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聖女転生した美少年、可愛いお洋服と詠唱破棄で現代ダンジョンを無双する



小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第一話:異世界の終わりと、現代の始まり


じりじりと肌を焼くような、不快な魔力の残滓が辺りに満ちていた。

どこまでも続く荒涼とした大地、赤黒く染まった空。ここ異世界において、人間族の命運を賭けた戦いは、いま完全に決着しようとしていた。

聖女フィオナは、崩れかけた石壁に背を預け、激しく肩を上下させていた。

純白だったはずの聖衣は、自らのものと魔物の血で無惨に汚れ、引き裂かれている。手にした聖杖はひび割れ、今にも砕け散りそうだった。

「ここまで、ですか……」

フィオナの視線の先には、地平線を埋め尽くすほどの魔王軍の軍勢がひしめき合っている。

共に戦ってきた勇者も、賢者も、誇り高き騎士たちも、すでに一人残らず戦場に散った。残されたのは、満身創痍の聖女ただ一人。

勝利の確信に歪んだ魔物たちの醜悪な笑い声が、風に乗って鼓膜を震わせる。漆黒の魔の手が、容赦なく彼女の元へと迫っていた。

死の恐怖はなかった。だが、無念だけが胸を焦がす。自分がここで倒れれば、この世界は完全に闇に包まれる。守りたかった人々の笑顔が、走馬灯のように脳裏を駆け抜けた。

「まだ……私の魂は屈していない。たとえこの肉体が滅びようとも、聖なる光は絶やさない……!」

フィオナは残るすべての魔力を振り絞り、立ち上がった。

天を仰ぎ、両手を掲げる。唇から紡がれるのは、世界の理を覆す、禁忌とされた究極魔法の呪文。自らの魂と、存在のすべてを代償として捧げる「転生術」の詠唱だった。

「アニマ・トランス・ミグratio……我が魂の灯火を、遥かなる時空の彼方へ……!」

魔物たちが異変を察知し、一斉に牙を剥いて飛びかかってくる。

しかし、それよりも早く、フィオナの身体から爆発的な純白の光が放たれた。世界を覆い尽くさんばかりの、圧倒的な聖なる輝き。魔物たちの悲鳴が光の中に消えていく。

自らの肉体が光の粒子となって崩壊していく中、フィオナの意識は底のない暗闇へと急速に落ちていった。

――次に目が覚めた時、そこはあまりにも静かだった。

「う……ん……」

喉から漏れたのは、聞き覚えのない、鈴を転がすような高い声だった。

フィオナはゆっくりと目を開ける。視界に飛び込んできたのは、赤黒い空ではなく、白い壁と見慣れない四角い照明器具が設置された天井だった。

身体を起こそうとして、激しい違和感に襲われる。手を見る。小さく、白く、ひどく華奢な手だ。異世界で戦い抜いてきた聖女の肉体とは、明らかに異なっていた。

「ここは……どこ、ですか?」

周囲を見回す。部屋の中には、奇妙な本や、ガラスの板がはめ込まれた機械のようなものが並んでいる。

その時、頭を殴られたような激痛と共に、膨大な「記憶」が濁流となって脳内に流れ込んできた。

華村薫。それが、この身体の主の名前だった。

年齢は十四才。性別は男性。しかし、彼は生まれつき奇妙な病を患っていた。命に関わるものではないが、身体の成長が極めて遅くなるという、世界の医学でも解明されていない特殊な病気。十四才という年齢でありながら、その容姿はまるで十才前後の、可憐で儚げな少女のままで停滞しているのだ。

そして薫には、誰にも言えない秘密と夢があった。

自分のこの女の子にしか見えない容姿を逆手に取り、可愛い服を着る「女装」が趣味であること。そして、この現代日本という世界に存在する『ダンジョン』に潜り、その様子をネットで流す『女装配信者』になって有名になりたい、という突拍子もない夢を抱いていたのだ。

「現代、ダンジョン、配信……。なるほど、私は異世界の聖女としての命を終え、この華村薫という少年の身体に魂が宿ったのですね」

フィオナとしての意識と、薫としての記憶が完全に融合していく。

不思議と混乱はなかった。むしろ、二つの心が一つになったことで、新たな目的が明確に浮かび上がってくる。

薫はベッドから立ち上がり、部屋の隅にある大きな姿見の前に立った。

鏡の中に映っていたのは、淡いピンク色のフリルがあしらわれたブラウスに、チェック柄のミニスカートを穿いた、息を呑むほど美しい「美少女」だった。

艶やかな黒髪は肩まで伸び、大きな瞳は潤んでいる。どこからどう見ても、非の打ち所がない美少女にしか見えない。だが、衣服の下にあるのは、れっきとした少年の身体だった。

「ふふ、本当に可愛いですね。薫くんの女装のセンスは本物です」

薫はスカートの裾を少し持ち上げ、鏡の中でくるりと回ってみせた。

異世界での過酷な戦いから解放され、このような平和で、かつ自分の個性を自由に表現できる世界に生まれ変われたことが、心から嬉しかった。

しかし、ただの可愛い男の子として生きるつもりはなかった。

薫はそっと胸元に手を当て、精神を集中させる。身体の奥底を探ると、そこにはかつて世界を救おうとした、あの絶大なる「光聖魔法」の奔流が、何一つ衰えることなく渦巻いていた。

「魔力は完全に残っています。いえ、この世界の満ち溢れたエネルギーのおかげで、以前よりもずっと清らかで、強力になっているかもしれません」

薫の瞳に、強い光が宿る。

異世界では世界を救えなかった。けれど、この新しい世界では、薫の夢だった「配信者」として、自分の力で多くの人々を魅了し、癒やして見せる。

「女装配信探索者、ですか。面白いですね。私の光で、この現代世界のダンジョンを、そして世界中の人々をハッピーにしてみせましょう」

鏡の中の可憐な自分に向かって、薫は悪戯っぽく微笑んでみせた。

異世界の聖女フィオナは死んだ。ここから始まるのは、現代日本のダンジョンを舞台にした、一人の女装少年による前代未聞の快進撃である。





















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第二話:ギルド登録と、最初の驚愕


新しい世界の朝は、驚くほど爽やかだった。

華村薫――中身は異世界の聖女フィオナである少年は、姿見の前で念入りに身だしなみを整えていた。

今日の服装は、パステルブルーのパフスリーブブラウスに、白いフレアスカート。歩くたびにふわりと揺れる裾が、薫の華奢な体型をいっそう引き立てている。

「うん、今日も完璧に可愛いです。薫くんの記憶にあるお化粧の技術、本当に素晴らしいですね」

鏡の中の可憐な美少女が、嬉しそうに微笑み返す。喉の病気のせいで声も高いため、自分が男であると言わなければ、世界の誰も気づかないだろう。

準備を終えた薫は、小さなポシェットを肩にかけ、家を出た。目指すは、現代日本のダンジョンを管理する『探索者ギルド』だ。配信を始めるにしても、まずは公式の探索者として登録しなければダンジョンへの立ち入りすら許されない。

街を行き交う人々からの「なんて可愛い子だろう」という視線を浴びながら、薫はギルドの重厚な扉を押し開けた。

広々としたロビーには、重装備に身を包んだ大柄な男たちや、鋭い眼光を放つ魔法使い風の若者たちが大勢行き交っている。まさに戦う者たちの巣窟。そこに紛れ込んだフリフリの衣装を着た可憐な少女(少年)の姿は、どう見ても場違いだった。

「あら、迷子かしら……? 可愛いお嬢ちゃん、ここは遊び場じゃないのよ」

声をかけてきたのは、受付カウンターにいた案内嬢の七瀬あずみだった。

あずみは二十一才。かつてはAランク探索者として前線で戦っていた実力者だが、今は現役を退き、ギルドの看板娘として働いている。彼女は心配そうに、薫を覗き込んできた。

「こんにちは。あの、迷子ではありません。私、探索者の登録をしにきました」

薫が鈴の鳴るような声で告げると、あずみは目を丸くした。

「登録? あなたが? ……ごめんなさいね、探索者カードの発行は義務教育を終えた十六才からなの。まだ中学生くらいに見えるけれど……」

「いえ、私は十四才ですけれど、この世界の法律では『特殊な停滞性の病を患う者に限り、肉体年齢にかかわらず例外的に十四才からの登録を認める』という特例措置があります。これ、診断書です」

薫は用意していた書類を差し出した。あずみはそれを受け取り、驚いたように顔を近づける。確かに、ギルドの規定にある特例のハンコが押されていた。

「本当ね……。身体の成長が遅れる病気……。ごめんなさい、疑ったりして。でも、ダンジョンは本当に危険な場所よ? あなたみたいな可愛い子が傷つくのを見たくないわ」

「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。私、これでも結構強いんですよ?」

薫が微笑むと、あずみは困ったように息を吐きながらも、業務用のタブレットを操作し始めた。

「分かったわ。そこまで言うなら止めないけれど……まずは規定通り、魔力測定をしてもらうわね。あそこにある水晶体の測定器に、両手をかざしてちょうだい」

あずみが指差した先には、大人の頭ほどもある透明な魔力測定器が置かれていた。探索者の魔力量を測り、初期ランクを決定するための重要な儀式だ。通常、未経験の子供であれば、微かに光る程度で終わる。

「はい、わかりました」

薫は測定器の前へと歩み寄り、衣服の袖を少し捲り上げた。白く細い、折れてしまいそうな両手を、そっとガラスの表面に触れさせる。

(さて、この世界の基準だと、私の魔力はどれくらいになるのでしょう。少し手加減したほうがいいでしょうか……)

そう思った瞬間には、すでに遅かった。

薫の身体の奥底に眠る、異世界最強と謳われた聖女の魔力が、測定器に触れたことで一気に呼び覚まされてしまった。

ピシッ、と静かな空間に不穏な音が響く。

次の瞬間、測定器の内部から、太陽が地上に降りてきたかのような圧倒的な純白の暴風ひかりが解き放たれた。

「キャッ!? な、何これ!?」

あずみが思わず腕で顔を覆う。ロビーにいた屈強な探索者たちも、突然の盲目的な光に目を潰され、その場に怒号が飛び交った。

光は収まるどころか激しさを増し、測定器の表面にみるみるうちに亀裂が走っていく。

「警告、警告。魔力許容量を超過。計測不能――」

機械的な合成音声が響き渡ると同時に、ドガァン! と激しい破裂音が鳴り響き、高価な魔力測定器が粉々に砕け散った。

きらきらと光るガラスの破片が床に散らばる中、薫だけがぽつんと、申し訳なさそうに立ち尽くしている。

「あ、あの……ごめんなさい、壊しちゃいました……」

静寂がロビーを支配した。誰もが言葉を失い、信じられないものを見る目で薫を見つめていた。

その時、ギルドの奥にある重厚な扉が開き、一人の大柄な男が姿を現した。

「何の騒ぎだ、あずみ」

現れたのは、探索者ギルド長であり、元Sランク冒険者でもある和泉康介だった。五十四才という年齢を感じさせない、岩のように強固な肉体と、周囲を圧する威厳を放っている。

「ギ、ギルド長! それが……この子が測定器に触れた瞬間、許容量を超えて爆発してしまって……!」

あずみの報告を聞き、和泉は床の破片と、そこに佇む薫へと視線を移した。

和泉の鋭い眼光が、薫の全身を観察する。薫は恐れることなく、その視線を真っ直ぐに受け止めた。

(ほう……俺の威圧を前にして、眉一つ動かさないか。それに、あの壊れ方はただの魔力暴走じゃない。純度が高すぎる聖なる魔力だ)

和泉の口元が、不敵に吊り上がった。彼は元Sランクとしての直感で確信した。目の前にいる可憐な女装少年は、世界を揺るがしかねない「規格外の怪物」であると。

「面白い。あずみ、その子の登録を特例で即座に許可しろ。初期ランクは本来Fだが、これだけの魔力だ。特例でDランクスタートとする」

「ええっ!? ギルド長、いきなりDランクなんて前代未聞ですよ!?」

「構わん。責任は俺が持つ」

和泉は薫の前に歩み寄ると、その小さな肩を軽く叩いた。

「華村薫、と言ったな。お前がその力で何を目指すのかは知らんが、ギルドはお前を歓迎する。ただし、最初の実戦は近いうちに見せてもらうぞ」

「はい! ありがとうございます、ギルド長さん!」

薫は嬉しそうに頭を下げた。

こうして、念願の探索者カードを手に入れた薫。世界を震撼させる最強の女装配信探索者の第一歩が、いま華々しく踏み出されたのだった。























小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第三話:初めてのダンジョン、初めての配信


ギルド登録を済ませた翌日、華村薫は自宅の部屋で入念な準備を行っていた。

今日の衣装は、ミントグリーンのキャミソールワンピースに、レースのカーディガン。髪はサイドを緩く編み込み、可憐なヘアピンで留めている。どこからどう見ても、これから街へお出かけするお洒落な美少女そのものだ。

「よし、お洋服もメイクもバッチリです。次はこれですね」

薫が机の上に並べたのは、昨日購入したばかりの配信機材だった。最新型のスマートフォンと、撮影者の意志や動きに連動して空中を自律飛行する、球体のドローンカメラ。現代の配信探索者にとっては、剣や盾と同じくらい重要な必須装備である。

薫は手際よく動画配信プラットフォームにアカウントを開設し、配信タイトルを打ち込んだ。

『可愛い女の子(男)がダンジョンを癒やしちゃうぞ☆【初配信】』

「薫くんの記憶によると、ネットの世界では個性が大事だそうですからね。男の子であることも隠さずに、最初から全力でアピールしていきましょう!」

準備万端となった薫は機材をポシェットに詰め込み、意気揚々と家を出た。

向かった先は、自宅からほど近い場所にある「下北沢第十五ダンジョン」。初心者や低ランク探索者向けに開放されている、地下平原型のFランクダンジョンだ。入り口のゲートでギルドカードを提示すると、警備の職員が「えっ、その格好で入るの!?」と驚愕の声を上げたが、薫は「いってきます!」と元気よく微笑み、ゲートをくぐり抜けた。

薄暗い転移の光を抜けると、そこには人工的な石造りの通路がどこまでも続いていた。壁に埋め込まれた魔光石が、青白い光で空間を照らしている。

「わあ、これが現代のダンジョンですか。異世界の地下迷宮よりも、なんだか清潔感があって歩きやすいですね」

薫はさっそくドローンカメラを起動し、配信のスタートボタンを押した。

空中をふわりと浮遊するカメラに向かって、薫は最高のアイドルスマイルを向ける。

「皆さんはじめまして! 今日から配信探索者を始めることになりました、華村薫、十四才です! ちなみに、こう見えて男の子です☆ 今日は初めてのダンジョンなので、皆さんに癒やしをお届けできるよう頑張りますね!」

配信を開始して数分。当然ながら、無名の新人、それもFランクダンジョンの配信を見に来るリスナーなどほとんどいない。同時視聴者数は、たったの三人。コメント欄も静まり返っている。

しかし、薫は全く気に留めず、楽しそうにダンジョンの奥へと進んでいった。

靴音を響かせながら角を曲がった、その時だった。

「ギチチチッ!」

不快な鳴き声と共に、通路の奥から三匹の不気味な影が飛び出してきた。

緑色の醜悪な肌に、尖った耳。手には錆びついたナイフを握っている。ダンジョンの最下級モンスター、ゴブリンだ。

それと同時に、薫の配信画面に初めてのコメントが書き込まれた。

『え、マジで生身の女の子じゃん。武器は?』

『てかタイトル(男)って釣りだろこれw』

『ゴブリン三匹は初心者にはきつくないか!? 逃げろ!!』

数少ない視聴者たちが画面越しに悲鳴を上げる。

ゴブリンたちは、目の前に現れた無防備で贅肉のなさそうな獲物を見定め、下品な涎を垂らしながら一斉に跳躍した。鋭いナイフが、薫の美しい顔を目がけて突き出される。

「危ないですから、大人しくしていてくださいね」

薫は恐怖を感じるどころか、困った子供を諭すように小さく溜息をついた。

武器を構える様子もない。ただ、右手の細い人差し指を、迫り来るゴブリンたちに向けて、ちょんと突き出しただけ。

その指先から、バチバチと純白の火花が散る。

薫が異世界で培い、この世界でさらに純度を高めた光聖魔法。その、ほんの爪の先ほどの魔力を解放する。

「『聖光ライト・バレット』」

次の瞬間、パァン! という乾いた破裂音と共に、薫の指先から目も眩むような閃光の弾丸が放たれた。

それはたったの一発。しかし、放たれた光の弾は空中で三つに分裂すると、まるでお互いを追尾するかのように軌道を変え、跳躍していた三匹のゴブリンの眉間へと正確に吸い込まれた。

「ギェッ――!?」

断末魔の悲鳴すら途中で掻き消える。

光の弾頭に触れたゴブリンの肉体は、爆発する暇さえ与えられず、瞬時に内部から純白の炎で焼き尽くされ、塵一つ残さず消滅した。床には、魔物が落とした小さな魔石だけが、カランと虚しく転がっている。

あまりにも一瞬。そして、あまりにも圧倒的な蹂躙だった。

本来なら、Fランクの探索者が数人がかりで、泥臭く剣を振るってようやく倒せる相手なのだ。それを、フリフリの服を着た子供が、指先一つで消し去った。

ドローンカメラは、その光景を完璧なアングルで捉えていた。

静まり返っていた配信のコメント欄が、一秒の静寂の後に、凄まじい速度で動き始める。

『は????????』

『今何が起きた?????』

『エフェクトじゃなくてマジの魔法!?』

『ゴブリンが一瞬で蒸発したんだけど……おいおい、新人Fランクじゃねえだろこれ!』

『てか詠唱破棄の多重誘導魔弾って、Aランクの魔導師でも無理なやつじゃ……』

同時視聴者数が、3人から30人、そして100人へと瞬く間に跳ね上がっていく。

ネットの海の片隅で、規格外の怪物が産声を上げた。その様子を、薫はカメラに向かって小首を傾げながら、無邪気に楽しんでいるのだった。






















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第四話:インフルエンサーの目に留まる時


都内の一等地にある高層マンションの一室。

配信探索者兼インフルエンサーとして活動する松浦かなは、大型の液晶モニターを前にして、ノートパソコンのキーボードを激しく叩いていた。

「あー、次の動画のネタ、どうしようかなぁ……」

かなは二十一才。探索者としては中堅のCランクだが、現役の女子大生でありながらダンジョンの遺跡特集や検証動画を投稿する配信者として、若い世代を中心にそこそこの人気を誇っている。しかし、最近は動画の再生数が伸び悩み、次の一手に頭を抱えていた。

気分転換に、動画プラットフォームの「おすすめ新着配信」を適当にスクロールする。その指が、ある奇妙なタイトルの前でピタリと止まった。

『可愛い女の子(男)がダンジョンを癒やしちゃうぞ☆【初配信】』

「……何これ。よくある女装男子の釣り動画? それとも、ただの悪ふざけ?」

普段なら一瞥して切り捨てるようなタイトルだった。しかし、配信のサムネイルに映る「少女」の顔があまりにも整っており、一人の女性として無視できないレベルの美しさだったため、かなは引き込まれるようにクリックしてしまった。

画面に映し出されたのは、すでに終了したアーカイブ動画だった。

ミントグリーンのワンピースを着た可憐な子供が、カメラに向かって「男の子です☆」と笑顔で言い放つ。

「嘘、これ加工なし? マジでめちゃくちゃ可愛いじゃん……って、そこじゃなくて! ここ、下北沢のFランクダンジョンだよね? 武器も持たずに一人で何やってんの!?」

かなが画面に向かってツッコミを入れた直後、画面の奥から三匹のゴブリンが飛び出してきた。

危ない、とかなが息を呑んだ瞬間。画面の中の少年――華村薫は、怯える素振りすら見せず、細い人差し指をちょんと突き出した。

聖光ライト・バレット

放たれた白い光弾が三つに分裂し、ゴブリンたちの眉間を正確に撃ち抜く。魔物たちは爆発すら起こさず、純白の光に融解するように一瞬で塵へと変わった。

「は……?」

かなの口から、間の抜けた声が漏れた。

彼女はCランク探索者だ。実戦経験も豊富だからこそ、今画面の向こうで行われたことの異常性が、恐怖を覚えるほどによく理解できた。

「嘘……嘘でしょ!? 詠唱なしで、魔力を完全にコントロールして三体に同時必中!? こんなの、ギルドのデータベースに登録されてるAランクの宮廷魔導師様でも、もっと大袈裟な呪文を唱えてるわよ!」

心臓がドクドクと激しく脈打つ。

かなは何度も動画を巻き戻し、スロー再生で薫の指先を確認した。合成エフェクトではない。本物の、それも見たこともないほど高純度で清らかな「光魔法」だ。

さらにコメント欄の爆発的な伸びと、同時視聴者数が右肩上がりに増えていくグラフを見る。

「これ……本物の原石だ。っていうか、原石どころか、すでに完成されたダイヤモンドじゃない!」

プロの配信者としての直感が、かなの脳内で激しく警報を鳴らしていた。この才能を誰よりも早く見つけ出し、世に送り出すことができれば、自分のチャンネルだって一気に跳ね上がる。何より、この可愛い少年がどんな戦いをするのか、もっと近くで見てみたい。

「よし、悩んでる暇はない!」

かなはすぐさま行動に移した。ギルドの配信者専用ネットワークを通じて、華村薫のアカウントへ直接メッセージを送信する。

『はじめまして! Cランク配信探索者の松浦かなと申します! 薫ちゃんの初配信を見て、その圧倒的な魔法と可愛さに一目惚れしちゃいました! もしよければ、今度一緒にコラボ配信をしませんか? 配信のノウハウや、Dランク以上のダンジョンの案内なら任せてください!』

断られるかもしれない。そんな不安を抱きながら待つこと、わずか五分。

ピコん、と軽快な通知音が鳴り響いた。

『松浦かなさん、はじめまして! メッセージありがとうございます! 私、かなさんの遺跡特集動画、薫くんの記憶で見たことがあります! すごく分かりやすくて大好きです。コラボ、ぜひお願いします! 一緒に楽しい配信をしましょうね☆』

「しゃおらぁッ! 返信きたぁぁぁ!」

かなは思わず自室の椅子から立ち上がり、ガッツポーズを決めた。メッセージの文面から溢れる、純真無垢で良い子そうなオーラに、胸がキュンとなる。

二人はトントン拍子で予定を合わせ、数日後にギルドのラウンジで待ち合わせることになった。

そして迎えた当日。

探索者ギルドの一般ラウンジのソファで待つかなの前に、「お待たせしました!」と声をかけてくる人物がいた。

今日の薫は、白いレースがあしらわれたラベンダー色のワンピース姿だ。

画面越しでも凄まじい美少女ぶりだったが、至近距離で見る実物は、肌の透明感や可憐な佇まいが人間の域を超えていた。

「は、華村薫くんだよね……?」

「はい、薫です! かなさん、今日はお時間をとっていただき、本当にありがとうございます!」

ペコリと深々と頭を下げる薫。その一挙手一一投足が、あまりにも可愛い。

「う、ううん! こちらこそ! ……っていうか、本物の方が百倍可愛いってどういうこと!? 眩しすぎて直視できないんだけど!」

「ふふ、ありがとうございます。そう言っていただけると、女の子の服を選んだ甲斐があります」

男の子であることを微塵も感じさせない、天使のような微笑み。かなはすっかり薫の魅力にノックアウトされながらも、真剣な表情で本題を切り出した。

「よし、それじゃあ薫ちゃん。次の配信は、私の案内でDランクダンジョンの中層に行こう。Fランクとは魔物の強さが段違いだけど……薫ちゃんのあの魔法があれば、最高の神回になると思うんだ。世界中をあっと言わせにいこう!」

「はい、かなさん! よろしくお願いします!」

二人は固い握手を交わした。この出会いが、現代ダンジョン界の歴史を大きく塗り替える大バズりの引き金になるとは、まだ誰も知る由はなかった。




















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第五話:蒼輪の盟約との邂逅


薄暗い青光に包まれたDランクダンジョン「新宿地下迷宮」の中層。

華村薫と松浦かなの二人は、コラボ配信を行いながら、湿った石造りの通路を進んでいた。

今日の薫の衣装は、イエローのセーラー襟ブラウスにサスペンダー付きの黒いショートパンツ。可憐でありながら、どこかアクティブな装いだ。もちろん、頭上にはかなの機材である高性能ドローンカメラが二台、静かに浮遊している。

「皆さんこんにちは! かなさんの案内で、初めてのDランクダンジョンに来ています! 薫です☆」

「はーい、かなだよ! 今日の薫ちゃんも最高に可愛いねー! コメント欄もすでに大盛り上がりです!」

かなの読み通り、配信の同時視聴者数は開始早々から三千人を超えていた。Fランクでの一撃蒸発動画を見て集まったリスナーたちが、『本当に実戦で使えるのか?』と固唾を呑んで見守っているのだ。

だが、ダンジョンの奥へと進むにつれ、配信ののどかな空気は一変した。

通路の先、巨大なドーム状の空洞から、鼓膜を激しく震わせるような戦闘音が響いてきたのだ。

重い金属がぶつかり合う音。凄まじい爆発音。そして、人間の焦燥に満ちた怒号。

「……っ、この音、Aランク級の魔物の咆哮よ! 誰か戦ってるんだわ!」

かなが表情を引き締め、片手を上げてドローンを先行させる。

薫もまた、異世界の戦場で嫌というほど聞き届けてきた「命の削り合い」の気配を察知し、即座に駆け出した。

「かなさん、行きましょう! 誰かが助けを求めています!」

「あ、ちょっと、薫ちゃん危ないってば!」

二人が空洞に飛び込むと、そこには地獄のような光景が広がっていた。

十匹を超える巨大な岩石の怪獣――ストーンゴーレムの群れ。その中心で血を流し、防戦一方になっている五人の探索者がいた。

彼らの胸元に輝くのは金色のバッジ。ギルドでも精鋭とされるAランクパーティー「蒼輪の盟約」だった。

「クソがッ! なんでDランクダンジョンに、こんな数のゴーレムが湧いてやがるんだ!」

リーダーの剣士、朝霧直哉が息を切らせながら大剣を振るう。しかし、頑強な岩の皮膚に阻まれ、火花が散るだけで有効打を与えられない。普段のしっかり者としての余裕は完全に消え失せていた。

「直哉、後ろ! 雫音ちゃん、水壁ウォーターウォール急いで!」

斥候の葉山一真が短剣で魔物の注意を逸らしながら叫ぶ。やんちゃな普段の面影はなく、必死の形相だ。言われた水属性魔法使いの篠宮雫音は、大人しい性格も災いして完全に気圧されており、青ざめた顔で杖を震わせながら必死に呪文を唱えていたが、展開した水の壁はゴーレムの一撃で容易く粉砕されてしまう。

「がはっ……!?」

前線で盾を構えていた重戦士の岩永剛毅が、強烈な拳をまともに受けて吹き飛んだ。どさりと地面に倒れ込み、分厚い鎧がひしゃげ、大量の血が溢れ出す。

「岩永さん!! 嫌、死なないで……!」

回復術師の久遠寺澄花が悲鳴を上げながら駆け寄り、必死に両手をかざす。一途に想い、いつも名前で呼んでいる大切な人が目の前で瀕死になっているのだ。狂ったように回復魔法を唱えるが、彼女の魔力はすでに底を突きかけており、淡い光は虚しく明滅するだけだった。

「もう、魔力が……。お願い、動いて、私の光……!」

「アハハハハ! 壊セ、潰セ!」

ゴーレムたちの不気味な質量が、絶望する澄花と岩永を目がけて、無慈悲に振り下ろされようとする。直哉も一真も、自分の目の前の敵に手一杯で助けに行けない。

「しまっ――」

直哉が絶望に目を見開いた、その瞬間だった。

「そこ、動かないでくださいね!」

戦場に、あまりにも場違いな、鈴を転がすような可愛い声が響き渡った。

ストーンゴーレムの巨大な拳が振り下ろされるその寸前、絶望の真ん中へと、フリルとリボンをなびかせた小さな影が、恐るべき速度で滑り込んできた。

かなのドローンカメラが、その可憐で、しかしあまりにも頼もしい背中を、リアルタイムで世界中へと映し出し始めた。






















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第六話:絶大なる光聖魔法、炸裂


「……え?」

久遠寺澄花は、涙に濡れた目で呆然とその背中を見上げていた。

目の前に立ちはだかったのは、およそ戦場には似つかわしくない、フリルをなびかせた可憐な少女――にしか見えない、華村薫だった。

上空から振り下ろされるストーンゴーレムの巨大な岩の拳。それは人間の肉体など容易く消し飛ばす質量だったが、薫は怯むことなく、ただ静かに右手を天へと掲げた。

「『聖域のエギス・プロテクシオ』」

直後、キィンという澄んだ金属音と共に、薫を中心に半径数メートルを覆う純白の光の結界が展開された。

ドガァン!! と激しい衝撃音が炸裂する。しかし、ゴーレムの拳は薫の結界に触れた瞬間、まるで見えない強固な壁に阻まれたかのように完全に静止した。それどころか、反動による凄まじい衝撃波で、ゴーレムの岩の腕がミシミシと音を立ててひび割れていく。

「な、何よこれ……!? 結界魔法……?」

澄花が息を呑む中、薫は振り返り、優しく微笑みかけた。

「もう大丈夫ですよ。すぐに治しますね」

薫は両手を広げ、身体の奥底から清らかな魔力を引き出す。異世界の戦場で何万人もの騎士たちを癒やしてきた、聖女フィオナの至高の光。

「『大いなる癒やしの御手ハイ・ヒール・レボリューション』!」

薫の手のひらから、眩いばかりの温かな光の奔流が溢れ出し、倒れ伏す岩永剛毅の身体を包み込んだ。

「お、おお……っ!?」

岩永の口から驚愕の声が漏れる。ひしゃげていた分厚い鎧が内側から押し返され、骨折していた肋骨が瞬時に結合し、流れていた大量の血が嘘のように消えていく。それだけではない。極度の魔力枯渇で蒼白になっていた澄花の身体にも光が染み込み、一瞬にして全魔力が完全に満たされた。

「嘘、でしょ……? 私の魔力まで、完全に元通りに……?」

澄花は自分の手を握り締め、震えた。通常、他人の魔力を直接譲渡・回復させる魔法など、現代の魔法理論では存在しない。それをこの子供は、呼吸をするようにやってのけたのだ。

前線で戦っていた朝霧直哉と葉山一真も、背後の凄まじい光に思わず動きを止めていた。

「おいおい、岩永の傷が一瞬で治ったぞ……!?」

「あの子、一体何者なんだよ!?」

大人しい水属性魔法使いの篠宮雫音も、杖を握ったまま「信じられない……」と呟き、言葉を失っている。

しかし、戦場はまだ終わっていない。仲間の危機を察知した残りのストーンゴーレムたち八体が、地響きを立てて薫へと狙いを定めた。

『うおおおお! 薫ちゃんマジ聖女!!』

『配信見てるけど、鳥肌が止まらねえ!』

『でも囲まれたぞ! Aランクのゴーレムが八体はまずい!』

かなのドローンカメラを通じて、配信の同時視聴者数は一瞬で一万人を突破し、コメント欄は狂ったように流れ続けている。カメラを構える松浦かな自身も、興奮で手を震わせていた。

「薫ちゃん、気をつけて! まだ敵がいっぱいいる!」

「大丈夫です、かなさん。――皆さん、少し眩しくなりますから、目を瞑っていてくださいね」

薫は可憐にステップを踏むように一歩前に出ると、両手を前方に突き出した。その指先から、先ほどとは次元の違う、神々しいまでの魔力が編み上げられていく。

「我が命じるは不滅の光。邪なる異形を穿ち、無へと還せ――『聖槍・裁きの閃光ロンギヌス・ブライト』!」

薫の前に、十メートルを超える巨大な光の槍が形成された。それはまるで太陽の一片を切り取ったかのように激しく、美しく輝いている。

薫が小さく手を手前に引くと、光の槍は音速を超えて撃ち出された。

轟音が響き渡り、一本の光の線がダンジョンの空洞を横切る。それはストーンゴーレムたちの頑強な岩の身体を、まるで熱したナイフでバターを切り裂くかのように次々と貫通していった。

「ガ……、ガガガ……!」

光の槍が触れた箇所から、ゴーレムたちの身体が真っ白な炎に包まれる。爆発すら起きない。八体のゴーレムは、その巨体を一瞬にして純白の塵へと融解させられ、文字通り「蒸発」した。

あとに残されたのは、静まり返った広大な空洞と、床に転がる大量の輝く魔石。

そして、ミントグリーンの衣装を微塵も汚すことなく、お辞儀をする可憐な少年の姿だけだった。

「ふぅ。皆さん、お怪我はありませんか?」

薫が振り返って小首を傾げると、Aランクパーティー「蒼輪の盟約」の全員が、完全に魂を抜かれたような顔で硬直していた。

























小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第七話:バズるチャンネルと日常のひととき


あの大規模なストーンゴーレムの群れを一撃で蒸発させたコラボ配信から、数日が経過した。

華村薫が暮らす自宅の部屋では、パソコンの画面が信じられないような数値を叩き出し続けていた。

「わあ……。かなさん、これ、何かのバグでしょうか?」

薫はベッドに腰掛け、スマートフォンの画面を見つめながら素直な疑問を口にした。通話スピーカーからは、コラボ相手である松浦かなの、耳が痛くなるほどの絶叫が響いてくる。

『バグなわけないでしょぉぉぉ! 薫ちゃん、信じられない!? 一晩でチャンネル登録者数が五万人増えて、あの配信のアーカイブ、もう百万回以上再生されてるのよ!』

「ひゃくまん……」

異世界から転生してきた薫にとって、その数字の持つ本当の恐ろしさは今ひとつピンとこない。しかし、薫くんの記憶が『それはものすごく大変なことだ』と告げていた。

ネットの掲示板やSNSでは、「あの可愛い聖女様は何者だ!?」「詠唱破棄でAランクの魔物を消し去る美少女(男)」として、トレンドの最上位を独占するほどのお祭り騒ぎになっている。

『ギルドの掲示板でも、蒼輪の盟約の直哉さんたちが「命の恩人だ」って書き込んでるし、もう完全に時の人だよ! 次の配信、世界中が待ってるんだからね!』

「ふふ、嬉しいです。たくさんの人に私の光を見てもらえて、薫くんの夢に近づけました」

かなとの通話を終えた薫は、大きく伸びをした。

さすがにここ数日は注目されすぎて少し心が落ち着かなかった。気分転換と、可愛いお洋服の新作をチェックするために、薫はお気に入りの私服に着替えて街へ繰り出すことにした。

今日のコーディネートは、ノースリーブの白いシフォンワンピースに、サックスブルーのサマーカーディガン。風が吹くたびにふわりと広がるスカートを抑えながら、薫は歩行者天国を歩く。すれ違う人々が、思わず熱い視線を送ってくるのはいつものことだ。

少し歩き疲れた薫は、路地裏に見つけたお洒落な雰囲気のドッグカフェの扉を叩いた。

カランカラン、と涼やかな鈴の音が響く。

「いらっしゃいませ! お一人様ですか?」

奥から明るい声と共に出てきたのは、エプロン姿の若い女性だった。

名前は佐倉美野里、二十一才。ショートカットの髪がよく似合う、弾けるような笑顔が印象的な、誰からも好かれる気の良い女の子だ。

「はい、一人です。あちらの窓際の席でもいいですか?」

「もちろんですよ! どうぞ!」

美野里は薫の姿を見た瞬間、そのあまりの可愛らしさに一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにプロとしての完璧な接客笑顔に戻り、メニュー表を手渡した。

薫が冷たいハーブティーと、小さなベリーのタルトを注文してしばらく待っていると、美野里がトレイを持って戻ってきた。その際、彼女は少しだけ緊張した様子で、薫の顔をじっと見つめる。

「あの……間違っていたらすみません。もしかして、配信探索者の『薫ちゃん』ですか?」

「えっ……。はい、華村薫です。気づかれちゃいましたか?」

薫が少し照れくさそうに微笑むと、美野里は「やっぱり!」と両手を合わせて目を輝かせた。

「私、あのストーンゴーレムの配信、リアルタイムで見てたんです! もう感動しちゃって! 傷ついた人を一瞬で治すところなんて、本物の聖女様みたいでした!」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、頑張った甲斐があります」

「でも……あの、プロフィールのところに書いてあった『男の子』っていうのは、やっぱりその……」

美野里が少し声を潜めて尋ねる。薫は全く気を悪くすることなく、悪戯っぽく人差し指を唇に当てた。

「はい、内緒ですけれど、本当の男の子ですよ。女装が趣味なんです」

「お、男の子……! 嘘でしょ、私より圧倒的に可愛いのに……! でも、最高です! 男の子だろうが女の子だろうが、そんなのどうでもよくなるくらい、薫ちゃんは素敵だよ! 私、これからもずっと一番のファンとして応援させてね!」

裏表のない、真っ直ぐな美野里の言葉。

異世界では「聖女」という肩書や、その強大すぎる力ばかりを見られ、一人の人間として純粋に好意を向けられることは少なかった。しかしこの現代世界では、自分が男の娘という一風変わった存在であっても、こうして笑顔で受け入れてくれる人がいる。

「はい! 美野里さん、ありがとうございます!」

薫は満面の笑みを返した。

美味しいタルトを食べながら、二人はいつの間にかプライベートの友だちのように連絡先を交換し、お喋りに花を咲かせた。

戦いばかりだった前の世界とは違う、温かくて穏やかな日常。

守るべき日常の尊さを肌で感じながら、薫は現代世界での自分の居場所を、さらに愛おしく思うのだった。




















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第八話:緋天の行軍、その実力と慢心


「ふん、ネットの評判なんてアテになるかよ。どこの馬の骨とも知らねえガキを聖女だの何だのと……。ただの客寄せパンダに決まってらあ」

探索者ギルドの地下にある、Aランク専用の特別ラウンジ。

革張りのソファに深く腰掛け、不機嫌そうに鼻を鳴らしたのは、Aランク上位パーティー「緋天ひてんの行軍」のリーダー、九条烈斗だった。二十八才、鍛え上げられた肉体に無骨な長槍を携えた、口は悪いが根性の曲がっていない一本気の槍使いである。

「まあまあ、烈斗。でも、あの蒼輪の盟約が全滅しかけたところを助け出したのは事実みたいだよ? 配信の映像も見たけれど、確かにすごかったし……何より超可愛かった!」

「奏真、お前は女なら誰でもいいんだろ。少しは緊張感を持ちなさいよ」

軽薄そうに笑う双剣士の速水奏真を、闇魔法使いの天城紗夜が冷ややかな目で見据える。二十四才の紗夜は、九条に対して密かに片想い中であり、彼の機嫌を損ねるような話題には少しセンチメンタルな反応を示しがちだった。

その時、ラウンジの自動ドアが開き、重厚な足音と共に和泉康介ギルド長が姿を現した。その後ろから、ちょこちょことついてくる小さな人影がある。

今日の華村薫の衣装は、赤と白のチェック柄のノースリーブワンピースに、白いサマーカーディガン。ポシェットを斜めがけにした姿は、どこからどう見てもお出かけ中の可憐な美少女だ。

「揃っているな、緋天の行軍。急な呼び出しで悪いが、緊急の合同任務だ」

和泉ギルド長の言葉に、九条は鋭い視線を薫へと向けた。

「ギルド長、まさかそのガキが合同任務の相手ですか? 足手まといを連れて行く趣味はねえんですが」

「口を慎め、九条。これはギルドからの正式な要請だ。横浜のBランクダンジョン『鳳凰の巣』の最下層で、イレギュラーな魔物の活性化が確認された。戦力補強として、Dランクながら規格外の魔力を持つ華村薫を同行させる」

ギルド長の有無を言わせぬ威厳に、九条はチッと舌を打ち、立ち上がった。

「上がそう言うなら従いますがね……。おい、ガキ。後ろで震えて泣き出しても助けてやらねえからな」

その挑発的な言葉に、薫は怯むどころか、お辞儀をして満面の笑みを返した。

「華村薫です! 皆さんの邪魔にならないよう頑張りますので、よろしくお願いします!」

その天使のような微笑みと鈴を転がすような声に、双剣士の奏真は一瞬で胸を撃ち抜かれたように「うわ、マジで可愛い……」と呟く。

一方で、支援術師の真田和希はいつも通りぼんやりとした表情で薫を見つめ、弓使いの椎名香澄は極度の引っ込み思案な性格から、薫の後ろに隠れるように「あ、あの、よろしくお願いします……。怪我、しないでね……」と蚊の鳴くような声で囁いた。

「よし、挨拶はそこまでだ。各自、出発の準備をしろ」

ギルド長の合図で、一行は専用の転移ゲートへと向かう。

薫はポシェットから浮遊型のドローンカメラを取り出し、移動中から配信を開始した。

「皆さんこんにちは! 薫です☆ 今日はAランクの凄腕パーティー『緋天の行軍』の皆さんと一緒に、緊急任務に行ってきます!」

配信の同時視聴者数は、開始からわずか数分で瞬く間に数千人を超え、コメント欄には『おお、噂の緋天とコラボ!?』『薫ちゃん今日も服が似合ってて最高!』と歓喜の声が溢れる。

しかし、隣を歩く九条はカメラを一瞥し、「ダンジョンを舐めるなよ」と冷たく言い放つだけだった。

実力はあるが、薫の真価を知らないがゆえの慢心。異世界で数々の修羅場を潜り抜けてきた薫は、九条のその頑固な態度の中に、仲間を思いやるがゆえの厳しさがあることを見抜いていた。

(口は悪いですけれど、根はとても真っ直ぐな人ですね。ふふ、楽しい道中になりそうです)

薫は小さく微笑みながら、赤く燃え盛るような魔力を放つBランクダンジョン『鳳凰の巣』のゲートへと、軽やかな足取りで一歩を踏み出した。
























小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第九話:深層の罠と、緋天の危機


赤く燃え盛る結晶が壁一面を埋め尽くす、Bランクダンジョン「鳳凰の巣」。

その深層へと続く一本道を、華村薫とパーティー「緋天の行軍」の面々は突き進んでいた。

さすがはギルドでも上位に位置するAランクパーティーと言うべきか、彼らの進軍は極めて迅速だった。

「おらぁッ!」

九条烈斗の放つ鋭い槍の一撃が、立ちはだかる炎の魔獣の核を正確に穿ち、一撃で霧散させる。

「烈斗、右からもう一匹来てるよ!」

「言われなくても分かってらあ!」

天城紗夜が漆黒の闇魔法で魔獣の足を止め、そこへ速水奏真が電光石火の双剣でトドメを刺す。さらに後方からは、椎名香澄が極度の引っ込み思案とは思えないほど正確無比な弓矢を放ち、真田和希の静かな支援魔法がパーティー全体の能力を底上げしていた。

「ふん、見たかガキ。これが本物のAランクの戦いだ。お前の出る幕なんてねえだろ」

九条は槍に付着した魔物の返り血を払いながら、薫を振り返って不敵に笑った。

薫はドローンカメラを片手でコントロールしながら、心からの拍手を送る。

「はい! 皆さんの連携、とっても息が合っていて素晴らしいです! 薫、感動しちゃいました!」

「チッ、緊張感のねえやつだ……」

九条は毒気を抜かれたように顔を背けたが、その表情には明らかな「油断」が生じていた。ここまでイレギュラーの活性化と言いつつも、彼らの想定を超える魔物は現れていなかったからだ。

しかし、ダンジョンの最深部へと通じる巨大な赤岩の門をくぐった、その瞬間だった。

ゴ、ゴゴゴゴゴ……!

突如として、ダンジョン全体が激しい地鳴りを立てて震え始めた。

「な、何!? 地震!?」

紗夜が声を荒らげる。和希がぼんやりとした表情を一変させ、「床の魔法陣が……反転している」と呟いた。

それは、ダンジョンの構造が急変し、侵入者を圧殺する最悪の捕食システム「階層主の逆鱗ダンジョン・トラップ」だった。

背後の門が凄まじい勢いで閉ざされ、退路が完全に断たれる。それと同時に、周囲の岩壁から、赤黒い不気味な霧が噴出し始めた。

「ギチチチ、オオオオオ!」

霧の中から姿を現したのは、通常の「鳳凰の巣」には生息するはずのない、十数匹の巨大な骸骨の騎士――それも、怨念の呪いを全身に纏った「カース・ナイト」の群れだった。

「しまっ……! 呪い属性のイレギュラーだと!?」

九条が慌てて槍を構える。

「紗夜、闇魔法で相殺しろ!」

「やってる、やってるけど……ダメ、相性が悪すぎて、私の魔法が吸い取られていく……っ!」

紗夜の放つ闇の弾丸は、カース・ナイトが放つ圧倒的な怨念の霧に触れた瞬間、無惨にも掻き消されてしまった。

「嘘、これじゃ間合いに飛び込めないじゃん!」

奏真が双剣を構えるが、敵の放つ赤黒い霧に触れるだけで、武器がミリミリと腐食し始める。香澄が必死に放つ矢も、呪いの障壁に弾かれて届かない。和希の防御支援も、怨念の浸食を前にして強度が保てなかった。

「クソがぁぁッ! ナメるなァ!」

しびれを切らした九条が、闘気を全身に纏って突撃した。

烈風のごとき突きがカース・ナイトの一体の盾を砕く。しかし、もう一体の騎士が放った、怨念に濡れた大剣の横薙ぎを避けることができなかった。

ガギィィン! と重い音が響き、九条の長槍が弾き飛ばされる。

「がはっ……!?」

九条の胸元を、赤黒い刃が浅く切り裂いた。

傷自体は浅かった。しかし、刃に宿っていた濃厚な「死の呪い」が、一瞬にして九条の肉体内へと浸食していく。

「烈斗!?」

紗夜が悲鳴を上げる。

九条は全身の筋肉が急速に壊死していくような激痛に襲われ、その場にどさりと膝をついた。顔面は土気色に変色し、呼吸が荒くなる。

「クソ、身体が……動かねえ……。呪いが、廻って……」

カース・ナイトたちが、勝ち誇ったようにカタカタと骨の顎を鳴らし、無防備になった九条へと一斉に大剣を振り上げた。奏真も紗夜も、呪いの雾に阻まれて助けに行けない。

「ここまで、なのか……! 俺の不覚で、みんなを……!」

九条が絶望に目を瞑った、その瞬間。

「ですから、油断してはダメだと言ったのですよ?」

トコトコと、あまりにも場違いな軽い足音が、赤黒い絶望の戦場に響いた。

フリルをなびかせ、ポシェットを揺らしながら、華村薫が九条の前へと静かに歩み出てきた。





















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十話:呪詛を祓う清らかな光


「おい、ガキ……何しに出てきやがった。逃げろって、言ってるだろ……!」

膝をつき、激痛に顔を歪ませながら九条烈斗が絞り出すように叫ぶ。肉体を蝕む赤黒い呪いの霧は、すでに彼の鎖骨のあたりまで黒い斑点となって広がっていた。

迫り来るカース・ナイトたちの巨大な大剣。その凶刃が届く直前、華村薫は小さく、しかし凛とした声で呟いた。

「『聖なる盾よ、我が前に集え(サナティオ・プロテクシオ)』」

薫が可憐なレースのカーディガンをふわりと翻した瞬間、彼女を中心に直径五メートルほどの完璧な光の球形結界が展開された。

ガギィィン!!! と激しい金属音が鼓膜を震わせる。カース・ナイトたちが全力で振り下ろした大剣は、薫の結界に触れた瞬間、まるで火鉢に触れた氷のように激しく白煙を上げながら弾き飛ばされた。

「な……んだと……!?」

九条が目を見開く。それだけではない。薫の足元から、床一面に神々しいまでの純白の魔法陣が急速に広がっていく。その光が放たれた瞬間、ダンジョンの深層を埋め尽くしていた赤黒い怨念の霧が、まるで朝日を浴びた霧霧のように一瞬で霧散していったのだ。

「キャッ!? 呪いの気配が、完全に消えた……?」

後方で絶望していた天城紗夜が驚愕の声を上げる。速水奏真も、自分の双剣の腐食が止まり、輝きを取り戻したのを見て言葉を失っていた。

薫はカース・ナイトたちを視界の端に収めたまま、ゆっくりと九条の前にしゃがみ込んだ。お気に入りのチェック柄のスカートが汚れるのも気にせず、白く細い手のひらを、九条の胸元の傷口へと優しくかざす。

「痛いのは飛びましたか? ――『聖華・大快癒リジェネレイト・オーラ』」

薫の手のひらから、温かく、そして圧倒的に清らかな光の奔流が溢れ出し、九条の身体へと染み込んでいった。

「あ、が……お、おおおおっ!?」

九条の口から、驚愕と、あまりの心地よさに混じった声が漏れる。肉体を蝕んでいた黒い呪詛の斑点がみるみるうちに消え去り、引き裂かれた皮膚が瞬時に結合していく。枯渇しかけていたスタミナと魔力までが、まるで温泉に浸かっているかのように急速に満たされていくのが分かった。

「呪いが……完全に消えた? 骨の髄まで染みてたはずの悪辣な呪詛が、一瞬で……」

九条は自分の胸元を触り、顔を真っ赤にして黙り込んだ。目の前の可憐な少年――いや、聖女の圧倒的な力に、魂ごと圧倒されていた。

だが、戦場はまだ終わっていない。結界を破れず、霧を消されたカース・ナイトたちが、怒りに骨の身体を震わせて一斉に突撃してきた。その数、十数匹。

『うおおおお! 薫ちゃん降臨!!』

『呪い無効化とかチートなんてレベルじゃねえ!』

『緋天のメンバーが全員ポカンとしてて草』

『薫ちゃん、後ろから敵が来てる! 逃げて!』

かなのドローンカメラが捉えるリアルタイムの配信画面では、同時視聴者数が一気に二万人を突破。コメント欄が目にも留まらぬ速さで流れていく。

「香澄さん、私に合わせてもらえますか?」

薫が振り返り、後方で弓を構えたまま震えている椎名香澄に、天使のような笑みを向けた。

「えっ、あ、はいっ……! やります、やるときは、やります……!」

極度の引っ込み思案である香澄が、薫の笑顔に励まされ、必死に一本の矢を番えて限界まで弦を引き絞る。

薫はその矢の先端に向けて、そっと人差し指を触れさせた。

「『光の付与セイント・エンチャント』」

香澄の放つ普通の矢が、薫の指先が触れた瞬間、太陽の輝きを宿したような眩い光の矢へと変貌した。

「い、いっけぇぇぇ!」

香澄が弦を放す。放たれた一本の光の矢は、空を切り裂きながらカース・ナイトの群れの中心へと着弾した。

直後、ダンジョンの最深部が昼間のような純白の爆発に包まれた。

どどおぉぉぉん!!! という地響きと共に、神聖な光の衝撃波が広がる。カース・ナイトたちは悲鳴を上げることすら許されず、その頑強な骨の身体を内側から爆発させ、一瞬にしてきらきらと輝く純白の塵へと融解していった。

あとに残されたのは、静まり返った広大な赤岩の間と、床に転がる大量の輝く魔石。

そして、フリルを揺らしながら「ふぅ、皆さん無事でよかったです!」と嬉しそうに微笑む、一人の可憐な少年の姿だけだった。

九条烈斗をはじめとする「緋天の行軍」の全員が、武器を握ったまま、完全に魂を抜かれたような顔で硬直していた。彼らは今、ネットの噂が「過小評価」であったこと、そして目の前にいる存在が、本物の「聖女」であることを骨の髄まで理解したのだった。





















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十一話:Sランクの影と、新たな仲間


「――というわけでな。お前の昨日の配信、ギルド上層部でも大騒ぎになってるぞ」

緊急任務の翌日。華村薫は、探索者ギルド本部の最上階にあるギルド長室に呼び出されていた。

今日の薫は、ライムグリーンのパフスリーブワンピースに、白いレースのレギンスを合わせた爽やかな装いだ。対面するデスクでは、和泉康介ギルド長が苦笑しながら熱いお茶をすすっている。

「緋天の行軍の九条がな、『あのガキは本物だ。今まで舐めた口を叩いてすまなかったと伝えてくれ』と、顔を真っ赤にして報告書を出してきたぞ」

「ふふ、九条さんたちが無事で何よりです」

薫が鈴を転がすような声で微笑むと、和泉は表情を引き締め、部屋の奥にある応接用のソファを指差した。

「だが薫、今日の本題はそれだけじゃない。お前の規格外の力を受けて、ギルドとして正式にお前に紹介しておきたい先達がいる」

和泉の視線に導かれるように薫が振り返ると、そこには圧倒的な存在感を放つ二人の男女が座っていた。彼らの胸元に輝くのは、日本に数人しか存在しない最高峰の証――虹色に煌めく「Sランク」の探索者バッジだった。

「ふん、この子が噂の『女装聖女』ちゃん? ネットが大騒ぎしてるからどんな凄腕かと思えば……ただのちんちくりんのお子様じゃない」

高飛車に言い放ち、長い脚を組み替えたのは如月美鈴、二十六才。

ウェーブがかった美しい黒髪に、露出度の高い洗練された軽鎧を纏った美貌の魔法使いだ。実力は折り紙付きだが、若くして頂点に登り詰めたがゆえに、少々鼻が天狗になっているお姉さんだった。

「おい、美鈴。初対面の相手に失礼だぞ」

美鈴を窘めるように低い声を出したのは、隣に座る東郷陸翔、二十七才。

逆立った短髪に、大剣を背負った筋骨隆々の戦士だ。その眼光は猛獣のように鋭く、一般の探索者なら睨まれただけで失気するほどの威圧感を放っている。

だが――薫の可憐な姿をその鋭い瞳に映した瞬間、陸翔の心臓はドクンと大きく跳ね上がった。

(な、なんだこの生き物は……!? 犯罪的に可愛いぞ……!? フリフリの服が似合いすぎている。守ってあげたい、今すぐ美味しいお菓子をたくさん買い与えて甘やかしてあげたい……!)

陸翔は、中身は超がつくほど面倒見の良い優しいお兄さんだった。しかし、生まれつき眼光が鋭すぎるせいで、内心の「悶絶」が周囲には「激しい怒り」にしか見えないのが彼の悩みの種だった。今も薫を睨みつけているように見えて、内心では尊さのあまり気絶しかけている。

薫は異世界の聖女としての経験から、美鈴の言葉に悪意はなく単なるプライドの裏返しであること、そして陸翔の鋭い視線の奥に潜む「底知れぬ優しさ」を瞬時に見抜いていた。

「はじめまして! 華村薫、十四才です。Sランクの先輩方にお会いできて光栄です!」

薫がスカートの裾をちょこんと持ち上げ、完璧なカーテシーでお辞儀をすると、陸翔は(ぐはっ、天使か……!)と心の中で吐血した。

「挨拶なんていいわよ」

美鈴はフンと鼻を鳴らし、立ち上がって薫を見下ろした。

「ギルド長はあなたを特例でどんどん昇格させるつもりみたいだけど、私は認めないわ。ダンジョンは甘くいた世界じゃないの。実力もないのにチヤホヤされてる子は、いつか痛い目を見るわよ」

「美鈴、お前……」

陸翔が止めようとするが、美鈴は引かない。

「それなら、美鈴さん。私の実力を、確かめてみませんか?」

薫は怯むことなく、小首を傾げて可愛らしく提案した。

「へえ、言うじゃない。どうやって確かめるの?」

「ギルドの地下には、頑丈な模擬訓練場がありますよね。そこで、私と一本勝負をしましょう。お手柔らかにお願いしますね?」

薫の予想外の提案に、美鈴は綺麗な眉を跳ね上げた。

「おもしろいじゃない。Sランクの魔法がどんなものか、泣いて命乞いしても知らないからね!」

こうして、特例のDランク配信探索者と、最高峰のSランク探索者による前代未聞の模擬戦が決定した。

騒ぎを聞きつけたAランクの大木将司や、甘いものが大好きなBランクの笠木ゆみなど、ギルドにいた多くの探索者たちが「おい、マジかよ!?」と色めき立ち、地下訓練場の観客席へと続々と集まり始めるのだった。






















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十二話:頂点との模擬戦


ギルド本部の地下深くにある特級模擬訓練場。

周囲を何重もの防護結界で囲まれたその空間の観客席には、異様な熱気が満ちていた。

「おいおい、マジでやるのかよ。Sランクの如月美鈴と、あの話題の女装聖女ちゃんが……」

「いくら薫ちゃんが凄くても、相手は国内最高峰だぞ? 危険すぎるだろ!」

観客席では、気が良くて親しみやすいAランク探索者の大木将司がハラハラと戦況を見守り、その隣では甘いものが大好きなBランクの笠木ゆみが「薫ちゃん頑張れー! 勝ったら美味しいケーキおごっちゃうからねー!」とマイペースに声援を送っている。

訓練場の中央。今日の華村薫の衣装は、ネイビーのセーラーワンピースに、動きやすい白いパニエを合わせたおめかしスタイルだ。対峙する如月美鈴は、天狗になっている実力者らしく、その美しい杖を優雅に構えて不敵な笑みを浮かべていた。

「いい? 華村薫ちゃん。私は手加減なんてしてあげないわよ。怪我したくなければ、今すぐ降伏しなさい」

「ふふ、お気遣いありがとうございます、美鈴さん。でも大丈夫です、全力で来てくださいね」

薫が鈴の鳴るような声で微笑むと、審判を務める和泉ギルド長が右手を高く掲げた。

「両者、構え――始め!」

合図と同時に、美鈴の纏う魔力が爆発的に膨れ上がった。流石はSランク、その発動速度と密度はAランクの比ではない。

「一撃で沈めてあげるわ! 『紅蓮の劫火インフェルノ・バースト』!」

美鈴の杖の先から、訓練場の天井を焦がすほどの巨大な火炎の奔流が解き放たれた。激しい熱風が観客席まで届き、大木将司が「おいおい、初手から殺す気か!?」と叫ぶ。訓練場の強固な壁が熱でピキピキと削れるほどの威力を前にして、薫は一歩も動かなかった。

ただ静かに、可憐な白い右手を前方に差し出す。

「『聖域のエギス』」

薫の前に展開されたのは、手のひらほどの小さな、しかし鏡のように滑らかな純白の光の盾だった。

ドガァァァン!!! と激しい爆発音が響き渡り、視界が真っ赤な炎と爆煙で覆われる。

「やったかしら……」

美鈴がそう呟いた瞬間、炎が綺麗に左右に割れた。

そこには、煤一つついていない、ミントの香りが漂ってきそうなほど端正な顔立ちの薫が、何事もなかったかのように佇んでいた。薫の展開した小さな盾が、Sランクの全力魔法を完全に「無効化」し、霧散させていたのだ。

「う、嘘でしょ……!? 私の最大火力を、片手で……!?」

美鈴の顔から余裕が消え去り、驚愕で青ざめていく。美鈴は狂ったように次々と上級魔法を連射するが、薫はそれらを全て、散歩でもするかのように歩きながら、小さな光の壁でパキィン、パキィンと軽快に弾き返していく。

観客席で見守る東郷陸翔は、鋭い眼光の裏で(薫ちゃん、強すぎる……! 圧倒的なのに身のこなしまで可憐だなんて、もう実質天使では……!?)と、尊さのあまり悶絶を極めていた。

「これ、これで最後よぉぉぉ!」

美鈴が全魔力を絞り出し、空間を歪めるほどの雷撃魔法を放とうとした、その瞬間だった。

フッ、と美鈴の視界から薫の姿が消えた。

「え――」

「勝負あり、ですね」

背後から、耳元で楠の葉が擦れ合うような、優しく可愛い声が聞こえた。

美鈴がハッと振り返ろうとした時には、すでに遅い。彼女の細い首筋には、薫の手のひらから伸びた、触れれば魂ごと消滅しかねないほど高密度に凝縮された「光の刃」がピタリと突きつけられていた。

圧倒的な速度、圧倒的な防御、そして完璧な機先。異世界の戦場で神の如き魔王軍と戦ってきた聖女にとって、現代のSランクの戦術はあまりにも直線的で、隙だらけだったのだ。

「……私の、負けよ」

美鈴の杖が、床にカランと落ちた。彼女はそのまま崩れるように膝をつく。天狗になっていたプライドが完全に粉砕され、絶望が彼女を襲う。

しかし、首筋の光の刃は優しい粒子となって消え、代わりに白くて柔らかい、小さな手が美鈴の前に差し出された。

「美鈴さん、とっても素敵な魔法でした! 炎のコントロールがすごく綺麗で、薫、見惚れちゃいました!」

見上げると、そこには一切の傲慢さもなく、心からの敬意と親愛を込めて微笑む可憐な少年の姿があった。

美鈴はその瞳に吸い込まれるように薫の手を握り、顔を真っ赤に染めた。

「な、なによそれ……。強いクセにそんなに可愛いなんて、反則じゃない……!」

プライドをへし折られたはずの如月美鈴は、その優しさと圧倒的なカリスマの前に、完全にノックアウトされてしまったのだった。























小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十三話:現代の聖女、弓永桜子


「あの、お邪魔します……。ここが、華村薫さんのいらっしゃるギルドの控室でしょうか……?」

如月美鈴との模擬戦から数日後。ギルドの特別控室の重厚な扉を、おずおずと押し開ける一人の少女がいた。

名前は弓永桜子、十九才。ゆるやかにウェーブした亜麻色の髪を白いリボンでまとめ、清楚なロングワンピースを身に纏った、まるでおとぎ話から抜け出してきたかのように清らかで優しい雰囲気を持つ少女だった。

今日の華村薫の衣装は、淡いピーチピンクのシャーリングワンピース。ソファーに座って紅茶を飲んでいた薫は、入ってきた桜子を見て、鈴を転がすような声で応じた。

「はい、華村薫です。あなたが、ギルド長からお話のあった弓永桜子さんですね?」

「あ……! 本物の薫ちゃんさん……!」

桜子は両手を胸の前で合わせ、潤んだ瞳で薫を見つめた。

実は彼女もまた、現代日本において極めて稀少とされる「光聖魔法」の使い手だった。普段からその慈愛に満ちた心根で、傷ついた多くの探索者たちを無償で癒やし、周囲からは『現代の聖女』と慕われている有名人である。

しかし、そんな彼女がわざわざ薫を訪ねてきたのには、ある切実な理由があった。

「薫ちゃんさんのストーンゴーレムの時の配信、そして美鈴さんとの模擬戦の映像……何度も、何度も拝見しました。驚きました……私の使う光魔法とは、次元が違いすぎて……!」

桜子は薫の前に歩み寄ると、深々と頭を下げた。

「私、誰にでも優しい清らかな光を扱えるようになりたいと思って頑張ってきました。でも、私の力では深い呪いや、本当の致命傷を癒やすことができません……。お願いです、薫ちゃんさん! 私に、本当の光の力を教えてください!」

自分より年上の十九才の美少女に、そこまで真剣に慕われ、頭を下げられるとは思っていなかった。薫は少し頬を染めて照れくさそうに微笑みながら、桜子の手を取って立ち上がらせた。

「顔を上げてください、桜子さん。そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。私で良ければ、私の知っている光の扱い方、全部お教えします!」

「本当ですか……!? ありがとうございます!」

二人はさっそく、ギルドの地下訓練場へと移動した。

「現代の魔法理論では、魔力を体外へ放出して『形』にするのが一般的ですよね。でも、光聖魔法の神髄はそこではないのです」

薫は可憐なレースの袖を少し捲り上げ、桜子の前に手をかざした。

「まずは、自分の身体の中にある魔力の『流れ』を意識してください。外に出すのではなく、細胞の一つ一つに光の温かさを巡らせるイメージです。――こうですよ」

薫が呼吸を整えると、彼女の全身から、まるでお日様のようなぽかぽかとした温かい光が微かに溢れ出した。それは威圧感など微塵もない、ただそこにいるだけで心が洗われるような純粋な聖気だった。

「わあ……なんて心地よい魔力……。身体が、すごく軽くなります……」

桜子はうっとりとその光を見つめる。

「さあ、桜子さんもやってみてください。魔力を無理に押し出すのではなく、光に身体を預けるのです」

「はい……!」

桜子は目を閉じ、薫の言葉通りに意識を集中させた。異世界の聖女フィオナとして数万人の聖職者を導いてきた薫の指導は、的確そのものだった。

薫がそっと桜子の背中に手を当て、魔力の循環を優しくサポートしていく。

「あ……流れる……。魔力が、すごく綺麗に巡っていくのが分かります……!」

桜子が目を開け、前方の標的に向けて手をかざした。

「『聖光ライト』!」

放たれたのは、これまで彼女が使っていたものとは比べ物にならないほど、純度が高く透き通った光の弾丸だった。標的に着弾した瞬間、爆発を起こすことなく、物質の邪気だけを完璧に浄化して消滅させた。

「できた……できました! 薫ちゃんさん、私、こんなに深く光を感じられたのは初めてです!」

桜子は飛び上がんばかりに喜び、薫の両手を握りしめた。

「ふふ、大成功です。桜子さんの心根がとても清らかだから、光もすぐに応えてくれたんですよ」

薫が天使のような笑顔で褒め称えると、桜子は顔を上気させ、「私、一生薫ちゃん先生に付いていきます!」と熱烈な瞳で宣言するのだった。現代の聖女と異世界の聖女。二人の間に、血の繋がりを超えた強固な師弟の絆が、ここに結ばれた瞬間だった。






















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十四話:甘いものと同盟


「薫ちゃん、こっちこっち! 早く並ばないと限定の『極上とろける苺ミルフィーユ』が売り切れちゃうよー!」

雲一つない五月の青空の下、原宿の竹下通り。大勢の若者で賑わう街並みに、一際よく通る声が響いた。

声を張り上げているのは、Bランク探索者の笠木ゆみだ。二十三才の彼女は、ダンジョン内でのクールな立ち振る舞いとは裏腹に、私生活では大の甘党。今日の彼女は推しのアイドルのようなカジュアルな服装で、目をらんらんと輝かせていた。

そんなゆみに手首を引かれている華村薫の衣装は、レモンイエローのギンガムチェック柄ノースリーブワンピースに、白いストローハット。街ゆく人々が「どこかのモデルさんかな?」と振り返るほどの可憐さだが、中身は異世界の聖女である。

「ゆみさん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。予約はちゃんと取ってありますから」

薫が鈴を転がすような声で宥めると、ゆみは「さすが薫ちゃん、頼りになるぅ!」と、その華奢な身体をぎゅっと抱きしめた。

今日二人が訪れたのは、SNSで大流行している高級スイーツ食べ放題専門カフェ。

指定されたテラス席に向かうと、そこにはすでに先客がいた。

「あ、薫ちゃん! こっちこっち!」

嬉しそうに手を振ったのは、薫の一番の理解者である佐倉美野里。そして、その隣には動画配信の相棒である松浦かな、さらには先日薫に弟子入りした弓永桜子と、模擬戦以来すっかり薫のファンになってしまったSランクの如月美鈴までが、お忍びの私服姿で座っていた。

「薫ちゃん、遅いじゃない。この私が待たされるなんて、百年早いわよ」

美鈴はツンとそっぽを向くが、その頬は微かに赤い。

「お待たせしてすみません、美鈴さん。皆さん、揃ってのお出かけは初めてですね」

薫が席に座ると、テーブルの上には山のようなケーキやマカロン、パフェが次々と運ばれてきた。まさに甘党の天国。

「いっただっきまーす!」

ゆみが幸せそうにミルフィーユを口に運ぶ。かなはすかさずスマホを取り出し、「はい、女子会(?)オフショット、いただきまーす!」と写真をパシャパシャと撮影し始めた。

「それにしても、薫ちゃんは本当に男の子なんだよねぇ……。至近距離で見ても、私より肌が綺麗だし可愛いから、時々脳がバグりそうになるよ」

美野里がタルトを齧りながら、しみじみと呟く。

「はい、れっきとした男の子ですよ。でも、こうしてみんなでお洒落をして、美味しいものを食べる時間は、異世界にいた頃には想像もできなかったくらい幸せです」

薫がクッキーをサクッと齧りながら微笑むと、隣の桜子が「薫先生は、男の子だろうと女の子だろうと、尊い聖なる存在なのです……!」と両手を合わせて熱弁し、全員が深く頷いた。

「ふん、まあ、男だろうが関係ないわよ。要は、実力があって、なおかつこれだけ可愛いんだから、私が認めたのも当然ってこと。今度の配信、私もゲストで出てあげてもいいわよ?」

美鈴が相変わらず高飛車に言うと、かなが「えっ、Sランクの如月美鈴がゲスト!? 視聴率が宇宙まで飛んじゃう!」と大興奮。

そんな賑やかな女子会の最中、カフェの入り口付近が俄かに騒がしくなった。

「あ、あれ……? 美鈴さんに、ゆみ先輩……?」

大きめの紙袋を両手に下げた大柄な男が、きょとんとした顔で立っていた。Aランク探索者の大木将司だ。

「あら、将司じゃない。何してるの、そんなところで」

美鈴が声をかけると、将司は頭を掻きながら席へ近づいてきた。

「いや、ここの近くのダンジョンに潜っててさ。ここの『特製濃厚ガトーショコラ』が有名だって聞いたから、差し入れにと思って並んで買ってきたんだよ。……って、薫ちゃんもいたのか!」

将司は紙袋から、まだ温かいガトーショコラを取り出してテーブルに置いた。

「気の良いお兄さん」を体現したような彼の親切心に、ゆみは「将司、神! 結婚して!」と大喜び。

「将司さん、ありがとうございます。とっても美味しそうです!」

薫が満面の笑みでお礼を言うと、将司は顔を真っ赤にして「い、いや、薫ちゃんが喜んでくれるなら並んだ甲斐があったよ!」と照れまくった。

戦いばかりで、常に誰かの命を背負っていた異世界。

それに比べて、この現代世界はなんて優しくて、甘くて、温かいのだろう。

最高の仲間たちに囲まれ、自分のありのままを受け入れてもらえる喜び。薫はタルトの甘さを噛み締めながら、この平和な日常を何があっても守り抜こうと、胸の奥で静かに誓うのだった。





















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十五話:未踏破ダンジョンの出現


その異変は、何の前触れもなく訪れた。

東京郊外の静かな新興住宅地。その中心にある広大な公園の地面が突如として大きく陥没し、底の見えない巨大な縦穴が出現したのだ。

穴の奥底からは、これまでの現代ダンジョンとは明らかに一線を画する、禍々しく濃密な漆黒の魔力が絶え間なく溢れ出していた。ギルドが設置した魔力観測器は瞬時に限界値を突破して焼き切れ、発令された警戒レベルは国内最高峰の『特級』。

まだ人類の誰も足を踏み入れたことのない、人類未踏破の特異点だった。

「――状況は最悪だ。内部の魔力濃度から見て、数日以内に魔物が地上へ溢れ出す『ダンジョン・ブレイク』が起きる可能性が極めて高い」

探索者ギルド本部の緊急作戦室。

重苦しい空気が満ちる中、和泉康介ギルド長がホログラムマップを指し示しながら、集まった探索者たちを見据えた。

そこに並ぶのは、日本探索者界の最高戦力。Sランクの東郷陸翔、如月美鈴。そして、Aランクパーティー『蒼輪の盟約』の朝霧直哉たちと、『緋天の行軍』の九条烈斗たち。

そして最前列には、今日の衣装であるスカイブルーのミリタリー風フレアワンピースに身を包んだ、華村薫の姿があった。

「今回の任務は、ダンジョンブレイクが発生する前に最深部へと突入し、元凶である階層主を討伐することだ。生半可な実力では一歩目で精神が崩壊する。ゆえに、ここにいる精鋭部隊による総力戦を行う!」

和泉の厳格な言葉に、陸翔が鋭い眼光を放ちながら大剣の柄を握りしめた。

「異議はありません。俺たちが日本の盾となり、あの穴を塞いでみせます」

陸翔の凄まじい気迫に誰もが頷く中、その隣で美鈴が少し不安そうに薫へと視線を向けた。

「薫ちゃん……あなたも行くのよね? 危険なのは百も承知だけど、あなたの光がなければ、私たちは……」

「はい、もちろんです、美鈴さん!」

薫は鈴を転がすような声で、迷いのない微笑みを返した。

「この不穏な魔力、放っておけばたくさんの街が壊れて、美野里さんたちのいる平和な日常が脅かされてしまいます。私の光で、すべてを護ってみせます」

その神々しいまでの決意に、九条烈斗はフンと鼻を鳴らしつつも頼もしげに口元を緩め、朝霧直哉も「俺たちの命、もう一度お前に預けるぜ」と固い握手を求めた。

作戦室の隅では、配信の相棒である松浦かなが、最新型の超高感度ドローンカメラを何台も点検していた。彼女の顔には緊張の色が隠せない。

「薫ちゃん、準備はいい? 今回の配信、ギルド公式とも連携して世界中に同時中継されるよ。未踏破特級の生配信なんて、前代未聞どころの話じゃない。世界中が、私たちの戦いを見つめることになるんだから」

「はい、かなさん。世界中の人に、ダンジョンは怖くないってところを見せましょう。光はいつでも、みんなの傍にあるって証明するんです」

薫はポシェットを整え、かなが差し向けたメインカメラに向かって、世界で一番可愛いアイドルスマイルを向けた。

『未踏破特級ダンジョンに突入! 世界を護る聖女の奇跡を見届けてください☆【総力戦生配信】』

配信のスタートボタンが押された瞬間、待機していた世界中の視聴者が一斉になだれ込み、同時視聴者数は開始数十秒で驚異の五十万人を突破した。コメント欄が目にも留まらぬ速さで激しく跳ね上がっていく。

「皆さんこんにちは、薫です! 本物の危機が迫っていますが、最強の先輩たちと一緒ですから、絶対に大丈夫です! それでは、いってきます!」

薫を先頭に、陸翔、美鈴、そして二大Aランクパーティーの精鋭たちが、漆黒の魔力が渦巻く巨大な縦穴へと、迷うことなく次々と飛び込んでいった。人類の命運をかけた、世紀の未踏破ダンジョン攻略作戦が、今ここに幕を開けた。





















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十六話:精鋭たちの進撃


未踏破特級ダンジョン「終焉の縦穴」。その内部は、現代のどのダンジョンとも異なる、ねじくれた黒い結晶に覆われた異形の迷宮だった。壁面からは精神を狂わせるような不快な波動が絶え間なく放たれており、並の探索者であれば一歩進むことすら躊躇うような絶望の空間だ。

だが、漆黒の迷宮を進む精鋭たちの足取りに、乱れはなかった。

「総員、陣形を維持しろ! 前衛は左右の警戒を怠るな!」

「緋天の行軍」のリーダー九条烈斗が、無骨な長槍を構えながら鋭い声を響かせる。その隣では「蒼輪の盟約」の朝霧直哉が大剣を正視し、二つのトップパーティーが完璧な横並びの前線を構築していた。

上空では、松浦かなが操作する最新型のドローンカメラ数台が、彼らの進撃を全方位から捉えている。全世界に同時中継されている配信の同時視聴者数は、突入からわずか数十分で大台の三千万人を突破。コメント欄は、未踏破特級の禍々しい光景への恐怖と、探索者たちへの応援で限界を超えて加速していた。

「ギィァァァアアア!」

突如、黒い結晶の壁を引き裂いて、見たこともない異形の魔獣――鋭い鎌のような腕を持つ「シャドウ・レイダー」の群れが数十匹、一斉に襲いかかってきた。通常のダンジョンならBランク上位に匹敵する化け物たちだ。

「させないわよ! 『深淵なる漆黒の縛鎖ダークネス・チェイン』!」

「俺の風よ、刃となって穿て! 『烈風双刃サイクロン・エッジ』!」

天城紗夜の闇魔法が魔獣たちの影を床に縫い付け、そこへ速水奏真が電光石火の双剣で突撃する。さらに後方からは、椎名香澄が極度の引っ込み思案を感じさせない精密さで、真田和希のバフを受けた光の矢を連射し、魔獣の核を次々と正確に撃ち抜いていった。

「『水天の激流アクア・ストリーム』!」

「はああぁぁッ!」

篠宮雫音が放つ激流が敵の体制を崩し、葉山一真の誘導によって孤立した個体を、岩永剛毅が肉厚の盾で圧殺する。久遠寺澄花も、薫から教わった魔力循環を意識しながら、的確に前線のスタミナを回復させていた。二大パーティーの、これ以上ないほど見事な共闘。

「ふん、Aランクの有象無象がどれだけ集まろうと、私がいなければ話にならないわよ! 『天焦がす劫火のプロメテウス・ストーム』!」

如月美鈴が傲然と言い放ち、杖を掲げる。瞬時に展開された超広範囲の火炎魔法が、通路を埋め尽くしていた魔獣の群れを根こそぎ焼き尽くした。天天狗になっている実力を遺憾なく発揮する美鈴の姿に、世界中の視聴者が『さすがSランク!』と大喝采を送る。

「道を開ける。全員、俺の後ろに付け!」

そして、精鋭たちの殿しんがりを務める東郷陸翔が動いた。眼光を猛獣のように鋭く光らせ、背負った大剣を片手で引き抜く。陸翔が地面を強く踏み締め、大剣をただ一振りした瞬間、凄まじい闘気の斬撃が通路を走り、前方にいた巨岩のような魔物たちを文字通り一刀両断に粉砕した。

(ぐはっ……! 今の俺の背中、めちゃくちゃ格好良かったのでは!? 薫ちゃん見てくれたかな!? 褒めてくれるかな!?)

内心で凄まじい悶絶と歓喜を爆発させている陸翔だったが、表面上は冷徹な最強の戦士そのものだった。

彼らが傷を負うことなく進めるのには、確固たる理由があった。

精鋭たちの中心で、スカイブルーのミリタリー風ワンピースの裾をふわりと揺らしながら歩く華村薫が、常に完璧な『聖域の結界』を維持し、壁から放たれる不快な精神汚染をすべて完全にシャットアウトしていたからだ。

「皆さん、素晴らしい連携です! 薫、とっても頼もしいです!」

薫がドローンカメラに向かって、鈴を転がすような声で無邪気に微笑む。恐怖の未踏破特級ダンジョンを、まるでお散歩でもするかのように優雅に歩く女装少年の姿は、画面の前の全人類に「この子がいれば絶対に大丈夫だ」という奇妙な安心感を与えていた。

しかし、最深部へと続く巨大な螺旋階段を下りきったその時、ダンジョンの空気が一変した。

今までとは比べ物にならない、肌をピリピリと刺すような強大で不吉なプレッシャー。空気そのものが重くなり、直哉や九条の額から冷たい汗が伝う。

「……ここから先が、最深部だな」

陸翔が大剣を構え直し、その眼光をさらに鋭くした。人類未踏破の特異点の終着点。そこには、これまでの現代ダンジョンの常識を遥かに凌駕する、最悪の存在が待ち受けていた。





















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十七話:魔王の影


ねじれた黒い結晶の螺旋階段を下りきった先には、世界の終わりを具現化したような、広大で不気味な空間が広がっていた。

天井は見えず、ただ紫黒色の不吉な雷雲が渦巻いている。そこはダンジョンの最深部――「玉座の間」だった。

「……っ、何だ、この空気の重さは。息が、上手く吸えねえ……!」

朝霧直哉が胸を押さえ、苦しげに膝を折りかけた。彼だけではない。九条烈斗も、前線で数々の死線を潜り抜けてきたはずのAランクの面々も、その空間に満ちる圧倒的な絶望感に、身体の震えを止めることができなかった。

上空を飛ぶ松浦かなのドローンカメラは、空間の中央に鎮座する「それ」の姿を、ついに画面へと捉えた。

同時視聴者数は、人類の歴史上初となる五千万人を突破。全世界の人間が、息を呑んで画面を見つめていた。

玉座にいたのは、全高五メートルを超える、漆黒の毛並みと悍ましい巨躯を持つ「魔神獣」だった。

その背中からは何本もの触手のような影が伸び、頭部には三つの紅い眼が不気味に発光している。現代のどの文献にも記載されていない、未知の災厄。だが、華村薫――その肉体に宿る聖女フィオナの魂は、その悍ましい姿をあまりにもよく知っていた。

(……間違えようもありません。あれは、異世界で人類を滅ぼさんとした、魔王の直属の眷属……!)

なぜ異世界の化け物が、現代日本のダンジョンの底にいるのか。それは分からない。だが、確かなことが一つだけあった。今ここで奴を止めなければ、この国は、いやこの世界は確実に滅びる。

「グオォォォォォオオオオッ!!」

魔神獣が裂けた口から咆哮を放った。

ただの咆哮ではない。空間そのものを震わせる、物質的な破壊の衝撃波だ。

「総員、防御を固めろ! 美鈴、俺に合わせろ!」

東郷陸翔が鋭い眼光を放ち、大剣を地面に突き立てて凄まじい闘気の壁を展開する。如月美鈴も青ざめた顔で杖を掲げ、持てる全魔力を注ぎ込んで多重の防御魔法を構築した。

しかし、魔神獣の放った漆黒の衝撃波は、現代最高峰の二人が築いた防御を一瞬にして紙切れのように引き裂いた。

「な……っ!? 私の結界が、一撃で……!?」

「がはっ……!?」

凄まじい衝撃が精鋭たちを襲う。陸翔と美鈴の二人が、衝撃に耐えきれず無惨に後方へと吹き飛ばされ、地面を激しく転がった。直哉や九条たちも、その余波だけで武器を手放し、壁際へと叩きつけられる。

「嘘、でしょ……。Sランクの二人が、手も足も出ないなんて……」

かなが恐怖に声を震わせ、カメラを握る手がガタガタと揺れる。配信のコメント欄は、世界中の人々の絶望の悲鳴で埋め尽くされていた。

『嘘だろ……全滅する……』

『人類じゃ、あの化け物には勝てないんだ……』

『誰か、誰か助けてくれ!!』

魔神獣は、立ち上がることすらできない陸翔たちを見下ろし、嘲笑うかのように三つの眼を細めた。そして、トドメを刺すべく、その巨大な影の爪を振り上げる。

死の静寂が空間を支配した、その時だった。

カラン、と静かな空間に、場違いなほど軽やかな靴音が響いた。

「異世界でも、現代でも……あなたたちのやることは、何も変わらないのですね」

フリルをなびかせ、スカイブルーのミリタリー風ワンピースの裾を揺らしながら、華村薫が静かに前へと歩み出てきた。

その小さな手には武器はない。だが、その瞳には、かつて世界を救うために命を捧げた、聖女フィオナとしての絶対なる不退転の意志が宿っていた。

「薫ちゃん……!? ダメよ、下がって、あれはバケモノよ……!」

美鈴が血を吐きながら必死に声を上げる。

しかし、薫は振り返らず、優しく微笑んだ。

「美鈴さん、先輩方、よく頑張って繋いでくれました。ここからは、私の番です」

一人の可憐な少年が、世界を滅ぼす魔の化け物の前に、ただ一人で立ちはだかる。かなのカメラがその神々しい姿を捉えた瞬間、画面の向こうの全人類は、彼が纏う雰囲気が、先ほどまでとは全く異質なものへと変わったことに気づくのだった。




















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十八話:世界が見守る最終決戦


「グルゥゥ……」

漆黒の魔神獣が、三つの紅い眼を不気味に細め、眼前に立ちはだかる小さな存在を睨みつけた。

そこにあるのは、傷一つないスカイブルーのミリタリー風ワンピース。そよ風もないはずの絶望の空間で、薫の淡いピンク色のフリルと綺麗な黒髪が、神聖な魔力の波動に押されるようにふわりと舞い上がっている。

「薫ちゃん、ダメ……! 逃げて……!」

壁際で倒れ伏す如月美鈴が、声を枯らして叫ぶ。その隣では、最強のSランク戦士である東郷陸翔が、悔しさに歯を喰いしばりながら大剣を支えに必死に立ち上がろうとしていた。しかし、魔神獣の放った絶望的なプレッシャーは、彼らの肉体を地面に縫い付けたかのように重く支配している。

上空で辛うじて滞空している松浦かなのドローンカメラは、そんな絶望的な状況下で、唯一まっすぐに前を見据える薫の顔をアップで捉えた。

その瞬間、全世界の視聴者数がついに八千万人を突破。画面の向こうの全人類が、一人の可憐な少年の挙動に、世界の命運を託すように息を呑んでいた。

薫は、そんな世界の緊張を和らげるように、カメラに向かっていつもと変わらない、鈴を転がすような優しい声で微笑みかけた。

「画面の前の皆さん、そして先輩方。どうか怖がらないでください。闇がどれほど深く、巨大に見えようとも――光は、決して闇に負けたりしませんから」

その言葉は、不思議なほどに冷え切った戦場を温かく包み込んでいった。

薫はゆっくりと視線を魔神獣へと戻す。その瞬間に、彼女の纏う空気が、可憐な少年から「人類の守護者」たる聖女のそれへと完全に変貌した。

薫は両手をそっと天へと掲げる。

(異世界では、魔力の枯渇した戦場で、私の命を代償にするしかありませんでした。……ですが、この現代世界は違います。満ち溢れる清らかなエネルギー、そして、私を応援してくれるたくさんの人たちの想いがあります!)

身体の奥底から、かつてない規模の魔力の奔流が解き放たれた。

薫を中心に、直径数十メートルを超える、見たこともないほど複雑で神々しい純白の多重魔法陣が、床だけでなく空中へと幾重にも展開されていく。その光は、魔神獣が放つ紫黒色の雷雲をたちまちのうちに押し返し、玉座の間全体を昼間よりも眩しい聖なる輝きで満たしていった。

「ガ、ガァァァッ!?」

己の優位が揺らいだことを察知した魔神獣が、明確な焦りとともに咆哮した。背中から伸びる無数の漆黒の触手が、薫を消し飛ばさんと一斉に襲いかかる。

「我が命に集え、大気なる光の粒子。邪悪を破る不滅の輝きとなりて、この世界に暁を導かん――」

薫の唇から、凛とした美しく厳かな詠唱が紡がれる。

迫り来る漆黒の触手は、薫の放つ神聖な魔力障壁に触れた瞬間、ジジジと激しい音を立てて先端から灰へと変わっていった。一本たりとも、薫の衣服に触れることすら許されない。

魔神獣は最後の狂乱を上げるように、三つの眼に呪いのエネルギーを収束させ、空間ごと消滅させるほどの最大出力の漆黒の光線を放った。

しかし、薫の詠唱はすでに完成していた。薫の瞳が、純白の輝きを放つ。

「――『聖華・世界を照らす黎明セイント・レボリューション』!!」

薫が両手を前方に突き出した瞬間、彼女の前に展開された巨大な魔法陣から、現代の魔法理論を根底から覆す、圧倒的な光の奔流が解き放たれた。

それは光の津波だった。魔神獣が放った最悪の呪詛の光線など、薫の聖なる輝きに触れた瞬間に泡のように霧散し、消滅する。

「ギ、ギィィィアアアアアアアッ!?」

光の奔流は、玉座の間を、ねじれた黒い結晶を、そして魔神獣の巨躯を完全に飲み込んだ。漆黒の化け物が放っていた邪悪な波動が、純白の光の中でみるみるうちに浄化され、無へと還されていく。世界中が見守る中、ダンジョンの最深部は、眩いばかりの救いの光に満たされていくのだった。






















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第十九話:光の勝利と、最高峰の配信


眩い。ただひたすらに、世界が白く染まっていた。

華村薫が放った究極の光聖魔法『セイント・レボリューション』の奔流は、ダンジョンの最深部である「玉座の間」だけでなく、ねじくれた黒い結晶の壁をも透過し、終焉の縦穴全体を底から地上へと向かって突き抜けるように満たしていった。

その光は、決して破壊の光ではない。邪悪な存在だけを容赦なく融解させ、傷ついた者を等しく包み込む、絶対的な救済の輝きだった。

「ガ、ガガ……ガ、アアアアアッ……!」

光の中心で、漆黒の魔神獣が断末魔の悲鳴を上げていた。

世界を滅ぼさんとするほどの濃厚な怨念、現代のSランク探索者すら一撃で退けた圧倒的な闇の質量が、薫の放つ清らかな純白の粒子に触れた瞬間から、まるで春の陽気浴びた雪のようにみるみる消滅していく。

三つの紅い眼が恐怖に歪み、巨躯が端からさらさらと輝く塵へと変わっていく。魔神獣は反撃の機会どころか、悲鳴を上げ続けることすら許されず、聖なる光の海の中へ完全に融解し、文字通り「消滅」した。

やがて、津波のような光の奔流がゆっくりと収束していく。

静寂が、広大な空間に戻ってきた。

天井を覆っていた不吉な紫黒色の雷雲は一枚残らず吹き飛び、そこにはダンジョンの核が放つ、穏やかで清涼な青白い光だけが満ちている。床には、魔神獣がいた証拠として、大人の胴体ほどもある見たこともない巨大な虹色の魔石が、カランと静かに転がっていた。

「……ふぅ。これで、終わりですね」

薫は掲げていた両手をそっと下ろし、小さく息を吐いた。

お気に入りのスカイブルーのミリタリー風ワンピースには、埃一つ、煤一つついていない。異世界では命を賭しても届かなかった完璧な勝利を、現代世界の豊かな魔力と、仲間の存在によって、今ここに成し遂げたのだ。

その瞬間、上空で奇跡的に無傷で浮遊していた松浦かなのドローンカメラの画面が、一瞬だけホワイトアウトから復帰した。

そこに映し出されたのは、世界を救った張本人である、可憐な少年の眩いばかりの笑顔。

直後、配信プラットフォームのサーバーが、人類史上未曾有の事態に見舞われた。

画面の右隅に表示された同時視聴者数は、驚異の「一億人」を突破。コメント欄は、もはや人間の目で視認できる速度を遥かに超え、滝のような白い閃光となって上へと流れ続けている。

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』

『勝った……! 本当に勝っちゃったよ……!!』

『涙が止まらない。画面の前で叫んじゃったわ!』

『これが聖女……いや、薫ちゃん! 私たちの奇跡の男の娘!!』

『世界記録樹立だろこれ! 歴史が動いたぞ!!』

世界中からの圧倒的な大歓声と祝福の嵐が、画面の向こうから伝わってくるようだった。カメラを構えるかなも、涙でボロボロになった顔で「薫ちゃん……やった、やったよぉ!」と声を震わせている。

「薫、ちゃん……」

背後から、掠れた声が聞こえた。

振り返ると、如月美鈴が呆然とした表情で立ち上がろうとしていた。美鈴だけではない。東郷陸翔も、朝霧直哉も、九条烈斗も、先ほどまで立ち上がることすらできなかった精鋭たちが、一斉に身体を起こしていた。

薫の魔法は、魔神獣を消滅させると同時に、空間にいた味方全員に最高位の治癒効果を及ぼしていたのだ。彼らの深い内傷は完全に塞がり、枯渇していた魔力も限界を超えて満たされていた。

陸翔は無言のまま、ドスドスと重い足取りで薫の前へと歩み寄った。その猛獣のような鋭い眼光に、かなが一瞬身構える。

しかし、陸翔は薫の前にそっと膝をつくと、大きな、分厚い手のひらで、薫の小さな頭を壊れ物を扱うように優しく、何度も撫で回した。

(ぐおおおおお! 薫ちゃん最高! 薫ちゃん最強! 生きててよかった、こんな素晴らしい奇跡を特等席で見せてもらえるなんて俺は世界一の幸せ者だ大感謝!!)

「……よくやった。お前が、俺たちの、世界の誇りだ」

陸翔の口から出たのは、内心の悶絶とは裏腹に、地響きのような厳格で頼もしい声だった。薫はくすぐったそうに「ふふ、ありがとうございます、陸翔先輩!」と目を細める。

「ちょっと陸翔、ずるいわよ! 私だって薫ちゃんをハグしたいのに!」

美鈴が悔し涙を浮かべながらも、その顔には心からの敬意と親愛の笑顔が咲いていた。直哉も九条も、手放していた武器を拾い上げ、規格外の少年に向かって、一人の戦士として、命の恩人として、深く、深く頭を下げた。

人類未踏破の特級ダンジョンは、一人の女装少年の圧倒的な光によって、完全なる大団円として攻略されたのだった。






















小説プロット名:『聖女転生した女装少年は、現代ダンジョンの配信王を目指す』

第二十話(最終話):現代のダンジョン配信王


あの未踏破特級ダンジョン『終焉の縦穴』の電撃攻略から、一ヶ月。

世界を滅ぼしかけた魔神獣の脅威は去り、日本の、そして世界の探索者界隈は、完全に一つの名前を中心に回り始めていた。

「――はい! というわけで皆さん、こんにちは☆ 薫です!」

お馴染みの自宅の部屋から、華村薫はドローンカメラに向かって満面の笑みで手を振った。

今日の衣装は、薫の原点とも言えるミントグリーンのフリルブラウスに、白いフレアミニスカート。画面の右隅に表示されているチャンネル登録者数は、あの日を境に爆発的に伸び続け、ついに大台の『一千万人』を突破していた。

同時視聴者数も、配信開始からわずか数分で瞬く間に数十万人を超え、コメント欄はまるでお祭りのような賑わいを見せている。

『薫ちゃん、登録者一千万人おめでとう!!!』

『ついに伝説の配信王になっちゃったね!』

『世界最強の男の娘聖女、今日も尊い……!』

『あの特級ダンジョンのアーカイブ、毎日見てるよ!』

「皆さん、たくさんのお祝いコメントありがとうございます! 登録者が一千万人だなんて、薫くんが最初に夢見ていたよりもずっとずっと遠くまで来ちゃいました。これも全部、いつも応援してくれる皆さんのおかげです!」

薫がカメラに向かって完璧なアイドルスマイルでお辞儀をすると、画面には目も眩むようなスパチャの嵐が吹き荒れる。

異世界ではただ義務として、誰かの命を守るためだけに振るい続けていた光聖魔法。しかしこの現代世界では、配信という形を通じて、世界中の人々に笑顔と希望を届けるための力へと昇華されていた。

「今日は記念配信ということで、素敵なゲストの皆さんがお祝いに駆けつけてくれています! ――どうぞ!」

薫がカメラを引くと、画面外から次々と豪華な面々が姿を現した。

「薫ちゃん、本当におめでとう! これからも最高の配信、一緒に作っていこうね!」

カメラを調整しながら、相棒の松浦かなが我がことのように涙ぐんで微笑む。

「薫先生、一千万人おめでとうございます! 私も先生のような清らかな光を目指して、これからも一生付いていきます!」

亜麻色の髪を揺らした弓永桜子が、熱烈なリスペクトの瞳で薫の両手を握りしめた。

「ちょっと、桜子ばっかりずるいわよ! 薫ちゃん、一千万人なんて私にとってはただの通過点なんだからね。今度は私のチャンネルともコラボしなさいよ!」

私服姿の如月美鈴が、ツンとそっぽを向きながらも嬉しそうに顔を上気させる。

「薫ちゃん、おめでとう。これ、お祝いの特製メガ盛り苺パフェだよー!」

笠木ゆみが、台車で運ばれてきた巨大なパフェをドーンとテーブルに置き、ドッグカフェの衣装のまま手伝いに来ていた佐倉美野里も「薫ちゃん、本当にすごいよ!」と拍手を送る。

さらに、画面の端には、スーツ姿で緊張した面持ちの大木将司や朝霧直哉、九条烈斗たちの姿もあった。

「華村……いや、薫。お前は俺たちの、そしてこの国の誇りだ。おめでとう」

東郷陸翔が、相変わらず猛獣のような鋭い眼光(※内心は薫の可愛さに気絶寸前)で地鳴りのような祝辞を述べると、コメント欄は『陸翔アニキの顔が怖すぎるのに優しいの草』『オールスター感謝祭じゃん』と大盛り上がりだ。

たくさんの仲間に囲まれ、美味しいスイーツの甘い香りに包まれる空間。

かつて孤独な戦場で命を散らした聖女フィオナは、今、華村薫という一人の女装少年として、この上ない幸福の中にいた。

男の子であっても、女の子であっても、そんなことはどうでもいい。

ありのままの自分を受け入れてくれるこの温かい世界で、薫はこれからも、自分の大好きな可愛いお洋服を身に纏い、世界中をその光で照らし続けていくのだ。

「皆さん、私の光はいつでも皆さんのすぐ傍にあります。これからも、現代のダンジョン配信王――『薫ちゃんねる』を、よろしくお願いしますね!」

薫がカメラに向かってウィンクを弾けさせると、世界中から届く最大級の愛と歓声が、純白の光の粒子のように画面を美しく埋め尽くしていった。



(完)














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