろを全力で守る。だから霊夢………あんたは悔いの残らないように戦ってきなよ」
「いいの? もしも負けたら………」
「負けることなんて無いぜ霊夢!!」
「そうです。負けることなんてありえません」
「みんなで力を合わせれば………いけるはずです!!」
「そうよ。私たちを信じなさい」
霊夢を囲むように全員が立つ。
霊夢はそれを見て立ち上がり、
「っ!!」
どこかへと走り出した。
魔理沙は霊夢を追おうとしたが、それを紫が止めた。
「紫!? なんで止めるんだよ!?」
「追う必要が無いからよ。霊夢は来るわ。絶対にね」
その言葉を聴いて魔理沙は深呼吸して自分を落ち着かせた。
「そうだな」
そのとき、審判から要請が来た。
「博霊チーム。早くしてください」
「おう。みんな、行こうぜ」
「「「おー!」」」
霊夢のことを全員で信じて持ち場についた。
「おっと!? 霊夢さんがいません!! 一体どういうことだぁ!?」
「心配ですね………霊夢さんに何かあったのでしょうか………」
『そんな心配はいらないわ!!』
「霊夢さんの声です!!」
「いったいどこからだぁ!?」
どこからともなく聞こえてくる霊夢の声を聞いて、全員周りを見渡した。
その瞬間に強い一陣の風が吹き、全員の視界を奪った。
そして風が収まり、全員がマウンドを見ると
「なんとか間に合ったわね………」
陰陽玉を4つ回りに浮かせた霊夢が立っていた。
そして霊夢は叫んだ。
「この私、博麗霊夢は……ここにいるわ!!」
「まったく……心配したぜ」
「安心して。私は完全復活したから。それとみんなに一つ言いたいことがるの」
霊夢は威圧感丸出しでそういった。
なにを言うのか誰もが気になり、静かになる。
「私はあんたたちが信じる力を貰っていくわ。だからあんたたちは私の力を持っていきなさい!! この私の力を!!」
「「「おう!!」」」
霊夢は振り返り、スターを見る。
「悪いわね。待たせちゃって」
「ホントね~。逃げたのかと思ったわよ」
「今の私にはもう迷いも何もないわ。真剣勝負と行きましょうか」
お互いに睨み合い、沈黙が走る。
そしてその沈黙を破ったのは霊夢だ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
霊夢が投げた球は思い切り速くなっていた。
一瞬。まさに一瞬。
霊夢の球はスターの横を通り抜けた。
「ッ!? 速い!!」
スターは動く事が出来なかった。
速すぎて目が追いつかなかったのだ。
「見えなかったぜ……霊夢の球」
「これは霊夢が野球を極めた状態ね。今の霊夢の状態は……極霊夢!!」
「愛さ霊夢みたいに言うなよ……」
「気にしない気にしない」
博麗チームは驚きを隠さずスキマを使って話していた。
一方の妖精チームは、
「うぇ!? 霊夢の奴、速くなってる!!」
「これは怖いなぁ………」
「本当だねー。でもきっとルナが打ってくれるよ!!」
「えぇ!? あんな球を私に打てと!? 無理だって無理!!」
「打てるよ打てる。ルナならイケるって」
「ならまずはサニーが打ちなさいよ!! 何事にも手本が必要でしょ!?」
「私に打順が回ってくる前にルナの打順だから無理だよ? 残念!!」
「な、なにぃ~!?」
ルナはサニーは口喧嘩を始めているのに対し、その隣でリリーは平然と寝ていた。
随分と個人差があるようだ。
「それじゃあ2球目、行くわよ?」
「くっ!!」
霊夢は振りかぶって、スターに向かって投げた。
霊夢の2球目も速く、スターの目は追いつかなくて見逃してしまう。
「霊夢……無双しちゃってるわね…………」
「こうなったらもう誰にも止められないぜ」
紫と魔理沙が霊夢を見て同時につぶやいた。
「最後ね。さっさと決めるわよ」
「ちょっ!? 少しぐらい手加減してくれても「やだ」ですよねー」
霊夢はあっさりと決めて1アウトとってしまった。
これは霊夢の無双ゲームになってきていた。
「早苗さん。これについてどう思いますか?」
「今回の霊夢さんは本気ですね。ここにいても感じ取れます」
「あんな球速は見たことがありません」
「本当に幻想郷ってすごいですね」
「そーなのかー」
「あれ? ルーミアさんがなぜここに?」
スターは戻ってきた。
次の打者はルナにバトンタッチしようとするためだ。
そのルナはベンチに座り、うつむいていた。
「ルナー。がんばってよー」
「む、無理無理!! あんな神速球無理だって!!」
「ルナならいけるって!! がんばって!!」
「うぅ………わかったわよ……」
ルナはゆっくり腰を上げた。
そしてバットを持ちながら霊夢との一騎打ちの場所へ向かう。
「怖いなぁ………あんな霊夢さんを相手にするなんて………」
「気にしたらまけよー! ルナー!」
「そうだよねぇ………」
スターの応援を背中で聞きながらルナはつぶやいた。
そしてついに一騎打ちの場にたどりついた。
「くっ………来なさい!!」
「その心意気やよし。行くわよ!!」
霊夢は振りかぶって投げた。
その球はさっきと同じくらい早い。
ルナは慌ててバットを振る。
球はバットに当たらず、ルナの横を抜けた。
「うぇ……速い……」
「んじゃ、次行くわよ」
「早っ!?」
霊夢は振りかぶった。
ルナはバットを慌てて構える。
「はぁっ!!」
「うぁ!?」
霊夢が投げた瞬間にルナは力をこめてバットを振った。
誰もがストライクかと思ったが、
カキーン
音が鳴った。
霊夢の球が打たれたのだ。まさに奇跡。
ルナの打った球は高く飛んでいった。
しかし距離は伸びずに結果は2ベースヒット。
だがこの奇跡によりルナは二塁へ進出。
「奇跡ですね。あの霊夢さんからヒットを取るなんて」
「そう奇跡!! あぁ!! なんていい響きなんでしょう!!」
「早苗さん。落ち着いてください」
「おっと失礼……さぁこれで妖精組にも逆転の可能性が出てきましたよ」
「そうですね………おや、ここで妖精組に動きがありました」
次のバッターはリリー………だが、熟睡のために1アウト取られる。
2アウトで妖精組の大ピンチ。
次のバッターはチルノだ。
「さぁ! ここで逆転いくわよ!!」
「来たわね……」
チルノは元気よく出てきた。
今までチルノは木のバットだったのだが、特殊な素材で出来ている重そうなバットを持ってきて。
「何? そのバット………」
「ふふん♪ これはアタイの天下の包丁!! ………なんだっけ?」
「伝家の宝刀………かなりの代物かしら………」
「霊夢。あれは金属バットよ。打球の速度や距離が伸びてくるわ。代償として重いけど」
霊夢の耳には紫からの情報が入ってきている。
金属バット。折れにくく、当たれば長打力に優れる代物。
当たればの話だが。
「わかったわ。気をつけるわね」
「さぁ!! 来い!!」
チルノの声に応えるように霊夢は振りかぶる。
大将同士の真剣勝負が始まった。
霊夢は球を投げる。
「こんにゃ………ろぅ!!」
「ストライクです」
まず霊夢の一球目はストライク。
変化球で確実にいったのだろう。
チルノはバットが重く、遠心力によって尻餅をつく。
ある意味見慣れた光景だ。
「まずは一つ」
「ま、まだまだぁ!!」
チルノはすぐに立ち上がり、バットを構える。
そして霊夢をしっかりと見る。
「次、行くわよ」
霊夢は球を投げた。
今度はまっすぐ。ストレートだ。
「うりゃあああああああああああ!!」
チルノは思い切り叫んで、バットを振る。
すると球はバットに当たり、飛んでいく。
しかしあさっての方向へ飛んでいき、判定はファールだ。
「次で決めるわ」
「そう簡単にはいかないからね!!」
霊夢はチルノの返答を聞いてから構え、チルノはその霊夢を見て神経を集中させる。
そしてお互いの間に沈黙が走る。
霊夢が振りかぶると同時に後ろにいた仲間達から声援が飛んでくる。
「行けー!」
「霊夢ー!」
「これでー!」
「終止符をー!」
「打ちなさーい!」
その声援をうけ、霊夢は投げる。
霊夢の球は今日は一番速かった。
対するチルノは、
「当てる!!」
バットに球を当てる。
そこではお互いの叫び、意志、力……様々な物がぶつかりあう。
しばらく力が拮抗して、バットは振りぬけず、球はバットを越せなかった。
「悪いけど………譲れないのよ!!」
「それはアタイも同じ!!」
チルノはさらに力をこめた。
するとここで動きがあった。
なんと、霊夢の球が押されはじめたのだ。
「このまま………行っけぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ばきぃぃぃぃぃぃぃん!!
そして霊夢の球が押し切られた。
しかし、霊夢の球の力も大きかったのか金属バットは振り切ると同時に粉々に折れた。
「これは高いわね。でも………取る!!」
霊夢は球を追うように走る。
「萃香!! 踏み台いける!?」
「おう!! もちろん!!」
萃香は手を重いものを持ち上げるように構えて待機。
霊夢がその手に乗ると同時に萃香は手に乗った霊夢を空へと投げた。
「能力発動!!」
霊夢は萃香の手から浮いた瞬間に能力を使った。
ルール上、飛翔禁止だが霊夢は能力を使用する事により飛翔禁止のルールから干渉を受けなくなったのだ。
萃香を踏み台にした理由は速度を求めた結果だ。萃香の怪力は速度を出すのに適していた。
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
パシィィィィィィン!!
空中で、気持ちいいほどの音が響いた。
霊夢がボールを取ったのだ。
「アウトです。ゲームセット。勝者、博麗組」
霊夢はその勝利を確信出来る言葉を聞いた途端、意識が遠くなるのを感じた。
疲労によるものだろう。
気絶した霊夢は落ちていく。
紫は笑顔でそれを優しく抱き留めた。
「お疲れ様……ゆっくり休みなさい……」
博麗組は霊夢を囲んで、それぞれの活躍や野球の事、霊夢について話を始めた。
一方の妖精組は
「あー!! また負けたー!!」
「チルノちゃん……また次があるって」
「まさかルナがあの霊夢さんの球を打つなんてね……」
「まぁ私も本気を出せばね。これぐらいはいけるわよ」
「あらあら。そこまで言っちゃう?」
「Zzz…………」
博麗組と似たような状況だ。
全員、互いを称えあう。
勝負に勝ち負けは付き物。
だが誰も悔しそうな顔をせず、楽しそうに笑っている。
しばらくその笑顔が消える事はなかった。
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こうして人知れずに行われた幻想郷初の野球勝負「博麗組VS妖精組」の勝負は博麗組の勝利で幕を閉じた。
人知れずに行われたので野球に関する事はそのまま静かに消えていくかと思われていた。
しかし、幻想郷でとある現象が起きる。
どこからか見ていた者達により野球は幻想郷中に広まり妖怪、人間、神………種族問わずに楽しまれるようになっていったのだ。
簡単に言えばブーム………流行になった。
人里でも小さなグラウンドが出来るぐらいの流行。
今日も笑い声が家の外から聞こえてくる。
たまには軽く体を動かさないと駄目だと私は考えた。
なので今度、その流行の野球に挑戦してみることにしよう。
著作・記録 稗田阿求
取材 射命丸文
犬走椛
実況 森近霖之助
東風谷早苗
どうもどうも。
リレーのアンカーはとても疲れました。
若干、テンプレや厨二病があったと思いましたがどうでしょうか?
それでは失礼します