にとり印のマスドライバーで幻想郷がヤバい――第一幕<作者:水深無限風呂>
人は、いや、生命の宿りしものは必ずこう願うものだ。
『あの青空を自由自在に翔けたい』
そして、やがて生命の宿りしものは塩水の湖や、淡水の湖、更には生命の死骸の積み重ねである大地から足を離し、その翼を死に物狂いに動かし、青空へと進出した。
最後に、生命の思いついた最後の願いは―――。
「いやぁ、さすがの一言です。現代人……んや、現人神の知識と河童の技術力が合わさればまさに怖いものなしですね……」
「んーッ! んんーッ!」
「妖怪の山の傾斜面を利用してレールを作り上げ、そこに地下の核融合炉から電力を供給する装置……所謂“マスドライバー”を作り上げ……そして最後に―――」
「んーッ!? んんんーッ!!!」
「白狼天狗を弾丸として発射し“超高速世界のその先”にあるものを確かめる、と……」
「んんーッ!!?」
「ご安心ください。多分死にませんし、これに生き残ればあなたには“千里先を見通す程度の能力”に加え“超加速世界で生きる程度の能力”が追加されますよ」
―――『超加速世界への到達』だった。
いや、これは違うだろう。恐らくは違うだろう。絶対に違うだろう。そもそもいくら妖怪といえど不死ではない、こんなことをされれば死んでしまうかもしれない、いや違うな。絶対に死ぬ。そう絶対に死ぬ。死なないわけがない、死ぬんだ。私は此処で死ぬんだ。そうに違いない。
思い返せば短い人……いや、私は天狗であるからして鳥……いや? 私は白狼天狗……なら狼……ええい、もう人生でいい。
……短い人生だった。しかもその人生の大半は河童と大将棋。或いは侵入者の監視。
いや、仕方ないんだろうが。仕方ないんだろうが……私の親もその前もずっとそうだったのだろうから……。
仕方ない、仕方ない。だけどせめて老衰で死ぬとかしたかった。
何が悲しくてこんな狂気の実験の材料にされねばならんのか。
おのれ、これも全て烏天狗の仕業なのだ。いや実際にそうだ、許すまじ、烏天狗。必ずやその種、根絶してみせよう。
…………天狗が天狗を根絶せんとするのも如何なものかとは思うが、人間だって肌の色で自分の種族を差別してるんだ。烏か狼かで差別したっていいだろう。
「……さて、椛……全ての準備が整ったようですよ。あなたは撃ち出され、前人未到の世界へと足を突っ込むんです。……あ、生きてたら取材させてくださいね!」
ニッコリ素敵な営業スマイル(代償は私の命)。はぁ、なんて素敵な笑顔なんだろうか。
こんな素敵な笑顔見せられたら堪ったもんじゃない。だから―――。
―――絶対に取材させない。絶対にだ。させるとしてもコイツにだけはさせない絶対だ。もう絶対に絶対な絶対の絶対なる絶対だ絶対!
もういっそのこと……暗い路地裏とかに呼びだして秘密裏に排除してしまおうか。
……そうだそれがいい。我ながらなんて名案だ……時々自分の才能が怖くなる時がある。
これこそが誰もが幸福になれる最っ高に最っ高な結末というものだ。鮮血でしか平和は色付かない。誰かにとっての幸福が、誰かにとっての不幸となるように、誰かにとっての不幸が、誰かにとっての幸福となる。
つまり、こいつが死ねば誰しもが幸福となる。少なくとも私はなる。
幸せになれないなら、殺せばいいじゃない。
要らないだろう、こいつなんか。それで幸福になれるっていうのならば!
「お、カウントが始まりますよ! やったねモミちゃん!」
なにがモミちゃんだふざけやがってこいつーッ!!!
「ハイ、さーん!」
殺す、殺してやる、殺してやる……!
「ハイ、にぃー!」
ころ……、ころ、ころ……ころころころころころころ……ッッ……!!
「ハイ、いーち!」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーーーー!!」
ぶ っ っ っ っ 殺 し て や る ーーーー!!
「何言ってるかさっぱりですね」
直後、シュコォン! というその巨大さにしては静かな発射音と共に早速私は今まで体感したことないような、全部の骨を引きずり出されるような速度で加速し始めた―――。
飛べよ私、滅びよ射命丸文。
犬走椛、この意思抱いて音と同等なる速さ到達せん―――。
◇
最初に言っておく、私はかーなーり! 面倒が嫌いだ。嫌いったら嫌いだ。嫌いなんだよ嫌いなんです嫌いっつってんだろもうやめろよ嫌いなんだよ! 三段活用。
……。
……多少取り乱してるかもしれない。だが知ったことではない、非常に面倒なことになったんだから。
その面倒なことというのは―――。
“かの山から繰り出された未だ加速し続ける超高速物体が遥か空へと向かって自己回転を加えて直進し続けている”という意味不明なものだ。
……ええい、面倒な。何処の誰だ、こんな分けの分からぬ馬鹿なことをし始めたヤツは。
何故人が多忙な時に限ってこんなことが起きるのだろうか。
「紫様! 紫様! お起きになってください! なんかちょっと微妙な異常事態です!」
『……………………』
そして何故こんな私が多忙な時に限って私の主人は眠りこくってるんだろうか。
世の中不思議だらけなんて言うが、こんな不思議は要らない。全部取り除いてほしい。
そうすればきっと私はもっと幸せになれるんだ……。
「紫様ぁ! 紫様ァ!? ゆーかーりーさーまーッ!!」
『……………………』
まだ起きない。もはや起きてて無視してるんじゃないんだろうか、面倒事を全て私に擦り付けるつもりなんだ、そうに違いない。違うわけがない。
「もういい加減起きろよあんたは!!」
思わず語調を崩しつつ襖を開けようとした。
襖、ガッ。
………………。
襖の境界が操られて開かなくなっている……。ええい、こういう出入り口の閉鎖方法はホラーゲームだけにしろとあれほど言ったのに!
『藍、そもそも私達の存在はホラーであるべきなの。つまりこれは正当なのよ』
「起きてるんならさっさと返事してくださいよ! 異常事態つってんですよこっちは! それとまるで地霊殿の主の如く心を読まないでください!」
『……最近、あなたの語調が崩れてると思うのよね』
「誰のせいですか、誰の!!」
『口が悪すぎる……修正が必要ね……』
「ええい、うっさいなもう、さっさと開けてください!!」
『人に物を頼む態度が成ってないわね、まったく。親の顔が見てみたいわ』
何だコイツ。なんでコイツ私の主人なんだ。そもそも主人って何だ、姑みたいな台詞吐きやがって。
……もちろん、主人とはなんぞや、それを正確に述べられるものは誰も存在しないだろう。しかし。
全てを私に任せっぱなしで自分は寝てるだけ、というのは主人とは呼ばない。そう確実に!
「黙れよ……茶番は終わりだ……」
『あら、主人に刃向かえるとでも?』
「主人だってぶん殴ってみせらぁ」
『ほう、初めて会ったときみたいに目も当てられない姿になるのがお望みのようね』
「裏庭に溜まってるゴミ全部燃やしていいならそうすればいいですよ」
そんな主人という名を盾に邪知暴虐の限りを尽くすこの存在にも弱点はある。
裏庭に積み重ねられたゴミだ。……この存在が言うにはゴミではなく……えーっと、なんだったか。
オトメゲェとか大体そんなんだっただろう。何なんだろうか、オトメゲェとは。楽器か何かだろうか。だとすれば何とコンパクトな楽器なんだろうか。
『な、何がゴミですって!? あれは私の―――』
「あーーー! すっごい手が滑りそうだなーーー!! 手が滑って全部焼き尽くしてしまうーーー!!」
『わかった! わかったから! やめてくれないかしら!? そういうそれっぽいことやるの!!』
「人に物を頼む態度が成ってないですね」
『ただの九尾が……調子付くな!』
「調子に乗った年中冬眠趣味の紫様には何も言われたくないですね」
『くっ……開ければいいんでしょう開ければ!!』
ガーッという豪快な音と共に襖が開いた。正直襖が痛むのでやめてほしい。
「ベネ、では報告に入ります」
「さっさとしてよね……今いい所だったんだから……」
髪をくしゃくしゃと掻き回す私の主人―――八雲紫のその向こう、そこには最近外の世界から持ってきた……パーソナルコンピューターとやらがあり、その画面には相変わらず美男と美男が全裸で絡み合うという……よくわからないナニカサレタ世界が広がっていた。
「また何か……その、よく分からない男同士の絡みという非生産的な物語を読んで……ちょっとおかしいんじゃないんですか?」
「こんな能力持って正常でいられるわけないでしょ、いいから報告!」
「ああっと、そうだった実は……かくかくしかじか……」
「ねえ、藍?」
「何です?」
「略しすぎて何が言いたいのかわからないわ」
「……ハァ。かの山から繰り出された未だ加速し続ける超高速物体が遥か空へと向かって自己回転を加えて直進し続けている。です」
「うん。限度がある」
何をおっしゃるのか、自分がとっくに限度を超えた最悪な生活を過ごしているというのに。
だが、こんな愚痴は後にするとして……今は事の重大さを伝えなければ。
「……あ、ちなみに……このまま放置すると博麗大結界に物理的ダメージが加わり、マッハで蜂の巣状態になるかもしれません」
「まぁ、いいわ。大体事情は把握できたし。手を打ちましょう、いやもう打った。我ながら完璧……フッ、惚れてしまいそうだわ」
…………異常事態が解決だと? 三十秒足らずでか。
……なんで、こんなに仕事が出来るのに仕事しないんだろうか。
「……ちなみに……その対処方法とは?」
「あら、聞いてどうするつもりかしら?」
「いえ、今後の参考にしようかと。手を煩わせたくないので」
「殊勝な心掛けね……わざわざ私に楽させようなんて……褒められるわよ、あなた」
満足そうな表情を浮かべた紫様。
なんか勘違いしてるらしい。
「紫様を起こすのに私の手を煩わせたくない、って意味ですよ」
「いっぺん主従関係刷り込む?」
「で、どうやって対処したんです?」
「物体の進む方向を上空から地面へと変えたのよ」
「…………それでは着弾地点に被害が出るのでは?」
「知ったことか」
酷く投げやりだった。でもそんなんだと私はずっと思ってた。そう確実に。
第一この主人がやることにはモラルと統一性がない。あるのは計画性だけだ。
計画に計画を練られた研ぎ澄まされしカオスティック、それが紫様の全てと言っても過言ではない。
「……ちなみに、何処に落としたんです?」
「命蓮寺」
「…………何故?」
「被害を出すのに理由が必要かしら?」
「…………あの、私……被害を抑えたいから報告したんですが……」
「…………」
「…………」
「昔はお前のような優秀な妖怪だったが、膝に矢を受けてしまってな……」
「あんたの脳は膝にあるんですか?」
昔は他の方のようなシリアス作家だったが、頭に矢を受けてしまってな……。
はじめまして水深無限風呂と申します。
……はじめましてじゃない方はとりあえずあの作品に関しては忘れてください。黒歴史中の黒歴史ですから。
あ、そこ、やめて! 検索しないで! やだ! 私の恥ずかしい所見ないでぇ!
(真顔で背もたれに寄りかかりながらタイピングをする音)
……おふざけはこの程度にして……。
再度はじめまして、水深無限風呂と申します。
普段は不定期で2~3作品ほどを気ままに更新しています。
代表作はISの二次になるのですが、ここで名を上げるとすれば東方二次の『東方妖好妖』を挙げておきます。
壮絶なシリアスストーリーが連続で展開し、緊張の糸を解すことを許さない作品で……はありません。主にこの作品を五十倍崩して適当にした感じのコメディと勢いと歪んだ百合しかありません……。しかも更新ペースは遅いという……。
さて、自虐し始めたら永遠に終わらないのでここらで止めることにします。
あ、やっぱり最後にひとつ……もうちょっとだけ続くんじゃ。
何かもうどうでもよくなって自分の作品に自信を持てなくなったら是非私の作品を読んでください。
それで「笑え(た)……笑え(た)よ……」ってなってやる気を起こしてくれたら嬉しいですし、「はじめから真面目な作品だとは思ってはいなかったが……多少はまともにすればいいものを! 役立たず共が!! 貴様も! 企業の連中も! 私の邪魔をするものは皆死ねばいい!!」ってなって殺る気を起こしてくれても私は嬉しいです。
何にせよ、東方に限らず全ての作者さんのやる気を起こすきっかけになれたら、それはとっても嬉しいなって……。
ああ、長くなってしまった。ほら纏まってないよ、これだから私はダメなんだ。
では、またお会いできることを信じて……。
世に平穏のあらんことを。