表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者:
5/8

 コンビニの弁当の箱や無数のペットボトル、お菓子の袋などゴミはあまり出て行かないのに、それでもモノは増えていく。最初は部屋自体に生活感が殆どなく、ベッドや机、タンスに本棚はあるが、電化製品は年代物のラジオくらいしかなかった。しかしラジオは程無くCDラジカセに変わり、新たな電化製品としてどこから持ってきたのか大きなテレビも入ってきた。

「中学生が人殺しか・・・。日奈子は、どう思う?」

 まただ、と日奈子は思った。テレビが入ってからというもの、何かのニュースを議題に佑樹がこういった問いかけをしてくるようになった。

「いけないことだと思うよ」

 至極真面目に答える。

「そりゃあそうだよ、人殺しはいけないことだ。でも、違うんだよ。これは、一体誰が悪いんだろう?」

 何が言いたいのかなと思いつつも、日奈子は自分の感じたままに答えてみた。

「え〜、この中学生でしょ。人を殺しちゃったんだもん。悪いに決まってるよ」

 すると佑樹は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「違う。悪いのは、この子の親だよ。環境と社会がいけないんだ」

 なんとなく自分自身にも言っているような気がした。

「どうして親が出てくるの?関係ないじゃん」

「だって、人殺しなんかする子供に育ってしまったんだよ。ここまでずっと一緒に居た、親の教育の仕方が悪かったに決まってるじゃないか」

「おじさんはそう思うんだ?でも・・・」

 一瞬で空気が変わった事に気付き、日奈子は次の言葉を紡ぎ出す事が出来なくなった。佑樹の顔が引きつり、見る見るうちに表情が無くなっていく。

「・・・おじ・・・さん?」

 腹の底からのうめきのようなものが聞こえ、日奈子が弁解か言い訳か何か言葉を発しようとした時には既に遅かった。佑樹の硬い握りこぶしがお腹にめり込み、息すらままならなくなる。

「!!!!」

 その後は良くわからない奇声を発しながら、佑樹は執拗に日奈子を痛めつけた。

「あ・・・う・・・」

 日菜子もどうにか制止しようと努めたが、結局自分の意識が飛んでしまうまでにどうにかすることは出来なかった。


「おかあさん!おにいちゃん!はやくう〜」

 見渡す限り一面緑の空間の中で、妹が手を振っている。果てしなく続く草間は陽の光を浴びて時折キラキラと瞬いた。大きく息を吸いこむと瑞々しい自然の薫りがした。遥か前方を走る妹は、久し振りに散歩に連れて行ってもらった犬か猫さながらにはしゃいでいる。

「おいおい、そんなに走るなよ」

 僕は努めて大きな声を出したが、妹の耳には届いていなかった。ずっと、「はやくはやく」と繰り返している。

「母さん、早く行こう」

 隣を歩く母に声を掛け、手を握った。母は微笑んで、「ええ」と短く応え、僕たち2人も駆け出す。

 母の手は僕から握り返さなくとも、放れる気はしなかった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ